友彦は、鬼熊別夫婦の信任を一段と集めた。また小糸姫も友彦の親切にほだされて、いつとはなしに、面貌卑しい友彦にも好意を抱くようになった。
友彦は小糸姫と割りなき仲になり、それを利用して鬼熊別の後継となるよう、蜈蚣姫を通じて工作を開始した。しかし鬼熊別は友彦の心性を考慮して、自分の後継として指名することは決して許さなかった。
友彦と小糸姫は鬼熊別の心中を悟り、将来を心配して、ついに顕恩郷から出奔して行方をくらましてしまった。
二人は波斯を越えて印度の国の南までやって来たが、この辺りには露の都というバラモン教の大きな拠点があった。事の露見を恐れた二人は、さらに南下してセイロン島に渡った。
セイロン島の人々は、小糸姫の容貌を見て天女の降臨だと思って尊敬し、女王のように扱った。友彦は表向き従者となって過ごした。
しかし友彦はおいおい本性を現して小糸姫が持って来た金銭を湯水のように使って酒に浸り、島の女に戯れ出した。小糸姫の恋はすっかり醒めて、二人の反りは日に日に合わなくなっていった。ついに小糸姫は二人の島人に舟を漕がせて逃げてしまった。
友彦は島人の報せを受けて、小糸姫の出奔を知った。小糸姫の書置きを守り袋にしまうと、後を追って印度の国へ舟を出した。しかしすでに友彦は無一文になっていた。島人たちへの駄賃に着物を与えてしまい、守り袋を首から下げただけの姿で印度の国の浜辺に降り立ち歩き始めた。