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文献名1霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
文献名2第1篇 雪山幽谷よみ(新仮名遣い)せつざんゆうこく
文献名3第5章 誘惑婆〔616〕よみ(新仮名遣い)ゆうわくばば
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-02-13 21:24:01
あらすじ
平助、お楢、お節は三人連れになって山道を進んで行く。すると、行く手をさえぎる婆があった。

婆は真名井ケ原の豊国姫は悪神だと罵り、自分の話を聞くようにと一行を引き止める。そして素盞嗚尊の悪口を言い出す。これはウラナイ教の黒姫であった。

そこへ向こうから宣伝歌を歌いながら音彦と青彦がやって来た。お節も声を合わせて宣伝歌を歌うと、黒姫は傍らの茂みの中へ逃げてしまった。

二人は黒姫が出現したことをお節から聞いてあきれている。二人は、悦子姫の命で、平助一行を迎えにやってきたのであった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月21日(旧03月25日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年1月10日 愛善世界社版70頁 八幡書店版第3輯 549頁 修補版 校定版72頁 普及版31頁 初版 ページ備考
OBC rm1705
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本文  平助は、お楢、お節と共に崎嶇たる山路を心細げにとぼとぼと進み行く。春日に照らされて日向辺の坂道は雪解け、山の肌を現はして居る。斯かる処へ蓑笠着た一人の婆、若い娘を二人伴ひ、行手に立ち塞がり、
婆『これはこれは、お爺さま、お婆アさま、青白い痩せた娘を連れて何処へ行くのぢや』
平助『ハイハイ、お前さまは何処のお方か知らぬが、私は真名井ケ原の、今度現はれなさつた結構な神様に、お礼詣りに行くのぢや、どうぞ其処を退いて下され』
婆『お前さま、真名井ケ原へ御礼詣りに行くのぢやと云うたな、アンナ処へ行つて一体何をするのぢや、あの神は悪神ぢやぞ』
平助『悪神でも何でも構うて下さるな、信仰は自由だ、私の心で私が拝むのぢや、何処の婆アか知らぬけれど、人の信仰を落ささうと思うて、コンナ山の中へ出しや張つて、よい物好きもあればあるものぢやワイ』
婆『はてさて困つた人達だ、可憐さうなものだナア。良薬は口に苦し、利益になる事を云へば嫌はれる世の中だ、お前さま、これから先に行かうものなら命がないぞへ、命を捨てても信神をするのかい』
平助『誰人が命まで放かして信神する物好があるものか、長命がしたさにお参詣するのぢや。真名井ケ原の豊国姫の神様と云つたら、それはそれは結構な、命の神様ぢや。お前も一つ詣つてお蔭を頂いてはどうだい、何時迄生て居ても生満足せぬ此世の中だ。サアサア往かう往かう』
婆『マアマアお爺イさま、一服しなさい、此処を少し横へ寄ると小さい家がある、其処が私の修業場ぢや、お前達のやうな瑞の霊に呆けて出てくる亡者を済度しやうと思うて、俄に修行場を拵へたのだ、喰はず嫌ひは信用にならぬものぢや、マア兎に角この婆さまに随いて御出なさい』
平助『オイお楢、何うせう、この婆さまの云ふ通り、大分足も疲れた。一寸一服して話を聞くだけ聞いて見ようかなア』
お楢『お爺イさま、お前はそれだから困ると云ふのぢや、直に人の口車に乗つて、ソンナ事で信神が出来るものか、私が何時も意見すると、仕様のない婆アの老婆心で吐す事は聞く耳持たぬと、二つ目には頑張りなさるが、些とは此婆アの云ふ事も聞きなさい、お前も余り老爺心が勝過ぎて居る。何処の婆アさまか知らぬけれど、私より些と若いと思うて早乗り気になつて御座るが、嫌ぢや嫌ぢや、私はどうしても、ソンナ処へは行かぬ、それよりも早く真名井さまに参詣して御礼を申さねばなるまい、サアサアお節行かう行かう』
平助『婆アがさう云うても、お節お前はどうだ、一寸寄つて見る気はないか』
お節『お爺イさま、道草を喰はずにトツトと参りませうよ』
婆『これはこれはお婆アさまと云ひ、娘さまと云ひ、何と云ふ不心得な事だい、夫や親の言葉を背くと云ふ事があるものか、大方お前さまは三五教の信者であらう』
お節『尤も妾は三五教の信者で御座います、お爺イさまお婆アさまは無宗教者、妾は大江山のバラモン教の大将に誘拐され、巌窟の中に閉ぢ込められ苦しみ悶えて居りました。其処へ有難い三五教の神様が夢枕に立つて下さいまして、宣伝歌を教へて下さつた、其宣伝歌を唱へて居ると、間もなく悪者が改心を致しまして、助けに来て呉れました。世の中に何の神様が尊いと云うても、三五教の神様位有難い神様はありませぬ、私は三五教を守護遊ばす豊国姫の神様が、今度真名井ケ原に御出現になつたので、お礼詣りに行く所で御座います、どうぞ神詣りの途中で邪魔して下さいますな、お話があれば下向の途中に寛る寛ると承はりませう』
