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文献名1霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
文献名2第5篇 膝栗毛よみ(新仮名遣い)ひざくりげ
文献名3第23章 和解〔549〕よみ(新仮名遣い)わかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-14 10:58:49
あらすじ
夜、トイレに行きたくなった二人は、梯子を取られてしまったので、お茶を汲む土瓶の中に小便をして、それを返した。

怒ったお竹の母は、小便入りのお茶を二人に出した。このことで、二人はお竹の父母と喧嘩を始めてしまう。見物人が集まって大騒ぎになるが、そこへ六人の宣伝使がやってきて、宣伝歌を歌った。

一同は宣伝歌にあわせて踊り舞い、喧嘩は収まった。そして一行はコーカス山に向かって進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月21日(旧02月23日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年10月30日 愛善世界社版272頁 八幡書店版第3輯 129頁 修補版 校定版272頁 普及版119頁 初版 ページ備考
OBC rm1323
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本文  弥次彦、与太彦の二人は、また大土瓶の茶をガブガブと残らず飲んでしまつた。
『エー気分の悪い、沢山の茶を飲んで洗濯をした積りだが、何だかまだ口が粘つくやうだ。洗濯をしても矢張腹の中に洟もあれば鼻汁も雑居して居るのだから、気持ちがあまり冴えぬワイ。お前も殺生な奴だ、洟が斯う斯うだと前に言うて呉れればよいものを、腹が悪いなア』
『俺は腹がへつて悪いが、貴様は鱈腹喰つて、もつたいない理窟を言ふとは、よほど腹の悪い奴だ。アヽ余り沢山飲んだので小便が仕度くなつた。梯子も何も取つて仕舞つて降る事が出来やしない。此処でやれば下へ漏るし、張り切れる様になつて来たワ、どう為ようか知らぬて』
与太彦『都合の好いものがある、この土瓶の中にやつたらどうだ、下に漏る気遣ひはないぞ』
と云ひながら、かはるがはる泡立た茶色の小便を夜の明けるまでに半分ばかり溜めた。二人は旅の疲れでグツスリと寝込んでしまつた。ソロソロ聞ゆる鶏の声、小鳥の声、
弥次彦『ヤー春の夜は短いものだ、此処へこけたと思へば早鶏の声だ、折角煙が無くなつたと思へば又そろそろ焚き出しよつて燻るワイ。アヽ煙たい煙たい』
 婆々は下より、
『二階のお客さま、土瓶を降ろして下さらぬか』
『ヨシヨシ』
と弥次彦は土瓶を鈎に引つ掛けツルツルと釣り降ろした。暫くすると、婆々が、
『お客さま握り飯だ、鈎を降したり』
 弥次彦はツルツルと鈎を降す。婆々はまたもや十文字に縛つた笊に握り飯を盛つて引かける。
『オイ与太公、今日は大丈夫だ、どつさりと頂いて見ようかい』
『イヤモウ閉口だ、夜の短いのに二人前も頂いて、おまけに土瓶の茶を沢山飲んだものだから、臨月の嬶アの腹のやうに筋張つてポンポンだ。お前、遠慮せずに頂いて終へ』
『俺も何となく腹がすかぬ、マア止めて置かうかい』
『お腹がすいても空腹うないと云ふが、空腹いときのまずいものなし、ひだるいときの汚いものなしぢや、一つ奮発して五つ六つ平げたらどうだい弥次彦』
『ヤアどう思つても胸膨れがして食ふ気にならぬワイ。それよりも茶なと貰つて腹を膨らさうぢやないか。モシモシ婆サン、どつさりお茶を下さらぬか』
