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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
文献名2第3篇 神山霊水よみ(新仮名遣い)しんざんれいすい
文献名3第15章 山の神〔582〕よみ(新仮名遣い)やまのかみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-16 18:38:24
あらすじ
高国別は岩窟で不思議な女神を追いかけるうち、落とし穴にはまって命を落としてしまう。天国をさまよううちに、宣伝使亀彦、梅彦ら一行と出会い、活津彦根神と呼ばれる。亀彦と梅彦はそれぞれ、神素盞嗚大神の娘である菊子姫、幾代姫と夫婦となっていた。

そして高国別は神素盞嗚大神の長女である愛子姫と契りを結ぶが、木花姫神が現れて、まだ現界に役割が残っているとして生き返る。

目を覚ました高国別は、深い井戸の底に落ち込んでいることに気がついた。そこへ天国で見たとおりに亀彦、梅彦、菊子姫、幾代姫、愛子姫が現れる。

井戸の底から石段を上ってきた高国別は、一同と合流する。夢で見たとおり、愛子姫は高国別を夫として迎え、六人で岩屋の探検に進んで行くことになった。
主な人物 舞台 口述日 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版184頁 八幡書店版第3輯 348頁 修補版 校定版183頁 普及版83頁 初版 ページ備考
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本文  此世を澄す素盞嗚の  神の命に従ひて
 御稜威も高き高国別は  奇の岩窟に陥りし
 老若男女の生命を  一人も残さず助けむと
 地底の洞に飛び込みて  神に願をかけまくも
 雄々しき姿すたすたと  声する方を辿りつつ
 往き当りたる岩の戸に  又もや両手を組みながら
 進退茲に谷まりて  暫し思案に暮れ居たる。
 時しもあれや何処よりか、閃光輝き高国別が前に火玉となりて進み来るものあり。
 高国別は剣の把に手をかけて、寄らば斬らむと身構へす。巨大なる火の玉は、高国別が四五間前に万雷の一時に落つるが如き音響と共に落下し、白煙となつて四辺を包み咫尺を弁ぜざる靄の中、高国別はきつと腹を据ゑ臍下丹田に息を詰め、天津祝詞を奏上しければ、今迄咫尺を弁ぜざりし猛煙は拭ふがごとく消え失せて、優美なる一人の女神、莞爾として佇立して居たまふ。
 高国別は、
『ヤア汝は何者なるぞ、察する所此岩窟に蟠まる金毛九尾の悪狐の眷属ならむ、吾が両刃の長剣に斬り捨てむ』
と云ふより早く剣光閃く電の早業、斬つてかかれば女神は中空に舞ひ上り、飛鳥の如く右に左に上に下に体を躱し、遂には又もや以前の火弾と化し、唸りを立てて岩窟の内を矢を射る如く逃げ去りにける。
 油断はならじと高国別は附近キヨロキヨロ見廻す折しも、身の丈一丈五六尺もあらむと思はる大男、異様の獣を引きつれながら此場に現はれ、高国別に一寸会釈したり。高国別は又もや魔神の襲来ならむと眼を配り身構へする。大の男は大口開けて高笑ひ、
『アハヽヽヽヽ、汝は高天原より下り来れる俄造りの似非審神者、吾正体を見届けよ』
と鏡の如き眼を見開き、かつと睨めつけたり。高国別は両手を組み、鎮魂の姿勢を取り、ウンと一声言霊を発射したるに、大の男は忽ち体を変じ優美なる女神となりぬ。
 高国別は、
『千変万化の悪神の悪戯、今に正体を現はして呉れむ』
と両刃の長剣を閃かし、女神に向つて骨も通れとばかり突きかかる。女神は手早く体をヒラリと躱した途端、勢余つて高国別は岩窟の中の隧道を、トントントン、と七八間許り行き過し、底ひも知れぬ陥穽に真逆さまに転落し、高国別は其儘息絶え、最早此世の人にはあらざりけり。
