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文献名1霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻
文献名2第4篇 蛮地宣伝よみ(新仮名遣い)ばんちせんでん
文献名3第15章 諏訪湖〔745〕よみ(新仮名遣い)すわこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-08-14 19:23:31
あらすじ
三人は、チルテルらに送られてイルナの郷の境界にやってきた。ここで三人は休息して、これまでの経緯を語り合った。玉能姫と初稚姫は、白狐に導かれて岩窟に隠れていたため、巨大な大蛇の谷川渡りの難を免れたのであった。

すると谷底より男女の悲鳴が聞こえてきた。大蛇がまさに二人を締め上げて飲み込もうとしていた。玉治別はその場に駆けつけると、天の数歌を数えて霊光を発射し、二人を救出した。

玉能姫と初稚姫が二人を介抱し、魂返しの業で息を吹き返した。二人は久助とお民であった。二人はやはりネルソン山より吹き煽られた顛末を語り、三人に感謝をした。

二人を呑もうとしていた二匹の大蛇も息を吹き返し、五人に向かって涙を流して謝罪するごとくであった。玉治別は神言を上げてあげようと言い、五人が繰り返し神言を奏上すると大蛇は白煙となって天に昇って行った。

五人はイルナの山中を宣伝せんと歩いていた。すると獰猛な男たちに囲まれてしまった。しかし男たちは玉治別の赤い鼻を見ると、態度を一変して尊崇の意を表した。

一行は男たちに案内されて、アンデオという原野の中の小都会にやってきた。現地の人々が崇める竜神の祠に案内され、祈願を籠めた。祠の後ろには、蓮の形の湖水が、眼も届かぬばかりに水をたたえていた。

祝詞を唱え終わった玉治別は、祠の前に佇立して、これまでの来し方を宣伝歌に歌った。初稚姫、玉能姫、久助、お民もまたこの諏訪の湖水に向かってこれまでのことを歌に歌った。

紺碧の湖面はたちまち十字に割れて、湖底には珊瑚の森の中に金殿玉楼が見えた。そこから女神を従えて、玉依姫命が五人の前に現れた。

玉依姫命は五人に、この湖に七日七夜の禊を修して、ネルソン山以西に宣伝をなし、竜宮島の国人からもその功績を認められるに至った暁には、竜宮の神宝を授けるので、それを言依別命教主に奉納するように、と申し渡した。

