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文献名1霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻
文献名2第2篇 南洋探島よみ(新仮名遣い)なんようたんとう
文献名3第6章 アンボイナ島〔736〕よみ(新仮名遣い)あんぼいなとう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-07-30 20:40:08
あらすじ
船は無数の島嶼を縫って進んでいたが、にわかに深い霧に包まれて、船中の一同は当惑し始めた。

寂寥の気に満たされて、体内を何ものかがかき乱すような感覚に襲われ、頭部には警鐘乱打の声が聞こえだし、一同は少しの風にも身もだえして苦しんだ。

どこからともなく、嫌らしい声が頭上に響いた。声は天の八衢彦命と名乗り、蜈蚣姫と高姫に、善悪混淆で悪が足りないから大悪になり、大悪すなわち大善になれとを叱りつけた。

変性男子の系統を振りかざし、日の出神の生き宮を名乗っておきながら、肝心のときに神力を発揮できない高姫に耳の痛い説諭をする天の八衢彦命に対して、高姫はいちいち憎まれ口を言い返した。

天の八衢彦命は蜈蚣姫にも厳しい説教を垂れ、言霊を使って高姫・蜈蚣姫をやりこめる。そしてアンボイナ島の聖地に渡って再び教訓を受けよ、と告げた。

高姫と蜈蚣姫はすっかりやり込められたが、片意地を張って黙って俯いている。すると濃霧は晴れて、船はいつの間にかアンボイナの港に着いていた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月02日(旧閏05月08日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年5月10日 愛善世界社版90頁 八幡書店版第4輯 644頁 修補版 校定版92頁 普及版42頁 初版 ページ備考
OBC rm2406
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本文  高姫、蜈蚣姫を乗せたる船は、波のまにまに大小無数の嶋嶼を右に左に潜りつつ進み行く。俄に包む濃霧に咫尺を弁ぜず、此儘航海を続けむか、何時船を岩石に衝き当て破壊沈没の厄に会ふも知れざる破目になつて来た。流石の両婆アも船中の一同もはたと当惑し、何となく寂寥の気に充たされ、臍の辺りより喉元さして舞ひ上る熱き凝固は、螺旋状を為して体内を掻き乱すが如く、頭部は警鐘乱打の声聞え、天変地妖身の置き処も知らぬ思ひに悩まされた。何ともなく嫌らしき物音、鬼哭啾々として肌に粟を生じ心胆糸の如く細り、此上少しの風にも、玉の緒の糸の断絶せむ許りになり来たり。何処ともなく嫌らしき声、頭上に響き渡りぬ。
『アヽヽ飽迄我を立て徹す高姫、蜈蚣姫の両人、天の八衢彦命の言葉を耳を浚へてよつく聞け。汝は悪がまだ足らぬ。悪ならば悪でよいから徹底的の大悪になれ。大悪は即ち大善だ。汝の如き善悪混淆、反覆表裏常なき改慢心の大化物、是こそ真の悪であるぞよ。悪と云ふ事は万事万端、神界の為めに埒があく働きを言ふのだ。
イヽヽ嫌らしい声を聞かされて慄ひ上り、意気銷沈の意気地無し。今此処で慣用手段の日の出神を何故現さぬか。大黒主命は如何したのだ。因循姑息、悪魔の我言に唯々諾々として畏服致すイカサマ宣伝使。てもいげち無い可憐らしい者だなア』
 高姫は直ちに、
『何れの神様か存じませぬが、
アヽヽ悪をやるなら大悪をせいとはチツトと聞えませぬ。善一筋の日本魂の生粋を立て貫く此高姫。
イヽヽいつかないつかな、変性女子的貴女の言葉には賛成出来ませぬ。なア蜈蚣姫さま、お前さまもチツト、アフンとしていぢけて居らずに、アヽヽイヽヽアイ共に力を協せ、相槌を打つたら如何だい。斯んな時こそ誠の神の御神力を現はさいで何時現はすのだ、アヽヽ、イヽヽ意気地のない人だなア』
 空中より怪しき声、
『ウヽヽ、煩さい代物だ。何処までも粘着性の強い高姫の執着、有為転変の世の中、今に逆とんぼりを打たねばならぬぞよ。言依別の教主に反抗致した酬い、眼は眩み波にとられた沖の船、何処にとりつく島もなく、九死一生の此場合に立ち到つて、まだ改心が出来ぬか。
