十握剣の分霊である秋月姫は、高倉別を高楼に登らせ、防戦の合図の鼓を打たせた。竜山別は敵の正体を認めようと馬に乗って偵察に出た。
合図の鼓で集まってきた館の人数は、わずかに四十八人であった。高倉別は到底敵の大軍を防ぐことができないことを悟り、一同に呉竹の宮の前で祝詞と宣伝歌を唱えさせた。
秋月姫は高殿に登り、寄せ来る敵に向かって祝詞を唱えると、宣伝歌を歌いかけた。高倉別は秋月姫に戦況を報告し、敵軍が撞の御柱大神の御子・天津彦根神に率いられていることを告げた。
そして、敵軍による島人たちの殺戮と、見方の劣勢を報告すると、その場で自害をしようとした。そこへ竜山別が飛んできて、短刀を叩き落した。竜山別に諭されて、自分の不甲斐なさを悔いた高倉別は、秋月姫のいる高殿に登り、共に神に祈願をこらそうと登って行った。
天津彦根神が秋月姫の館に迫り来ると、奥殿の高殿から一弦琴の荘厳な音とさわやかな天津祝詞が聞こえてきた。天津彦根神は祝詞の声に茫然とし、にわかに武具を投げ捨てると、共に神言を奏上し始めた。
兵士たちは将軍のこの挙動を見て驚いたが、ともに武具を投げ捨て、端座して神言を奏上し始めた。
時置師神、行平別神は神軍の後方から、宣伝歌を歌い、面白おかしく舞った。秋月姫が高倉別、竜山別を従えて現われ、しとやかに歌い舞った。神々は敵味方なく、手拍子足拍子を揃えて踊り狂った。
このとき天上の黒雲は晴れ、日がこうこうと輝き始めた。素盞嗚命の疑いはまったく晴れ、天津彦根神は天教山に凱旋して行った。
時置師神、行平別神は伊吹の狭霧を施し、殺された島人を再生させ、負傷者を治して回った。また天の数歌を歌って焼けた林を元の青々とした山に戻した。
高光彦の神も密かにこの島に上陸しており、森林の中に身を潜めて、天の数歌を歌ってこの惨状を平和に鎮めた。秋月姫は高光彦と夫婦となり、この島に留まって神業に従事した。
また、弟の玉光彦は深雪姫を娶り、万寿山に帰って父・磐楠彦の後を継いで永遠に神業に奉仕した。