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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第2篇 天岩戸開(二)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(二)
文献名3第11章 十二支〔507〕よみ(新仮名遣い)じゅうにし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-12 00:36:47
あらすじ
祝姫は、夫が夏山彦の館に宿泊して、次の間から自分の歌を聞いているとは知らずに、恋の悩みを歌に歌った。

一方夏山彦は、自分の道ならぬ恋の思いを吹き払おうと、起きて神前に参り、祝詞を唱えた。夏山彦は、この恋のもつれを吹き払ってくれるように神に祈願していた。

蚊取別は夏山彦の声を聞き付けて、またも次の間に忍んで祈願の一部始終を聞いた。夜が明けて宣伝使一同は、蚊取別の声に目を覚ました。

すると宣伝使たちも初公も、蚊取別が昨晩、どこかに忍んで行って館の中の恋の問題を聞き取り、女性の仲人をして問題を解決する夢を見た、と告げた。

そこへふすまを開けて祝姫が入ってきたが、蚊取別の姿を見ると、奥へ隠れてしまった。しばらくして、夏山彦が祝姫を従えて、一行のもとを訪れた。そして、一同に朝食を勧めた。

このとき、室内には芳しい香気がにわかに満ち、喨々たる糸竹管弦の音が響き渡った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月09日(旧02月11日) 口述場所 筆録者岩田久太郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版95頁 八幡書店版第2輯 660頁 修補版 校定版100頁 普及版41頁 初版 ページ備考
OBC rm1211
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本文  心の闇を照すなる  三五教の神司
 祝の姫は神ならぬ  夫の命の次の室に
 来りますとは白瀬川  一絃琴に村肝の
 心の糸を繰返し  繰返したる小田巻の
 静心なき滝津瀬の  滝津涙を拭ひつつ
 便りも夏山彦の司  館の奥に身を忍び
 忍び泣くこそあはれなれ  虫が知らすか夏山彦の
 貴の命も何となく  シナイ山より吹き下す
 夜半の嵐に村肝の  心の空を乱されて
 縺れかかりし恋糸の  解く由もなき太息の
 つくづく思案に暮れにける  常闇の世とは云ひながら
 暁告ぐる鶏の声  四更五更と明け渡る
 渡る浮世に鬼はなし  とは云ふものの今の世は
 醜の波風嵐吹く  誠明志の神人の
 尋ね来りし今日の宵  心にかかる村雲を
 息吹き払ひてスクスクと  神の心に立て直し
 魔風恋風三五の  神の教に払はむと
 ムツクと起きて神の前  口を漱いで拍手の
 音も畏く太祝詞  神の御前に白しける。
夏山彦『神が表に現はれて  善と悪とを立て別ける
 わけて苦しき恋の闇  善も悪きも知りつれど
 諦め難き恋糸の  縺れ絡みし胸の中
 打砕かるる想ひなり  アヽ皇神よ皇神よ
 一日も早く片時も  疾く速く我胸に
 潜む曲津を取り除けて  心雄々しき三五の
 神の柱となさしめ玉へ  アヽ惟神々々
 霊幸はひましませよ  霊幸はひましませよ
 我身一つの雲さへも  霽し能はぬ夏山彦の
 心の空は時鳥  五月の闇に包まれて
 黒白も分ずなりにけり  八千八声万づ声
 血を吐く思ひの祝姫  年にも似合はぬけなげさよ
 荒野を渡り波を踏み  霜に堪へつつ世の為に
 教を開く雄々しさに  比べて我は彦神の
 玉の御柱つれなくも  涙に暮るる腑甲斐なさ
 情を知れる夜嵐の  吹きて我身の恋雲を
 清く晴らせよ逸早く  八重に積みし恋雲の
 暗の戸開き天津日の  光を照せ我胸に
 光輝け我胸に  アヽ惟神々々
 神の霊の幸ひて  心の悩み胸の闇
 科戸の風に吹き払ひ  払ひ清めよ天津神
 国津神達八百万  塵も芥も祝姫
 心なさけの荒風を  我身に向つて吹き荒べ
 恋の縺を吹き払へ  恋の縺を吹きはらへ』
と神前に祈願を籠め述懐を述べてゐる。蚊取別は又もやこの声を聞きつけ、忍び足に次の間に潜むで始終を聞き終り、溜息をつきながら、諸手を組み、暫し思案に暮れけるが、軈て得も云はれぬ爽快なる面色に変つて、我居間に引返したり。
 月日の影さへも見えぬ常闇の世と云ひ乍ら、夜は漸く明け放れたと見え、咫尺を弁ぜざりし四辺はホンノリと朧月夜の如く明るくなりぬ。
蚊取別『サアサア、どうやら夜が明けたやうです。皆様お目を覚されてはどうですか』
 この声に驚いて一同ムツクリと起上り、
玉光彦『ヤア、緩くり寝まして貰ひました。どうやら夜が明けたやうですな。昨晩は妙な夢を見ましたよ』
蚊取別『また大蛇の背中から落つこちたのでせう』
