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文献名1霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻
文献名2第2篇 運命の綱よみ(新仮名遣い)うんめいのつな
文献名3第7章 再生の歓〔669〕よみ(新仮名遣い)さいせいのよろこび
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-04-24 17:55:22
あらすじ
松鷹彦が出て行った後、宗彦とお勝は庵に残された。お勝は、宗彦に暇乞いを切り出す。お勝は松鷹彦と宗彦の話により、自分が宗彦の生き別れの妹だということを悟り、気に病んでいたのであった。

そこへ松鷹彦をはじめ、田吾作、真浦、留公、お春らが四五の村人たちと共に、戻ってきた。松鷹彦は真浦の脇の下の痣を見て、確かに真浦が自分の生き別れの長男であることを確認した。

真浦は涙にくれるが、田吾作がその場の湿った雰囲気を吹き飛ばそうと、歌を歌いだす。その歌は、普段のひょうきんな様子に似ず、真面目な歌だった。

田吾作は歌の中に、お勝が真浦、宗彦の妹であることを歌いこみ、知らずに犯したのであれば、兄妹婚の罪も必ず赦されるだろう、と歌い込んだ。

田吾作の歌で、宗彦はなぜお勝が突然暇乞いを言い出したのか悟り、離縁を受け入れた。松鷹彦と真浦は、お勝が生き別れの身内と知って、驚きかつ喜んだ。

真浦は立ち上がり、悪魔の荒ぶ世の中に生き別れた一家が、再び再開できた歓びを、大神に感謝した。村人たちは武志の宮に集まり、祝いの宴に夜を明かした。

真浦はお春と夫婦になって、松鷹彦の後を継ぎ、武志の宮の神主となった。お勝は田吾作と添うことになった。

宗彦と田吾作は聖地に上り、言依別命に会って三五教の教理を体得し、世界いたるところに足跡を残して神業に参加した。後に二人は遂に神素盞嗚大神に見出されて、大宣伝使となるのである。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月13日(旧04月17日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年3月15日 愛善世界社版150頁 八幡書店版第4輯 203頁 修補版 校定版156頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm2007
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本文  松鷹彦はあかざの杖をつき、田吾作、お春の慌てて駆出した跡を気遣ひ、覚束ない足つきにて二人に留守を托しながら出て往つて仕舞つた。後には夫婦連れ、何れも喜びと驚きの涙に暮れて居る。
お勝『モシ宗彦さま、何卒私に暇を下さいませぬか』
宗彦『そりやお前、本当に欲しいのか』
お勝『何しに心にもない事を云ひませう、一寸感じた事が御座いますから、何卒今日限り縁を切つて下さい』
宗彦『ハハ分つた、お前は、私の父親は、もつと立派なものと思うて居たのだらう、あの爺さまが、私の親と云ふ事が分つたので俄に嫌になつたのだな』
お勝『イエイエどうしてどうして、嫌になりますものか、層一層懐しうなつて来ました』
宗彦『そんなら尚更の事、夫婦睦まじく暮して呉れたらどうだ。俺も折角お父さまに遇うて喜ぶ間もなく、女の方から暇を貰つてどうして親に合す顔があらうか、昨日迄なら止むを得ざれば切つてもやるが、今となつてそんな事が出来るものか、俺の心も些とは察して呉れたらどうだ』
お勝『それはさうで御座いますが、これには云ふに云はれぬ仔細があつて』
宗彦『遠慮会釈もない夫婦の仲、云はれぬ秘密があらう筈はない、サアその秘密を聞かして呉れ』