婆『サアそれがいかぬのだよ、三五教は今は高天原をおつ放り出された素盞嗚尊と云ふ奴が大将をして居るのだ、悪けれやこそ結構な処を逐出されたのぢやないか、お前さま達もさうぢやらう、柔順しい自分の兄弟を誰が逐出すものか、親を泣かし、兄弟を泣かし、ヤンチヤの有り切りを尽し、近所は申すに及ばず、其辺中に迷惑をかける極道息子は何程可愛いと云うても、世間の手前家に置いておくと云ふ事は出来まいがな。それと同じ事に、伊邪諾の大神様や、姉の神様が愛想をつかし、世間に済まぬと云うて切つても切れぬ姉弟の中を放り出された位だもの、酢でも蒟蒻でも行く代物ぢやない、その素盞嗚尊が采配を振つて居る三五教へ迷ひ込むとは何と云ふお前達は没分暁漢ぢやいナア、三五教の真実の事が聞きたけれや、この婆が篤りと説明して上げる、サアサア何と云つても連れて行く、来なされ来なされ』
お節『仮令お爺イさま、お婆アさまが行くと仰有つても妾だけはよう参りませぬ』
婆『エヽ分らぬ娘じやなア、これこの通り綺麗な二人の娘が、此婆の言ふ事を心から納得して、朝夕忠実に仕へて居るのぢや、新しい女の流行る時節にお前さまは又何とした旧い頭脳ぢや、それもその筈一年許りも世間見ずに、岩の穴へ押込められて居たのだから世間の様子も分るまい、世の中は随分進みて居るぞえ、些と確りして此お婆アさまの云ふ事を聞きなされ、斯う見えてもこの婆は、若い時からドンナ事にも経験を積みて来た苦労人の黒姫ぢや、苦労なしに誠の花は咲かぬぞえ』
お節『お説は御尤もで御座いませうが、入らぬ御節介、何と仰せつけられましても、折角ながら応じ兼ねます、入らぬ御節介止めて下さいませ』
黒姫『エイ我の強い女ぢやなア。青瓢箪に屁吸はしたやうな顔をしやがつて、ようまあツベコベと理屈を囀る小娘だ、イヤ我羅苦多娘ぢや、もしもしお爺イさま、お前も年が寄つてコンナやんちや娘を持つて居ては末が案じられる、もつと真面目な真実の身魂になつて、お前さま夫婦の安心の出来るやうに教育して上げるから、サアサアあそこ迄来て下さい、この通り二人の娘さまは淑やかなものだ、これも全く私の教育がよいからぢやぞゑ』
平助『エヽ喧しいワイ、娘がお転婆にならうと、何うならうと貴様等のお世話にならぬ哩、サアサアお節、コンナ糞婆に係り合つて居つたら日が暮れる、サアサア行かう行かう』
お楢『モシモシお爺イさま、さう云つたものぢやない、一つお前聞いたらどうぢや、後生のためになるかも知れぬぞえ』
 此時前方より宣伝歌を歌ひながら遣つて来る二人の宣伝使があつた。お節は此声に力を得、宣伝歌に合して、
『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 誠の力は世を救ふ』
と手を打ち踊り出したれば、黒姫は前後の宣伝歌の板挟みとなり、
黒姫『エイエイ、折も折肝腎の所へ又もや我羅苦多宣伝使奴が来よつて頭が痛い哩。亡国的の声を出しよつて、アヽ胸が苦しい、サアサアお爺イさまにお婆アさま、アンナ奴に見付かつたら大変だ、其ヤンチヤ娘も早く私の後へついて来るのだよ』
お楢『サアサア平助さま、お前この方の後に随いて行かう、怖い者が出て来るさうな』
平助『お節の話を聞いて、三五教と云ふのがある事を聞いたが、何だか神様のやうな声だ、俺は此声を聞くと益々真名井ケ原の神様が有難くなつて来たワイ』
黒姫『エイエイ仕方のない耄碌許りぢやなア、誠一つで助けてやらうと思へば、一生懸命に嫌がつて滅亡の道に飛んで行かうとする。嗚呼、縁なき衆生は済度し難しとは、能く云うたものだ。エヽ気分の悪い、宣伝歌が段々近づいて来る、これこれ清さま、照さま、早く早く』
と急き立て、傍の木の茂みに手早く姿を隠したり。
 此場に現はれたる二人の宣伝使は音彦と青彦なりける。
『ヤアお前さまは丹波村のお爺イさま、お婆アさまに娘さまぢやな、夜前は岩公や、勘公、櫟公が豪い御世話になつたさうですナア。悦子姫様が大変に御待兼です、サアサア行きませう』
平助『イヽエ、何う致しまして、誠に不都合な家でお礼を云つて貰うと却て心苦しう御座います、神様の御蔭で一年振に、大事な大事なお節の顔を見る事が出来ました。これこれお楢、お節、此方は神様の御使様だ、サアサアちやつと御礼を申さぬか』
お楢『貴方は神様の御使、何も申ませぬ、有難う御座います』
と涙ぐむ。
お節『神様の御蔭で助けて貰ひました、何分宜敷く御願ひ致します』
音彦『今此処に何だか人影が現はれて、クサクサと云つて居たやうですが、何処へ行きましたか』
お節『ハイ黒姫と云ふ婆アさまが出て来て、二人の綺麗な娘さまと共に私等親子の者に真名井ケ原に詣るな、此方へ来いと云つて道を塞ぎ困つて居ました、其処へ貴方方の宣伝歌が聞えましたので、……とうとう何処かへ姿を隠しました、アヽ良い所へ来て下さいまして親子三人が助かりました。これと云ふのも神様の御引合せで御座いませう』
音彦『ヤア何と仰せられます、黒姫が出て来ましたか、どこまでも執拗な奴ぢやナア、ハテ何処へ行きよつたか知らぬ』
お節『今此林の中をコソコソと下つて行きましたよ』
音彦『何うも仕方のない奴ぢやなア、兎も角も早く御参詣致しませう、悦子姫様が貴方のお出を大変お待ち兼ねで、吾々はお迎ひに参つたのです、サア行きませう』
と五人は勢よく西へ西へと辿り行く。
(大正一一・四・二一 旧三・二五 加藤明子録)
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