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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第2篇 是生滅法よみ(新仮名遣い)ぜしょうめっぽう
文献名3第8章 津田の湖〔682〕よみ(新仮名遣い)つだのうみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-10 18:16:24
あらすじ
竜国別は道を北にとって迂回し、大谷山方面からアルプス教を攻めることとなった。国依別は鼓の滝から六甲山へ至る道をとった。そして玉治別は元盗人の三人と共に、津田の湖を舟で越えるルートをとった。

しかし玉治別が舟をこいで湖の半ばにさしかかると、三人はにわかに態度を変え、玉治別の懐のアルプス教の計画書を奪おうとし始めた。三人は櫂で玉治別に打ちかかり、玉治別は湖に落ちてしまった。

三人は落ちた玉治別を櫂で殴りつけようとする。九死に一生のところで、一艘の舟が矢のように現れて、玉治別を救った。これは杢助とお初が助けに来たのであった。

盗人たち三人は杢助の出現に驚いて慌てて逃げるが、湖の中にある大岩石に衝突して舟は砕け、湖水に落ちてしまった。

玉治別は櫂をこいで行き、三人を大岩石の上に助け上げると、宣伝歌を歌って聞かせた。杢助も、三人に仲間の失敗を告げて、改心を迫る。

しかしお初は今度は三人を懲らしめた方がよいと主張し、舟は三人を湖中の大岩石の上に残したまま行ってしまった。するとにわかに湖水のかさが増して、三人は首のあたりまで水に浸かってしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月19日(旧04月23日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版154頁 八幡書店版第4輯 320頁 修補版 校定版159頁 普及版70頁 初版 ページ備考
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本文  津田の湖辺に現はれたる三人の宣伝使を始め、遠、駿、武、三、甲、雲の六人は高春山を遥に眺めて、今や三方より進撃せんとする計画を定むる折しも、六人の泥棒は内輪喧嘩を始め出し、武州、駿州、遠州は向脛を打たれて其場に倒れたるを見すまし、三、甲、雲の三人は此場を見捨てて、元来し道に逃げ去つた。
 茲に竜国別は道を北に採り、迂回して大谷山より攻め上る事とした。又国依別は鼓の滝を越え六甲山に登り、魔神を言向けつつ高春山に向ふ計画を定めた。玉治別は湖辺に繋ぎある舟に身を托し、津田の湖を渡つて驀地に高春山に押寄すべく、足を痛めた三人を舟に乗せて自ら艪を操り乍ら、寒風荒む月の夜を西方の山麓目蒐けて漕ぎ出だす。湖水の殆ど中央まで進みし時、三人は俄に立上り、
遠州『オイ貴様は三五教の宣伝使、誠の道を立て通す神聖な役目であり乍ら、秘密書類を手に入れたを幸に、敵の備へを覚り、三方より攻め寄せむとするは実に見下げ果てたるやり方だ。何故誠一つで進まぬのかい』
駿州『実の処はその手帳は吾々の仲間に取つて大切な品物だ。それを貴様に奪られて堪るものか。杢助の宅に於いて、この大切な書類を貴様が手に入れたのを覚つた故、吾々六人は道々符牒を以て諜し合はせ、態と喧嘩をして見せ、脚が痛いと詐つてこの舟に乗込んだのだぞ』
武州『サア、最早ジタバタしても叶はぬぞ。綺麗薩張と俺達に返納致せ。愚図々々吐すと、此の湖中へ投り込んで了ふぞ』
玉治別『アハヽヽヽ、貴様達何を吐すのだ。三五教の神力無双の宣伝使に向つて、刃向うとは、生命知らずも程がある。蟷螂の斧を揮つて竜車に向ふも同然、速かに改心致せば赦してやるが、何処までも悪心を立て通すなら、最早是非に及ばぬ、言霊を以て汝が身体を縛り上げ、此の湖水へ投げ込んでやらうか』
