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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
文献名2第1篇 正邪奮戦よみ(新仮名遣い)せいじゃふんせん
文献名3第7章 釣瓶攻〔574〕よみ(新仮名遣い)つるべぜめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-08-27 03:05:11
あらすじ
田加彦は、逃げる百舌彦に追いついて殴りかかった。二人が追いかけ合いをしていると、四五人の男が現れて、二人を捕まえて縛り、滝つぼまで引きずっていった。

男たちは、鳶彦の手下であった。鳶彦は、婆羅門教を裏切った田加彦と百舌彦に対し、修行と称して拷問を加える。

そこへ三人の宣伝使が声を頼りに二人を探しに来て、救出する。天津祝詞によって、息も絶え絶えになっていた田加彦と百舌彦は再生した。辺りには微妙の音楽が流れ、妙音菩薩のご加護が感じられた。

五人は広い道に出て、東南を指して進んでいった。十数件の小さな村に着いたが、この村にはそびえたつ大廈高楼があった。一行は高楼の前にたたずむと、琴の音が聞こえ、聴いたことのあるような女の声が聞こえてきた。
主な人物 舞台 口述日 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版83頁 八幡書店版第3輯 311頁 修補版 校定版83頁 普及版37頁 初版 ページ備考
OBC rm1507
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本文  百舌公、田加公は、汗をタラタラ流し乍ら、蛙の行列向う見ずと云ふ大速力を以て、細き田圃路をマラソン競走的に進行して行く。
 行く事十数丁、忽ち前途に突当つた石像の姿、百舌公は此石像に現を抜かして見惚れて居る。後より追付いた田加彦は、矢庭に拳骨を固めてポカポカポカと擲り付ける。石地蔵は一尺有余の長き舌をノロノロと吐き出し、目を白黒と剥いたまま、一尺許りも前に突き出し、鼻をムケムケさせて居る。田加彦は又もや現をぬかして、異様の石像を見詰めて居た。百舌彦は又もや拳骨を固めて、田加彦の横面をポカポカとやる。
田加彦『アイタタ、もう是れで借金済しが済んで居る筈だのに、又二つも擲りよつて仕方のない奴だ。待て待て今に返報がやしをしてやらう』
と捻鉢巻となり、拳を握つて打つてかかるを、百舌彦はヒラリと体をかはし、
『ヤア田加彦、モウ返金は仕て要らない。利息も免除して遣る』
と逃げ廻る。田加彦は、
『ナニ、貴様に借金して返さずに男が立つかい。ドツサリ利子を附けて、返してやらう』
と追ひかける。百舌公は石像の周囲を逃まはる、田加彦は追ひかけまはる。殆ど石像を中心に巡る事数十回、遂には両人とも目をまわし、山も野も一時にモーターの如くに廻転し始めた。二人は大地にしがみ付き、
『ア、地震だ地震だ、天変だ』
とわめいて居る。此場に現はれた四五人の荒男、手早く二人を後手に縛り上げ、肩に綱をひつかけ、ドンドンドンドンと、草生え茂る畔路を林の中に駆けて行く。二人は引きずられ乍ら、
『ア、天変だ、地妖だ。天が地となり、地が天となる』
と言ひ乍ら、縛られたる事に気付かず、わめきつつ、数百丈の滝の下に引きずられて行つた。四五人の荒くれ男は、忽ち滝水を汲み来つて、二人を仰向けに寝させ、目鼻口の区別なく滝の如くに注ぎかけた。二人は苦しさに眩暈も止まり、
『ヤア助けて助けて』
と泣き出すを大の男は声を荒らげ、両人に向ひ、
『其方はエデンの河の関守を致せし百舌彦、田加彦の両人であらう。此方は鬼雲彦の家来、鳶彦であるぞ、吾面をトツクリ見よ』
と、ズズ黒い顔をヌツと突出し、目を剥いて見せる。
百舌彦『ヤア貴様は鳶彦だな、何時の間にコンナ所へ来よつたのだ。俺の縛を解いて呉れぬかい、石地蔵の奴、失敬千万な、吾々両人を後手に縛りよつて、コンナ所へ吹飛ばしよつたのだ。友達の好誼だ、グヅグヅ致さずに早く吾々の縄を解かぬかい』
鳶彦『ナニ愚図々々言うのだ、貴様は三五教に寝返りを打ち、遂には神罰の為、エデン河の藻屑となつた其方ではないか。憎まれ子世に覇張るとかや、又もノソノソ娑婆に甦つて来よつて、再び三五教を開かうと致すのか、……待て待て此方にも一つの考へがある。……サア是からバラモン教の最も厳しき修行を為して遣らう。霊主体従の極致を尽し、貴様の肉体を、散り散りバラバラに致して、霊丈は天国に救うてやらう、有難く思へ』
と縛めを解き、滝壷へ押込まうとした。百舌彦は作り声をし乍ら、
