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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第3篇 男女共権よみ(新仮名遣い)だんじょきょうけん
文献名3第13章 夢の女〔687〕よみ(新仮名遣い)ゆめのおんな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-07-02 07:19:33
あらすじ
竜国別は社の下から這い出して、灯りをつけた。女は自分は里の娘でお作と名乗った。お作はこの社に願をかけて密かに夜分詣でていたのを、アルプス教の男たちに待ち伏せされたのだ、と語った。

女は、竜国別はアルプス教ではなく三五教の宣伝使だろう、と図星を指す。そして、自分がこの社に詣でていたのは、夫を探していて、神夢にお宮に三週間詣でると本当の夫に会える、その日が今日だから、竜国別が自分の夫だと言い出した。

竜国別は高春山の悪魔退治の途上だから、女房を持つことはおろか、後の約束でも今することはできない、と堅持する。

しかしお作は弁を尽くして竜国別に迫る。竜国別がそれなら約束だけなら、と言いかけると、頭上より「馬鹿」と竜国別に怒鳴りつける者がある。

竜国別は戒めを受けて前言を取り消すが、お作はあれは天狗の声だとなおも迫り、竜国別の手を握る。

竜国別は観念して、自分からもお作の手を握り返そうとすると、突然お作は怒って竜国別をその場に突き倒した。そして曲津退治の途上で、いかなる理由や誘惑があろうとも、決心を翻すとは何事かと竜国別を叱り付けた。

たちまちとどろく雷鳴の音に眼を覚ますと、それは夢であり、竜国別は依然として社の縁の下に身を横たえていた。

竜国別は神前に額づき、夢の教訓に感謝して心魂を練り、いよいよ高春山の征服に赴くことになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月20日(旧04月24日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版220頁 八幡書店版第4輯 344頁 修補版 校定版227頁 普及版98頁 初版 ページ備考
OBC rm2113
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本文  竜国別は祠の下より蜘蛛の巣だらけになつて現はれ来り、あたりの木の葉や枯枝を集め、社側の広場に火を焚いた。此火光に照らされて以前の女は、艶麗譬ふるに物なく、暗よりポツと浮出たかの如うに輪廓も判然として、竜国別の前に徐々近寄つて来た。
『ヤア何処のお女中か知りませぬが、大変な危い事で御座いましたなア』
『ハイ私は此里のもので、お作と申す一人娘で御座います』
『貴女は御兄弟はありませぬか』
『兄が二人、弟が一人、さうして両親共壮健に暮らして居ります』
『それは何よりお目出度い事で御座います。併し乍ら此真夜中にどうして、あの様な悪漢が貴女を引攫へたのでせう。貴女は女に似ず夜徘徊をなさいますと見えますなア、それ丈親もあり御兄弟もあれば、何程無茶な奴でも、貴女の家へ乗込むことは出来ますまいに』
『ハイ妾は恥かし乍ら一つの御願があつて、何時も此山口の宮様へ丑満の刻に、親兄弟にも知らさず、参詣を致して居りました。今日は三七二十一日の上りで御座ります。然るにどうして妾のお宮詣りを覚つたか知りませぬが、此お山の入口に彼等が待伏せして、妾を惟神にお宮の前に連れて来て呉れましたのよ』
『さうして其御願とは如何なる事で御座いますか。何か一身上に関はる御難儀でもおありになるのですか』
『貴方は今社の背後より大自在天大国別命と仰有りましたなア。それは本当で御座いますか。大自在天大国別命様なれば、彼等悪漢の日頃尊敬する、バラモン教やアルプス教の祖神様です。それにも不拘彼等が脆くも逃散つたのは、不思議ぢやありませぬか。妾は察するに、どうしても大自在天系統の、貴方の言霊とは受取れませぬ。屹度三五教の宣伝使………』
と図星を指されて竜国別は、
『イヤもう恐れ入りました、貴女の御明察。さうして貴女の御願ひの筋は、何か六ケ敷い事が出来て居るのではありませぬか』
『妾の一生に取つて一大事が突発したので御座います』
『それや又どういふ理由ですか』
『ハイ妾も最早十八才になりました。彼方此方から嫁にくれいと、父母兄弟に向つて日々迫つて参ります。然し乍ら私としては理想の夫が、まだ一人も見付かりませぬ。それ故適当な夫を授けて下さるようにと、今日で三週間お詣りを致しました。神様の夢の御告には、三週間目に宮の前で、一人の男に逢はして遣らう。それがお前の本当の夫だと教へられました。貴方は神様から御許し下された本当の夫、どうぞ可愛がつて下さいませ』
『これはしたりお女中、聊か迷惑のお言葉』
『ホヽヽヽヽ、迷惑と仰有いますか、貴方は女はお嫌ひですか。広い世の中に女嫌ひな男はありますまい』
『男の方から申し込んだ女房なら兎も角も、女の方からさう出られては何だか恐ろしくて、早速に御返事が出来ませぬワ』
『貴方は独身でせう。奥さんがあれば兎も角、今のお身の上、どうで一度妻帯を遊ばさねばならないのでせう。神の結んだ二人の縁、どうぞ色よき御返事をして下さいな』
『モシモシお作さんとやら、貴女は随分新しい女と見えますなア。世の中が変つて来ると、女の方から男に直接談判を始める様になつて来ると見える。ハテ変れば変るものだワイ』
『どうしても私の様な不束者はお気に入らないのですか』
『イエ滅相もない。天女の天降りか、弁財天の再来とも云ふ様な立派な綺麗な貴女、花で譬へて見れば、今半開の美しき露を帯びた最中、決して厭でも嫌ひでもありませぬが、何を申しても、神命を奉じ高春山に悪魔の征服に参る途中ですから、夫婦の約束なぞ思ひもよらぬ事で御座います』
『それでは女には決して目を呉れないと仰有るのですなア』
『勿論の事です。折角乍ら今日はお断りを申しませう』
『そんなら何時約束をして下さいますか』
『刹那心です。明日の事は分らないから、お約束する訳には参りませぬ』
『貴方は高春山の軍功を現はし、其上で天下の立派な女を抜萃して、女房にする考へだから、お前見たやうな草深い山家育ちの女には、目を呉れないと云ふお積りでせう』
『イエイエ決して決して、そんな事は毛頭、心には浮びませぬ。何は兎もあれ一つの使命を果すまでは、女に関係は致しませぬ。神界に対して恐れ多う御座いますから』
『神様は高春山の征服が済む迄は、女に会つて約束をしてはならないと仰せられましたか、伊邪那岐命、伊邪那美命様は、夫婦水火を合せて、国生み島産み神産みの神業を遊ばしたぢやありませぬか。神様も夫婦なくては真の御活動は出来ますまい。陰陽の水火を合して、初めて万物が発生するのでせう。然るに大切なる神業の途中だから、女には絶対に約束せないと仰有るのは、少し合点が参りませぬワ』
『イヤ絶対にと申すのではありませぬが、今度ばかりは何卒許して下さいませ。又首尾好く目的を達した上、御相談に乗りませう』
『オホヽヽヽ、勝手なお方、貴方は杢助さんの奥さまの葬式までなさつたでせう。それを思へば私と今夫婦の約束を結んだ位が、何故神様のお気に入らないのでせう。貴方の御神業の妨げになるのでせうか』
『アヽどうしたら好からうかなア。かう追求されては、我々は身の振方に迷はざるを得ない』
『宜しいぢやありませぬか。これだけ女の真心を無になされますと、遂には女冥加に尽きて、一代セリバシー生活を送らねばなりますまい』
『アヽ情に脆いは男子の心、さう懇切に仰有つて下さらば、折角のお志、無にするも済まない様な感じが致します。そんなら此処で約束だけ固めませうか』
 此時樹上より「馬鹿ツ」と一喝した。
『折角ながらお作さんとやら、今彼の通り頭の上から私の言葉に対し「馬鹿」と呶鳴り付けました。矢張これは取消しませう』
『男が一旦歯の外へ出した言葉を、無責任にも引込めなさる積りですか。そんな事が出来るのなれば、吐いた唾を飲んでも宜しからう。妾は、どうしても此約束を履行して貰はねば承知致しませぬよ』
『まだ約束はして居ませぬ。約束をしようかと云つたまでですワ』
『其お言葉が出るに先立ち、貴方の心の中では既に承諾をしたのでせう。

