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文献名1霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
文献名2第1篇 神軍霊馬よみ(新仮名遣い)しんぐんれいば
文献名3第2章 暗夜の邂逅〔592〕よみ(新仮名遣い)やみよのかいこう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-27 16:14:48
あらすじ
英子姫と悦子姫は、バラモンの捕り手から逃げて由良の港の手前の山道までやってきた。そこで偶然、亀彦の宣伝使と再会する。

その場には源洲、金洲という追いはぎがいた。亀彦は追いはぎたちを追い払い、三人はこれまでの旅の様子や神素盞嗚大神の行方について、情報を交換し合う。

そこへ再びバラモンの捕り手たちが大人数でやってきた。三人は奮戦して血路を開く。バラモンの捕り手たちはその勢いに辟易して逃げ散っていく。亀彦は西へ、英子姫と悦子姫は東へと走り去る。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月05日(旧03月09日) 口述場所 筆録者藤津久子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月25日 愛善世界社版29頁 八幡書店版第3輯 411頁 修補版 校定版30頁 普及版12頁 初版 ページ備考
OBC rm1602
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本文  大江颪の凩に  吹かれて進む英子姫
 神に任せた身魂には  如何になろとも悦子姫
 爪先上りの山道を  転つまろびつ四辺に心を配りつつ
 鬼や大蛇や曲津神  二人の乙女に怖れてや
 谷の彼方にコンコンと  響く狐の叫び声
 人も出て来ん鬼も来ん  こん輪奈落の底迄も
 探し索めて父上に  逢はずに此儘置くべきか
 運ぶ足並ゆらゆらと  由良の港の手前迄
 辿り来れる折柄に  闇を通して鳴り響く
 声も涼しき宣伝歌  道の傍の物影に
 二人は立ち寄り身を忍び  何人ならむと窺へば
 夜目には確と分らねど  顕恩郷にて別れたる
 印象深き宣伝使  万代祝ふ亀彦が
 神素盞嗚の行衛をば  尋ねて来たる益良夫の
 凛々しき姿の面影に  飛び立つ許り英子姫
 折も悦子の姫二人  闇の中より淑やかに
 かくる言葉も震ひ声。
英子姫『モシモシ旅の御方、突然乍ら物を御尋ねいたします。妾は女の二人連、様子あつて遠き国より、此自転倒島の中心地にやうやう渡り着いたる、孱弱き女で御座います。貴方は三五教の宣伝使では御座いませぬか』
 暗がりより突然聞ゆる女の声に亀彦は、不審の眉を顰め乍らツト立ち止り、暫らく無言の儘、坂道に双手を組んで首を左に傾けながら、糸の縺れをとく心地して、古き記憶をたぐつてゐる。たぐれどたぐれど容易にとけぬ胸の縺れ、百条千条八千条の辻に佇み行手に迷ふが如くなり。
 暗がりより二人の女の声として、
『モシ旅の御方、御返事なきは妾が知人に在さざりしか、但は女盗賊の出現と御思召しての御見違ひか、妾は決して怪しき女には候はず、少し以前、竜灯松の麓に於て怪しき人影に出会ひ、漸く此処に遁れ来りし者で御座います。御差支無くば御名を名告せ給へ』
亀彦『何となく聞き覚えのある御声なれど、少しく心の沈む事有之候へば、容易に記憶の浮かび出で申さず、願はくは御二人のネームを名告せ給へ』
 暗がりの中より頓狂な声、
金州『やア何ぢや、道の真中に立ちはだかりやがつて、ネームぢやの、ねるだのと怪体な代物だ。オイ源州、一寸起きぬかい。怪体な奴が来居つたぢやないか』
源州『ウウ、ムニヤムニヤムニヤムニヤ』
金州『オイ源州、大変だぞ』
源州『ウヽヽヽウン何だ、喧しい哩。金州の奴、葬礼の家へ出会して沢山と御馳走を頂き掛つた最中に揺り起こしやがつて、さア罰金だ、御馳走の損害賠償を請求するぞ。アヽ眠い眠い』
金州『あちらにも眠い、こちらにも眠い、やア一向訳が分らぬ様になつて来た哩。如何に夢の浮世だと云つても、大江山に鬼雲彦と云ふ変な奴が現はれた世の中だから、夜中は化物が現はれて、天を枕に縦に寝る奴が出て来たのかな。オイ源州、起ぬかい、幸ひ夜半の事であり、対方は只一人、片一方は壁の様な絶壁だ。片一方は断崖、おまけに荒波猛る海と来てるのだから、斯う云う時に一つ追剥の練習でもやらねば、やる時が無いぞ。サア起きた起きた。コラコラ、ネーム、貴様の持物を綺麗薩張と此場で脱いて金さまに呉れないか』
