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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
文献名2第1篇 正邪奮戦よみ(新仮名遣い)せいじゃふんせん
文献名3第6章 北山川〔573〕よみ(新仮名遣い)きたやまがわ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-16 01:28:21
あらすじ
川のほとりで目が覚めた五人は、まだ幽界にいるのではないかといぶかる。百舌彦は、幽界の木の実には苦味があるはずだと言って、木に登って木の実を食べ出した。

百舌彦は田加彦をからかい、怒った田加彦は百舌彦に石を投げつけて、木から落としてしまう。一同の祝詞によって気がついた百舌彦は、象のような化け物に変身して、田加彦を木の上に置き去りにする。

木から下りてきた田加彦は、またしても百舌彦と喧嘩を始め、追いかけ合いながら走って行ってしまう。安彦、国彦、道彦らは二人を追って走り出す。
主な人物 舞台 口述日 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版71頁 八幡書店版第3輯 306頁 修補版 校定版71頁 普及版32頁 初版 ページ備考
OBC rm1506
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本文  誠を教ふる四方の国  広道別の宣伝使
 太玉命に従ひて  ハムの一族婆羅門の
 教を築き立て籠る  顕恩城に向はむと
 エデンの河の渡し場に  来る折しも枉神の
 篠つく征矢に悩まされ  或は倒れ又溺れ
 木葉微塵に船は割れ  一同エデンの河底に
 沈みつ浮きつ河下の  巌の間に挟まれて
 露の玉の緒縡れし  其折柄に何処よりか
 微妙の音楽聞えきて  救ひの網を下しつつ
 妙音菩薩の御守りに  生命拾ひし五人連れ
 忽ち来るコーカス山の  神の使ひの鷹津神
 小脇に抱へ中空を  東を指して翔り行く
 安彦、国彦、道彦や  百舌彦田加彦五人連れ
 神に救はれ北山の  千尋の谷間の砂原に
 投げ下されて目を醒まし  一途の川に向ひたる
 夢の思ひ出恐ろしく  身慄ひし乍ら起上り
 四方の景色を眺むれば  此はそも如何に此は如何に
 山と山とに包まれし  細谷川の川の辺に
 枕を並べて睡るこそ  実に訝かしの限りなり
 実にも不思議の極みなり。
国彦『アーア恐ろしい事だつた。胆玉がすつての事で洋行する処だつたよ。マアマア御蔭様で何うやら無事着陸した様な塩梅だ。能う不思議な事があればあるもの、エデンの河を渡る時に肝腎のスクリウを押し流し、乗つたる船は波にまかせ、生た心地も無く生命からがら神言を奏上する間もなく、無残や吾船は激流の中に立てる大岩石に向つて大衝突を試み脆くも木つ葉微塵の厄に遭ひ、太玉命の宣伝使を始め吾々一同は水の藻屑となつたと思へば際涯もなき草野の原を五人連れ、テクテク彷徨ひつつ濁流漲る辺にやつと到着し、怪しき婆の妙な器械に操られ、木の葉の如く天上高く捲き上げられ、生命も今や絶えむとする折しも大空に轟く雷の声、稲妻の光に打たれて地上に真逆様に墜落し、骨も身も木つ葉微塵になつたかと思ひきや、不思議にも生命を助かつたは全く大神様の御守護だ。何しても不思議な事だ、吾々は飽迄も生命のつづく限りお道の為に驀進せなくてはならないなア』
安彦『何とも知れぬ吾々の境遇、夢に夢見る心地がして現界に居るのか、幽界に居るのかまだ判然と確信がつかぬ哩、ヤイ道彦サン、お前は如何思ふか、矢張冥土の旅をやつて居るのではあるまいかなア』
道彦『サア斯うなつて来ては薩張り見当が付かない。現幽混淆、判然と区劃がついてゐないのだからお前の考へも決して馬鹿げた事とは断定出来ないなア』
