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文献名1霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
文献名2第2篇 恩愛の涙よみ(新仮名遣い)おんあいのなみだ
文献名3第6章 神異〔718〕よみ(新仮名遣い)しんい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-06-26 18:55:24
あらすじ
駒彦と秋彦は、常楠の家に三日間逗留していた。三日目の朝に、村人が、宣伝使が泊まっていないかと訪ねて来た。

聞くと、二人の宣伝使が竜神の柿を食ったため、竜神から酋長に二人を捕らえて人見御供にするように、との命令が下ったとのことだった。

竜神に不調法があると村を荒らされるとのことで、常楠は自分が身代わりとなろう、と言う。それを聞いた駒彦は、柿を取ったくらいで村を荒らすのはてっきり邪神だろうから自分たちが退治しようと言い、秋彦も賛成する。

常楠は、竜神は八岐大蛇の一の子分だというからとうてい敵わないだろう、と嘆き悲しむ。駒彦と秋彦は、酋長の捕り手が来るのを待っていた。

酋長の木山彦が捕り手を連れて現れた。木山彦は竜神の二人の運命に遺憾の意を表する。駒彦と秋彦は酋長の心中を察して、進んで人身御供を申し出た。

常楠は木山彦に、駒彦は長い間探し求めていた自分の息子であることを明かした。木山彦はそれを聞いて同情の意を表し、そして自分にも鹿という子があったが幼い頃に神隠しに遭ってそれ以来行方不明なのだ、とふと漏らした。秋彦はそれを聞いてはっと思い当たる。

駒彦と秋彦は用意された白装束に着替えると唐びつに自ら入り、竜神の宮に運ばれていった。常楠夫婦は嘆き悲しみつつそれを見送り、自分の家に帰ると、押入れの中から駒彦と秋彦が現れた。

驚いている常楠夫婦に、駒彦は、大神様への祈願を凝らしたところ、白狐明神が現れ、身代わりとなって邪神退治に行ってくれたのだ、と明かした。四人はここを立ち去って隠れることとし、常楠は家に火をかけた。一行は日高川沿いに向かっていった。

一方、二人を竜神の人身御供に供した木山彦は、家に帰ると妻の木山姫に今日のことを話し出した。木山彦も、逃げた村人の償いとして二人の娘を竜神の人身御供に取られ、男子は幼い頃に神隠しに遭っていた。

木山彦は、竜神の人身御供に差し出した秋彦が、自分の息子の鹿であることを見抜いており、そのことを木山姫に明かした。そして夫婦は自分たちの運命に泣き崩れていた。

そこへ小頭の助公が急ぎ走ってきて、二人の宣伝使が竜神を打ち負かして谷川へ投げ込んで退治したことを報告した。宣伝使の二人は、助公にこのことを酋長に報告し、今後は人身御供の必要がないことを告げるように、と言い残してたちまちどこかへ姿を隠してしまったという。

