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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第3篇 天岩戸開(三)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(三)
文献名3第19章 呉の海原〔515〕よみ(新仮名遣い)くれのうなばら
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-12 00:56:33
あらすじ
時置師は何事か海面に向かって祈祷すると、微笑んで元の席に戻ってしまった。残された三人が時置師の仕業を恐れて話し合っていると、時置師は三人を見つけて、話しかけてきた。

三人は、牛公のように海に投げ入れられるのではないかと恐れて、恐々応対している。そうするうちに、牛公は巨大な亀の背に乗せられて、海面に浮かんできた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月10日(旧02月12日) 口述場所 筆録者岩田久太郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版161頁 八幡書店版第2輯 685頁 修補版 校定版170頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm1219
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本文  時置師神は牛公の投身したる海面に向ひて、暗祈黙祷しつつあつた。暫くあつて満面に笑を湛へ、悠々と元の席に返つて行くのであつた。馬公は小声になつて、
馬公『オイ鹿、虎、どうだ。三五教の宣伝使でさへも、牛公が海へ飛込むだのを見て、助けようともせず、愉快さうに、ニタリニタリと笑つて居つたぢやないか』
鹿公『ウン、さうだのう、偉さうに人を助ける宣伝使だと云つた処で、口許りだよ。どうでコンナ世の中になつて来れば……誠の者は薬にする程も無い……と云ふ神様の教通りぢや。大きな声で喋つて居ると、又どんな目に逢はせられるか知れやしないぞ。静にせい、静にせい、云ひたけら黙つてものを云ふのだよ』
馬公『黙つてものを云ふ事が出来るかい、手品師でもあるまいし』
虎公『出来いでかい、そこが以心伝心だ。目は口程にものを云ふと云ふ事がある。霊界物語にも耳で見て目で聞き鼻で物食うて口で嗅がねば物は分らぬ、と出て居るぢやないか』
馬公『そんな事はどうでも良いわ。マア静にしようかい。オイオイ時置師神が大きな目をむいて、ギロギロと見廻し出したぢやないか。どうやら御鉢が廻りさうだぞ』
と云ひ乍らクルクルと帯を解きかける。
鹿公『オイ馬公、貴様帯を解いてどうするつもりだ』
馬公『喧し云ふない、是には秘密があるのだ。手廻しだ』
虎公『手廻して何だい』
馬公『牛公の様に着物を着たなりで、飛び込むでもつまらぬから、時置師神が「コラツ」とやつて来よつたら、俺はチヤンと御先に此帯解き置かしの神様となつて、真裸のまま海の中へドブンだ。貴様等も用意せ、用意を』
 時置師神は四辺キヨロキヨロ見廻しながら、三人の囁き話を聞き、
『ヤアー、久しく逢はなかつた。御前等は牛公の同役、ウラル教の目附の馬、鹿、虎の三人ぢやないか』
虎公『トラ違ひます、シカと見て下さいませ、決してウマい事人を詐る様な、正直な男ぢや御座いませぬ』
時置師『アハヽヽヽヽ、其狼狽へ様は何だ、裸になつて居るぢやないか』
馬公『裸で物は落しませぬからなア。肝腎の一つより無い命を落しては約らぬから、まさかの時の用意に裸になつて置きませうかい。烈しい時津風が吹いて、舟が覆る様な事があつては耐りませぬから』
時置師『御前は確に牛公の連だらう、人間は正直にするものだぞ』
馬公『ハイハイ、ドウド許して下さいませ。正真の事を云つたら命がありませぬわ。今日の時節は、真実の事を云へば、悪い奴ぢやと云つて、酷い目に逢はされる世の中です。嘘が宝となる世の中、嘘から出た誠、誠から出た嘘、嘘か誠か、雨か風か、そこはそれ好い加減に操つて渡るのが当世の遣り方、決して決して此世の中に逆らう様な、悪い人間ぢや御座いませぬ。時世時節に従ふ善の遣り方、時さまに従ひます』
時置師『アハヽヽヽヽ、どこ迄もウラル教主義だなア』
鹿公『斯様斯う斯うシカジカの因縁によつて、しかも同じ国武丸に一蓮托生、袖振り合ふも他生の縁、躓く石も縁の端、団子食ふのも囲炉裡の框』
時置師『コラコラ何を云ふのだ、貴様の云ふ事は時々脱線するから困る』
鹿公『鹿り鹿り、時にとつての時さんへの御慰み、時世時節は恐いもの、この広い世の中、一つや二つ悪い事をしたつて、まさか時さまに遭遇すとは思はなかつた。アーアー広い様で狭いは此世の中だ、まだまだ狭いのは舟の中、も一つ狭いは腹の中』
時置師『ナカナカ能う囀る奴だなア』
鹿公『泣く鹿よりも泣かぬ螢が身を焦す』
時置師『シカタの無い奴だ。何だビリビリと震ひよつて』
鹿公『身体に憑いたる曲津神を震ひ落して居るのですよ。どうぞもう私の古い罪は、貴方もさつぱりと、是で見直し聞直し、都合がついたら、他の船にでも乗り直して下されば、大変に都合が好いのだがなア』
時置師『貴様は面白い奴だ、イヤ面黒い奴だ。まるで渋紙様の様な男だ。顔に渋味があつて一寸確りした目附役、捕手の役には持つて来いだ』
虎公『モシモシ時様、鹿公は最前から随分云うて居ましたぜ。それはそれは大変に云うてましたよ』
時置師『何を云うて居たのだ』
鹿公『ユフユフ自適、神様の有難い事を云うて居たのです。さうして三五教は結構な教立派な宣伝使が沢山ござる。中にも取り分けて御慈悲深い、神力の強い、男前のよい活神さまの様な宣伝使と云うたら、マー時さまの時置師神さまより外にはあるまい……と云うて御賞め申して居つたのですよ』
虎公『コラ鹿公、ユフユフ云ふない。モシモシ宣伝使様、鹿公のは嘘から出た誠でなくて誠から出た嘘ですよ』
鹿公『構ふない、虎の野郎、貴様は余程卑怯な奴だ。俺等二人はどうなつても好い、貴様一人助かりさへすれば好いと思ふのか。よし、それなら俺にも考へがある。モシモシ宣伝使様、この虎公と云ふ奴、コーカス山の八王から沢山の手当を貰ひよつて、実の処は貴方の後を追従て来よつたのです、其証拠には此奴懐に呑んでますぜ』
時置師『呑んで居らうが呑んで居るまいが、どうでも好いぢやないか』
虎公『モシモシ宣伝使様、私を能く了解して下さいませ』
鹿公『何を吐しよるのだ。そりや了解もして下さるだらう。宣伝使を何々しようと思うて、追従覘うて居る悪い奴だから、懐へ呑んで居ると云う事を、御了解して下さるワイ。蛙は口から、匕首が塞がらぬワイ』
 かく話す折しも、舟の前面に見上げる許りの水柱立昇るよと見る間に、巨大なる亀の背に載せられて、牛公は嬉しさうに海面に浮むで来た。馬、鹿、虎一度に、
『ヤアー牛公が……助かつた』
(大正一一・三・一〇 旧二・一二 岩田久太郎録)
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