百舌彦『モシモシ宣伝使様、彼処に生つて居る香具の木の実を一つ採つて食つて見ませう。幽界の果実は総て苦味があると言ふ事ですから、若しも苦かつたら矢張り幽界でせうし、酢つぱかつたら矢張り現界でせう。私が一つ木登りをして採つて来ませうか』
国彦『それは良い考へだ、早く登つて採つて見て呉れ。然し乍ら比較的大木だ。枝も高いなり用心して登らないと、今の夢の様に空中滑走を演じて樹下の岩石に頭蓋骨を衝突させ、又もや幽界の行脚をする様な事ではつまらないから十分に気をつけて呉れ給へ』
百舌彦『私は顕恩郷に於ても猿の百舌公と言はれた位木登りの名人ですから、決して決して御心配はして下さいますな』
と言ふより早く猿の如くに大木の枝高く登り行く。田加彦は樹下に立寄り、
『オーイ、百舌彦、どうだ。酸つぱいか、苦いか、甘いか、どちらだ』
 百舌彦はむしつて皮を剥き、グツと頬張り又むしつては皮を剥き、咽喉をならせ乍ら眼を細くして肩をすくめて食つて居る。さうして皮を掴んでは、樹下に口を開けてポカンとして見上げてゐる田加彦の顔を目蒐けて打ちつける。
田加彦『オーイ、百舌公、どうだ、味は、……早く返答せぬかい』
百舌彦『八釜しい哩、二十や三十食つたつて味が分るかい。酸いか、甘いか、苦いか、三つの中だ。坂の下の子供ぢやないが、お上り遊ばすのを悠然と見て御座れ。アヽ酸い事も無い、甘い事もない、苦い事もない哩。何だか言ふに言はれぬ味がする、アヽ生とればこそコンナ美味しい物が沢山に頂けるのだ。オイ田加公、貴様も一つ登つて食つたら如何だ』
田加彦『俺は貴様の知る如く身が重くつて木登りは出来ないのだ。屋根葺きの手伝と木登りする奴は馬鹿の中の大関と言ふ事だ。オイ馬鹿の大関、一つ美味相な奴を落さぬかい』
百舌彦『仲々一寸落さぬ哩、落したら最後、貴様が皆拾つて食つて仕舞ふから落し損だ。それ程欲しけりや猿蟹合戦ぢやないが、瘡蓋のカンカンの石の様な奴を落して与らうか』
と云ふより早く田加彦の頭を目蒐けてピシヤツと打ちつける。田加彦は烈火の如く憤り手頃の石を拾つて樹上目蒐けて速射砲的に打ちつける。百舌彦は青き果実をむしつて田加彦目蒐けて打ちつける、此場に一場の戦闘は開始された。百舌彦は飛び来る石を右に賺かし左に賺かし、樹上を猿の如く駆廻り足踏み外しスツテンドウ…………、田加彦が頭の上に真逆様に唸りを立てて落下した。田加彦はヤツと一声、体を躱した途端に蛙をぶつつけた様に百舌彦は大地に大の字になつてウンと一声、手足を伸ばしビリビリビリ、眼の玉はくるくるくる、一言も発せず、フンのびて仕舞つた。
安彦『ヤア大変だ、酸いとも苦いとも判断のつかぬ中に落命されては吾々も益々方向に苦しむ訳だ。何とかして甦らせ確な答を聞き度いものだ。オイ田加彦、百舌彦は貴様が殺した様なものだ、此責任は貴様にあるぞ。何とか工夫を致さぬかい』
田加彦『鷹も百舌も一所には寄せぬぞよと神様が仰有ります。私は田加彦、到底百舌の世話は出来ませぬ』
安彦『何を愚図々々言つてるのだ、早く水でも呑まして与れ、死んだら如何致すか』
田加彦『一旦吾々一同は死んだのですから滅多に死ぬ様な事はありますまい。死んだ奴の昼寝でせう、マア悠然目の醒める処まで放つといたら如何でせうか。大分に百舌公も空中飛行の疲労が出て居るから、マアマア大目に見てやつて下さいな』
道彦『ヤア国彦サン、安彦サン、どうも吾々は未だ現界の人間らしい、百舌公を此儘にして置けば本当に死んで仕舞ひます。何卒一同揃うて神言を奏上してやつて下さいな』
 三人は異口同音に天津祝詞を奏上し始めた。百舌彦は忽ち身体振動し、大口を開けて、
『アヽヽ』
と声張り上げ、中風病みの様に涎をダラダラ流しかけムクムクと身体を動かし始めた。
安彦『ヤアヤアもう此方の者だ、生命丈は大丈夫だ』
 百舌彦は忽ち四つ這ひになり、ヒン ヒン ヒンと馬の様な嘶きを連発し乍ら足を以て河砂を足掻し、ムクムクと這ひ出した。