人問はば鬼は居ぬとも答ふ可し心の問はば如何に答へむ

貴方は自ら心を欺く積りですか』
『さうぢやと言つて、どうしてこれが承諾出来ませう。又頭の上から馬鹿呼ばはりをされますから』
『オホヽヽヽヽ、あれは何時も此森に棲まひをして居る、大天狗が云つたのですよ。貴方は結構な神様のお使でありながら、天狗の一匹や二匹が、それほど怖いのですかい』
『何天狗ならば怖くはありませぬが、あの言葉は、どうしても私の考へに共鳴して居る様ですから、服従せなくてはなりませぬ。どうぞ此場を見遁して下さいませ』
『エヽ男と云ふものは気の弱いものだなア。もうかうなれば仕方がない』
といきなり握手した。
『何んと仰有つても、こればかりは後にして下さい』
『イエイエ何と云つても、妾の願ひを聞き容れて貰はなくては放しませぬよ』
『そんなら、もう仕方がない。サア私から進んで握手致しませう』
と竜国別は右手を延ばして、お作の手を握らうとした。お作は喜ぶかと思ひきや、
『エヽ汚らはしき三五教の宣伝使竜国別』
と言ふより早く、満身の力を籠めて其場に突き倒した。
『これや怪しからぬ。何としたらお気に入るのですか』
『苟くも神命を受けて、曲津の征服に向ふ途中に於て、如何なる切なる女の願ひなればとて、堅き決心を翻すとは何事ぞ。かかる柔弱なる汝の魂で、どうして悪魔の征服が出来ようぞ』
『ハテ合点の行かぬ女の振舞ひ』
と双手を組んで暫時思案に耽つて居る。忽ち轟く雷鳴にフト頭を上ぐれば、以前の女は跡形もなく消え失せ、其身は古社の縁の下に眠つて居た。雷と聞えしは社に棲む古鼠の荒れ狂ふ足音であつた。竜国別は直に神前に額づき、夢の教訓を感謝し心魂を練つて、愈高春山の征服に向つて進み行く。
(大正一一・五・二〇 旧四・二四 谷村真友録)
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