酋長はこれを聞いて喜んだ。助公は、宣伝使が落としたものとして古い守り袋を差し出した。それを改めた木山姫は、確かに自分たちの息子の鹿のものだと認めた。木山彦は木山姫と共に、熊野にお礼参り出発した。
主な人物 舞台木山の里 口述日1922(大正11)年06月11日(旧05月16日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月19日 愛善世界社版95頁 八幡書店版第4輯 528頁 修補版 校定版98頁 普及版43頁 初版 ページ備考
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本文  胸の思ひも秋彦や  心も勇む駒彦は
 親子不思議の対面に  互に心も解け合ひつ
 一夜々々と日を送る。
 ここへ来てから三日目の朝、一人の男、門の戸をガラリと開け、ノソノソと入り来り、
男『常楠の爺さま、お前の内に旅人が泊つては居りませぬかな』
常楠『アヽ誰かと思へば助公か、何用あつて朝早うからお出でになつたのだ』
助『別に用と云つてはないのだが、よくお前の宅に旅人が泊るから、事に依つたらお尋ねしたい事があり、御願もしたいと思つて尋ねに来たのだよ。二三日前から二人のお客が来て居る筈だが……』
常楠『お前の云ふ通り宣伝使が二人泊つて御座るのぢや、どんな用があるのだい』
助『アヽ一寸した事が………、一先づ内へ帰つて、着物でも着替て、改めて来る事にせう。こんな風では失礼だからな』
と云ふより早く踵を返し立ち去らうとする。常楠は無理に呼び止め、
常楠『アヽコレコレ、お前の内へ帰らうと云つても随分遠い道程だ。そんなむつかしい方だないから、御尋ねする事があれば、其儘尋ねて帰つたがよからう』
助『別に頼む事はないが、一つ訊問すべき訳があるのだ。此間の晩にここへ泊つて居る二人の男が、竜神の宮の柿を盗んで食つたと云ふ事だ。酋長さまのお耳に神様からチヤンと御知らせがあつて調査に来たのだから、爺イさま、其二人を取逃さぬ様にして置きなさい。万々一取逃しでもしようものなら、二人の代りにお前達夫婦が生命を取られねばなろまい。つい其付近迄酋長さまが数多の手下を引きつれ召捕に見えて居るのだ。つまり俺の来たのは、実の所を言へば偵察に来たのだよ。モウつい此処へ見えるだらうから………俺は帰つて酋長に……不在ではなかつた……とか、不在だつたとか云ふ積りだから、そこはお前の心に何々したがよからう。余り可哀相だからなア。グヅグヅして居るとモウつい見えるかも知れぬ。………アヽ此処は裏口があり、木の茂みもあり、風景の佳い所だなア』
と今の内に逃げよと云はぬ許りの口吻を漏らし、スタスタと帰つて行く。
 常楠は驚いて奥に入り、
常楠『お久に馬、一寸ここへ来て呉れ、大変な事が起つて来た。秋彦さまに馬は竜神の宮様の柿をむしつて食やせぬかな』
駒彦『宮の前に神様を拝んで居ると、美味さうな柿が風に揺られて、顔のふちへ触つて来たものだから、二人が取つて食ひました。随分味の佳い柿でしたよ。なア秋彦、美味かつたなア』
お久『それは又何とした不調法をして呉れたのだ。そんな事をしようものなら此村は荒れて荒れて難儀をせなくてはならぬ。それで酋長さまが厳しく御禁制になつて居るのぢや、何時でもあの柿を取つた者があると直に、酋長の耳の側へ竜神さまが告げに行かつしやるので、皆荒れが恐さに柿をとつた人間を早速人身御供に上げる事になつて居るのだが………アーア折角親子対面して嬉しいと思へば、又憂目を見るのか、お軽には四五日前に別れ、又兄の馬に死別れるとは、何とした因果な吾々夫婦であらう』
と泣き伏しける。
常楠『この場に及んで、泣いても悔んでも、最早後へは戻らない。何事も前生の因縁ぢやと諦めて、吾々老夫婦が身代りになつて行かう。サア早く、馬に秋彦の宣伝使様、あなたは未だ行先が長い、是れから世の中の為に尽さねばならぬから、どうぞ裏口から一時も早く逃出して下され。二人を逃がした罪は老人夫婦が引受けるから………アーア折角久し振りで忰に会うたと思へば、モウ別れねばならぬか』
と流石気丈な常楠も男泣きに泣き立てる。