エヽヽ偉相に我程の者なき様に申して世界中を股にかけ法螺を吹き捲り、誠の人間を迷はす曲津神の張本人、鼻ばかりの高姫が今日は断末魔、扨ても扨ても可憐想な者だ。浮世に望みはないと口癖の様に申し乍ら、其実、浮世に執着心最も深く、偉相に肩臂怒らし大声で嚇す夏の雷鳴婆ア……。
オヽヽ鬼とも蛇とも悪魔とも知れぬ性来に成りきりて居りても未だ気がつかぬか。恐ろしい執着心の鬼が角を生やして其方の後を追つ掛け来り、今此処で往生させる大神の御経綸、尾を捲いて改心するのは今であらう。返答は如何だ』
 高姫は負けず、又もや、
『ウヽヽ煩さい事を仰有るな。
エヽヽえたいの知れぬ声を出して、
オヽヽ嚇さうと思つても日の出神の生宮はいつかな いつかな、ソンナチヨツコイ事に往生は致しませぬぞ。一つ島の女王と聞えたる黄竜姫を、お産み遊ばした蜈蚣姫の姉妹分とも言はれたる此高姫、何れの神か曲津か知らねども、チツトは物の分別を弁へたが宜からうぞ』
 空中より、
『カヽヽ重ねて言ふな、聞く耳持たぬ。蛙の行列向ふ見ず、此先には山岳の如き巨大な蛙が現はれて、奸智に長けたる汝が身も魂も、只一口に噛み砕き亡ぼして呉れる仕組がしてあるぞ。叶はん時の神頼みと言つても、モウ斯うなつては駄目だ。神は聞きは致さぬから左様心得たが宜からう。
キヽヽ危機一髪、機略縦横の高姫も最早手の下し様もあるまい。気違ひじみた気焔を吐いた其酬い、気の毒なものだ。聞かねば聞く様にして聞かすと申すのは此事であるぞよ。
クヽヽ黒姫と腹を合せ、変性男子の系統を真向に振り翳し、神界の経綸を無茶苦茶に致した曲者、苦労の凝りの花が咲くと何時も申して居るが、神の道を砕く苦労の凝りの花は今愈咲きかけたぞよ。
ケヽヽ見当のとれぬ仕組だと申して遁辞を設け、誤魔化して来た其酬い。
コヽヽ堪へ袋の緒がきれかけたぞよ。聖地の神々を困らしぬいた狡猾至極の汝高姫、我と我心に問うて見よ。心一つの持ち様で善にも悪にもなるぞよ。
サヽヽ探女醜女の両人、よくも揃うたものだ。サア是からは蜈蚣姫の番だ。逆様事ばかりふれ廻り天下万民を苦しめた蜈蚣姫の一派。
シヽヽ思案をして見よ。神の申す言葉に少しの無理もないぞよ。皺苦茶婆アになつてから、娑婆に執着心を発揮し、死後の安住所を忘れ、獅子奮迅の勢を以て種々雑多の悪計を廻らし乍ら、至善至美至真の行動と誤解する痴者。
スヽヽ少しは胸に手を当てて見よ。素盞嗚大神の御精神を諒解せぬ間は、何程汝が焦慮るとも九分九厘で物事成就は致さぬぞよ。
セヽヽ背中に腹が代へられぬ様な此場の仕儀、それでも未だ改心が出来ぬか。雪隠虫の高上り、世間知らずの大馬鹿者。
ソヽヽ其方達二人が改心致さぬと、総ての者が総損ひになつて、まだまだ大騒動が起るぞよ。早々改心の実を示せ。そうでなければ今此処でソグり立ててやらうか』
『ソヽヽそれは、マア一寸待つて下さい。それ程妾の考へが違つて居ますか。此蜈蚣姫は明けても暮れても、神様の為め、世界の為め、人民を助ける為めに、苦労艱難を致して居る善の鑑と堅く信じて居ります。それが妾の生命だ。何れの神か悪魔か知らねども、我々の心が分らぬとは実に残念至極だ。粗忽しい、観察をせずに、もうチツト真面目に妾の腹の底を調べて下さい』
 空中より、
『タヽヽ叩くな叩くな、腹の中をタヽヽ断ち割つて調べてやらうか。高姫も同様だぞ、汝の腹の中は千里奥山古狸の棲処となつて居る。日の出神と名乗る奴は銀毛八尾の古狐の眷族だ。大黒主と名乗る奴は三千年の劫を経たる白毛の古狸だ。又蜈蚣姫の腹中に潜む魔神はアダム、エバの悪霊の裔なる大蛇の守護神だ。
チヽヽ違ふと思ふなら、今此処で正体を現はさうか。地の高天原を蹂躙せむと、汝等両人の体内を借つて仕組んで居るのだ。汝はそれも知らずに誠一つと思ひつめ、自分の身魂に自惚し、最善と感じつつ最悪の行動を敢へてする、天下の曲津神となつて居るのに気がつかぬか。
ツヽヽつまらぬ妨げを致すより、月の大神の心になり、心の底より悔悟して。
テヽヽ天地の神にお詫を致せ。
トヽヽトンボ返りを打たぬうち、トツクリと思案を致し、トコトン身魂の洗濯を励むが肝腎だぞよ。
