天地の元津御親である国治立大神は、醜の曲津の猛びによってぜひ無く豊国姫命とともに独身神となって御身を隠したもうた。
大国治立尊の御子である神伊弉諾大神、神伊弉冊大神の二柱は、神勅を奉じて海月なす漂へる国を造り固めようとした。木花姫命や日の出神とはかって神国成就のために尽くしたのだが、天足彦・胞場姫の霊から現れ出た曲津見が荒れ狂い、八百万の神人たちの心は再びねじけて、世は常闇となってしまった。
神伊弉諾命の御子と生まれた天照大御神と神素盞嗚大神は、天津神・国津神たちに道を説き諭したが、日に世に穢れが積もって多くの罪が出で来た。
素盞嗚大神は葦原国を治めるべく心を砕いたが、治めるすべもなく泣き叫んだ。神伊弉諾命はこれを見咎めて、葦原国を治める資格がないので母の治める地下の国へ行くように、と申し渡した。
素盞嗚尊は姉神・天照大御神に事と次第を申し上げようと高天原に上ったが、天照大御神は素盞嗚尊が高天原を奪いに来たのではないか、と真意を疑った。
素盞嗚尊の疑いは、誓約によって晴れたが、素盞嗚尊の従神たちが怒って暴れたために、素盞嗚尊は千座の置戸を背負って高天原を追われ、地上の国々にはびこる邪神たちを言向け和す漂浪の旅を続けることとなった。
大洪水以前はエルサレムが神業の中心地であった。その後、国治立尊の分霊・国武彦が自転倒島に現れて、神素盞嗚大神と共に五六七神政の基礎を築いた。それより自転倒島は世界統一の神業地と定まった。
顕国玉の精より現れた如意宝珠の玉、黄金の玉、紫の玉は神界における三種の神宝として最も貴重なものとされている。この三つの玉を称して瑞の御魂という。この玉が納まる国は、豊葦原の瑞穂国を統一すべき神憲が備わっているのである。
国治立命は天教山を出入り口となし、豊国姫神は鳴門を出入り口として、地上の経綸を行い、長く世に隠れて五六七神政成就の時機を待った。
素盞嗚尊は分霊・少彦名命として神業に参加していたが、今また言依別命と現れて三種の神宝を保護することとなった。
三種の神宝は錦の宮に納まったが、国治立命・豊国姫神の命によって、いまだ時期尚早なれば三千世界一度に開く梅の花の春を待って三個の神宝を世に表すべし、とあったため、言依別命はひそかに自転倒島のある地点に深く隠した。
本巻はその神業の由来を口述する。有形にして無形、有声にして無声なる神変不可思議の神宝なので、凡眼では見ることができないものである。
黒姫は、言依別命から黄金の玉を守る役目を与えられていた。黒姫は黄金の玉を四尾山の麓の一つ松の下に埋めて隠し、ときどき密かにその無事を確認にやってきていた。
ある晩、黒姫がしばしばこそこそとどこかへ出かけていくのを不審に思ったテーリスタンとカーリンスは、黒姫のあとをつけて四尾山の麓までやってきた。
すると黒姫は、一つ松の下から石びつを掘り出して、その蓋を開けて中をのぞいていた。しかし黒姫は中が空っぽであることに驚いてどっと打ち倒れてしまった。黒姫は人の足音を聞きつけて気を取り直し、木陰に姿を隠した。
テーリスタンとカーリンスは、黒姫が去った後に一つ松の下に来て、石びつを確認し、言依別命が黒姫に託した黄金の玉は、ここに隠されてあったことを悟った。しかし先ほど見た黒姫の様子が変だったので、二人は黒姫の姿を辺りに探す。
すると下手のため池に人が飛び込んだ音がした。二人は駆けつけると、池の縁に履物が脱ぎ捨ててあるのが見えた。黒姫が身投げしたことを悟り、カーリンスは池に飛び込んで黒姫を救出した。
カーリンスは、二人分の着物を取りに行き、その間にテーリスタンが火を起こして黒姫の体を温めた。そのうちに黒姫は気が付くが、死なしてくれ、と言ってテーリスタンとカーリンスを困らせる。
テーリスタンは、黒姫が黄金の玉を紛失したのだろう、と推測する。黒姫は図星を指されて、自分を助けてくれたテーリスタンとカーリンスが、てっきり玉を盗んだものと疑い始め、二人を厳しく詰問しだした。
テーリスタンとカーリンスは、親切心が仇となってあらぬ疑いをかけられたことに困惑している。