五人は感謝の涙にくれ、禊を修しておのおの竜宮島の宣伝に赴くこととなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月05日(旧閏05月11日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年5月10日 愛善世界社版251頁 八幡書店版第4輯 705頁 修補版 校定版258頁 普及版118頁 初版 ページ備考
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本文  玉治別は初稚姫、玉能姫と共にアンナヒエールのタールス郷を三五教の霊場と定め、黒ン坊を残らず帰順せしめ、チルテル以下数十人の者に送られて、イルナの郷の入口に袂を別ち『ウワーウワー』の声と共に東西に姿を消したりける。
 三人は谷を幾つとなく越え、森林の中の広き平岩の上に腰打ち掛け、休息し乍ら回顧談に耽つた。玉治別は、ジヤンナの谷底にジヤンナイ教の教主テールス姫と面会せし事や、友彦との挑戯などを面白可笑しく物語り、次で此処を立ち出でアンナヒエールの里に到る折しも、両女の祝詞の声を聞きつけ、谷間に下りて其辺一面に二人の後を探ね廻る折しも大蛇に出会し、猩々の群に救はれて遂にアンナヒエールのタールス教の本山に担ぎ込まれ、意外の待遇を受け居る際、初稚姫、玉能姫に面会せし奇遇談を、大略物語りけり。
 玉能姫は静に、
『妾は或谷間に御禊をなし祝詞を上げて居ました処、傍の岩穴より鬼武彦は白狐の月日、旭と共に現はれ給ひ、二人の袖を銜へて穴の底に引込んで下さいました。はて不思議と思ひながら曳かるる儘に穴の中に身を没し、小声に宣伝歌を唱へて居ますと、妾の潜んで居る穴の前の谷川の向岸に当つて蜿蜒たる大蛇が現はれ、三四尺もあらうと思ふ長い舌を出して穴を目蒐けて睨んで居たが、鬼武彦以下の御威徳に畏れ、近よりも得せず暫く睨むで居りました。其とき貴方の声として妾共の名を呼んで下さいました。何うしたことか一言も声が出ず、ええヂレツタイ事だと踠いて居りますうち、山岳も崩るる許りの音を立てて、胴の周囲三四丈もあらうかと思はるる長さ数十間の太刀膚の大蛇、尾の先に鋭利な剣を光らせ乍ら、夫婦と見えて二体、谷川を一杯になつて通り過ぎた時の恐ろしさ、今思つても、身の毛がよだつやうに御座います。白狐の姿は忽ち消えて四辺は森閑としたのを幸ひ、貴方に遇はんと岩窟を這ひ出で其辺を探ねましたが、些ともお姿は見えず、あゝ彼の大蛇に何うかされなさつたのだらうかと気が気でならず、もしや其辺に身を潜めて居られるのではあるまいかと思ひ、態と宣伝歌を声高く歌つて通る折しも、タールス教のチルテル初め数多の人々、我々両人を矢庭に担いであの岩窟に連れ参り、貴方に不思議の対面をなし、漸く危険を免がれ、其上神様のお道の宣伝をなし、残らず帰順させる事の出来ましたのも、全く三五教の大神の御守護と今更ながら有難涙に暮れまする……アヽ惟神霊幸倍坐世』
と合掌すれば初稚姫も小さき手を合せ感謝の涙に暮れ居たり。
 斯く話す折しもキヤツと息の切れるやうな悲鳴が聞えて来た。三人は此声に思はず腰を上げ耳を澄まして聞き居れば、谷底に当つて蜿蜒たる大蛇、二人の男女をキリキリと捲きながら今や大口を開けて呑まんとする真最中であつた。玉治別是を見るより一目散に夏草の生茂る灌木の中を駆け潜り、近づき見れば此有様、直に天津祝詞を口早に奏上し、天の数歌を謡ひあげ、ウンと一声指頭を突き出し、五色の霊光を発射して大蛇に放射した。大蛇は忽ちパラパラと解けて其場に材木を倒したやうにフン伸びて仕舞つた。二人は最早正気を失ひ、虫の息にて胸の辺りをペコペコと僅かに動悸を打たせて居つた。此間に玉能姫、初稚姫は後追ひ来り、三人力を合せ谷水を汲み来りて面部に吹きかけ、口に喞ませ、いろいろと介抱をなし、天の数歌を謡ひ上げて魂返しの神業を修するや、忽ち息吹き返し二人は両手を合せ、
『何れの方かは存じませぬが、危ふき所をよくも助けて下さいました。此御恩は死んでも忘れは致しませぬ』
と涙と共に感謝しける。玉治別は、
『ヤア、貴方は……久助さま、お民さまぢや御座いませぬか、危い事で御座いました』
と頓狂な声を出して呼びかけたり。夫婦はハツと顔を上げ、久助は、
『ヤア、貴方は玉治別様、玉能姫様、初稚姫様、よう来て下さいました。ネルソン山の山頂より烈風に吹き散らされ、各自四方に散乱し、貴方方は何うなつた事かと、今の今まで心配致して居りました。此広い竜宮嶋、仮令三年や五年探しても一旦別れたが最後、面会する事は到底出来ない筈だのに、折好くも斯んな所でお目に懸るとは全く神様のお引合せ、アヽ有難や勿体なや』
と又もや天津祝詞を五人一緒に声も涼しく奏上した。二匹の大蛇も、そろそろ尾の方よりビクリビクリと動き出し、次第々々に元気を増し鎌首を上げ、五人に向つて謝罪するものの如く、両眼より涙を流し居たり。玉治別は大蛇に向ひ、
『オイオイ大蛇先生、何の因果でソンナ姿に生れて来たのだ。可憐さうなものだ、早く人間に生れ代るやうに神言を奏上してやらう』
 大蛇の雌雄は首を揃へて幾度となく首を下げ、感謝の意を表した。五人は幾回となく祝詞を奏上した。大蛇は忽ち白煙となり、大空目蒐けて細長く蜿蜒として雲となり中空に消えて仕舞つた。これ全く誠心誠意、玉治別一行が天津祝詞を奏上したる功徳によつて、大蛇は天上に救はれたるなり。
 一行五人はイルナの山中を宣伝歌を歌ひ乍ら、土人の住家を宣伝せむと崎嶇たる山道を足を痛めながら、草鞋を破り跣となつて進み往く。久助は初稚姫を労り背に負ひ最後より随ひ往く。
