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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第4篇 反復無常よみ(新仮名遣い)はんぷくむじょう
文献名3第17章 酒の息〔691〕よみ(新仮名遣い)さけのいき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-02 02:31:06
あらすじ
アルプス教の本山・高春山では鷹依姫が、力と頼む臣下のテーリスタンとカーリンスに説教をしていた。二人が酒におぼれて酔っ払っているのを咎めていたのである。

しかしテーリスタンとカーリンスは酔って鷹依姫の小言をまぜっかえしている。そこへお初がつかつかと入ってきて、テーリスタンとカーリンスのお酌をすると申し出た。

お初は、父の杢助が天の森までやってきて、アルプス教をやっつけようとしていることを話した。テーリスタンとカーリンスは、杢助の子分になった方がいいと思い直し、酔ったまま鷹依姫にあからさまに反抗しだした。

鷹依姫は自分に忠誠を誓ったことを持ち出して、テーリスタンとカーリンスを非難する。すると二人は、拳を固めて鷹依姫に殴りかかろうとした。

お初は鷹依姫に対して、悪い奴を信用したものだ、と同情する。テーリスタンとカーリンスは聞きとがめてお初に言い訳をするが、お初は、自分は子供だから思ったことを口にするのだ、と言う。

テーリスタンとカーリンスは、杢助に取り入ろうとお初に胡麻をする。そして、杢助がやってくる前に、高姫と黒姫を岩戸から救出しておこうと相談し、テーリスタンが鷹依姫を見張り、カーリンスは岩窟に向かって走っていった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月21日(旧04月25日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版277頁 八幡書店版第4輯 366頁 修補版 校定版286頁 普及版125頁 初版 ページ備考
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本文  アルプス教の仮本山と聞えたる、高春山の山巓の岩窟に数多の部下を集めて、大自在天大国別命の神業を恢興せむと、捻鉢巻の大車輪、心胆を練つて時を待ち居るアルプス教の教主鷹依姫は、額の小皺を撫で乍ら、長煙管をポンとはたき、股肱の臣なるテーリスタン、カーリンスの二人を膝近く招き、口角泡をにじませ乍ら、
『これテーリスタン、カーリンスの二人、お前も好い加減に酒をやめたらどうだえ。どうやら大切なアルプス教の秘密書類を紛失してから、廻り廻りて三五教の手に入つて居る様な感じがして仕方がない。何程要害堅固に固めて居つても、あの地図を見られたが最後、此本山は没落するより仕方がない。こんな危険な場合に何時迄も酒ばかり飲んで、管を巻いて居る時ぢやありますまい。チツトしつかりして下さらぬと此城が維持ませぬぞえ』
 テーリスタンはヅブ六に酔ひ、巻き舌になつて、
『そんな事に抜目のある様なテーリスタンとは、ヘン、チツト違ひますワイ。あんまり天下の勇士を安く買つて下さるまいかい。私も張り合ひが御座らぬワ、なア、カーリンス』
『オーさうともさうとも、年老りの冷水と云つてナ、冷水をあびせ掛けられると、折角酔うた酒までが醒めて了ふワ。俺達が酒を呑むのは酔うて管を巻き、浩然の気を養ふ為だ。此きつい山坂を日に何回となく、上つたり下つたり耐つたものぢやない。偶高姫が乗つて来た飛行船を占領し、ブウブウとやつたと思へば深霧の為に方向を失ひ、大谷山の横つ面に打つ付けて割つて了ひ、其時にアタ怪体の悪い、大切な肱を折り、漸く今旧のものになりかけた所だ。それでも時々物を云ひよつて、冷たい朝になるとヅキヅキと痛むのだ。これ丈命を的にアルプス教の為めに活動して居るのだ。酒の一杯や二杯飲んだつて、それがナナ何だい。鷹依姫の御大将、人の頭に成らうと思へば、マチツト大きな心にならつしやい。イチヤイチヤ云ふと誰も彼も愛想を尽かして、遁げて了ふぢやないか、ナア、テーリスタン』
『お前達はそれだから酒を飲ますと困るのよ。酒位はチツトも惜くはないが、後が八釜敷いので困ると云ふのだ。今にも三五教へ首を突込んだとか云ふ、豪傑の杢助でもやつて来たら、それこそ大変ぢやないか』
『何、そんな心配がいりますか。それは老婆心と云ふものだ。まだ大将は中婆さんだから、中婆心位な所で止めて置いて呉れるといいのだけれど、余り深案じをなさるから、却つて計画に齟齬を来し、鶍の嘴程することなす事が食違ふのだ。杢助だらうが雲助だらうが、あんなものが五打や十打束になつて来たつて何が恐いのだ。そんな事で天下万民をバラモン教乃至アルプス教へ、入信させて救ふ事が出来るものか』
『お前達は今日にかぎつて、何時もの謹厳にも似ず、教主の私に、反抗的態度をとるのかい』