お勝『其秘密を申し上げたら貴方は吃驚をきつとなさいませう、是許りは死んでも申し上げられませぬ』
宗彦『ハヽア、さうするとお前は田吾作さまと、なんか俺に内証で契約でもしたのだらう、田吾作とお前の視線がどうも怪しかつた』
お勝『何と云ふ情ない事を仰しやるのですか、私の腹を切つてでも見せて上げたい、何れ死なねばならぬ罪の重いこの体』
と云ふより早く懐の懐剣を取り出し、帷子の薄衣の上からグサリと突き立てようとした。宗彦は驚いてぐつと其手を握り、
宗彦『待て待て』
お勝『イエイエ何うぞ留めて下さいますな、潔く死なして下さいませ、腹を切つて臨終の際に一言申し上げて、神様や貴方にお詫を申し上げます』
宗彦『生死を共にしようと云つて、山野河海を見窄らしい巡礼姿となり下がり、手に手を把つて此処迄互に父母の後を慕ひ来たのではないか、お前は大方私が親子の対面をしたので恨めしうなつたのだらう、イヤ失望落胆したのであらう、きつと遇ふ時節が来るから短気を起して呉れな、夫が妻に手をついて、サア此通りだ』
と片手にお勝の腕を握り、片手を目の前に突きつけて、涙と共にお勝を拝む。
お勝『アヽ勿体ない、そこ迄思うて下さるなれば死ぬのは止めませう、安心して下さいませ、その代り只今限り無条件でお暇を願ひたう御座います』
宗彦『暇をやらねば死ぬと云ふなり、暇をやれば親父に心配をかけるなり、嗚呼恩と恋との締木にかかつて、こんな苦い事が世にあらうか。これお勝、何卒暫くでいいから夫婦になつて居てくれ、又時をみてお前の望み通り、離縁をするから』
お勝『それが待たれるやうな事なれば、なぜ私がお願ひ致しませう、女房が夫に対し離縁を申込むなぞと云ふやうな、不合理な事が何処に御座いませう。貴方は嘸々不貞腐れの女だと思召すでせうが、私の胸の中は千万無量、焼鏝を当てるやうで御座います』
宗彦『アヽ何うしたら此苦みを逃れる事が出来ようかなア、暇をくれと云へば云ふ程心の中の恋と云ふ曲者が躍り出し、俺の体も焦熱地獄に陥ちたやうだ』
と太き息をつく。夫婦の間に得も云はれぬ悲惨な雲の幕が下りた。斯かる所へ松鷹彦はいそいそと帰り来り、
松鷹彦『ヤア宗彦、お勝、お前は泣いて居るのか、こんな目出度い時に夫婦が揃うて泣くと云ふ事があるものか、泣きたければ又夜中に悠くりと泣いて満足するがよい、今其処へ村の衆が出て御座るから、サアサア早う機嫌直して呉れ』
宗彦『お父さま、余り嬉しうて嬉し涙が溢れたのです、御心配下さいますな』
松鷹彦『アヽ、さうだらう さうだらう無理も無い、併しお勝も泣いて居たやうだ、目を腫らして居るぢやないか、これこれお勝、見つともない、泣いて呉れな』
と留めながら松鷹彦は自分も泣き出した。
宗彦『お父さま、申上げ悪い事ですが、女房が只今より暇が欲しいと云ふのです、それで実は二人が談判して居つたのです』
松鷹彦『若い者と云ふものは仕方がないものだな、私も覚えがある。天下御免だから犬も喰はぬ喧嘩を精出してやつて呉れ』
 後は嬉し涙をしやくり上げる。
 斯る所へ、天の真浦の宣伝使を始め、田吾作、留公、お春は四五の里人と共に、スタスタとやつて来た。
田吾作『モシモシ、お爺さま、お喜びなさいませ、真浦の宣伝使は確に左の腋の下に梅の紋が鮮かに現はれて居ります。屹度最前仰有つた、貴方の御長男松さまに間違ひありません。ナア真浦さま、さうでせう』
真浦『ハイ』
と云つたきり、何となく心落ち着かぬ返事をして居る。
松鷹彦『モシモシ真浦さま、失礼な事をお尋ね致しますが、あなたのお国は何所で御座いましたか』
真浦『ハイ、私は紀の国熊野の生れで御座います』
松鷹彦『お父さま、お母さまはお達者にして御座るでせうな』
