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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第1篇 天岩戸開(一)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(一)
文献名3第7章 覚醒〔503〕よみ(新仮名遣い)かくせい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-11 23:23:29
あらすじ
四人の宣伝使は、初公を従えてイホの都を後にし、スエズの地峡を越えて白瀬川の一の瀑布に近づいた。

春の日暮れは早く、闇の中に猛獣の声がこだましている。一同は蓑を敷いて野宿した。四人の宣伝使は疲れ果てて、雷のようないびきをかいて寝ている。

初公は猛獣の声に恐れをなして起き出し、蚊取別を起こした。蚊取別はうるさがって、恐ければ宣伝歌を歌うように、と命じてまた寝てしまった。

初公は宣伝使たちの肝の太さに呆れながら、そのまま寝てしまおうとしたが、どうしても寝られない。大蛇が魅入っているのかもしれないと恐れをなした初公は、惟神霊幸倍坐世をしきりに唱え出した。

蚊取別はその声に目を覚ましたが、また寝てしまう。初公は宣伝使たちが余りによく寝入っているので、いたずらを思いつき、四人の宣伝使を麻縄で木につないでしまった。

しかし蚊取別は初公のいたずらに気づいており、目を覚まして初公をたしなめる。二人は大笑いするが、その声に三兄弟の宣伝使たちも目を覚ます。

するとそのとき、頭上からにわかに赤い光が森林を照らす。森林の向こうには、大蛇の棲むという一の瀑布が白く光って見えている。

一同はこの突然の光に驚くが、蚊取別は日の出神の一つ火かもしれない、と推測する。果たして、五人の前に立派な神が忽然と現れた。蚊取別は日の出神と認めて平伏する。

日の出神は、一同にここは大蛇の背であり、みな大蛇にだまされていたのだ、と明かした。昨日訪問した夏山彦の館自体が大蛇の尻尾だったのであり、ご馳走と思ったのは色々なものを食わされていたのだ、と注意を促した。

日の出神は、宣伝使たちが鎮魂が利くことをに慢心して、それが原因で大蛇の計略にかかったのだ、と諭す。

日の出神の注意によってよくよく見れば、すでに大蛇は一同を背に乗せて遥か上空に上りつつあり、その尻尾も今や地上を離れようとしていた。大蛇は天空から宣伝使たちを地上に叩きつけて殺そうとしていたのである。

