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文献名1霊界物語 第16巻 如意宝珠 卯の巻
文献名2第2篇 深遠微妙よみ(新仮名遣い)しんえんびみょう
文献名3第12章 捜索隊〔602〕よみ(新仮名遣い)そうさくたい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-02-04 18:46:53
あらすじ
秋山彦は、ウラナイ教宣伝使と聞くと、追い返すように紅葉姫に言いつけた。紅葉姫は高姫らを待たせていた部屋に戻ると、二人はすでにいなかった。そして、宝庫の鍵が無くなっているのに気がついた。

秋山彦は邸内を捜索させるが、二人の姿はなく、鍵もみつからない。そこへ表に騒ぎが聞こえた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月15日(旧03月19日) 口述場所 筆録者河津雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月25日 愛善世界社版150頁 八幡書店版第3輯 455頁 修補版 校定版154頁 普及版67頁 初版 ページ備考
OBC rm1612
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本文  由良の港の人子の司秋山彦は、見晴らしよき奥の一間に、数多の家子郎党を集め、折柄昇る三五の月を眺めて、大江山の鬼雲彦退治の祝宴を挙げ居たり。紺碧の青空には一点の雲影も無く、星は疎に、月は清く涼しく、銀鏡を懸けたるが如し。
秋山彦『アヽ佳い月だ、月々に月てふ月は多けれど、月見る月は今日の夜の月、といふ仲秋の月よりも、麗しい好い心持だ、悪魔退治の嬉しさにみろく様のお顔もにこにことしてござる、かかる麗しき尊き月を眺めて、月見の宴を張るは実に勿体ないやうだ。然し乍らこれがみろく神の広大無辺の御慈光といふものだ、貴賤老幼の区別なく、月を眺めて快感を覚えない者はない、何程日輪様が立派だと言つても、昼の最中に日輪様を見て酒を飲む者はない、また日輪見物をするといふ事は到底出来ない、中天の太陽を暫く見詰めて居れば忽ち目が眩みてしまう、これを見ても月日の働きの区別は歴然たるものだ、素盞嗚大神様は月の御魂と承はる、実に尊い麗しい仁慈に富めるお顔、紅葉姫は何処にゐるか、この立派なお姿を拝ましたいものだ』
と自ら座を起ち、玄関の次の間より、
『紅葉姫々々々』
と呼ばはりける。紅葉姫は夫の声に、二人の来客を待たせ置き、月見の席に現はれ、秋山彦に向ひ、ウラナイ教の宣伝使の来訪を告げたるに、秋山彦は顔色忽ち変り、
『ナニ、ウラナイ教の宣伝使の来訪とナ、夫こそ大変、体よく挨拶を致して無事に帰すがよからう。イヤ紅葉姫、汝は一刻も早く玄関の客に対しお断りを申せ』
 紅葉姫は、二人の宣伝使と秋山彦の板挟となつた心地し、漸く玄関に立現はれ見れば、二人の影もなし。ハテ訝かしと四辺を見廻す途端に額の裏に匿しありし玉鍵の房の見えざるに気がつき、驚き額裏を検め見れば、這は如何に、最前までここに納ひ置きし冠島、沓島の宝庫の鍵は、何者かに盗まれてゐる。紅葉姫は驚き慌て、奥殿に入つて、夫秋山彦に、玉鍵の紛失せし事を怖る怖る告げたるに、秋山彦は、
『すわこそ大変、二人の宣伝使の所為にはあらざるか、ヤアヤア者共、酒宴どころではない、女共は境内隈なく捜索せよ、男共は門外に駆け出し、宣伝使の所在を詮ね鍵の有無を調べ来れ』
と下知すれば、数多の男女は門の内と外とに手配りしながら、鍵の行方を捜索する事となりぬ。秋山彦は門番の銀公、加米公を傍近く招き、
『其方は表門を守る身であり乍ら、二人の男女の脱出するを気づかざりしか、様子を聞かせよ』
銀公『吾々両人はお役目大切と山門の仁王の如く、厳しく眼を見張り警護致して居れば、鼠の出入さへも委しく存じて居ります。然るに最前入り来りし男女の二人は、まだ表門をくぐりませぬ。大方邸内に潜伏致して居りませうから、篤と御詮議下されませ』
秋山彦『裏門は如何致した』
 加米公は頭を掻き乍ら、
『ハイ其裏門は根ツから葉ツから存じませぬ』
秋山彦『門番と申せば、表ばかりでない、裏門も矢張門のうちだ、それがために二人の門番が置いてあるのではないか、大方裏門より抜け出たのであらう』
加米公『表門は何でも彼でも這入るのが商売、裏門は何でも彼でも皆粕の出るところ』
秋山彦『馬鹿、早く裏門の方面を捜索致せ』
と血相変へて呶鳴り入る。二人は裏門口に差しかかりけるに、何物か黒きものが門の入口に落ちゐたり、手早く拾ひ上げ眺むれば、玉鍵の房なりき。
銀公『ヤア、これさへあれば、もう大丈夫だ、スンデのことで二人の賊を取り逃がし、免職を喰うところだつた、これで漸く申し訳が立つ』
と裏門を固く閉め、意気揚々として、秋山彦の居間に進み入りぬ。秋山彦は脇足に凭れ眼を塞ぎ、深き思案に沈みゐる。銀公は懐に玉鍵の房を入れ、少しく其端を見せ乍ら、
『旦那様、御心配なされますな、慥に賊は逃げ去りましたが、彼が奪ひ取つた品物は裏門口に遺失して居りました。此銀公は月夜にも拘はらず目敏く悟つて拾ひ上げ、今ここに持参いたしてございます、サアお検め下されませ』
と元気さうに言ふ。秋山彦は顔を上げ眼を開き、満面に笑を湛へ乍ら、
『ナニ、玉鍵が遺失してあつたか、それは重畳、出来した出来した、サア早く、吾前に出せよ』
 銀公は指の先で懐の房を一寸指さし、
『ヘヽヽヽ、真ツこの通り、立派な房でござります、総絹で、ぼとぼとするほど重たい麗しい光沢、これさへあれば、お騒ぎ召さるにも及びますまい』
秋山彦『それは有難い、吾前に持ち来れ』
 銀公は肩を聳やかせ乍ら、
『サア、これでございます、よくよくお検め下さいませ』
と勿体振つて、前に突き出したり。
秋山彦『ヤア、これは玉鍵の房だ、鍵は何処にあるか』
銀公『旦那様、彼のやうな錆た鍵はどうでも宜しい、ご心配なされますな、鉄の一片もあれば、直に鍛ち直して上げませう。立派な此の房が手に入るからは、あのやうな汚いものにお構ひ遊ばすな』
秋山彦『ヤア失敗つた、これや斯うしては居られぬ哩、ヤア銀公、加米公、船の用意を致せ』
『委細承知仕りました』
と此場を立出でる。紅葉姫は室内隈なく捜索し、鍵の所在の知れざるに、当惑の息を吐き乍ら、此場に現れ来り、
『旦那様、如何致しませう、素盞嗚大神様、国武彦命様に、申訳がございませぬ』
秋山彦『今となつて、繰言いつた所で追つ付かない、彼等は冠島沓島に船にて渡りしに相違ない、一時も早く船の用意をなし、後追かけて鍵を取返さねばなるまい』
 斯る所へ表の方再もや俄に騒がしくなり来たりぬ。夫婦は互に顔を見合せ、何事ならむと耳を澄して表の様子を聴き入りにける。
(大正一一・四・一五 旧三・一九 河津雄録)
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