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文献名1霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
文献名2第1篇 暗雲低迷よみ(新仮名遣い)あんうんていめい
文献名3第1章 玉騒疑〔693〕よみ(新仮名遣い)たまさわぎ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-27 18:54:04
あらすじ
天地の元津御親である国治立大神は、醜の曲津の猛びによってぜひ無く豊国姫命とともに独身神となって御身を隠したもうた。

大国治立尊の御子である神伊弉諾大神、神伊弉冊大神の二柱は、神勅を奉じて海月なす漂へる国を造り固めようとした。木花姫命や日の出神とはかって神国成就のために尽くしたのだが、天足彦・胞場姫の霊から現れ出た曲津見が荒れ狂い、八百万の神人たちの心は再びねじけて、世は常闇となってしまった。

神伊弉諾命の御子と生まれた天照大御神と神素盞嗚大神は、天津神・国津神たちに道を説き諭したが、日に世に穢れが積もって多くの罪が出で来た。

素盞嗚大神は葦原国を治めるべく心を砕いたが、治めるすべもなく泣き叫んだ。神伊弉諾命はこれを見咎めて、葦原国を治める資格がないので母の治める地下の国へ行くように、と申し渡した。

素盞嗚尊は姉神・天照大御神に事と次第を申し上げようと高天原に上ったが、天照大御神は素盞嗚尊が高天原を奪いに来たのではないか、と真意を疑った。

素盞嗚尊の疑いは、誓約によって晴れたが、素盞嗚尊の従神たちが怒って暴れたために、素盞嗚尊は千座の置戸を背負って高天原を追われ、地上の国々にはびこる邪神たちを言向け和す漂浪の旅を続けることとなった。

大洪水以前はエルサレムが神業の中心地であった。その後、国治立尊の分霊・国武彦が自転倒島に現れて、神素盞嗚大神と共に五六七神政の基礎を築いた。それより自転倒島は世界統一の神業地と定まった。

顕国玉の精より現れた如意宝珠の玉、黄金の玉、紫の玉は神界における三種の神宝として最も貴重なものとされている。この三つの玉を称して瑞の御魂という。この玉が納まる国は、豊葦原の瑞穂国を統一すべき神憲が備わっているのである。

国治立命は天教山を出入り口となし、豊国姫神は鳴門を出入り口として、地上の経綸を行い、長く世に隠れて五六七神政成就の時機を待った。

素盞嗚尊は分霊・少彦名命として神業に参加していたが、今また言依別命と現れて三種の神宝を保護することとなった。

三種の神宝は錦の宮に納まったが、国治立命・豊国姫神の命によって、いまだ時期尚早なれば三千世界一度に開く梅の花の春を待って三個の神宝を世に表すべし、とあったため、言依別命はひそかに自転倒島のある地点に深く隠した。

本巻はその神業の由来を口述する。有形にして無形、有声にして無声なる神変不可思議の神宝なので、凡眼では見ることができないものである。

黒姫は、言依別命から黄金の玉を守る役目を与えられていた。黒姫は黄金の玉を四尾山の麓の一つ松の下に埋めて隠し、ときどき密かにその無事を確認にやってきていた。

ある晩、黒姫がしばしばこそこそとどこかへ出かけていくのを不審に思ったテーリスタンとカーリンスは、黒姫のあとをつけて四尾山の麓までやってきた。

すると黒姫は、一つ松の下から石びつを掘り出して、その蓋を開けて中をのぞいていた。しかし黒姫は中が空っぽであることに驚いてどっと打ち倒れてしまった。黒姫は人の足音を聞きつけて気を取り直し、木陰に姿を隠した。

テーリスタンとカーリンスは、黒姫が去った後に一つ松の下に来て、石びつを確認し、言依別命が黒姫に託した黄金の玉は、ここに隠されてあったことを悟った。しかし先ほど見た黒姫の様子が変だったので、二人は黒姫の姿を辺りに探す。