婆々は下から、
『高取村の旦那さま、お茶が都合よく沸きました、あまり熱くもなし、ぬるくもなし、飲み頃ですぜ。サア鈎を降して下さい』
『鈎は最前から降して待つて居るのだ』
『アヽ、ホンニ降りてをつたなア、年が寄ると目脂、鼻汁、いやもうじじむさいものだ』
と言ひながら、手鼻をかんでその手で土瓶の蔓を持ち鈎に引掛けた。弥次彦は手早く手繰上げて、
『また婆々の手鼻をかんだ手で茶を汲んで呉れたが、茶の中にはまさか鼻汁は這入つてゐまい。マア緩くりと茶腹でも膨らかさうかい』
と言ひながら互ひに引つたくり、争ひつつ七八分まで飲んで仕舞つたが、何となく妙な臭が鼻にプンプンとする。
『オイこの茶は怪体な臭がするぢやないか、何だか塩辛い味の、よい塩加減の茶だと思うて飲んだが、この臭が何だか気に喰はぬぢやないか、のう与太彦』
と云ひながら下を覗いて、
『コレコレお婆さま、この茶は腐つとらせぬかいなア。妙な臭がするぞ』
『なに腐つて居るものかい、昨夜沸した所だ、現にお前さまが昨夜飲んだ残りの上に茶を補して沸かして上げたのだ。腐つて居る気遣ひは無いわいなア』
『ヤー此奴は堪らぬ、どうしようか、オイ与太公』
『仕方がないなア。己に出づるものは己に帰るぢや。他人の小便ぢやあるまいし、自分の小便を自分が飲んだのだ、疝気の薬ぢやと思へば、マア辛抱するのだなア。あんまり常平生から、バリバリバリ付くものだから、因劫が報い来つて自業自得で、狼の様にバリを飲まされたのだ。ペツペツペツペツ』
 ガア、ガラガラガラと咽に指を突き込んで吐き出す、柴屋の簀子を洩れて反吐水は下を通り爺の禿頭にダラダラと流れ落ちた。
『チエツ、鼠の奴、頭から小便をかけよつて、ヤー小便計りぢやないぞ、飯粒が交つて居る。ヤアこれは大方二階のお客だらう、怪しからぬ奴ぢや。娘の世話になつた旦那、主人だと思ふから二階に泊めてやれば頭から反吐を引かけるなんて不人情きはまる。ヨシ先方がさうなら此方も了見がある。コレお竹、梯子を差す事はならぬぞ、何時までも天井へ祭り込んで焚物になるとこまで燻べてやるのだ。本当に人を馬鹿にして居る。コラ二階の兵六玉、どうするのだ』
『モシモシ爺さま、私ぢやない、あれは鼠ぢや。鼠の悪戯迄吾々に転嫁させられては弥次彦も困るよ』
『馬鹿言ふない、鼠が反吐をつくかい、田舎者だと思つて余り馬鹿にするな』
弥次彦『コラコラお竹、梯子を差さぬかい』
『ハイいま差します、チヨット待つて下さい。小用して来るから』
与太彦『用事を済ましてから差して上げますとは、洒落てけつかるワイ』
爺『コラお竹、親の許しもなしに梯子をかけると云ふ事があるか』
『それでも、可愛がつて下さつた旦那さまぢやもの、親が何と云つても私は差して上げます。サアサア早くこれに乗つて降りて来て下さい』
『乗れと言つたつて、コンナヒヨロヒヨロの梯の子にどうして乗れるのだ。危なくつて仕方がない』
『乗るのがいやなら、両方の親柱をグツと抱いて大股に跨げて降りて下さい。二人一緒に跨げると梯子が折れます。マア、旦那さまから先い』
『旦那さまから先いなんて馬鹿にしてやがる。エー仕方がない。鎌の柄を向ふに握られて、切れる方を此方が持つて居るやうなものだから、この柴屋から無事に着陸する迄は、猫を被つて大人しうして居ろかい、この与太ヤンも』
 二人は漸う降りて来た。弥次彦は面を脹らして、
『コラ婆々、人に小便を飲ましよつて馬鹿にするない』