亀彦『生憎長の道中で懐中欠乏、金サンに縁が薄い哩。アハヽヽヽ』
二人の女『オホヽヽヽ、オホヽヽヽ』
 源州は、ヌツと起き上り乍ら、
『そら薩張源助だ、何だ、男の声かと思へば忽ち変じて女の声、曲神の奴、味好うやり居る哩』
亀彦『源、金は持つて居らぬ。其代りに拳骨を呉れてやらうかい』
(拳骨といへば此地方では、固い握り飯の代名詞である)
源州『ヤアそりや気がきいて居る。有難い、いくらでも遠慮は致さぬ。一体いくら持つて居るか、ヤイ金州、貴様も金の代りに拳骨でも沢山と頂戴したらどうだ』
金州『よう、そりや有難いな、モシモシ旅の御方、本当に下さいますか。貰ふのは私は結構だが、貴方のお腹が空きませう。二つ三つ残して、残は下さいませ』
亀彦『やア俺の拳骨は無尽蔵だ。望みとあらば百でも千でも一万でも呉れてやらう。さア顔を出せ、頬ぺたを向け、近く寄れ、何だか薄暗くて見当がとれない様だ』
(この地方にては間食を、けんとうといふ)
源州『見当が之でやつと取れました。成るべくは手に下さいな。頬ぺたに貰ふのは、口に近うて好い様なものの、若しも転げて落ちたら勿体ないからな』
 亀彦は、声する方に向つて拳骨を固め、
亀彦『サア盗賊奴、これを喰へ』
と滅多矢鱈に乱打すれば、
源州『アイタヽヽヽ、之は又大変な固い拳骨で御座いますナ。暗がりで何処へ落ちよつたか薩張分らぬ様になつて了つた。同じ貰ふのならソツと手に乗せて下さると宜いになア』
亀彦『不届な泥坊奴、グヅグヅ吐すと踏み蹂り握り潰してやらうか』
源州『アヽ勿体ない、目が潰れますぜ。結構な握り飯を踏み蹂つたり、握り潰したりすると、百姓が汗水垂らして、やつと作つた其米を、そう粗末にするものぢやありませぬで』
英子姫『ホヽヽヽヽ』
悦子姫『ホヽヽヽヽ』
金州『イヤ何だ、此奴化物だな。声を三つにも使分けしやがつて、男になつたり女になつたり、莫迦にするない。大方団子石を、握り飯だナンテ吐して、俺に打付けよつたのだな、道理で痛いと思つた』
亀彦『アハヽヽヽヽ』
二女『ホヽヽヽヽ』
金州『ヤア此奴は愈バの字にケの字だ。オイ源州、命あつての物種だ、逃げろ逃げろ』
と暗がりの中を横になつて、団子を転がした様に転げ逃げ行く。
亀彦『アハヽヽヽ、妙な乞食が居つたものだ、イヤ併し乍ら是から先は危険区域だ、気を付けねばなるまい。モシモシお女中さま、貴女は何れの方で御座るかナ』
英子姫『是非に及ばぬ、申上げませう。妾は素盞嗚尊の娘英子姫で御座います。一人は召使の悦子姫で御座います』
亀彦『如何にも紛ふ方なき其御声、これはこれは暗夜の事とて失礼を致しました。私は御存じの亀彦で御座います』
英子姫『ソンナラ貴方は、妹菊子姫の夫、思はぬ処でお目に掛り大いに力を得ました。して又こちらへ御出でになつたのは、如何いふお考へで』
亀彦『申上げ難い事乍ら、御父上様は高天原の事変より、千座の置戸を負はせ給ひ、世界漂泊の旅にお出ましになりました。私は斎苑の山の頂に於て、御父上の御消息を知り、自転倒島にお下り遊ばしたと聞いた故、はるばると荒海を渡り、漸く由良の港に着いて御所在を尋ねむものと此処迄参りました途中で御座います。噂に聞けば、父大神様は大江山の魔神の捕手に御捕はれの御身の上、併し乍ら亀彦が参りました以上は必ず御心配なさいますな。屹度救ひ出して御覧に入れます』
 此時傍の木の茂みの中より、二三十人の男が三人の前に立ち現はれ、
『ヤア其方は素盞嗚尊の一味の奴ばら、最前からの汝等三人が囁き話、木蔭に忍び残らず聞いた。さア此上は搦め取つて大江山の砦に連れ帰らむ、覚悟を致せ』
と闇に閃く氷の刃、四方八方より突き掛る。三人は両刃の短刀をヒラリと抜き放ち、
『何猪口才な、木ツ端武者』
と獅子奮迅の勢にて防ぎ戦ふ。数十人の捕手はドツと寄せては、又もやドツと逃げ、寄せては返す磯の波、四辺に響く剣戟の音。
亀彦『斯かる悪逆無道の魔神に対しては、善言美詞の言霊を以て打ち向ふは勿体なし、懲しめの為、斬つて斬つて斬り捨てむ』
と阿修羅王の如く暴れ狂ふ。敵は二つに別れて、雲を霞と逃げて行く。
 亀彦は坂を下つて西へ西へと走り行く。一方英子姫、悦子姫は攻め来る敵に向つて華々しく戦へば流石の魔神も敵しかね、東を指して駆け出したり。二人は一生懸命後を追ひ行きぬ。アヽ此結果はどうなるであらう。
(大正一一・四・五 旧三・九 藤津久子録)
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