すると下手のため池に人が飛び込んだ音がした。二人は駆けつけると、池の縁に履物が脱ぎ捨ててあるのが見えた。黒姫が身投げしたことを悟り、カーリンスは池に飛び込んで黒姫を救出した。

カーリンスは、二人分の着物を取りに行き、その間にテーリスタンが火を起こして黒姫の体を温めた。そのうちに黒姫は気が付くが、死なしてくれ、と言ってテーリスタンとカーリンスを困らせる。

テーリスタンは、黒姫が黄金の玉を紛失したのだろう、と推測する。黒姫は図星を指されて、自分を助けてくれたテーリスタンとカーリンスが、てっきり玉を盗んだものと疑い始め、二人を厳しく詰問しだした。

テーリスタンとカーリンスは、親切心が仇となってあらぬ疑いをかけられたことに困惑している。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月24日(旧04月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月30日 愛善世界社版11頁 八幡書店版第4輯 383頁 修補版 校定版11頁 普及版5頁 初版 ページ備考
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本文  天と地との元津御祖、国治立大神は、醜の曲津の猛びに依りて是非なく豊国姫尊と共に、独身神となりまして御身を隠し給ひ、茲に大国治立尊の御子と坐します神伊弉諾大神、神伊弉冊大神の二柱、天津大神の御言を畏み、海月なす漂へる国を造り固め成さむとして、神勅を奉じ、天の浮橋に立ち、泥水漂ふ豊葦原の瑞穂国を、天の瓊矛を以て、シオコヲロ、コヲロに掻き鳴し給ひ、滴る矛の雫より成りしてふ自転倒島の天教山に下り立ち、天の御柱、国の御柱を搗き固め、撞の御柱を左右りより廻り会ひ再び豊葦原の中津国を、神代の本津国に復さむと、木花姫命、日の出神と言議り給ひて、心を協せ力を尽し、神国成就の為に竭し給ひしが、天足彦、胞場姫の霊より現はれ出でたる醜の曲津見、再び処を得て、縦横無尽に暴れ狂ひ、八百万の神人は又も心捩けて、あらぬ方にと赴きつ、復び世は常闇となりにけり。
 茲に天照大御神、神素盞嗚大神は伊弉諾命の御子と現れまして天津神、国津神、八百万の神人に誠の道を説き諭し給ひしが、世は日に月に穢れ行きて、畔放ち溝埋め、樋放ち頻蒔き串差し、生剥ぎ逆剥ぎ、屎戸許々太久の罪、天地に充満し、生膚断、死膚断、白人胡久美、己が母犯せる罪、己が子犯せる罪、母と子と犯せる罪、子と母と犯せる罪、畜犯せる罪、昆虫の災、高津神の災、高津鳥の災、畜殪し蠱物せる罪、許々太久の罪出で来り、世は益々暗黒の雲に閉され黒白も分かずなり行きたれば、素盞嗚大神は葦原国を治め給ふ術もなく日夜に御心を砕かせ給ひ、泣き伊佐知給へば、茲に神伊弉諾命、天より降り給ひて、素盞嗚尊にその故由を問はせ給ひ、素盞嗚尊は地上の罪悪を一身に引受け、部下の神々又は八岐大蛇醜神の曲を隠し、我が一柱の言心行悪しき為なりと答へ給へば、伊弉諾大神は怒らせ給ひ、
『ここに汝は海原を知食すべき資格なければ、母の国に臻りませ』
と厳かに言宣り給へば、素盞嗚尊は姉の大神に事の由を委細に申し上げむと、高天原に上り給ふ。此時山川草木を守護せる神々驚きて動揺し、世はますます暗黒となりければ、姉大神は弟神に黒き心ありと言挙げし給ひ、茲に天の安河を中に置き、天の真奈井に御禊して、厳之御魂、瑞之御魂の証明し給ひ、姉大神は変性男子の御霊、弟神は変性女子の御霊なる事を宣り分け給ひぬ。