玉光彦『イエイエ決して決して。目出度い夢です。何でもハと云ふ字の付く美しい宣伝使と、ナと云ふ字の付く立派な男と結婚をするし、カと云ふ字のついた宣伝使が大蛇の尾から大地へ向つて、命からがら一足飛に飛下りた様な決断心を以て、其のハの字の付いた女を媒介をすると云ふ夢でしたよ』
蚊取別『ハテなア』
と首を傾け思案に沈む。
初公『モシモシ蚊取別さま。俺が寝真似をして居れば、知らぬかと思つて、盗人猫の様に、一絃琴の音を尋ねて、襖をスーと開け息を殺し、右の足からソロリ、左の足からソロリ、ソロリ ソロリ ソロリと幽霊の夜這人の様に、琴主の次の間迄行て涎を繰つて居つたらう』
蚊取別『お前は油断のならぬ男だなア。そんな夢を見たのかい』
初公『夢どころかい。実はお前が行きよつたものだから、俺も寝られぬので闇がりまぎれに足音を便りに四つ這になつて従いて行つたのだ。何でも祝姫とか云つて歌つて居つたよ。襖の向ふに居るのだから、顔は拝めぬが、あの声から考へて見ると、余程の代物だ。貴様もあの声を聞いては寝られまいなア』
蚊取別『ハヽヽヽヽ、猫の様に四つ這になりよつて怪体な奴ぢやナア』
初公『蚊取別さま、お前それ切りで寝たのかい』
蚊取別『マアマア、寝たにして置かうかい』
初公『旨い事を云ふな、今度はナの字のついた方へ、ノソリノソリと四つ這になつて、頭の光つた化物が行つただろう。その後へコソリコソリと立つてついて行つたのが此初さまだ。何でもここのナがハに何やらしようと思つて、胸を痛めて居るらしい。面白くもない愁嘆場を二幕も聞かされて寝られたものぢやないワイ。最前から十二支の講釈を、ベラベラと教へて呉れたが、俺はその時に思ひ出して、可笑しくて吹き出しさうになつたよ。子の刻に寝るものだと云ふ宣伝使が、根つから寝もせず、牛の刻ぢやないが、牛の四つ這になつて涎を繰つて、ガサリガサリ何の状態だい。愚図々々して居ると、寅の刻で捉まへられて、卯の刻でウンと云ふ目に逢はされて、辰の刻ぢやないが宣伝使の顔も立つまいと、巳の刻身の程知らずのヒヨツトコ面が、旨い事を考へても、向ふは素敵の代物だ。さう未の様に温順しく、ハイとは云はないぞ。申の刻の猿の尻笑ひか知らぬが赤い恥を掻いて、酉の刻ぢやないが、取返しのならぬ縮尻をやつて、戌の刻の犬突這になつて、亥の刻イイ以後はきつと改心いたします、どうぞどうぞ此御無礼は神直日大直日に、見直し聞き直し許して下さいまし。子の刻にネネ願ひます、なんて云ふとこだつたよ』
蚊取別『貴様はよく真似をする奴だ。かう云ふ事にかけたら抜目の無い、隅にも置けぬ男だなア』
国光彦『私も妙な夢を見ました。初と云ふ男とカと云ふ男が、牛になつたり、馬子になつたり、馬子になつたり、牛になつたり、暗い処を四つ這になつて歩いて居ましたぜ。四つ足や牛馬は夜分にでも目が見えると見えますなア』
蚊取別『アハヽヽヽ、貴方は天眼通で見て居られましたのか』
国光彦『イヤ夢ですよ。しかし乍ら夢は正夢、きつと今日はこの館に御目出度い事が出て来るでせう。朝日は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、変らぬものは恋の道、恋に上下の隔てはない、きつと比翼連理偕老同穴と云ふ様な御慶事が出て来ませうよ』
初公『これ蚊取別さま、今日はえらう沈むでる様だなア。お前の日頃思つて居る女でも、此処へ隠れて居るのではないかなア』
蚊取別『サア、何とも判らぬなア』
初公『アハヽヽヽ、よく自惚たものだなア。自分の御面相とちつと御相談なされませや』
 かく話す折しも襖をソツと引開け、静かに入り来る一人の美人、蚊取別の姿を見るより、美人はハツと驚き涙を流し、膳部を其処につき出し乍ら、一言も得云はず、恥かし気に奥の間に立ち去りぬ。
初公『モシモシ蚊取別さま、あれが例のハぢや、思つたよりは立派な奴ぢやなア』
蚊取別『ウムー、ウムー、さうだ、牛は牛連れ、馬は馬連れ、月に鼈、雪と墨、提灯に吊鐘、釣り合はぬは不縁のもと、アハヽヽヽ』
初公『夜が明けて居るのに提灯も月もあつたものかい、訳の分らぬ事を云ふ男だなア。併し私だつたら、幸女房もなし、向ふさへ承知なら、辛抱してやらぬ事はない』
高光彦『アハヽヽヽ』
蚊取別『アヽ、私も人生の無常を感じて居る一人だが、もうかうやつて年を取り、五十の坂が見えかけると、無常どころか無常迅速を切に感ずる様になつたよ』
初公『何が無じやう件だ。お前の方からは彼んな代物が女房になると云へば無条件だらうが、向ふの方は有条件で、さう迅速にハイハイとは仰しやらないぞ。余まり自惚をせぬがよからう。だいぶんに羨るうなつたと見えて、悄気た顔をなされますなア』
 この時襖をサラリと開けて、夏山彦は祝姫を従へ此場に現はれ、
『ヤア皆さま、汚穢しい家で…………、また夜前は何だか寝苦しき陽気で御座いました。定めてお困りでしたでせう。マアゆるりと御飯でも御食り下さいませ』
初公『ヤア、是だ是だ。皆さま寛りと御飯でも上りませうかい』
 此時得も云はれぬ薫ばしき香気俄に室内に充ち、何処ともなく嚠喨たる糸竹管絃の響聞え来たる。
(大正一一・三・九 旧二・一一 岩田久太郎録)
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