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文献名1霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
文献名2第4篇 混線状態よみ(新仮名遣い)こんせんじょうたい
文献名3第17章 黄竜姫〔729〕よみ(新仮名遣い)おうりょうひめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ竜宮島・オーストラリヤ(オースタリヤ) データ凡例 データ最終更新日2021-07-08 17:23:42
あらすじ
蜈蚣姫の前に連れて来られた友彦はたちまち頭を床にすりつけて平謝りする。蜈蚣姫は自分の娘の小糸姫の行方を友彦に尋ねる。

友彦は、小糸姫に愛想をつかされて、小糸姫はある夜一枚の書置きを残してどこかへ逃げてしまったことを明かした。その書置きは、見たこともない字で書かれていて、友彦には読めないという。

そのスパルタ文字で書かれた書置きを見た蜈蚣姫は、小糸姫が友彦に愛想をつかした文面を読んで笑ってしまう。そしてそこに、小糸姫がオーストラリヤに渡って一旗上げるつもりだと書いてあるのを見て、現在噂に名高いオーストラリヤの黄竜姫というのが、小糸姫だと覚った。

そうと知った蜈蚣姫は、オーストラリヤに渡ろうとする。友彦は一緒に連れて行ってくれと蜈蚣姫に頼むが、蜈蚣姫は途中までは連れて行くが、娘に合わせることは絶対にできないと言って友彦の申し出を拒絶する。

友彦は高姫と貫州にとりなしを頼むが、二人は今は刹那心で着いて行く他にないと友彦に答える。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年06月13日(旧05月18日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月19日 愛善世界社版272頁 八幡書店版第4輯 595頁 修補版 校定版277頁 普及版128頁 初版 ページ備考
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本文  高姫の後に従いて蜈蚣姫の居間にやつて来た友彦は、忽ち頭を床にすりつけ乍ら、
友彦『コレはコレは蜈蚣姫様、久し振りで御壮健なる御尊顔を拝し、友彦身に取つて恐悦至極に存じ奉りまする。唯何事も神直日、大直日に見直し、聞き直し下さいまして、今迄の重々の罪科を御赦し下さいます様、懇願仕りまする』
蜈蚣姫『オホヽヽヽ、コレ友彦、お前も長らく世間をして来た徳に依つて、随分弁舌は巧になつたものだなア。お前は顕恩郷に於て、我が一人の娘小糸姫をチヨロマカし、飛び出て了つた不届きな男だが、一体小糸姫は何処へ隠してあるのだ。可愛い娘の恋男だから、成る可く親として添はしてやりたいは山々なれど、苟くもバラモン教の副棟梁鬼熊別の養子としては、余り御粗末だから我が夫は何うしても御承諾遊ばさず、妾は母親の事とて娘の恋を叶へさしてやりたいばつかりに、いろいろと申し上げたが中々御聞き遊ばさず、其間にお前は、天にも地にも一人より無い我が大事な大事な娘を誘拐して、行方を晦ました太い男だ。其娘を一体何うして呉れたのだ。サ有体に白状しなさい。妾にも一つ考へがある。お前の出様に依つては又添はしてやらぬものでもない。さうすればお前も立派な鬼熊別の御世継だ』
友彦『ハイ、貴女の御言葉は肝に銘じて感謝致しまする。併し乍ら小糸姫様は私の鼻の先が赤いとか、口が不恰好だとか、出歯だとかいろいろと愛想づかしを並べられ、一年ばかり添うて居りましたが、或夜のこと遺書を残して私の側を離れて了ひました。それ故私はモー一度探して会ひたいと思ひ、片時の間も小糸姫様の事を思はぬ暇はありませぬ。誠に済まぬ事を致しました』
蜈蚣姫『さうするとお前は娘に愛想を尽かされたのだな。アーア矢張り私の娘だ。一目見ても反吐の出るやうなお前の面つき。何うして彼の綺麗な娘がお前に恋慕したのだらうと、不思議でならなかつた。お前は娘の幼心につけ込み、いろいろと威嚇文句を並べて、無理に伴れ出したのだらう』
友彦『イエイエ滅相も無い、初の間は何処へ往くにも、影の如くに付き纏ひ、煩さくて怺らなかつた位です。決して私の方から恋慕したのぢや御座いませぬ。小糸姫さまの切なる御願ひに依つて、私も已むを得ず応じました。一度刎ねて見ましたところ、小糸姫様は「妾はお前が初恋ぢや。それに斯う無下に肱鉄砲を喰はされては、最早此世に恥かしくて生て居る甲斐が無い。妾の思ひを叶へさして呉れればよし、さうでなければ今此処で自害をする。妾の恋路は普通一般の恋では無い。何処迄も九寸五分式だ」と光つたものを出して、吾れと吾咽喉を突き立て給はむとする時、私は跳びついて「ヤア、逸まり給ふな」と九寸五分を奪ひ取り、思はず互にキツスを致しました。それが縁となつて到頭わり無き仲となつたので御座います』
蜈蚣姫『小糸姫に限つてお前のやうな男に、さう血道を分けて呆ける筈が無い。片相手が居らぬと思つて、そんな嘘を云ふのだらう。サアサ、本当の事を言つて下され』
友彦『実の事は恥しい話ですが、最前も申した通り、私に肱鉄を喰はし、たつた一枚の遺書をかたみに雲を霞と遁げて了はれたので御座います。私は何うしても貴女の御側へ帰つて居られるものと思ひ詰て居りますが、何うぞ隠さずに一度で宜しい、会はして下さいませ』
蜈蚣姫『モシ高姫さま、なんと困つた男ぢやありませぬか。よう図々しい、あんな事が云へたものですなア』
高姫『コレコレ友彦さま、お前は余程性質が悪いぞえ。さうして其の遺書とかは今持つて居りますか』
友彦『ヘーイ、其の一枚の遺書が私の生命の綱だ。之を証拠に一度邂逅り会つて旧交を温め、万一叶はずば恨の有り丈を言つて、無念晴しをするつもりで、大切に御守りさまとして持つて居ります』
蜈蚣姫『なに、娘の書いたものをお前は持つて居るか。それを一つ此処へ見せて下さい……』
友彦『見せないことはありませぬが、貴女読めますかな。何だか符牒のやうな文字が書いてあつて、テント私には読めませぬ。二三人の友達にも見せましたけれど、こんな文字は見たことが無いと云つて、誰一人読むものは無し、何が何だか解りませぬ。淵川へ身を投げて死ぬと書いてあるのか、或は又何処かへ行つて待つて居るから来いと云ふのか、薩張り私には受取れませぬ』
蜈蚣姫『兎も角妾に一寸お貸し』
と云ひ乍ら、友彦の手より之を受取り、ももくちやだらけの紙を両手で皺を伸ばし乍ら、
蜈蚣姫『ハヽア、これはスパルタ文字で記してあるから、余程の学者で無いと解らぬワイ。エー……』