 高国別は唯一人、天青く山清く百花爛漫たる原野を神言を奏上しながら何処を当ともなく、足の動くままに身を任せ進み行く。
 前方に屹立する雲の衣を半被りたる高山が見えて来た。高国別は山に引つけらるる如き心地して、足に任せて進み行く。パタリと行き当つた峻坂、仰ぎ見れば鮮花色の男女の群四五人、何事か面白可笑しく囁きながら、此方に向つて悠々と進み来る。高国別は両手を組んで独言、
『アヽ吾は素盞嗚尊の大神の御伴仕へまつり、カナンが一家に休息し給ふ尊の命によつて諸人の後を追ひ、不思議の岩窟に忍び入りしと思ひきや、天空快濶一点の雲霧風塵もなき大原野を渡り、今又此山口に来るこそ合点がゆかぬことである哩』
と後振返り四方の光景を眺めて思案に暮れて居る。五人の男女は此処に現はれて一斉に恭しく目礼しながら、
『貴下は高国別の宣伝使、活津彦根神に在さずや、吾等は神伊邪諾大神の使者として貴下を迎への為に罷越たり、イザイザ御案内申さむ』
と先に立つて進み行く。高国別は何心なく、いそいそと五人の後に従ひ急坂を登り行く。漸う坂の絶頂に達した。二男三女の神人は口を揃へて、
『これはこれは高国別様、お疲れで御座いませう。此処は珍の峠の絶頂、先づ御休息下さいませ』
 高国別は、
『アヽ思ひも寄らぬ一人旅、何となく此麗しき山野を跋渉するにも話相手もなく稍寂寥を感じて居ました。然るに此坂の下より麗しき貴方等の御迎へ、一円合点が参り申さず、珍の峠とは何国の山で御座るか』
 五人は、
『ハイ』
と云つたまま、ニコニコと笑つて答へぬ。折しも得も云はれぬ涼しき風徐に吹き来り、高国別の顔を撫で颯々たる声を立て、幅広の木葉を翻しながら過ぎて行く。
『オー恰で天国浄土のやうな心持が致す、百鳥は空に謡ひ百花爛漫として咲き乱れ、風は清く香ばしく、幽かに聞ゆる微妙の音楽、曇り果てたる葦原の国にもかかる麗しき郷土のあるか、アヽ心持よや』
と芝生の上にどつかと坐し、言葉涼しく一同に向ひ、
『合点の行かぬ今日の旅行、貴方等は何れの神に坐し在すか、名乗らせたまへ』
 一人の男は恭しく、
『私は三五教の宣伝使たりし亀彦で御座います。これなる女は菊子姫と申し、神素盞嗚の大神の第六の御娘、今は大神の御心により千代も変らぬ宿の妻、此処は地底の国の天国、珍の峠で御座います』
『アヽ、貴方は音に名高い亀彦の宣伝使、貴方は大神の御娘菊子姫様か、思はぬ処でお目に懸りました。してして父素盞嗚の大神は今何処くに在すか、聞かま欲しう存じます』
 菊子姫は涙をはらはらと払ひながら、
『申すも詮なき事ながら、父大神は天地諸神人のために、千座の置戸を負はせたまひ今は味気なき漂泊の一人旅、何処の果に在すらむ、せめては其御消息なりとも聞かま欲し』
と涙ぐみ芝生の上に泣き伏しにけり。
 梅彦は、
『これはこれは菊子姫殿、此処は地底の天国で御座る。天国に涙は禁物、歓喜の花の開くパラダイスで御座るぞ。いや高国別様、吾々は三五教の宣伝使たりし梅彦と申す者、これなる妻は菊子姫の姉幾代姫で御座います。大神の内命に依つて夫婦の約を結びました。此後宜敷くお願ひ致します』
『アヽ左様で御座つたか、思ひも寄らぬ不思議の対面、全く大神様のお引き合せ、アヽ有難し。斯くも麗しき山上にて大神の姫御子に御目に掛る事望外の仕合せで御座る』
『貴神はペテロの都に於て驍名隠れなき御神様、幾度か生死を往来遊ばされ、此処に活津彦根神と現はれ給ひし天下無双の忠勇義烈の神様と承はる。天の太玉命の仲介により、素盞嗚の大神の御許しを得て第一の御子たる、此愛子姫様を貴下の妻と神定めさせ給へば、今より愛子姫様を妻となし、神国のためにお尽し下されば有難う存じます。貴方にお渡し申す迄吾等は日夜の気懸り、之にて吾願望も成就致しました』
と梅彦は心落ち付きし様子なり。
『これはこれは、音に名高き高国別様、夫となり妻となるも神の結びたまひし身魂の因縁、千代も八千代も妾と共に、手を携へて神業に尽させたまへ』
と顔に紅葉を散らしつつ優しき手を膝にあて語り出るは愛子姫なり。高国別は、夢か現か幻か合点行かぬと、暫し茫然として大空打ち仰ぎ思案に暮れ居たり。
