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文献名1霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
文献名2第1篇 神軍霊馬よみ(新仮名遣い)しんぐんれいば
文献名3第3章 門番の夢〔593〕よみ(新仮名遣い)もんばんのゆめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-29 17:50:03
あらすじ
亀彦は追っ手を切り立てて追い詰める。追い立てられた捕り手は、亀彦に英子姫・悦子姫のことを思い出させて窮地を脱する。亀彦は姫らの安否を気遣って、元来た道を走って戻っていく。

一方、英子姫と悦子姫は、由良の港の秋山彦の館の門前にたたずんでいた。しかし門番によって見つけられ、館の中に連れ込まれてしまう。

そこへ亀彦が追いついて、門を叩き始める。門番の銀公と加米公は、亀彦とおかしな問答を繰り広げる。

門番が門を開けると、亀彦は姫の行方を追って中にどんどん入ろうとする。二人の門番は亀彦の足に食らいついて止めようとするが、亀彦は二人を引きずりながら館に近づいていく。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月05日(旧03月09日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月25日 愛善世界社版38頁 八幡書店版第3輯 415頁 修補版 校定版39頁 普及版16頁 初版 ページ備考
OBC rm1603
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本文  夜は深々と更け渡る  水さへ音なき丑の刻
 波を照して一塊の  巨大な光嚠々と
 呻りを立てて竜灯の  松を目蒐けて走り来る。
 火光は一旦松の周囲を廻転し、梢に光皎々と留まり輝きぬ。樹下に倒れた五人の男は、吃驚仰天目を覚まし、アフンと許り空を眺め鰐口開けて、天から降つた牡丹餅を頂く様な為体なり。棚からさへも牡丹餅は容易に落ちて来ないのに、木から落ちたる猿の如く、老木の下に腰を抜かし、夜の明け行くを松の下、可笑しかりける次第なり。
 東の方より数十人の消魂ましき足音するに眼を転じて眺むれば、東雲近き薄明り、鬼雲彦の手下の者共、一人の男に追はれつつ、生命からがら逃げ来る。腰を抜かした五人連に、先に立ちたる四五人は、足引つかけて顛倒し、次から次へ出て来る奴は折り重なつて、相互怨みの無い様に、交際の良い社会主義、民衆運動の花咲きて、転んで土食ふ奴ばかりなり。
亀彦『ヤア其の方等は大江山に本拠を構ふる鬼雲彦の乾児の奴輩、片つ端から撫で切りに致し呉れむ、覚悟をせよ』
と両刃の剣を逆手に持ち真向上段に振り翳したり。
石熊『ヤイ、其方は肝腎の二人の娘を如何致した、コンナ処へ踏ん迷うて来る処ぢやあるまいぞ、二人の女を早く助けてやらぬか、そしたら吾々もお蔭で助かる哩、アハヽヽヽ』
亀彦『オー、さうじや、余り勢に乗じて英子姫様を念頭より遺失して仕舞つた、此奴堪らぬ。愚図々々して居れば磨滅の厄に遭ひ給ふやも図り難い、オイ敵の奴輩、木端武者能く注意して呉れた、汝の手柄に免じて今日は之にて許してやらう』
と云ふより早く踵を返し、矢を射る如くもと来し道に引き返す。
石熊『オイ、鬼虎、熊鷹の阿兄、何うだ、此方の文珠の智慧、貴様の様な天の橋立ない智慧の持主では仕方がない、斯んな時に、ちつとも間に合はぬ。当意即妙、智謀絶倫、文珠菩薩も石熊親分の無量智には尻はし居つてスタコラ、ヨイヤサと御遁走、持つべきものは知識なりけりだ、アハヽヽヽ、オホヽヽヽ、エヘヽヽヽ』
 不思議なる哉、此樹下に来たものは一人も残らず一蓮托生、腰が薩張り抜けて仕舞つた。一同の魔神は叶はぬときの神頼み、悪にも三分の理屈がある、神の救ひを求めむと十能の様な大きい手を合し、
阿耨多羅三藐三菩提南無与仏有縁与仏、有縁仏法僧、縁常楽我長、朝念観世音、暮念観世音、念々従信起、念々不離心』
と手と口とは自由権を許されて、甲乙の区別もなく平等に言霊を連続発射して居る。
 話変つて英子姫は器量も愛想も悦子姫、由良の港の国司秋山彦の門前に佇み乍ら夜の明け行くを待ち居たりしが、忽ちガラリと開いた表門、門番は二人の姿を見るより顔色を変へて一散走り、彼方を指して隠れ行く。忽ち四五の荒男、十手打ち振り打ち振りつ、二人の前に塞がりて有無を言はせず手とり足とり、口には嵌ます猿轡、何と応答もなくばかり、身を藻掻けども容赦なく、竈の下の灰猫が、小鼠を喰はへて行く様に、二人を奥へ担ぎ入る。
    ○
 又もや続いて一人の男、此門前に現はれて、割るる許りに戸を敲き、『開け開け』と呶鳴り居る。門番は不性不性に、