遠州『貴様に言霊の武器があれば、此方にも言霊の武器がある。おまけにこの鉄腕が唸りを立てて待つて居るぞよ。サア早く此方に渡さないか』
『渡せと云つても俺一人の物では無い。竜国別や、国依別に協議をした上、渡してもよければ渡してやらう』
『馬鹿を云ふな。竜国別や、国依別は吾々の同類が途中に待伏せて、平らげて了ふ手筈がチヤンと整うて居るのだ。この湖を向方へ渡るが最後、味方のものが待ちうけて、貴様を嬲殺しにする手筈が定つて居る。驚いたか、何と吾々の計略は偉いものだらう』
『たとへ小童どもの三人や五人、百人攻め来るとも、恟とも致すやうな玉治別では無い、あんまり見損ひを致すな。鷹依姫は表面にアルプス教を標榜しながら、山賊の大親分になつて居るのだな』
駿州『馬鹿を云ふない。アルプス教には泥棒は一人も居ない。唯俺達は駄賃を貰つて此仕事をするだけだ。実は俺達はアルプス教ではない。盗人の団体だからトツクリ見て見よ。その手帳に俺達の名は記してない筈だ。聖地へ忍び込んだ奴の名前が沢山あるといふことだが、最早貴様にそれが判つたところで、アルプス教は痛痒を感じない。其代り貴様等三人の宣伝使を亡き者に致せばよいのだ。……オイ何うだい、此奴を真裸体にして秘密書類をフン奪り、高春山へ持参せば結構な御褒美が頂戴出来る。サアぬかるな』
と三方より櫂を以て打つてかかる。
 無抵抗主義の三五教の宣伝使も、已むを得ず正当防禦の積りで、両手を組み天の数歌を謳つた。されど神慮に反きし敵の秘密書類を懐中したる穢れのためか、今日に限つて天の数歌も、鎮魂も、何の効果も現はれなかつた。三人は三方より滅多打ちに打ちかかる。
 玉治別は已むを得ず、又もや櫂を握るより早く三人の中に交つて飛鳥の如く防ぎ戦うた。如何がはしけむ、遠州はバサリと湖中に落ちた。二人に追ひ詰められて玉治別は又もやザンブとばかり湖中に真逆様に落込んだ。舟に掻き着き上らうとすれば、二人は上より櫂を以て頭を撲りつけやうとする。遠州は其間に舟に駆上り、
『サア玉の奴、神妙に渡せばよし、渡さねば貴様の生命はモーないぞ』
 玉治別は一生懸命抜き手を切つて逃出す。三人は櫂を操り乍ら玉治別を追ひかける。玉治別は浮きつ沈みつ逃げ廻る。秘密書類は懐中より脱出して水面に浮き上つた。三人は手早く之を拾ひ上げて、大切に濡れた儘そつと舟の中に匿し、尚も玉治別の浮きつ沈みつ逃ぐるを追ひかけ、頭を目蒐けて撲りつけようとする。撲られては一大事と、苦しき息を凝らし乍ら水底を潜り、一方に頭を上げて息をつぎ見れば、又もや三人は舟にて追ひかけて来る。
 玉治別は進退谷まり、九死一生のところへ矢を射る如く、一人の子供を乗せて漕ぎつけた一隻の舟。玉治別は盲亀の浮木と喜び勇んで舟に取ついた。舟人は玉治別を助けて舟に乗せた。玉治別は息も絶え絶えになつてゐる。此の時三人の盗人は、
『エー邪魔ひろぐな』
と此の舟目蒐けて攻めかけ来る。
船人『貴様は遠州、駿州、武州の小盗人だらう。サア、モウ俺が此処に来た上は、汝も最早観念せねばなるまい。片つ端から叩き潰してやらう』
 此声に三人は驚いて一生懸命に櫂を操り、矢を射る如くに西へ西へと逃げ出した。湖中に突出せる大岩石に舟の先端を衝突させ、船体は木つ端微塵になつて、ゴブゴブゴブと沈没した。三人は思ひ思ひに抜き手を切つて逃げようとする。
 船頭は三人の浮いた頭を目当に舟を差向けた。玉治別は漸く気がついた。見れば杢助親子が舟に乗つて、三人の泥棒の影を目当に走つてゐる。
『アー貴方は杢助さま。危い所をよう助けに来て下さいました』
『話は後でゆつくり聞きませう。愚図々々して居れば三人の泥棒の生命が失くなつて了ふ。サア貴方も此櫂を漕いで下さい』
 玉治別は直ちに櫂を漕ぎ始めた。漸くにして三人の泥棒を救ひ上げた。さうして以前の湖中の岩の上に三人を送り、舟を此方に引返し、十数間許り距離を保つて、三人に向ひ宣伝歌を聞かさむと、声も涼しく歌ひ始めた。
玉治別『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 誠一つの世の中に  誠の道を踏み外し