真浦『イエ父も母も行方不明となり、三人の兄妹も何うなつたか、何分小さい時に分れたのものですから顔も知らず、全然世の中に親族も何もない一人ぼつちです。私の力とするのは唯もう仁慈無限の神様許り、度々夢を見ますが、私の父はどうも貴方に良く似て居るやうに思ひます。併しこれは夢の事ですから、あてにはなりませぬ。何卒お心にさへて下さいますな』
松鷹彦『お前さま左の腋に梅の花の痣があると云ふ事ぢやが、それは真実ですか、真実なら一寸見せて下さい。私の子供には兄弟とも兄は左に弟は右に、不思議な事には梅の紋の痣がついて居る、何でも是は神様の生れ変りと聞いて居る。一人の娘には臍の上に三角星のやうな黒子があつた』
真浦『是は妙な事を承はります、サア何うぞお調べ下さいませ』
と肌を脱ぐ。松鷹彦は眼を光らし、つくづくと眺めて、
松鷹彦『マヽ擬ふ方なき私の忰であつた。有難い有難い、これと云ふのも神様のお引き合せ、婆が生て居たらどれだけ喜ぶであらうに、可憐さうな事をした。婆と明け暮れ三人の子供の事を思ひ出しては泣き、云ひ出しては泣き、可憐さうに泣いて泣いて泣き暮し、終には自暴自棄になつて、河の魚を漁り、殺生ばかりして悶々の情を慰めて居た。アーア可憐さうだつた』
と流石妻を思ふ愛情の雲に包まれて其場に力なく泣き沈む。
田吾作『こんな目出度い時に何をベソベソ泣くのだ。男と云ふものは涙を目から外へ落すのは大変な恥だ、潔うなさいませ。歌でも謡つて祝ひの酒でも飲んで機嫌ようするのだなア、私も何だか陰気になつて来た。サア一つ歌つて見ようかな、ぢやと云うて酒も呑まずに何だか拍子抜がしたやうだ。お弓の奴、酒を買うて持つて往くと云ひながら、何をして居るのだらう。又爺といちやついて居るのだなからうかなア』
と態と潔う喋り立てる。留公は、
留公『モシモシ、真浦の宣伝使さま、何を俯向いて居るのだ。早くお父さまに久し振りの御対面の御挨拶をなさらぬか、何だか目出度い事だと思うて来たのに薩張座が湿つて仕舞ひ、五月雨の空のやうだ。ヤアお弓さんが酒を持つて来た。オイ田吾作、お前は酒好きだから、早く飲んで一つ踊つて此場の空気を一洗してくれ、俺は御馳走の用意にかかるから、追々村の者が出て来る時分ぢやから愚図々々しては居られぬぞや』
と足早に炊事場指して走り行く。
 田吾作はお弓の持つて来た酒をグイと引つ手繰り、其儘口にあてて法螺貝飲みを始めて居る。松鷹彦、真浦、宗彦、お勝の四人は喜びと悲しさの雲に包まれ、黙念として傾首れて居る。田吾作は酒の機嫌で謡ひ出した。
『とうとうたらりや とうたらり  たらりや たらりや とうたらり
 天下泰平国土成就  神が表に現はれて
 善と悪とを立て別ける  此世を造りし神直日
 心も広き大直日  唯何事も人の世は
 直日に見直せ聞き直せ  身の過ちは宣り直す
 三五教の神の道  神の御稜威のいや高き
 武志の宮の御前に  親子夫婦の邂逅
 三千世界の梅の花  左の腕は厳御霊
 右りの腕は瑞御霊  厳と瑞との神の子が
 弥此処に現はれて  三五の月の御教を
 四方に広むる常磐木の  松鷹彦のお喜び
 臍下丹田のその上に  瑞の御霊の印ある
 黒子の出来たお勝さま  私ばかりは知つて居る
 さはさりながら皆の人  必ず怪しみ給ふなよ
 わしとお勝さんの其仲は  汚れた事は露もない
 宇都の河原にお勝さま  御禊せられた其時に
 横から一寸見て置いた  松鷹彦の先刻の
 御物語を伺へば  これぞてつきり御兄妹
 松竹梅の三人が  弥揃うた神の前
 皆さま喜びなさいませ  こんな目出度い事はない
 仮令天地は変るとも  親子の縁は変りやせぬ
 親子は一世夫婦二世  切るに切られぬ親と子が
 長い間の生き別れ  此処で遇うたは優曇華の
 花咲く春の梅の花  開いて散るな実を結べ
 七重に八重に九重に  十重に廿重に咲き匂ふ
 神の教の瑞祥ぞ  アヽ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  知らず知らずに犯したる