 素盞嗚尊に従ひませる八十猛の神々は大に怒りて、
『吾が仕へ奉る素盞嗚大神は清明無垢の瑞霊に坐しませり。然るに何を以て吾が大神に対し、黒き心ありと宣らせ給ひしか』
と怒り狂ひて、遂に姉大神をして天の岩戸に隠れ給ふの已むなきに到らしめたのは、実に素盞嗚尊の為に惜しむべき事である。
 茲に素盞嗚大神はいよいよ千座の置戸を負ひ給ひ、吾が治せる国を姉大神に奉り、高天原を下りて、葦原の中津国に騒れる曲津神を言向け和し、八岐大蛇や醜狐、曲鬼、醜女、探女の霊を清め、誠の道に救ひ、完全無欠、至善至美なるミロクの神政を樹立せむとし、親ら漂浪の旅を続かせ給ふ事となつた。
 大洪水以前はヱルサレムを中心として神業を開始し給ひしが、茲に国治立尊の分霊国武彦と現はれて、自転倒島に下りまし、神素盞嗚大神と共に五六七神政の基礎を築かせ給ふ事となつた。それより自転倒島は、いよいよ世界統一の神業地と定まつた。
 顕国玉の精より現はれ出でたる如意宝珠を始め、黄金の玉、紫の玉は、神界における三種の神宝として、最も貴重なる物とせられて居る。此三つの玉を称して瑞の御霊と云ふ。此玉の納まる国は、豊葦原の瑞穂国を統一すべき神憲、惟神に備はつて居るのである。
 茲に国治立命は天教山を出入口となし、豊国姫神は鳴門を出入口として、地上の経綸に任じ給ひ、永く世に隠れて、五六七神政成就の時機を待たせ給ひぬ。素盞嗚尊は其分霊言霊別命を地中に隠し、少彦名命として神業に参加せしめ給ひしが、今又言依別命と現はして、三種の神宝を保護せしめ給ふ事となつた。言依別命の神業に依りて、三種の神宝は錦の宮に納まり、いよいよ神政成就に着手し給はむとする時、国治立命と豊国姫命の命に依り、未だ時機尚早なれば、三千世界一度に開く梅の花の春を待ちて三箇の神宝を世に現はすべしとありければ、言依別命は私かに神命を奉じて、自転倒島の或地点に深く隠し給ひし御神業の由来を本巻に於て口述せむとす。有形にして無形、無形にして有形、無声にして有声、有声にして無声なる神変不可思議の神宝なれば、凡眼を以て見る事能はざるは固よりなり。
 凩荒ぶ冬の夜の  月の光を浴びながら
 心にかかる黒雲の  晴るる隙なき黒姫が
 言依別命より  言ひつけられて人知れず
 納め置きたる黄金の  玉の在処を調べむと
 丑満時に起き出でて  独りスゴスゴ四尾山
 麓の一つ松が根に  匿まひ置きし石櫃の
 そつと蓋をば開き見て  思はずドツと打倒れ
 吾責任も玉無しの  藻脱の殻の悲しさに
 如何はせむと起き直り  思案に暮れて居たりしが
 忽ち人の足音に  気を取直し立ちあがり
 木蔭を索めて帰り行く。
 窺ひ寄つたる二人の男、松の根元に立寄りて、
甲『ヤア黒姫さまの様子が怪しいと思うて跟いて来たが、大方これは蜈蚣姫が占領して居つた黄金の玉を、言依別命から信任を得て、黒姫が隠して置きよつたのだなア』
乙『併し黒姫さまは蓋を開けるが早いか吃驚して尻餅を搗いたぢやないか。大方紛失して居たのぢやあるまいかな。そんな事だつたら、黒姫もサツパリ駄目だがなア』
『あんまりの玉の光に驚いて、尻餅を搗いたのだらう、それに定つて居るよ。誰一人こんな所に隠して置いたつて、探知する者がないからな。肝腎の紫姫さまでさへも御存じない位だから………』