駒彦『御両親様、御心配には及びませぬ。柿の五つや十取つたと云つて、村中荒れると云ふ様な分らずやの神なれば、てつきり邪神でせう。善悪の立替をなさる……我々は神々を背中に負うて歩いて居る宣伝使だから、一つ其竜神を往生さして、此村の害を除く事にしませう。決して決して御心配下さいますな』
秋彦『吾々はよい研究材料を得たのだ。ヤア面白うなつて来た。日高川が川止めになつたのも全く神様の御摂理であつたらしい。其お蔭で竜神を言向け和し、此附近の土地を安楽にしてやる様にするのは、吾々宣伝使の好んで為さねばならぬ神業だ。サア駒彦さん、行きませうか』
常楠『コレコレ両人、お前達は年が若いから、そんな無茶な事を言ふが、昔から八岐の大蛇の一の眷属ぢやと云うて、大変な強い竜神さまが、あの滝には鎮まつて御座るのだから、必ず必ずそんな処へ行つてはなりませぬ。サア早く此裏口から逃げて帰つて下され。あとは老人夫婦が身代りになるから………アーア是れが吾子の見納めか』
と又泣き沈む。お久も目を腫らし涙に暮れて顔さへえあげず、畳に喰ひ付いて、肩で息をして居る。
秋彦『吾々二人が老人夫婦を見棄てて立去る訳にはどうしてもゆかない。どうだ一層の事、一人づつ背に負ぶつて、此山伝ひに安全地帯まで逃げる事にしようか。なア駒彦、それより上分別はあるまい』
駒彦『吾々は敵を見て退去するのは、何ともなしに心が済まぬ。斯う云ふ時にこそ言霊の威力を以て如何なる強敵も言向け和すのが吾々の職責ではないか』
秋彦『あゝそれもさうだ。そんなら捕手の来るまで此処に待つことにしよう』
 斯く話す折しも門の外俄に騒がしく、数多の人の足音刻々に近寄り来る。酋長の木山彦は十数人の従者を伴ひ物をも言はず表戸を引開け、ドヤドヤと入来り、
木山彦『ヤア常楠夫婦、汝が宅には竜神の宮の柿を盗み食つたる二人の宣伝使が匿まひありと聞く。サア速に両人を此場に引摺り出し、手渡しせよ』
と厳かに言ひ渡し、家の周囲に手下を間配つて逃がすまじと厳重に構へて居る。常楠夫婦は答ふる言葉もなく『ハイ』と言つた限り、俯むいて涙の目をしばたたいて居る。奥の一間より秋彦、駒彦の両人は躍り出で、
秋彦『ヤア木山彦の酋長とやら、お役目御苦労で御座る。如何にも吾々は竜神の宮の柿を腹一杯取つて喰つた者で御座る、如何すると仰有るのですか』
木山彦『昔から竜神の宮の柿を取喰ふ者ある時は、竜神の祟りに依つて、日高山一帯の地方は大洪水、大風、大地震の天災地変が起つて来るのだ。一昨夜も吾耳許に竜神現はれ、駒彦、秋彦と云ふ二人の男、柿を取喰ひ、今常楠の家に逗留し居ると御知らせになつた。可哀相だが汝等二人を、今晩は人身御供にあげ、お詫を致さねばならぬ。これも此村の昔からの掟だから、観念して吾々の申す通り、神妙に人身御供にあがるがよからう』
と声も曇らせ乍ら、稍俯むき同情の思ひに暮れて居る。駒彦、秋彦は木山彦の心を察し、
駒彦『ハイ有難う。どうぞ私を人身御供にやつて下さい。今度は悪業をなす竜神をスツカリ改心させ、柿の木を根元より掘起し、竜神の宮を叩き壊し、向後の害を除きませう。サアサアどうぞ早く吾々両人を引張つて往つて下さい』
木山彦『早速の御承知、吾々満足に思ふ。が併し宮を潰し木を伐るなどとの暴言は止めて貰はねばならぬ』
 常楠涙の顔を上げ、
常楠『モシ酋長さま、実の所此男は三才の時に天狗に攫はれて、行方の分らなかつた馬楠で御座います。二三日以前にフトした事から、親子巡り会ひ、喜ぶ間もなく斯んな悲しい事になりました。妹のお軽は賊に殺され、二人の子供は老夫婦を後に残して、冥土の旅立を致さねばならぬ破目になつたのも、私の深き前生の罪がめぐつて来たので御座いませう。御推量下さいませ』
と涙を拭ひ俯く。お久は身を慄はせ泣く計りであつた。木山彦も悲歎の涙に暮れ乍ら、
木山彦『アヽ彼の馬楠と云ふ子は此人だつたのか、実にお歎きの程お察し申します。併し乍らお前の子も天狗に浚はれたが、仮令三日でも、親子の対面が出来て別れるのだからまだしもだ。吾々は恰度お前の伜と同じ様な年輩で鹿と云ふ子があつた。それが何者に浚はれたか今に行方は知れず、比叡山を立出てそれより大和、河内、紀の国と所在を探し、漸う漸う此処で観念の臍を固め、最早死んだものと諦め、村人に選まれて酋長になつたのだが、お前が伜に面会した喜びを思ふに付けて、私も何だか失うた子供の事を思ひ出し悲しうなつて来た。アヽ仕方がない。何事も運命だ。サア二人の方、気の毒乍らチヤンと用意が出来て有る。此唐櫃に這入つて下さい』