 天地に罪を重ねつつ  終には根の国底の国
 地獄の底のどん底の  焦熱地獄に落されて
 苦しみ悶える幽界の  掟を知らずに智慧浅き
 体主霊従の人々が  小さき欲に目が眩み
 結構な身魂を持ち乍ら  他の宝を奪ひ取り
 飲めよ騒げの大騒ぎ  遊んで暮す悪企み
 地獄の釜の道作り  それも知らずに曲道を
 通る身魂ぞいぢらしき  仮令大地は沈むとも
 誠の道に叶ひなば  大慈大悲の大神は
 必ず救け給ふべし  遠州武州駿州よ
 汝も元は神の御子  聖き身魂を受継ぎし
 貴き神の生宮ぞ  小さき欲にからまれて
 此世からなる地獄道  餓鬼畜生や修羅道の
 責苦に自ら遭ひ乍ら  未だ覚らずに日に夜に
 道に背いた事ばかり  われは此世を平けく
 治め鎮むる大神の  教を宣ぶる宣伝使
 決して憎しと思はない  汝に潜む曲神を
 一日も早く取り除けて  誠の道に救はむと
 願ふばかりの我心  さはさり乍ら三五の
 道を教ふる神司  其の身を忘れてアルプスの
 神の教に立て籠る  鷹依姫が計略を
 事も細かに記したる  秘密の鍵を懐に
 収めて曲を倒さむと  思うたことは玉治別の
 これ一生の誤りぞ  汝等は之を携へて
 高春山に持参り  鷹依姫に手渡して
 手柄を現はし御褒美の  金を沢山貰て来い
 さすれば汝が懐は  ふとつて親子が安々と
 楽しき月日を送るだらう  さは云ふものの三人よ
 此世は仮の世の中ぞ  万劫末代生き通す
 霊魂の生命は限りなし  なることならば三五の
 神の教に身を任せ  天晴れ世界の塩となり
 花ともなりて香ばしき  実のりを残せ後の世に
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 悪魔の為に魂を  曇らされたる三人を
 直日に見直し聞直し  其の過ちを宣り直し
 神の大道にすくすくと  歩ませ給へ大御神
 珍の御前に玉治別が  畏み畏み願ぎ奉る』
と歌ひ終つた。
 三人は此歌に感じてか、但は離れ島に捨てられた悲しさに此場を免れむとしてか、一度に玉治別に向つて両手を合せ、涙を流して改心の意を表する。杢助は舟を岩の前に近づけ乍ら、
杢助『オイ三人の男、汝の片割れ三州、甲州、雲州の三人は俺の館に乗り込んで金銀の小玉を全部貰つて帰りよつた。汝は玉治別の懐中せるアルプス教の書類を狙つてゐるさうだ。併しそれを鷹依姫に届けてやつたところで、余り大した礼物もくれはしよまい。生命を的にそんな欲の無い小さいことを致すな。改心するなら今だ。何と云つても此の離れ島に捨てられては汝も浮ぶ瀬はあるまい。サア改心を誓ふか何うだ、改心致せば此舟に乗せて助けてやるが』
 三人は口を揃へて、
『改心します。何うぞ赦して下さいませ』
杢助『玉治別さま、貴方のお考へは何うでせうか』
玉治別『改心さへしてくれたならば四海兄弟だ、何処までも助けたいものですな』
『そんなら助けてやらうか』
 お初は首を左右に振り、
『お父さん、斯んな人を助けたつて直に又悪いことを致しますよ。暫くこの離れ島に預けて置いたがよろしいでせう』
遠州『モシモシ小さいお方、お前さまは年にも似合はぬ、きつい人だな。そんな事を云はずに何うぞ助けて下さいな。屹度改心しますから』
『イエイエ貴方は未だ未だ改心が出来ませぬよ。サア、お父さま、早く艪を操つて下さい。小父さま、櫂を漕いで下さい。私も手伝ひませう』
『アヽさうだ。子供は正直だ。此奴等可愛いと思へば、暫らく岩の上に預けて置いた方が将来のためだらう。サア、杢助さま、彼方へ進みませう』
と湖中の岩島を後に、高春山の東麓を指して矢を射る如く進み行く。
 不思議や湖水の水は見る見る水量増り、さしもに高き湖中の巌も次第々々に水中に没し、早くも足許まで波が押寄せて来た。刻々に増る水量に三人は、最早首の辺りまで浸つて了つた。
(大正一一・五・一九 旧四・二三 外山豊二録)
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