『イヤどうも怪しい黒姫の姿、影が薄い様だ。一つそつと尋ねて見ようぢやないか。グヅグヅして居ると、姿が分らなくなつて了ふよ』
『サ、早く往かう。最早姿が見えなくなつたぢやないか』
とキヨロキヨロ其処らを見廻して居る。忽ち下手の溜池にバサリと人の飛び込む水音、二人は驚いて池の辺に駆けつけ見れば、何の影もなく、唯水面を波が円を描いて揺らいで居る。月の影さへも砕けて、串団子の様に長く重なり動いて居る。
甲『ヤア此処に履物が一足脱いである。こりやてつきり黒姫さまのだ。ヤア大変だ、カーリンス、貴様は早く帰つて言依別様に申し上げ、大勢の信者を引率して救援隊を繰出して呉れ。俺はそれ迄此処に保護して居る』
『馬鹿言ふない。グヅグヅして居る間に縡れて了ふぢやないか』
と云ふより早く、カーリンスは、薄氷の張りかけた池に、赤裸となつて飛び込み、水を潜つて黒姫を引抱へ、漸くにして救ひあげた。黒姫は最早虫の息となつて居る。
『オイ、テーリスタン、誰にも此奴ア、様子を聞く迄極秘にして置かなくては、黒姫さまの為にはよくなからうぞ。兎も角俺も寒くて体が凍てさうだ。そつと此処で火を焚いて黒姫様の体を温めて息を吹き返さすのが第一だ。オイ貴様早く、そつと帰つて二人の着物を……何でも良いから持つて来て呉れ』
『ヨシ合点だツ』
とテーリスタンは黒姫の館へ駆けつけ、そつと衣服を二人前、小脇に抱い込み帰つて来た。其間に黒姫は息を吹き返して居た。テーリスタンは息を喘ませながら、
『サア漸く持つて来た。早く着て呉れ。寒かつただらう』
『アヽそれは御苦労だつた。サア黒姫さま、兎も角これを着て下さい』
『お前はテー、カーの両人ぢやないか。なぜ妾の折角の投身を邪魔なさるのだい。どこまでも妾を苦しめる心算かい』
カーリンス『コレ黒姫さま、チツと確りなさらぬか。お前さまは精神に異状を来して居るのだらう。生命を助けて貰つて不足を云ふ者が何処にありますか。なア、テーリスタン。御苦労だつた位云つても、あんまり損はいくまいに………こんな怪体な事を聞いたことはないのう』
テーリスタン『コレ黒姫さま、お前さまが覚悟で陥つたのか、過つて陥つたのか………そら知らぬが、吾々二人は生命を的に、此寒いのにお前さまの生命を助けたのだ。なぜそんな不足さうな事を言ふのだい』
『妾はどうしても生きて居られぬ理由があるのだよ。どうぞ死なしてお呉れ』
と又もや駆け出さむとするを、カーリンスは大手を拡げ、
『待つた待つた、死んで花実が咲く例しがない。仮令どんな事があつても、死んで言訳が立つものか。却て神界に於て薄志弱行者として冥罰を受けねばなるまい』
『何と云つても死なねばならぬ理由がある。どうぞ助けてお呉れ』
『助けて上げたぢやないか』
『助けると云ふのは、妾の自由に為して呉れと云ふのだよ』
『自由にするとは、そりや又どうすると云ふのだい。一日でも生きよう生きようとするのが人間の本能だ。死ぬのを助かるとはチツと道理に合はない。そこまでお前さまも覚悟をした以上は、どんな活動でも出来るだらう。生命を的に神界の為に活動し今迄の罪を贖ひし上、神様のお召しに依つて国替するのが本当だよ』
テーリスタン『此位な道理の分らぬ貴女ぢやないが、何故又さう分らぬのだらうかナア』
『何も彼もサツパリ分らぬ様になつて来ましたよ』
『お前さま、言依別命様より保管を命ぜられた、黄金の玉を紛失したのだらう』
『何ツ、それが如何してお前に分つたのか』