 梅彦はモドかしがり、
『高国別様、何を御思案なさいます、何事も結びの神の御定め、直に御承諾なさいませ』
『アヽ、有難し有難し、思ひも寄らぬ山上の見合ひ、山の神様の御仲介、草の筵に雲の天井、風の音楽に木々の木の葉の舞ひ踊り、イヤもう有難う承知仕りました』
と高国別は笑顔をもつて迎へゐる。これより世俗は妻を山の神と云ふのである。愛子姫は立ち上り、高国別に向つて、南方の諸山を圧してそそり立てる高山を指さし、
『雲の彼方の黄金の山は我等が永久の故郷、いざいざ御一同進みませう』
と先に立つて急坂を南に下る。一同は一歩一歩力を入れながらアブト式流に坂を下り行く。雲表に屹立せる彼方の遠き高山の山頂に何時の間にやら達してゐた。三夫婦は山頂に衝立ち天津祝詞を奏上するや、山を包みし五色の雲は扉を開きし如く、颯と左右に開けた。目の届かぬ許りの青野原、白き、赤き、青き、黄色き、紫色の三重五重十重二十重の塔は、眼下の青野が原の部落の中に幾百ともなく屹立し、其絶景譬ふるに物なく、遠く目を放てば紺碧の波を湛へたる大海原、浪静に純白の真帆片帆、右往左往に走り行くさま、画伯の手に成れる一幅の大画帳の如く、時の移るも忘れて一同は絶景を見守つて居た。此時山頂の麗しき祠の中より、黄金の扉を開き現はれ出でたる一柱の女神、二人の侍女を伴ひ悠々と六人が前に現はれて、
『妾は木花姫なり、汝等は忠勇義烈至仁至愛の神人なれば、汝が永久に住むべき国は此聖域なり。併しながら未だ現界に於て勤むべき事あれば、再び現界に引き返されよ。今後は心を緩ませ玉ふな。体主霊従の魔風に誘はれなば、再び此処に来る事能はざるべし、今より速かに現界に帰り給へ』
と優美にして荘重なる言葉を残し、黄金の扉を閉ぢて、侍女と共に又もや祠の中に姿を隠したまうた。
 忽ち四辺暗黒となり、身体に寒冷を覚ゆると見る間に甦り見れば、高国別は岩窟内の深き井戸の底に倒れ居たるなり。
『アヽ夢であつたか、併し乍ら吾を活津彦根と仰せられしは不審の一つ、吾身の守護神を知らずして憖に審神を行ひしため、大神の御仁慈によつて教へたまひしか、アヽ有難し有難し』
と、合掌し声も涼しく天津祝詞を奏上したりける。フト空を仰ぎ見れば窟の周囲に麗しき二男三女の夢に見し神人が立ち現はれ、井底を覗きて何事か囁き居るあり。高国別は夢に夢見る心地して、又もや両手を組み心の縺れを手繰り居る。稍ありて高国別は井底より空を仰ぎながら、
『もしもし亀彦様、梅彦様、その他三人の女性様、私は高国別で御座います。人の命を救はむために、地中の岩窟に忍び入り、過つてかかる古井戸の底に陥ちました。何とかして私をお救ひ下さいますまいか』
『ヤア噂に聞き及ぶ高国別様か、それは嘸お困りでせう、何とか一つ工夫をしてお救ひ申さねばなりませぬ。併し乍ら斯る岩窟の中にある古井戸には階段があるものです。この亀彦も一度フサの国の醜の岩窟の古井戸に陥ち込んだ時、如何はせむかと心を痛めましたが、フト傍を見れば階段が刻まれてありました。よくよく調べなさいませ』
『有難う御座います、少しの手がかりも足がかりも御座いませぬ。恰度竹筒の中に落ちたやうなものです』
 梅彦は、
『アヽ、困つたな、吾々も一度古井戸に陥ちた経験があるが、階段がないとは意外だ、何とか工夫をせねばなりますまい。亀彦サン、貴方の褌と帯を外して下さい、吾々も帯と褌とを解きます。これを繋いで井底に釣り下しませう』
と云ひつつ、くるくると帯を解き、褌を外し手早く繋いだ。亀彦も同じく帯と褌を取り外し、手早く繋ぎ合せ井戸に下げ降して見た。
 梅彦は、
『モシモシ、高国別様、この帯にお掴まり下さい』
『イヤ、有難う、折角の思召ながらどうも届きませぬ。加ふるに怪しき臭気が致します』
 梅彦は、
『アヽ、何と云ふまわしの悪い事だらう。エヽ仕方がない、三人のお女中、貴女方の帯を解いて下さいませ』
愛子姫『ハイ、如何致しませう。菊子さま、幾代さま』