『別に反抗も服従もありませぬワイ。心の欲する儘に酒が言はせて居るのだ。「辛抱して呉れ酒が言ふのぢや女房共」と云ふ冠句を何処やらで聴いた事がある。決して肉体が言つて居るのぢやありませぬよ。酒が云ふのですから酒を叱つて下さい。酒と云ふものは好いもの……悪う……ヤツパリないものだ。アヽ、サーサ浮いたり浮いたり、瓢箪計りが浮き物か、俺達の心も浮物だ。三ぷん五厘に浮世を暮し、浮世トンボの楽天主義、これでなければ人間は長命は出来ないなア。お婆アさま、そんな小六ケ敷い顔をせずと、チツトはお前さまも酒でも飲んで、雪隠の洪水では無いが糞浮になつて見たらどうだいなア』
 鷹依姫は面を膨らし、一生懸命に二人を睨め付けて、
『お前達二人は此大勢の団体を、統率して行かねばならぬ役目でありながら、何といふ不心得の事だえ。お前達はアルプス教の教主を軽蔑するのかナ』
『どうでバラモン教の脱走組だから、支店や受け売か或は意匠登録権侵害教だ、何処に尊敬する価値がありますかい。今迄は猫を被つて居つたが、肝腎の紫の玉は高姫に呑んでしまはれ、黒姫と高姫は中々豪のものだから、針の穴からでも、出ようと思へば出るといふ魔力のある奴だ。彼奴がアーして神妙に百日も物を喰はずに平然として居るのは、何か心に頼む所があるからだ。愚図々々して居ると此館は三方から三五教に攻撃せられ、蟹の手足をもいだ様な、身動きもならぬ憂目に逢ふのは目睫の間に迫つて居る。エーもう雪隠の火事だ。焼糞だ。お前の様な婆に相手になつて居つても末の見込がない。サア怒るなら怒つて見よ。棺桶に片足を突込んだ婆と、屈強盛りのテーリスタン、カーリンスには到底歯節は立つまい、アハヽヽヽ』
と徳利を口に当てガブリガブリと飲んでは、右の手で自分の額を叩き、
『ナア、カーリンス、好う利く酒ぢやないか。婆の耳より余程利きがよいぞ、オホヽヽヽアハヽヽヽ』
と無性矢鱈にヤケ酒を煽つて居る。
 其処へ六歳になつたお初が、御免とも何とも言はずツカツカと現はれ来り、
『小父さま、私にも一杯つがして頂戴な』
『ヤアお前は何処から来たのか。ホンに可愛い児だなア。婆の顔を見てお小言を頂戴しながら酒を飲んでも根つから甘くない、子供でもよい、其可愛らしい手で一つ酌いで呉れ。然し徳利が重いから落さぬ様にしてくれよ』
『小父さま、こんな徳利が重たいやうな事で、こんな岩窟へ一人這入つて来られますか』
『そらさうだ。お前は悧巧な奴だ。さうして一人来たのかい』
『イエイエお父さまに背負つて来たのよ。お父さまは今高姫、黒姫さまを引張りだし、鷹依姫とかいふお婆アさまを改心させ、テー、カーの両人を乾児にして遣らうと云うて、天の森で相談をして居たよ』
『何、お前のお父さまが、俺を乾児にして遣らうと言つて居つたか。あんな大将の乾児になれば、世界に恐る可き者なしだ。チツト許りの酒を飲んでも愚図々々言ふ様な大将に虱の卵の様に死んでも離れぬと云ふ様な調子で随いて居つては大変だ。ヤアこれで酒もチツトは味が出て来たやうだ。オイ婆アさま、此テー、カーは最早お前の部下ではない程に、勿体なくも武術の達人、湯谷ケ嶽の杢助さまの乾児だ、いや兄弟分だ。サア、トツトと城明け渡して出やつせい。愚図々々して居ると三五教の宣伝使が此場に現はれて、お前の土堤腹に大きな風穴を穿ち、其処から棍棒を通して、聖地へ担いで帰るかも知れないぞ。足許の明るい間に、早くトツトと尻引つからげたがお前の得だらうよ、のうカーリンス』
『何んとお前達は水臭い奴だなア。何処々々迄もお伴を致しますと誓つたぢやないか』
『馬鹿だなア、さう言はなくちや、重く用ひて呉れないから、処世上の慣用手段として、言はば円滑な辞令を用ひたまでだよ、のうテーリスタン』
『何んとよくお前達の心は変るものだなア』
『定つた事だ、時の天下に従へと云ふ事がある。何時迄も世は持ち切りにはならぬぞ。変る時節にや神でも変るのだ。呆けた事を言ふない。矢張婆だけあつて頭が古いなア。チツト古い血を出して新しい血と入れ替へて遣らうかい』
といきなり拳を固めて叩かうとするを、お初は遮つて、
『これこれ小父さま、そんな乱暴してはいけませぬ。お婆アさま、随分貴女も悪い奴を信用したものですなア』
『コラコラ子供の癖に何んと云ふ悪い事を云ふのだい。小父さまは斯う見えても時代に順応する、立派な文化生活をやつて居る新しい人間だぜ。余り見損ひをしてくれるない』
『小父さま、子供だから何を云ふか知れはしないよ。大きな男が学齢にも達しない子供を捉まへて、理屈を言ふのが間違つて居るよ、オホヽヽヽ』
『ヤア杢助親分のお嬢さまだけあつて、さすが偉いものだなア。…お嬢さま、どうぞ我々二人を、お父さまに好く言つて、可愛がつて下さいねエ』
『子供に大人が可愛がつて呉れと云ふのは、チツト可笑しいぢやありませぬか、妙なおつさんだなア』
『お前達二人は、ほんたうに杢助の乾児になるつもりかい』
『定まり切つた事だい、早く何処なと出て行け。今に三五教の宣伝使が見えたら、黒姫、高姫をあんな処へ突込んで於ては申訳がない。……カーリンス、お前は此場を監督し此婆の見張りをして居れ。俺は奥へ行つて、高姫、黒姫お二人さまにお願ひ申して、岩戸から出て貰ふから、好いか』
『ヨシヨシ呑み込んだ、早く行つてこい。愚図々々して居ると最早難関を突破して三五教の宣伝使が、二百三高地とも云ふ可き天の森にやつて来て居るのだから、開城するなら気よう開城する方が後の利益だ』
と言ひ捨てて、高姫、黒姫を閉ぢ込めた岩窟の前に周章しく駆り行く。
(大正一一・五・二一 旧四・二五 谷村真友録)
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