田加彦『ヤア此奴一旦死によつて馬に生れて来よつたナ。大善大悪に中有は無いと言ふ事だが如何にも此奴は常から大悪人だつた。中有なしに忽ち畜生道へ早変り、否生れ代り、俺も今迄永らく交際つた誼で此奴の馬に跨つて与れば因業が満ちて再び人間に生れて来るだらう。サア百舌彦の四つ足、貴様は余つ程幸福者だ。労役に服する畜生も沢山あるのに、勿体なくも三五教の宣伝使の御供、田加彦サンを乗せて歩くとは何たる幸福者ぞ、サア駆出せ駆出せ』
百舌彦『ヒンヒンヒン』
田加彦『ヤア此奴は本式だ、馬にしては少し背が低いから乗り心地が悪い。然し乍ら資金要らずの小馬だから辛抱するかい』
と云ひつつ百舌彦の背に跨つたまま、有りあふ木片を以て鞭に代へ無性矢鱈に鞭つた。忽ち百舌彦は身体膨張し、象の如き巨大なる人面獣体の怪しき獣となつて仕舞つた。
田加彦『ヤア三人の宣伝使様、御覧の通り顔は人間、胴体は象の様な大きな脚の太い馬が出来ました、皆サン御一緒にお乗りになつては如何ですか。昔エデンの園で此世の造物主の大神様がアダムとエバとの二人の男女にこの果物を食ふなと警められた。それも聞かずにエバの奴、餓虎の勢でムシヤムシヤと採つて食ひ、ハズバンドのアダムに迄勧め食はして遂に神罰に触れ、其邪気は凝つて八頭八尾の大蛇となり、金毛九尾の悪狐となり天下に横行する様になつたと云ふ事だ。罰は覿面、百舌公の奴、此結構な果実を唯一人吾物顔に人にも呉れず食つた酬い、樹上より顛落して生命を失ひ、忽ち畜生道に陥りコンナ怪体な人獣となつて仕舞つた。皆サン、袖振り合ふも他生の縁だ、此奴の罪亡ぼしの為めに乗つてやつて下さいな』
 百舌彦の身体は忽ちウ、ウ、ウと唸り始めた。
田加彦『エー静かにせぬかい、あまり唸りよるので貴様の身体中がビリビリ震うて、俺の尻まで擽ゆくなつて来た。八釜しう吐すと尻を叩くぞ』
と木片を以てピシヤリピシヤリと打ち叩く。人象は上下に運動を始めた。初めの間は四五尺の間を上下しつつあつたが遂には七八間の中空を昇降し、上下左右に躍り始めた。其震動に跳飛ばされて田加彦は以前の香具の木の枝に噬み付き顛落を免れた。人象の姿は忽ち容積を減じ以前の百舌彦の姿に還元して仕舞つた。
百舌彦『アハヽヽヽ、オイ田加彦、どうだ、酸いか、甘いか、苦いか、返答せぬかい』
田加彦『ナヽヽヽ、何を吐しよるのだ。酸いも、甘いも苦いもあつたものかい。俺をコンナ甚い辛い目に会はせよつて、こら、俺が死んだら化けて出てやるからさう思へ、ヒユー、ドロ ドロ ドロぢやぞ』
 百舌彦は目を剥き舌をペロリと出して、
『御縁があつたら又お願致します、サア サア サア三人の宣伝使様、彼奴をああして香具の木の実に預けて置けば死ぬ迄大丈夫です。皆サン一時も早く此場を立ち去り宣伝に向ひませう』
安彦『アハヽヽヽ』
国彦『オホヽヽヽ』
道彦『ヤア百舌彦、貴様は化物だ、妙な病気を持つてるな。然し乍ら田加彦をあの儘に放擲て置く訳にはゆくまい、之は貴様の責任だからソツと樹下に下して連れて行くが宜からう』
田加彦『モシモシ道彦サン有り難う御座います、能う言つて下さいました。人情知らずの安彦、国彦の宣伝使、百舌彦の馬鹿野郎、永らく御心配を掛けました、大きに憚り様』
と云ひ乍ら猿の如く樹上よりスラスラスラと下つて来た。四人一度に、
一同『アハヽヽヽ』
と転けて笑ふ。田加彦は百舌彦の尻をクレリと引ん捲り、
『コラ、屁放き馬、能く此方を馬鹿にしよつたな』
百舌彦は『何ツ』と云ひ乍ら矢庭に拳骨を固めて田加彦の頭を続け打ちにポカポカとやつた。田加彦は烈火の如く又もや拳を固めて骨も挫けと打下す。此時遅く彼時早く、百舌彦は細くなつて雑草茂れる田圃道を一目散に駆け出す。田加彦は、
『おのれ百舌彦、卑怯未練な、逃がしてならうか』
と尻ひつからげ後を追つかけ、雲を霞と彼方を指して姿を隠して了つた。
安彦『ヤア、面白き活劇を見物した。然し乍ら此儘にして居れば二人の奴、如何な事をするかも知れない。国彦、道彦殿、一時も早く後追つかけて彼の所在を探しませう』
と安彦は慌しく先に立つて駆出せば、二人も続いて跡を追ひ行く。
(大正一一・四・一 旧三・五 北村隆光録)
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