ナヽヽ何と申しても其方等は曲津の容器。弥勒神政の太柱は地の高天原に、神世の昔より定められた身魂が儼然として現はれ給ふ。何程其の方が焦慮つても、もう駄目だ。
ニヽヽ二階から目薬をさす様な頼りのない法螺を吹き廻るより、生れ赤子の心になつて言依別の教主の仰せを守れ。
ヌヽヽヌーボー式の言依別だと何時も悪口を申すが、其方こそは言依別の神徳を横奪せむとする、ヌースー式の張本人だ。
ネヽヽ熱心な信者を誤魔化し、蛇が蛙を狙ふ様に熱烈なる破壊運動を致す侫人輩。
ノヽヽ野天狗、野狐、野狸の様な野太い代物。喉から血を吐きもつて、折角作り上げた誠の魂を攪乱致す野太い代物。下らぬ望みを起すよりも良い加減に往生致したら如何だ』
 高姫は、
『もうもう十分です。
ハヽヽハラハラします。腹が立つて歯がガチガチしだした。早くしようも無い事は、もうきりあげて下さい。
ヒヽヽ日の出神の生宮が堪忍袋の緒を切らしたら、何程偉い神でも堪りませぬぞ。
フヽヽ不都合千万な、此方の行動を非難するとは何れの神だ。
ヘヽヽ屁でもない理屈を並べて閉口さそうと思うても……ン……此高姫さまは一寸お手には合ひませぬワイ。
ホヽヽほんに訳の分らぬ廻しものだ。斯んな海の中へ我々を引張り出し、一寸先も見えぬ様な濃霧に包んで置いて、暗がりに鶏の頸を捻ぢる様な卑怯な計略、其手は喰はぬぞ。
マヽヽ曲津の張本。
ミヽヽ身の程知らずの盲目神。
ムヽヽ蜈蚣姫と高姫が。
メヽヽ各自に神力のあらむ限りを発揮して。
モヽヽ耄碌神の其方を脆くも退治して見せよう。
ヤヽヽ八岐大蛇だの、狐だの、狸だのとは何たる暴言ぞ。
イヽヽ意地気根の悪い。
ユヽヽ油断のならぬ胡散な痴呆もの。
エヽヽえー邪魔臭い。
ヨヽヽよくも、ヨタリスクを並べよつたな、ようも悪魔の変化奴。
ラヽヽ乱臣賊子、サア正体を現はせ、勇気凛々たる日の出神の生宮、大自在天の太柱、グヅグヅ吐すと貴様の素首を引き抜いてラリルレロとトンボリ返しを打たしてやらうか』
 空中より一層大きな声で、
『ワヽヽ笑はせやがるワイ。我身知らずの馬鹿者共、手のつけ様のない困つた代物だ。
ヰヽヽ何程言うても合点の往かぬ歪み根性の高姫、蜈蚣姫。
ウヽヽ煩さくなつて来たワイ。艮の金神国治立尊の御前に我は是より奏上せむ。
ヱヽヽ襟を正して謹聴して待つて居らう。やがて御沙汰が下るであらう。
ヲヽヽ臆病風に誘はれてヲドヲドし乍ら、まだ。
ガヽヽ我の強い。
ギヽヽぎりぎりになる迄。
グヽヽ愚図々々致して居ると。
ゲヽヽ現界は愚か。
ゴヽヽ後生の為めに成らないぞ。
ザヽヽ態さらされて。
ジヽヽジタバタするよりも。
ズヽヽ図々しい態度を改め。
ゼヽヽ前非を悔い改心致して。
ゾヽヽ造次にも顛沛にもお詫を致せ。
ダヽヽ騙し歩いた。
ヂヽヽ自身の罪を。
ヅヽヽ津々浦々まで白状致して廻り、玉に対する執着心を只今限り綺麗薩張此海に流して仕舞へ。さうして仕舞へば又神の道に使つてやるまいものでもない。
デヽヽデンデン虫の角突き合ひの様な小さな喧嘩を致し。
ドヽヽ如何してそんな事で神界の御用が勤まると思ふか。
バヽヽ婆の癖に馬鹿な真似を致すと終には糞垂れるぞよ。
ビヽヽ貧乏揺ぎもならぬ様になりてから。
ブヽヽブツブツと水の中に屁を放いた様な小言を申しても。
ベヽヽ弁舌を何程巧に致しても。
ボヽヽ木瓜の花だ、誰も相手になる者はないぞよ。
パヽヽパチクリと目を白黒致して。
ピヽヽピンピン跳ねても、キリキリ舞ひを致しても。
プヽヽプンと放いた屁ほどの効力も無いぞよ。
ペヽヽペンペン跳ねても。
ポヽヽポンポン言つても、もう日の出神も通用致さぬから覚悟をしたが宜からう。汝果たして日の出神ならば、此濃霧を霽らし、天日の光を自ら浴びて船の方向を定め、アンボイナの聖地に渡れ。其時又結構な教訓を授けてやらう』
 高姫、蜈蚣姫は返す言葉も無く、船の中に両手を合せ、負けぬ気の鬼に妨げられて謝罪り言葉も出さず、俯向いて謝罪と片意地との中間的態度を執つて居た。何時しか濃霧は霽れた。よくよく見れば船は何時の間にやら南洋一の聖地、竜宮島と聞えたるアンボイナの港に横着けになり居たりける。
(大正一一・七・二 旧閏五・八 北村隆光録)
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