 秋彦は木山彦の言葉、鋭く耳に入り腕を組み呆然として居る。常楠夫婦は声を限りに泣き叫ぶ。木山彦は涙を隠し、声を荒らげ、
木山彦『時遅れては一大事サア早く早く』
と迫き立てる。駒彦、秋彦は直に唐櫃の中に飛び込まうとするを、木山彦は押止め、
木山彦『アヽお二人さま、一寸待つて下さい。ここに白装束が持つて来てある。お前さまの着物をスツクリ脱ぎ捨て、此れと着換て往て貰ひたい』
 二人は『あゝ久し振りで新しき御仕着せを頂戴致します。……サア是れから千騎一騎の活動だ』と心に喜び乍ら唐櫃の中に這入つて了つた。木山彦は『助公々々』と呼び立てる。言下に助公始め十数人の男はバラバラと集まり来り、唐櫃の戸を固く締め、七五三縄を以て縛り付け、大勢に担がせ、此家を立出でんとする時、老夫婦は慌て門口へ送り出で、其儘そこに昏倒して了つた。木山彦は二三の男を後に残し、老夫婦の看護をさせ、漸く息を吹き返さしめた。酋長は老人夫婦を労り慰め、悠々として家路に帰つた。
 一方二台の唐櫃は竜神の宮指して、人夫の唄の声と共に遠ざかり行く。老人夫婦は互にしがみつき悲歎の涙遣る瀬なく、身を悶え居る時しも、押入れの中よりムクムクと現はれ出たる駒彦、秋彦の二人、老夫婦の背を撫で、
駒彦『モシモシ馬で御座います。……秋彦で御座います。御安心下さい。コレ此通り無事に居ります』
と聞いて夫婦は二度ビツクリ、夢か現か幻かと二人の顔を看まもり、暫しは言葉もえ出さず呆れて居る。稍あつて常楠は、
常楠『ハテ不思議な事もあるものだなア。如何して此処へお前達は帰つて来たのか。又もや追手が迫つて来はせぬか。サア早く何とかせねばなるまい』
と嬉しさ恐さに身をもがく。
駒彦『御両親さま、御案じ下さいますな。只今大神様へお願致しました所、高倉、旭の明神現はれ、身代りになつて行つて呉れられました。モウ大丈夫です。併し乍らここに居つては一大事、サア今の内に我々四人、手に手を取りて日高川を渡り、熊野方面指して参りませう。必ず御心配は要りませぬ。吾々は神様と二人連れ、滅多な事はないから、一時も早く此処を立去る事に致しませう』
 老夫婦は雀躍りし、一も二もなく二人の言葉に賛意を表し匆々此家に火をかけ、急いで日高川の岸辺を指して進み行く。
    ○
 木山彦は二三の従者と共に我館に立帰り、ものをも言はず奥の一間に入りて、双手を組み溜息をつき、思案に暮れて居る。此場に茶を汲んで現はれた妻の木山姫は、夫の普通ならぬ顔に不審を起し、恐る恐る両手を突き、
木山姫『今日に限つて心配さうなあなたの御顔、何か又大事が突発致しましたか』
と尋ねる。木山彦は妻の言葉の耳に入らざるが如く、黙然として俯むき、両眼よりは紅涙滴々として滴るのであつた。木山姫は合点行かず、側近く寄り添ひ、
木山姫『モシ吾夫様、何か御心配な事が出来ましたか』
と云ふ声に始めて気がつき、
木山彦『アヽ木山姫か』
木山姫『今日に限つてハツキリせぬあなたの御顔、どうぞ包み隠さず仰有つて下さりませ』
木山彦『アーア人間位果敢ないものは無い。私も三人の子供があつたが二人迄、村の者が竜神の宮の柿を取り、何処かへ遁走したので、其身代りに二人の娘は奪られ、一人の伜は何者に攫はれたか、幼少の時より行方知れず、斯うして二人が日高の庄の酋長と仰がれ、老の余生を送つては居るものの、思へば思へば寂しい事だ』
と又俯向く。
木山姫『今日に限つた事では御座いませぬ。どうぞ過去つた事は思ひ出さずに、ハンナリとして暮して下さいませ。妾も女の身乍ら既に諦めて居ります』
木山彦『若しも紛失致した伜の鹿公が此世に居つたら、お前は如何思ふか』
木山姫『お尋ねまでもなく、そんな嬉しい事は御座いませぬ。して又伜の行方が貴方にお分りになつたのですか』
木山彦『イヤ分つたでもなし、分らぬでもなし。……アーア実に残念な事ぢや。会はぬがマシであつたワイ』
木山姫『エヽ何と仰せられます。会はぬがマシ…………とは心得ぬお言葉。あなたは伜にお会ひになつたのでせう。なぜ如何とかして連れて帰つては下されませぬ』
