悦子姫は、夏彦、常彦、加米彦、滝公、板公を連れて、使命を明かさずに世継王山麓の館を後にして神業に出立した。音彦と五十子姫も、別の使命を受けて何処ともなく出立して行った。
後には、紫姫、若彦(青彦)、お節、お玉、馬公、鹿公の面々が玉照姫を保育していた。いつしか秋の半ばになっていた。
ある真夜中、門の戸を叩く者があった。鹿公と馬公はその音に驚いて目を覚ました。激しく叩く音に、鹿公が誰何すると、男は江州竹生島から、紫姫を尋ねてやって来た者だ、と答えた。
鹿公は正体が分からない限り、夜に門は開けられない、と答えると、男は亀彦だと名乗った。そして、神素盞嗚大神の使いとしてやってきたのだ、と告げた。
鹿公、馬公は、若彦と紫姫に注進した。一同は急いで寝間を片付けると、門を開けた。すると亀彦は金色の冠、夜光の玉を身につけ、薄絹の白衣を着て威儀厳然としていた。亀彦は門内に入ると玉照姫の前に拍手再拝、神言を奏上して正座に着いた。
そして、神素盞嗚大神は若彦、紫姫が黒姫をたばかって玉照姫を迎え入れたことに対して非常なご不興を蒙っていることを告げると、大神の命として玉照姫を黒姫に渡すこと、若彦と紫姫は宣伝使の職を去ることを言い渡した。
紫姫は非を認め、謹んで大神の責めを受けたが、若彦は、玉照姫を迎え入れた手柄に対して責めを受けるのは納得がいかない、亀彦は偽物だろう、と霊縛を加えようとした。すると亀彦の背後から女神が現れて、その光が若彦を射ると、若彦はその場に倒れてしまった。
亀彦は、「泣いて馬謖を斬る」が大神と英子姫の心であると告げ、直日に見直し聞きなおして奇魂の覚りによってこの大望を遂行すれば、再び神業に参加することを得るであろう、と言い残すと、女神とともに忽然と姿を消した。
若彦はようやく自分の非を悟り、拍手を打って大神に感謝した。玉照姫はにこにこを笑い出した。