一、妾事一時の情熱に駆られ、善悪美醜を省みる遑も無く、両親の御意に背き、お前様の千言万語を尽しての誘惑に陥り、今日で殆ど一年ばかり枕を共に致しましたが初めに会うた時とは打つて変つて野卑と下劣の生地現はれ、妾としては女として鼻持ち相成り難く、気の毒乍ら此の紙一枚を記念として、お前に与へる。今後は決してお前の面と相談し、余り謀叛気を出してはなりませぬぞ。又妾のやうに恥を掻かされ、肱鉄砲を喰はされて悲しまねばなりませぬ。妾は是より黒ん坊の沢山居る、オースタリヤの一つ島へ渡り、黒ん坊の女王となつて栄耀栄華に暮しまする。何程色が黒くてもお前様のシヤツ面に比ぶれば幾ら優しか知れませぬから、今迄の縁と諦めて、此の書を見ても決して跡を追うて出て来るなどの不了見を出してはなりませぬぞ。万々一後を追うて来るやうな事を致したならば、数多の乾児に命じ、お前を嬲殺しに致すから、其の覚悟をしたがよい。必ず生命が大事と思はば、今日限り一場の良い夢を見て居つたと思つて、諦めたがよからう。苟くもバラモン教の副棟梁鬼熊別の娘と生れ、お前のやうな馬鹿男に汚されたかと思へば、残念で、恥しくて、父母にも世界の人にも、何うして顔が会はされやう、アヽ此の文を書くのも胸が悪くなつて来た。水で書くのは余り勿体ないから、お前の小便の汁で墨をすつて、茲に一筆書き遺し置きます。
      天下の賢明なる淑女 小糸姫様より
   振られ男の友彦殿