 宗彦夫婦が身の罪を  三五教の大御神
 直日に見直しましまして  罪も汚れもあら川の
 淵瀬に流して清めませ  アヽ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
と剽軽な男に似ず、今日に限つて真面目に謡ひ、真面目に舞うて見せた。この言霊に白けかかつた一座は俄に陽気だち、何れも顔色変へて春風に桜の綻ぶ如き笑顔を見せたり。
宗彦『アヽお勝、お前は合点の行かぬ事を俄に云うと思つて居たが、アヽ妹であつたか。なぜ遠慮をするのだ、素より兄妹と知つて天則を犯したのでもなし、知らず識らずの反則であるから神様も赦して下さるだらう。何うぞ心配してくれな、併し兄妹と分つた以上は、お前の望み通り暇を上げませう』
 松鷹彦、真浦は打驚き、夢か現か、親か子か兄妹かと、目と目を見合し、呆れて言葉も泣く許り。天の真浦は立ち上り、
『天と地との其中に  生れ来りし人草の
 中にも別けて我が親子  運命の神に操られ
 親子は四方に離散して  行方も知らぬ旅の空
 親は我子の行先を  尋ねて風雨に身を曝らし
 慈愛の涙そそぎつつ  山河渡り荒野越え
 我等が跡を老の身の  憂を忘れてあちこちと
 彷徨ひませる親心  山より高く海よりも
 深き尊き御恵み  我等三人の兄妹は
 親に離れし雛鳥の  寄る辺渚の捨小舟
 流れ漂ひあちこちと  情なき人に虐まれ
 百の艱みを凌ぎつつ  我垂乳根の行先を
 朝な夕なに当もなく  探りし事の悲しさよ
 天地に神のますならば  悲しき我等がこの思ひ
 晴らさせ給ひて片時も  早く遇はさせ給へやと
 神に祈りをかけまくも  畏き御稜威幸はひて
 思ひもかけぬ親と子が  今日の対面何として
 天地の神に礼代の  言霊さへもなくばかり
 アヽ惟神々々  御霊の幸を賜はりし
 恵も深き三五の  道を守らす大御神
 神素盞嗚大神の  瑞の光に照らされて
 月満つ今日の邂逅  父は此世にましませど
 母は早くも娑婆世界  後に見捨てて去りましぬ
 さはさりながら吾のみは  恋しき母と知らずして
 お目にかかりし嬉しさよ  此世に母のましまさば
 如何に喜び給ふらむ  嗚呼父上よ弟よ
 日頃尋ねし妹よ  いざ是れよりは大神の
 真の道に服従ひて  生命の限り身の極み
 誠一つの言霊に  悪魔の猛ぶ現世を
 洗ひ清めて母上の  御心慰め奉り
 父の誉を万代に  伝へむものと励みませ
 淵瀬と変る人の世は  明日をも知らぬ身の上ぞ
 嬉しき春に廻り遭ひ  互に顔をみたり連れ
 一度に開く梅の花  三千世界の名を負ひし
 三角星座の印ある  名さへ目出度き梅子姫
 常磐堅磐にいつ迄も  松竹梅の勇ましく
 生き長らへて吾が父に  能ふ限りの孝養を
 尽くすも嬉し兄妹の  今日の喜び月照の
 ミロクの神の御前に  喜び感謝し奉る
 アヽ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』
と謡ひ終つて座についた。
 村中の老若男女は残らず空家にして此場に馳集まり、飲めよ謡へよの大祝ひに夜を明かした。
 天の真浦は永く武志の宮に留まりて父に孝養を尽し、お春を女房に持ち、父の後を継ぐ事となつた。お勝は留公の媒酌にて田吾作の妻となり、夫婦仲よく一生涯を送り、子孫繁栄して裕な身となつた。
 宗彦及び田吾作の二人はこれより聖地に上り、言依別命に謁し、三五教の教理を体得し、自転倒島を始め、世界到る所に足跡を印し神業に参加し、遂には素盞嗚大神に見出されて立派なる大宣伝使となりにける。
(大正一一・五・一三 旧四・一七 加藤明子録)
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