蚊取別は日の出神に、大蛇がこれ以上天に上らないように守りをお願いした。一同は一目散に大蛇の尻尾に向かって走り出した。

大蛇の尻尾はすでに十間ばかり地上を離れていたが、五人は手をつないで命からがら、山の上に飛び降りた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月06日(旧02月08日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版56頁 八幡書店版第2輯 646頁 修補版 校定版58頁 普及版24頁 初版 ページ備考
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本文  四人の宣伝使は初公を従へ、イホの都を後にして七十五声の言霊の、スエズの地峡を打渡り、神の教を四方の国、青人草に白瀬川、一の瀑布の間近き山に着きにけり。只さへ暗き春の日は愈暮れて咫尺を弁ぜぬ真の暗なり。虎、狼、獅子の咆哮する声は谿の木魂を響かして次第々々に近づき来る。
蚊取別『サア、かうなつては足許も真暗がりだ。明日は大決戦をやらねばならぬから、此木蔭で、ゆつくりと休息をして元気を養ふ事としようかな』
 一同は首肯きながら暗の木蔭に腰を下し、蓑を敷きて横はつた。四人の宣伝使は昼の歩行に労疲れて、何れも雷の如き鼾をかいて寝て居る。猛獣の声はますます激しくなつた。初公は耐らず蚊取別を揺つて、
初公『モシ蚊取別さま、起きて下さらぬか。だんだん変な声が聞えて来るから』
蚊取別『アーア、やかましい、貴様恐いのだらう。強さうなことを云つても実地に臨むと正体が現はれるナア。斯ういふ時に大声で宣伝歌を歌へば好いのだよ。しかし大きな声だと俺達の安眠の妨害になるから、貴様一人口の中で宣伝歌を歌つて居れ。足下に何が来ても噛みはしない。八釜敷う言ふな、もう戌の刻だから』
初公『偉いお邪魔をしますなア。マアゆつくり休んで下さい。アーこれからこの初さまが宣伝歌で猛獣の千匹万匹は、ウンと吹き飛ばすのだ。しかし大きな声を出すなと云つても、猛獣の奴短兵急に襲撃した時には、力いつぱい大声を出すからそれ丈け承知して居つてもらひます』
蚊取別『ヨシヨシ、承知した。貴様もいい加減に寝まぬか』
初公『やすめと云つたつて、目がさえて寝まれはしない』
蚊取別『此の日の長い夜の短いのに、ぐづぐづして居ると夜が明ける。マア寝まして貰はうかい』
と又もやゴロンと横になり、雷の如き鼾をかく。猛獣の声は山岳も揺ぐ許りに猛烈になつて来た。初公は独言。
『アヽ何んと、宣伝使と云ふものは肝玉の太いものだなア。向ふの瀑には大蛇の悪魔が居る、猛獣が唸り立ててやつて来る。それにも拘らず、安閑として高鼾をかいて居るとは呆れたものだ。ヤー俺も一つ肝を放り出してやらう、恐いと思ふから恐いのだ。なーにチツト荒い風が吹いて居ると思へばいい。獅子でも虎でも、狼でもいくらなつと唸れ。サヽ俺も寝よう』
と肱を枕に横はる。又もや初公は起き上り、
『ヤー、どうしても寝られぬ。何んでも此奴は大蛇の奴が、魅入れて居やがるのかも知れぬぞ。決心した以上は恐くも何んともないから寝られぬ道理がないのだ。目もいい加減に疲労れて居る。アヽ惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世。どうぞ私に命が惜いと云ふ執着心から放さして下さいませ。惟神霊幸倍坐世』
蚊取別『アヽ折角寝たと思へば耳のそばで八釜敷う云ふものだから又目が開いた。早く寝ぬかい』
と又もやグレンと横になりて高鼾をかく。
初公『なんと妙な男だ、もう寝て了つた。エーこの闇の夜にアタ淋しい。チヨツ、ジツとして居れるかい。何ぞ其処らに落ちて居らぬかなア』
と言ひながら四つ這ひになりてそこらを掻き捜す。忽ち手に触れたのは、麻の縄である。
『ヤアこいつは麻の縄だ。誰がこんな所に落して置きよつたのか。而も新しい奴だ。オーこれで蚊取別の髪毛を縛り、八方に別けて木に繋いで置いてやらう。余り叱りよるから業腹だ』
とそつと蚊取別の鬢髪をさぐり、
『ヤーしまつた。ハアこいつは禿蛸土瓶天窓だ。
 「禿頭前にとりゐはなけれども 奥にしよんぼり髪がまします」