『アヽア今日は怪つ体な日ぢや、朝つぱらから門を開けるなり、弁才天の様な別嬪が来よつて、ヤレしてやつたりと喜ぶ間もなく館の御大将、有無を言はせず奥へ連れて行つて仕舞つた。アヽ之を思へば大将になりたいものだな。何処の唐変木か知らぬが怪つ体な声を出しよつて、腹が立つ程門を敲きよる、エー仕方がない、之も門番の職務だ。朝つぱらから酒に喰ひ酔うて呶鳴つて居よるが、まだちつと位瓢箪に残して居よるかも知れぬ、それでも奪つて埋め合せをやらうかい。オイ加米公、何を愚図々々して居るのだ、貴様も可い加減に起きぬかい、それだから夜遊びをするなと言ふのだ。夜遊びするのなら人に起こされぬ様に、起きる時分には起きて勤めるのだぞ』
 門を敲く声、益々猛烈になつて来た。
銀公『オイ、加米公、早う起きて貴様開けてやれ』
 亀彦、門前にて、
『ヤア、何だ、此奴は怪しいぞ、コンナ遠国に吾々の名を知つてる奴は無い筈だが、何は兎もあれ、一つ掛合うて見よう……………………亀公は門外に待つて居るのだ、勝手に開けと言うた所で、其方から開けて呉れなくちや這入れないワイ』
銀公『これや加米の奴、上役に向つて何と言ふ無礼な事を申す、俺は命令権を有つて居るのだ、貴様は開ける役だ、開けて呉れとは何だ、何の為めに結構な扶持を頂いて居るのだい』
加米公『アーン、アンアンアン、さう叱つて呉れないやい。俺は何もまだ一言も言つては居ないワ』
銀公『それでも今、加米だと言つたぢやないか、俺の耳はまだ隠居はして居らぬぞ』
 加米公は、門の閂の前に進み寄り、
『アヽア、銀公の大将、無茶ばかり云ひよる、もの言へば唇寒し秋の風、ものも言はぬのに言うたと云うて因縁をつけられ、本当に馬鹿らしい哩、俺の心の中を開いて見せてやり度いもんだな』
 外より亀彦、
『すつた、もんだ吐さず、亀公さまの御出でだ、早く開けぬか』
銀公『貴様はまだ此銀公司に命令をするのか、「開けて見たいもんだな」ナンテ当然だ、早く門を開けてやらぬかい』
と拳骨を固めて頭を三つ四つポカポカと喰はしたり。
『アイタヽ、アイタ アイタ アイタ、あかんもんだ。コンナ奴に三つ四つ殴られて、でけもんが出来るとは余つ程、引き合はぬもんだな』
銀公『あいたあいたと吐すがまだ門は開いて居らぬぢやないか、弱いもんだとは、それや何を吐す、御主人様が心魂を錬つて選りに選つて立派な材木で拵へになつた、コンナ綺麗な表門が何で弱いのだい』
と酒の酔ひに舌も廻らずぐぜつて居る。加米公は泣き泣き閂を外し、
『さア、何処のお方か存じませぬが、愚図々々致さずとトツトと這入りやがれ』
亀彦『アハヽヽヽ、之は之は門番どの、朝早くからお邪魔を致しました、貴方は初めは非常に御丁寧で後ほどお言葉が荒くなりますなア』
『きまつた事だい、先の半分は加米の本守護神だ、後から言うた奴は副守護神が言つたのだ、閂もんのかん懸りだよ』
亀彦『アハヽヽヽ、お前も矢張カメサンと言ふのだな、同じ名が門の内と外とにあつて大変に面倒臭いワ』
『お前は亀さまだから千年も万年も門の外で長立ちをさして上げやうと思つたが、此頃は世界中不景気風が吹き廻つて、物価下落で俺も投売をする考へで安く開いてやつたのだ、世の中は能くも行き詰つたもんぢやなア』
亀彦『アハヽヽヽ、貴様は余つ程、能く洒落るもんだなア。問答も、もう之位で廃めて置かう、此処へ二人の女は出て来なかつたか』
『ヤアお前はあの女のこれだなア』
と親指をニユツと出して見せる。
『それや何だ、指ぢやないか』
加米『何だかゆびありげな汝の顔付、ゆびにも忘れぬれこの後を何しようと思うて来たのだらう。二人の女は、とつくの昔に何々が何々して今頃は何々の何々ぢや、俺達も何々し度いと思つて居つたのに何々が来よつて何々して何々しよつたもんだから薩張駄目だよ』
『貴様の言ふ事は何が何ぢややら薩張り訳が分らぬぢやないか、も少し、はつきりと打明けて言はないか』
銀公『やい、カメカメの両人、何々が聞きたければ何々を出せ、さうしたら俺が何々に何々して何々の何々を何々してやらう。ナント言つても銀行いや銀公が肝心だ』
亀彦『益々分らぬ奴だナ、エー無理もない、門番位に尋ね様とするのが此方の不覚だ』
と奥へ進まむとする。
銀公『何、深く、さう深く進んでは無礼だぞ。暫時待つて、俺が何々に会うて何々の様子を何々して来てやらう、地獄の沙汰も何々次第だからノウ』
と手を重ねて前に突き出す。
亀彦『ハヽヽヽヽ、何処迄も物質主義だな、黄金万能主義の悪風は神聖なる自転倒島まで吹き荒むで居るか、吁、世も終りじや、尾張大根だ。形ばつかり立派でも味もしやしやりもない、水臭い世の中になつたものだ哩』
 亀彦は委細構はず奥へ進み行かむとする。二人は亀彦の両足にグツと喰ひ付き、
『何々する迄通す事罷りならぬ』
と噛み付く。亀彦は二人の男に足を捉へられ乍ら、ノソリノソリと二人を小付けにして奥を目蒐けて進み行く。
(大正一一・四・五 旧三・九 北村隆光録)
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