二女『さうですなア、吾裸体になるのは恥かしいワ』
梅彦『恥かしいの何のと云つてゐる所か、人命に係はる大事だ。サアサアコンナ時には恥も糞もあつたものでない、帯をお解きなさい』
愛子姫『それでも余り残酷ですワ』
亀彦『これこれ愛子姫さま、何を仰有るのだ、貴女こそ残酷だ。高国別様が危急存亡の場合、サアサア、キリキリとお解きなさい。もしもし高国別さま、何うも仕方がありませぬ、吾々が帯を解き褌を解き、三人の女神の帯を繋ぎ合して、今垂下致しますからね、少々臭くても御辛抱下さいませ、女の匂ひと云ふものは却つて床しいものですよ、アハヽヽヽ』
高国別『夫計りは御免蒙り度い、ヤア神様の宿り給ふ頭の上で、ソンナ物をべらべらさして貰つては有難迷惑だ。どうぞ早く手繰り上げて下さい』
亀彦『エヽ、無理計り云ふ神様だな、此場に及んでどうも仕方がありませぬワ。些とは鼻を摘んで御辛抱なさいませ。異性の匂ひは却つてよいものですよ』
高国別『アハヽヽヽ、ヤア皆さま、御心配をかけました。何うやら梯子が刻まれてあるやうに思ひます』
亀彦『アハヽヽヽ、矢張り三五教の宣伝使は洒落が上手だなア、此処迄洒落ると、洒落も徹底して面白い。もしもし三人の姫御前、御安心なさいませ、帯を解くのだけは赦して上げませう』
三女『ホヽヽヽ、誰が帯ども解きますものか、帯を解く時間にはも些と早いぢやありませぬか、ホヽヽヽヽ』
亀彦『また貴女方も洒落るのか、モシモシ高国別さま、早くお上りなさらぬか』
高国別『アヽ矢張り間違ひだつた、些とも手係りがありませぬワ。誠に済みませぬが私の一命を助けると思召し、どうぞお慈悲に三人の女性様の帯を解いて、繋ぎ合して助けて下さい、お願ひぢやお願ひぢや』
亀彦『エヽ、何だ矢張り虚言だつたか、これは仕方がない。サアサア三人の女性様、ちつと時間は早いが夫の云ふ事だ、女房が聞かぬと云ふ事があるものか、早く解いたり、解いたり。エヽ何、恥かしいと。何が恥かしい、水も漏らさぬ夫婦仲ぢやないか』
菊子姫『それでも姉さまに恥かしいワ』
亀彦『何、姉さまのお婿さまを助けるのだ。ソンナ遠慮が要るものか』
愛子姫『ホヽヽヽヽ、エヽ仕方がありませぬ、妾が率先して模範を示しませう』
と帯を解きかける。井戸の底より陽気な声で、鼻歌を謡ひながら、トン、トンと上つて来る。
高国別『ヤア皆様、種々と御心配をかけました。お蔭で梯子段が俄に出来ました。兎も角咄嗟の場合急造したものですから、実にやにこいものです。アハヽヽヽ』
梅、亀『何だ、裸体になり損をしたワイ』
高国別『人間は生れ赤子にならねば神様の御神徳は頂けませぬよ、赤子の時には裸体で生れたのだもの、アハヽヽヽ』
 高国別は拍手を打ち合掌しながら天津祝詞を奏上し始めた。一同は声を揃へて合唱する、其声音朗々としてさしもに広き岩窟に響き渡り、天地開明の気分漂ふ。
愛子姫『貴方は父の許せし吾夫、活津彦根の神様、ようマア無事で居て下さいました』
高国別『ヤア合点の行かぬ事もあればあるものだなア、お前が珍の峠でお目にかかつた山の神さまだなア。ヤア有難い有難い、三夫婦揃うた瑞霊の夫婦連れ、二三が六人手を携へて睦まじく、此処で結婚の式を挙げませうか』
亀彦『結婚の式を挙げやうと云つた所が、此様な岩窟の中、何うする事も出来ないぢやありませぬか』
高国別『イヤ、御霊と御霊の結婚、心の盃の取り替はし、千代も八千代も末長く、睦びて進む六人連、栄の花を三夫婦が、天地人揃うて岩窟の探険、三つの御霊の父大神の御引合せ、アヽ有難し有難し、目出度し目出度し、一度に開く梅彦さま、万代祝ふ亀彦さま、嬉しき便りを菊子姫、幾代変らぬ幾代姫、神の恵の愛子姫、睦び合うたる三夫婦が、身魂の行末こそは楽しけれ』
といそいそ神歌を謡ひながら、又もや奥へ奥へと進み行く。
(大正一一・四・三 旧三・七 加藤明子録)
(昭和一〇・三・二三 於花蓮港分院 王仁校正)
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