『私は貴女がチヨコチヨコ夜分になると、宅を出て往くので、此奴ア不思議だと、二人が何時も気を付けて居つたのだ。さうすると、四尾山の一本松の麓へ行つて居らつしやる。今日も今日とて不思議で堪らず、来て見れば、お前さまは松の木の根元で、唐櫃を開いて腰を抜かしなさつただらう。てつきり黄金の玉を誰かに盗まれ、其責を負うて自殺しようとしたのだらうがナ』
『何ツ、お前は何時も妾の行動を考へて居たのか。油断のならぬ男だ。そんなら其玉の盗賊はお前達両人に間違なからう……サア有態に仰有れ』
『これはしたり、黒姫さま。それは何と云ふ無理を仰有るのだ。能う考へて御覧なさい。吾々両人が其玉を仮りに盗んだとすれば、どうしてお前さまを助けるものかい。池へ陥つたのを幸に、素知らぬ顔をして居るぢやないか』
『兎も角、あの松の木の下へは、お前達二人、何時も来ると云ふぢやないか。玉の在処を知つた者が盗らいで誰が盗らう。何と云つても嫌疑のかかるのは当然ぢや。妾もあの玉に就ては生命懸に保護をして居るのだから、お前の生命を奪つてでも白状させねば置かぬのだよ』
とカーリンスの胸倉をグツと握り、首を締め、
『サア、カーリンス、玉の在処を白状しなさい』
テーリスタン『コレコレ黒姫さま、何をなさいます。あんまりぢや御座いませぬか』
『エー喧しい。お前も同類だ。白状せぬと、カーリンスの様に揉み潰して了はうか。二人が共謀して居るのだから、見せしめに此奴の息の根を止め、次にお前の番だから、其処一寸も動くこたアならぬぞえ』
『アヽ苦しい苦しい。オイ、テ、テ、テーリスタン、婆アさまを退けて呉れ、息がト、ト止まる』
と声も絶え絶えに叫んで居る。テーリスタンは已むを得ず、黒姫の腰帯をグツと握り、力に任せて後へ引いた。黒姫は夜叉の如く、声も荒らかに、
『モウ此上は破れかぶれだ。汝等両人白状すれば可し、白状致さねば冥途の道伴にしてやらう』
と死物狂ひに両人に向つて飛び付き来る其の凄じさ。二人は、
『黒姫さま、待つた待つた。私ぢやない。さう疑はれては大変な迷惑を致しますよ』
『ナニ、貴様は高春山で悪い事ばかりやつて居た奴だから、また病気が再発したのだ。改心したと見せかけ、鷹依姫と諜し合はして、此玉を盗り、尚其上如意宝珠の玉を持つて逃げる計画に違ない。アヽさうなると、妾も今死ぬのは早い。お前達の計画をスツカリと素破抜いて、根底から覆へさねばならないのだ。サア如何ぢや、何処へ隠した。早く言はぬかい』
 テー、カー両人は泣声になつて、
『モシモシ黒姫さま、それはあまり残酷ぢやありませぬか』
『ナニ、どちらが残酷だ。妾に是れ丈の失敗をさせて置いて、白々しく、知らぬ存ぜぬの一点張で貫き通さうと思つても、此黒姫が黒い眼でチヤンと睨んだら間違はないのだよ。斯う云ふ所で愚図々々して居ると人に見付かつては大変だ。サア妾の館までそつと出て来なさい。ユツクリと話をして互に打解けて、玉の在処をアツサリ聞かして貰ひませう。さうすれば妾も結構なり、お前も言依別命様にとりなして幹部に入れてあげる。何時までも妾の宅に門番をして居つても詰らぬからナア……』
テ、カ『ハイ、そんなら御言葉に従ひ、お宅へ参りませう』
『ア、それでヤツと安心した。素直に在処を白状するのだよ』
『ハテ、困つた事だなア』
と二人は思案に暮れてゐる。
(大正一一・五・二四 旧四・二八 松村真澄録)
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