木山彦『連れて帰りたいは山々なれど、儘にならぬは浮世の慣ひだ。あの常楠の老夫婦も一人の娘を賊に殺され、永らく分らなかつた伜に遇うたと思へば、竜神の宮の人身御供にあげられ、言ふに謂はれぬ悲歎の涙に暮れて居た。アヽ可哀相だ。他人の事かと思へば吾身の事だ。日頃心にかけて慕うて居つた伜の鹿公も………アヽモウ言ふまい言ふまい』
と又もや俯向き吐息をつく。
木山姫『それはそれは常楠の老夫婦も可愛相な事をしましたなア。併し伜の鹿にお会ひになつた様な貴方のお言葉、それは一体如何なつたので御座います』
木山彦『モウ仕方がない。驚いて呉れな実は鹿公に会うて来た。名乗もならず、暗々と常楠の伜と共に人身御供にやつて了うた』
と耐ばり切つたる悲しさの堤も切れて、大声に男泣きに泣き立てた。木山姫もハツと驚き共に涙に正体なく身を揺つて泣き倒れる。斯る所へ息急き切つて走つて来た小頭の助公は、
助公『申上げます。唯今竜神の宮へ二人の人身御供を持つて参りますと、神殿俄に鳴動致し、中より白髪異様の恐ろしき神が現はれ、唐櫃の戸を叩き破りました途端に、二人の宣伝使は躍り出で、白髪異様の神を相手に組んづ崩れつ大格闘をやつて居りましたが、遂には宣伝使の力が勝れて居つたと見え、神さまは二つに引き裂かれて、谷川へドツと許りに投げ込まれ、川水は忽ち血の川となつて了ひました。吾々共は大地に平太張り恐々此活劇を見て居りました所、二人の宣伝使は吾々に向ひ……最早竜神の宮の悪神は退治致したれば、今後は決して人身御供などを請求する気遣ひはない。又今後は柿の実は汝等勝手に取つて食つて差支ない………と仰せられ、且私を特に近くお召しなされ………一時も早く此事を木山彦の酋長に伝達せよ………との厳命で御座りました。ハツと驚き承知の旨を答へますると、二人の宣伝使は谷川伝ひに猿の如く何れへか姿を隠されました、最早今後は人身御供の憂へも御座りませぬから、御安心下さりませ』
と詳細に物語るを聞いた木山彦は立ち上り、
木山彦『ナニ竜神の宮の神様を退治致したと……さうして其宣伝使の行方は分らぬか』
助公『ハイ余り御足が早いので、追つ付いておたづね申す事も出来ずどこへお出になつたか皆目見当が付きませぬ。已むを得ず帰路に就けば常楠の家はドンドンと燃えて居ります。あゝ可愛相に老人夫婦は助けてやりたいと思ひ、探して見ても影も形もなく、大方自ら火を放ちて、夫婦が焼け死にでもしたので御座いませう。実に可愛相な事を致しました』
木山彦『それは御苦労であつた。さぞ村人も喜ぶ事であらう。併し乍ら二人の宣伝使は何か落して行かれなかつたか』
と問はれて助公は、
助公『ハイ斯様な物が落ちて居りました』
と守袋を懐から取出し手に渡せば、木山彦は、
木山彦『コリヤ木山姫、此守袋はお前覚えがないか』
と木山姫の前に突出せば、木山姫は、
木山姫『一寸見せて下さいませ』
と手に取り上げ、裏表を打かへし眺めて、
木山姫『あゝ確かに覚えが御座います。余り古びて居りますので、ハツキリは分りませぬが守袋の底に○に十の字を印して置きましたが、未だにウツスリと残つて居ります。これは全く伜の守袋に間違は御座いませぬ』
木山彦『それならば確かに伜に間違ひない。兎の様な尖つた耳で時時耳を動かせる所、鼻の先の尖つた所はお前に生写、アヽ偉い者だなア。よう伜助かつて呉れた。常楠の伜もそれでは無事だつたか。あゝ有難い、全く熊野の神様の御守護だ。サア女房、吾々も此館を暫く明けて熊野へ夫婦連れ、御礼参りをしようではないか。又神様の御引合せで伜に遇へるかも知れぬ、善は急げだ、早く用意をせよ』
木山姫『先づ先づジツクリと気を落ち着けて下さりませ。急いては事を仕損ずると云ふ諺もありますから……』
 木山彦は周章て、
『お前厭なら来なくてもよい、サア助公、随伴の用意だ』
助公『ハイ畏まりました、直様用意に取掛りませう』
木山姫『左様なれば妾も一緒にお伴指して下さいませ。併し留守は如何したら宜しいか』
木山彦『留守も何も要つたものか。家財よりも何よりも、大切な宝は吾子よりないのだ。子に会へさへすれば、財産も何も要るものか。如何なろと構はぬ。サア早く往かう』
 助公は家の戸締り万端に気を付け、夫婦の後に随ひ、熊野を指して出て行く。
(大正一一・六・一一 旧五・一六 松村真澄録)
(昭和一〇・六・五 旧五・五 王仁校正)
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