船は無数の島嶼を縫って進んでいたが、にわかに深い霧に包まれて、船中の一同は当惑し始めた。
寂寥の気に満たされて、体内を何ものかがかき乱すような感覚に襲われ、頭部には警鐘乱打の声が聞こえだし、一同は少しの風にも身もだえして苦しんだ。
どこからともなく、嫌らしい声が頭上に響いた。声は天の八衢彦命と名乗り、蜈蚣姫と高姫に、善悪混淆で悪が足りないから大悪になり、大悪すなわち大善になれとを叱りつけた。
変性男子の系統を振りかざし、日の出神の生き宮を名乗っておきながら、肝心のときに神力を発揮できない高姫に耳の痛い説諭をする天の八衢彦命に対して、高姫はいちいち憎まれ口を言い返した。
天の八衢彦命は蜈蚣姫にも厳しい説教を垂れ、言霊を使って高姫・蜈蚣姫をやりこめる。そしてアンボイナ島の聖地に渡って再び教訓を受けよ、と告げた。
高姫と蜈蚣姫はすっかりやり込められたが、片意地を張って黙って俯いている。すると濃霧は晴れて、船はいつの間にかアンボイナの港に着いていた。