と記しありぬ。蜈蚣姫は之を見て思はず大口を開け、
『オホヽヽヽ、コレ友彦、お前も余程よい抜作だなア。今改めて読んで聞かしてやらうか。イヤイヤ恥を掻かすも気の毒ぢや。読まぬがよからう。娘の恥にもなることだから……。モシ高姫様、随分間抜けた男ですワ。さうして恋しい娘の行方は分りました。サアこれからお宝を探しがてら、娘の後を追うて参りませう。高姫さま、貴女は此の館を守つて下さいませぬか』
高姫『滅相もないこと仰有いますな。三つの宝を探し出し、大自在天様に献上する迄は、妾の身体は安閑と斯様な処に居ることは出来ませぬ。何処までも貴女とシスターとなつて目的を成就する迄は参らねばなりませぬ』
蜈蚣姫『アヽそれもさうだ。そんなら相提携して活動を致しませう。アヽ娘の所在が分つてこんな愉快なことは無い。噂に聞いて居る竜宮島の黄竜姫といふのが、オースタリヤの声望高き女王と云ふことだ。そんなら彼の女王は我が娘であつたか。嬉しや嬉しや、高姫さまの御かげで、到頭娘の所在が分りました。これと云ふのも大神様の御引合せ、有り難う御座います』
と手を合し涙と共に拝み居る。
友彦『モシモシ、高姫さまに伴れられて来たのではありませぬ。私は勝手に此の岩窟の入口迄参りますと、高姫さまが来て居られたのです。高姫様に逢うたのも今日が初めてだ。高姫さまに御礼を仰有るなら、何故私に御礼を仰有らぬか』
蜈蚣姫『措きなされ、面の皮の厚い、妾が是れ丈け心配をしたのも、可愛い娘が知らぬ他国へ行つて苦労をして居るのも、元を糺せばみんなお前が悪い故だ。何処を押へたら、そんな音が出るのだ。本当に訳の分らぬ奴だ、一国の女王にもなると云ふ、流石の小糸姫が肱鉄を喰はしたのも無理もない。乞食婆だとてお前のやうな男に、秋波を送る奴があるものか。自惚も好い加減にしなされ。泥棒面をさらして何の態だ。娘の行方が分つた以上はお前に用は無い。サア、トツトと帰つて貰ひませう』
友彦『神様は慈愛を以て心となし給ふ。神直日大直日に見直し聞き直しと云ふ事は御忘れになりましたか』
蜈蚣姫『アヽ仕方がない、それもさうぢや。改心さへ出来たら、どんな罪でも赦して下さる神さまだから、私も惟神に赦してやりませう』
友彦『早速の御赦免、有り難う御座います。何うぞ私も貴女の御供をして、オースタリヤの一つ島迄伴れて行つて下さいませ』
蜈蚣姫『それや絶対になりませぬぞ。又病が再発すると親が迷惑するから、中途迄は御供を許して上げるが、彼の島へは絶対に伴れて行くことは出来ませぬ』
友彦『モシモシ高姫さま、袖振り合ふも多生の縁だ。貴女、其処を好いやうに挨拶して下さいなア。……オイ貫州、私に代つて一つ御大に御願ひして赦して貰つて呉れないか』
高姫『私も木石を以て造つた肉体ぢやないから、酸いも、甘いもよく知つて居る。併し今は水のでばなだ。マア控へなされ。折を見て何とか挨拶をして上げるから』
貫州『高姫さまの仰せのやうに、マア暫らく辛抱するのだなア』
蜈蚣姫『誰が何と云つても一旦言ひ出した上は、後へは退きませぬぞや』
貫州『オイ友彦、斯う低気圧がひどく襲来しては駄目だ。グツグツして居ると風雨雷電、如何なる地異天変が勃発するか分らせぬぞ。マア取越苦労は止めて、刹那心で従いて行くのだなア』
友彦『アーア、昔の古疵が、今となつてうづき出して苦しいことだワイ』
(大正一一・六・一三 旧五・一八 外山豊二録)
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