『アー恨めしやな、吾れこそはバラモン教の信者となり、エデンの河の関守を勤めて居たが、思ひの外に神力の強い肝の太玉命が三人の勇士を伴れて、ニユーと其場に現はれた。俺は計略を以て四人の宣伝使を河の中に葬つてやらうと思うたが、ハーテ恨めしやなア、ウ恨めしやなア、事志と違ひ鶍の嘴の、船は忽ち木葉微塵、俺はエデンの河の藻屑となつて此世へ迷うて来たワイ、ヤイ鳶彦の奴、貴様も霊主体従の教を奉ずる代物、汝が生首をひつこ抜き、冥途へ伴れて往つてやらうか、ホーホーホーホーホー、恨めしやなア』
 田加彦は、手を前にニユツと下げ、舌をペロリと出し、右の手を前に突出し、
『ヒユードロドロドロドロ、恨めしやなア………』
鳶彦『ヤイヤイ貴様達何だ、生きて居る間から結構なバラモン教を棄てて、三五教に迷う娑婆の幽霊だと思つて居たが、ヤツパリ死んでも又迷うのか、此処はバラモン教の修行場だ、亡者の来る所でない。一時も早く姿を隠せ、消えて了へ、アタ厭らしい、シーツシーツシーツ』
百舌彦『恨めしやなア、鳶彦の生首が欲しいワイ』
田加彦『冥途の土産に鳶彦の御首頂戴仕らむ。ホーイホーイホー』
と蟷螂の様な手附をして、稍後方に体を反り乍ら空中を掻く。
鳶彦『ヤア此奴は半死半生の化物だ、幽霊にしては立派な足がある。此奴ア偽幽霊かも知れないぞ、オイ家来共、此奴を縛れ』
百、田『ヤア待つた待つた、幽霊を縛る奴が何処にあるか。チツト量見が違ひはせぬかのう、ホーホーホーホーイ』
鳶彦『エー量見違も糞もあつたものかい、モウ斯うなつては、どこ迄も了見ならぬのだ』
と言ひ乍ら、二人の帯に太き綱をシツカと結び付けた。
鳶彦『サアもう大丈夫だ、ハンドルを廻せ』
 四五人の家来は『ハツ』と答へて、修行用のハンドルをクルクルと繰り始めた。井戸の釣瓶の如うに、一人は頭上に高く舞上る。一人は滝壷にドブンと落ち込む。今度は反対に、上の奴が下の滝壷に落ち、交る交る数十回、上げては下ろし上げては下ろし、井戸の釣瓶の如く、上り下りの道中最も雑踏を極め、お蔭参りの伊勢道中の光景其儘である。二人は息も殆ど絶え、真青になつて九死一生の憂目に会うて居る。此時涼しき宣伝歌が聞えて来た。鳶彦は四五人の家来と共に一目散に、山奥指して姿を隠したり。安彦、国彦、道彦は何気なく滝の音を知辺に此場に現れ来り、百舌彦が滝壷の中空にひつかかり居るを見て打驚き、
『ヤア此奴は大変だ、一時も早く助けてやらねばなるまい』
と矢庭に両刃の剣を抜いて綱をブチ切つた。忽ち百舌彦は滝壷にドブンと落ち込んだ。安彦は赤裸となり、滝壷に飛込んで、百舌彦の足を握り、ひつ張り上げた。又も一人の田加彦の頭髪は水面に現はれて居る。再び滝壷に飛込みさま、頭髪を握つて救ひあげた。二人共多量の水を呑み、息も絶え絶えになつて居る。
安彦『アヽ能う水に縁のある男だナア、何とかして水を吐かしてやらうかい。まだビコビコと動いて居るから、今の間なら助かるだらう』
国彦『大変に沢山に水の御馳走を頂きよつたと見えて、腹は太鼓の様だ。一つ此双刃の剣で、腹袋を破つて水を出してやらうか』
道彦『馬鹿を言うな、ソンナ事したら、それこそ縡切れて了うよ』
国彦『縡切れるか、縡切れぬか、ソンナ事は吾々の関する所にあらずだ。生きるも死ぬるも神の御心だ。神が生かさうと思へば生かして下さる。吾々はどうなつとして水さへ出せば良いのじやないか、アハヽヽヽ』
安彦『洒落所かい、九死一生の場合だ。此両人を見殺にする訳にも行くまい。吾々宣伝使は敵でも助けねばならぬ職掌柄だ。どうしたら宜からうかな』
道彦『どうも斯うも仕方があるものか、吾々は天津祝詞の言霊を奏上して、神助を仰ぐより外に道はない』
安、国『ア、さうだつたナア。余りの事に周章狼狽、肝腎の言霊の奏上を忘れて居たワイ』
と言ひ乍ら、滝水に口を漱ぎ、手を洗ひ、拍手再拝、天津祝詞を奏上し、天の数歌を声もスガスガしく歌ひ了つた。二人は忽ち水を吐き出し、ムクムクと起きあがり、附近キヨロキヨロ見廻し乍ら、三人の此場に在るに驚き、
『ヤア宣伝使様、能う来て下されました。バラモン教の鳶彦の奴にスツテの事で代用の無い生命を奪られる所でした。アヽ有難い有難い、生命の親の安彦サン、国彦、道彦の生神様……』
と両人は大地に鰭伏して、涙を滝の如くに流し感謝する。此時何処ともなく美妙の音楽響き渡り、妙音菩薩の冥護有り有りと伺はれける。五人は又もや手を拍ち、妙音菩薩の恩恵を感謝した。
 是より五人は又もや道を転じて広野を渉り、東南指して足を速めた。行く事数百丁にして、十数軒の小さき家の建ち並ぶ村落に出た。この村落の中に巍然として聳えたる大厦高楼がある。五人の宣伝使は此館を目標に足を速め門前に佇めば、琴の音幽かに聞え、何処となく覚えのある女の笑ひ声、門外に千切れ千切れに漏れ来たる。安彦、道彦は首を傾け、
『ハテナア』
(大正一一・四・一 旧三・五 松村真澄録)
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