か、アヽこいつを繋いでやれ。しかしこんなに薄い毛は抜けると困るから、腰のまはりをグツトしめて、四方八方の木の株に繋いで置いてやらう。さうしてワイワイと云つて目を覚ましてやると面白からう。さうなとして夜を明かさな辛抱も出来たものぢやないワ』
と云ひながら蚊取別の腰の廻りに縄を持つて行く。
『イヨー、よう寝て居やがる。偉さうにほざいても寝た時は、仕様もないものだなア。科人か何ぞの様に縄付にせられよつて、白河夜船を漕いで居る。アヽさうだ夜船の綱だ』
と腰を今や縛らむとする時、蚊取別は
『ウーン』
と寝返りを打つ。
『ヤア、びつくりした。起きたかと思つたら、なんだ寝返りを打ちよつたのだナつ』
 又もや括らうとする。蚊取別は、見当さだめて横つ面を、ビシヤビシヤとなぐる。初公は驚いて、
『ナヽ何をするのだイ』
蚊取別『悪い事は出来ぬものだな』
『コイツは失敗つた。蚊取別さま、起きて居つたのか』
蚊取別『きまつた事だよ。一目も寝はしないよ、貴様の独語は皆聞いて居る。馬鹿な奴ぢやなア』
初公『アハヽヽヽヽ』
蚊取別『ワハヽヽヽヽ』
 高光彦は目を覚まし、
『この真夜中に大きな声で何が可笑しいのですか』
蚊取別『イヤもう初公の奴つたら、吾々の寝とる間に何処からか縄を探して来よつて、四人の体躯を一々縛つて木の株に括りよつたのですよ。貴方がたも何処か括られて居ませう』
高光彦『たとへ体躯の二箇所三箇所括られても、自由の精神は括られて居ないから大丈夫ですよ。アハヽヽヽ』
と笑ふ折しも、頭上俄に赤く紅の如くに深林を照らすものがある。この光に対岸の白瀬川の一の瀑布は、白竜の幾十ともなく体を揃へて天に昇り行く如くに見えて来た。
蚊取別『ヤア瀑が見える、大変猛烈な光だ。妖怪変化の怪光であらうか、イヤイヤさうではなからう。日の出神の一つ火かも知れぬ』
と云うて居る其前に忽然と現はれた一柱の立派な神がある。蚊取別は一目見るより大地に平伏し、
『ヤア、これは日の出神様、よくもお出下さいました。サアもうこれで大丈夫だ』
日の出神『お前達は此処を何処だと思うて居るか』
蚊取別『ハイ、白瀬川のほとり、一の瀑布の前だと思つて居ります』
日の出神『それは大間違ひだ。高山の如く見せて居るのは、世界第一の大蛇の背だ、大地を放れて中空に舞ひ上つて雲の中に這入つて居るのだぞ』
蚊取別『それでも、イホの都からトントンと歩いて此処までやつて来たのです。確に山だと思ひますが』
日の出神『サアそれが誑されて居るのだ。余り鎮魂が好くきくと思つて、知らず知らずの間に慢心するものだから、こんな目に逢ふのだ。お前が昨日訪問した夏山彦の家を何んと思つて居る、あれは大蛇の尾であつた。その尾の上に気楽に乗せられて歌を歌つたり色々のものを喰はされて御馳走だと思つて居たのだ』
 蚊取別は頭を掻きながら、
『ハテ、合点が行かぬ。何の事だ。確かに夏山彦の館だつたになア』
日の出神『それが違ふのだ。一寸袖を目にあてて覗いて見よ』
 蚊取別その他の四人は袖を目に当て、四辺を見ればコハソモ如何に、幾十里とも知れぬ、大蛇の背に乗せられ遥かに高き空中に舞上り、其尾は今や地上を放れむとする時である。
蚊取別『ヤア、コリヤ大変だ。余り慢心して天まで上り詰めて、真つ逆様に落ちて木葉微塵になる所だつた。モシモシ日の出神様、我々は此大蛇の山を否背を伝うて地上に降ります。これより上に昇らない様に守つて下さい』
 日の出神は黙つて俯むく。一同は一生懸命に大蛇の背を走りながら地上目がけて降つて行く。漸く尾の端に着いた。尾は既に地上を離れる事七八間、
蚊取別『ヤア皆さま大変だ。地上までは七八間も距離がある。どうしよう、もう少し尾を下げてくれぬものかいなア。ヤアヤア、滅茶矢鱈に尾を振り居る。ヤアヤア大蛇に振落されるわ振落されるわ』
高光彦『だんだん高くなる一方です。また天に上げられ、中途から放られては大変です。サアみな手をつないで飛下りませう。ヤア、もう十間です十間です。これぢや天にもつかず、地にもつかず、サアサア五人は手をつないだ手をつないだ』
と云つた儘、命からがら山の頂上目がけて飛び降りた。
 途端に驚き霊より覚めて見れば、十四日の月は高熊山の中天に輝き、王仁の身は巌窟の前に仰向けに倒れ居たりける。
(大正一一・三・六 旧二・八 谷村真友録)
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