豊彦・豊姫らの家を出て、山を半分ほど登ったところで日が暮れて暗闇となってきた。一行は枯れ草の混じった禿げた芝生の上に横になって寝についた。
猿の声、大蛇の這うような音、虎狼が唸るような怪声が聞こえてくる。大木が折れるような岩石が崩壊するような凄まじい物音で加米彦は目を覚ました。
加米彦は恐ろしさに夏彦を起こそうとするが、夏彦はこんなことは山の中ではよくあることだと、取り合わない。夏彦はまたいびきをかいて寝てしまったので、加米彦は三人の間に寝て、夜が明けるのを待っていた。
春の夜は早く明けて、一行は朝の禊と拝を行った。そして朝食の後に山を登ると、ほどなくして頂上に達した。
加米彦は絶景を嘆賞していたが、悦子姫は山頂のご神前に暗祈黙祷していた。しばらくして、悦子姫は神勅が下ったので先に行く、と言い残してさっさと山を下ってしまった。
加米彦は慌てて後を追っていく。音彦と夏彦はゆうゆうとご神前に祝詞を上げてからくだり、山の五合目ほどで加米彦に追いついた。
一行は綾の聖地を指して宣伝歌を歌いながら進んで行く。