『この人は何を言ふのだい、誰が小便を飲ましました。お前さまが勝手にこいて飲んだのぢやないか。あんまり勿体無い事をなさるから、懲しめの為に小便だとは知つて居つたけれど、態とに其儘にして置いたのだよ。ソンナ道楽な心で、コーカス詣りをしたつて神様は、彼方向いて御座るわ。本当に自堕落な兵六玉だナア。奉公人の一人も使ふ人だから、チツトは行儀ぐらゐ知つた方だと思うて居たのに、あまりの仕打で愛想が尽きた。私は斯う貧乏して居つても、綺麗な物と汚い物ぐらゐは弁へて居る。アタ勿体ない、先祖譲りの履歴のついた、大事なお土瓶に小便をこかれて、どうしてこれが使へるものか。サア旧の通りにして下され、婆々が承知しませぬぞや』
『土瓶の一つくらゐ何だ、それほど惜しけりや買うて返してやるわ。何だ大層らしい。三銭や五銭の土瓶を』
『この土瓶は三銭や五銭ぢや買へませぬ、百両から致しますよ』
『金の土瓶でも百両出せばあるのに、何ぢやコンナ真つ黒気な蛸土瓶をあまり懸け値を言ふな。足許を付け込みよつて年寄の癖に欲の皮の深い奴だ。棺桶に片足突込んで居つて欲張つて何になる、お熊婆奴が』
『この土瓶は成るほど買うた時は三銭だつたさうだが、曽祖父の代から家宝となつて今まで持つて来た物だ。三銭の金に利に利を盛つて百五十年の間勘定して見なさい、百両なら安いものだよ』
『何と勘定の高い婆アだなア、こいつア、ウラル教だよ与太公』
『ウラルもウランもあるものか、百両だつて千両だつて、家の宝を売つて堪るものか』
弥次彦『蛸なら足もつくだらうが、此奴は足の無い胴瓶ばかりだから、素より利足の付く筈がないわ』
与太彦『形あるものは必ず滅び、逢ふものは離れると云ふのは世の中の習ひだ。諦めて置くが好からう、後生の為だよ』
爺『何んだ、聞いて居れば親重代の土瓶を穢はしい小便を垂れよつたのか、モウ了見ならぬ、俺のとこの宝を台なしにしよつたナ』
弥次彦『エー小さい事を吐かすない、土瓶に小便を入れたのがそれほど腹が立つのなら、吾々の胴腹に小便を入れよつた貴様こそ了見ならぬ奴だ。胴瓶の土瓶いぢりの薬鑵老爺、土瓶も薬鑵も一緒にポカンと遺つてやらうか』
爺『人の家に厄介になつて置きながら、何と云ふ劫託をこきよるのだ。コラ、年は寄つてもこれでもヤンチヤの虎サンと綽名を取つた此方だぞ』
と云ひながら握り拳を固めてポカンとやつた。
 与太彦は、
『この耄碌老爺、何をしやがる』
と又もや鉄拳を固めて薬鑵頭をポカンとやる。老爺は甲声を出して怒る、お竹は泣く、婆はわめく、弥次はカンカンになつて暴れ廻る。表を通る数多の参詣者は『ヤア喧嘩だ喧嘩だ』と面白がり黒山の如く集まつて来る。
甲『コラ一体何の喧嘩だ』
乙『土瓶と薬鑵の喧嘩ださうな』
 ワイワイと野次馬連が騒いで居る、斯かる所へ烏帽子、狩衣、厳めしく馬上ゆたかに進み来る宣伝使の一行ありき。宣伝使は馬を止め、ツカツカと群集を別けてこの家に飛び込み、
『アヽ、お前サンは弥次彦サン与太彦サンぢやないか』
『ホー、貴様は醜の巌窟でお目に懸つた宣伝使様、エライ所でお目にかかりました』
 宣伝使六人は声を揃へて手を拍ちながら、
『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 唯何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは詔直せ』
と歌ひ初めたる。この声に連れて弥次彦、与太彦を初め、老爺も婆々もお竹も、今までの争ひをケロリと忘れ、共に手を拍ち踊り狂ふ。
音彦『アヽ世直し世直し、サーサ皆さまコーカス山へ参りませう』
一同『有難う』
(大正一一・三・二一 旧二・二三 谷村真友録)
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