 向ふの方より数十人の一群の荒くれ男、顔一面に嫌らしき文身をしながら此場に現れ来り、眼を怒らせ五人をバラバラと取巻いた。左は断崖絶壁、千仭の谷間には青々とした激流泡を飛ばして流れ居たり。進退維谷まりし五人は如何はせむと案じ煩ふ折しも、久助の背に負はれたる初稚姫は、
『玉治別殿、先に立たれよ』
と云ふ。玉治別は先に立ち、荒男の前につかつかと進み寄る。荒男の名はタマルと云ふ。タマルは玉治別の赤き鼻を見て大いに驚き俄に態度を一変し、凶器を大地に抛げ捨て、両手を合せ跪き、
『オーレンス、サーチライス、ウツポツポ ウツポツポ、アツタツター アツタツター』
と尊敬の意を表した。更たまつたる此態度に一同は柄物を投げ捨て大地に跪き、異口同音に「オーレンス、サーチライス」と繰返し、尊敬の意を表したりけり。玉治別は、
『アーメーアーメー、自転倒嶋に現はれ給ふ三五教の教主言依別の命を奉じ、此一つ島に神の福音を宣べ伝へむが為めに、遥々渡り来れるものぞ。汝等今より我道を信じ、神の愛児となり、霊肉共に永遠無窮に栄えよ。天国の門は開かれたり、神政成就の時は到れり、悔い改めよ』
と宣示したり。此言葉はタマル以下一同には言語の通ぜざるため何の意味かは分らざりしが、何分尊き救世主の御降臨と信じ切つたる彼等は嬉しげに後に随ひ、険峻なる道を大男の背に五人を負ひながら、大地一面に金砂の散乱せる大原野に導きぬ。此処はアンデオと云ふ広大なる原野にして、又人家らしきもの数多建ち並び、小都会を形成せり。土人の祀つて居る竜神の祠の前に五人を下し、手を拍つて喜び、何事か一同は祈願を籠めたりけり。
 社の後には目も届かぬ許りの湖水が蓮の形に現はれ、紺碧の浪を湛へて居る。水鳥は浮きつ沈みつ愉快気に右往左往に游泳し、時々羽ばたきしながら、水面に立ち歩み駆け狂うて居る面白さ。一同は天津祝詞を奏上し終り、此湖水の景色に見惚れ、やや暫し息を休めて居た。玉治別は祠の前に停立し、
『自転倒島を立ち出でて  神の教を伝へむと
 南洋諸島を駆け廻り  愈ここに竜宮の
 一つの島へと到着し  厳の都の城下まで
 進み来れる折柄に  蜈蚣の姫や黄竜の
 姫の心を量り兼ね  神の経綸か白雲の
 かかる山辺を十柱の  教の御子は攀登り
 山の尾上を踏み越えて  ネルソン山の絶頂に
 佇み四方を眺めつつ  雄渾の気に打たれ居る
 時しもあれや山腹より  昇り来れる黒雲に
 一行十人包まれて  咫尺も弁ぜず当惑し
 天津祝詞を声限り  奏上なせる折りもあれ
 空前絶後の強風に  吹き捲くられて各自は
 木の葉の如く中天に  捲き上げられて名も知らぬ
 深き谷間に墜落し  息も絶えむとしたりしに
 三五教の大神の  恵の露に霑ひて
 漸く息を吹き返し  彼方此方に蟠まる
 大蛇の群を悉く  天津祝詞の太祝詞
 天の数歌謡ひつつ  言向け和せ漸うに
 数多の人に送られて  初めて此処に来て見れば
 瞳も届かぬ諏訪の湖  千尋の底の弥深き
 神の恵の現はれて  魚鱗の波は金銀の
 花咲く如き眺めなり  あゝ惟神々々
 御霊の幸を蒙ぶりて  我等一行五つ身魂
 これの聖地に導かれ  心の空も爽かに
 天国浄土に上る如  嬉し楽しの今日の日は
 神の恵の尊さを  一層深く知られけり
 神が表に現はれて  善と悪とを立て別ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 唯何事も人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 身の過ちは宣り直す  三五教の神の教
 宣り伝へ行く楽しさは  三千世界の世の中に
 是に増したる業はなし  三千世界の梅の花
 一度に開く木の花の  開いて散りて実を結ぶ
 時は来にけり時は来ぬ  五弁の梅の厳御霊
 厳の教を経となし  瑞の教を緯として
 錦の宮に現れませる  国治立大神や
 埴安彦や埴安姫の  神の御言を畏みて
 此世を開く宣伝使  暗夜を晴らす朝日子の
 日の出神の御守り  天教山に現れませる
 神伊弉諾大神や  地教の山に永久に
 鎮まりまして現世を  堅磐常磐に守ります
 神伊弉冊大神や  高照姫の御前に
 慎み敬ひ鹿児自物  膝折り伏せて願ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましまして
 初稚姫や玉能姫  玉治別の宣伝使
 久助お民の信徒が  堅磐常磐の後の世も
 神の経綸に漏れ落ちず  太しき功績を建てしめよ
 神は我等を守ります  神に任せし此身魂
 天地の間に生けるもの  他人もなければ仇もなし
 父子兄弟睦じく  世界桝かけ引きならし
 貴賤揃うて神の世の  楽しき月日を送るまで
 神に受けたる玉の緒の  命を長く守りませ
 三五教の御光を  三千世界に隈もなく
 照らさせ給へ諏訪の湖  千尋の底に永久に
 鎮まりゐます竜姫の  皇大神よ平けく
 いと安らけく聞し召せ  神の教の道にある
 厳の御霊の五つ柱  慎み敬ひ願ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましませよ
 あゝ惟神々々  御霊の幸を給へかし』
と歌ひ終るや、初稚姫は又もや立ち上り、諏訪の湖面に向つて優しき蕾の唇を開き祝歌を歌ふ。
『私の父は三五の  神の教の宣伝使
 天と地とは一時に  開き初むる時置師
 神の命の杢助ぞ  言依別の神言もて
 自転倒島の中心地  高天原に千木高く
 鎮まりゐます綾の里  錦の宮の神司
 玉照彦や玉照姫の  貴の命の御仰せ
 畏み仕へまつりつつ  我は幼き身なれども
 神と神との御教を  うなじに固く蒙ぶりて
 玉治別や玉能姫  教司と諸共に
 浪風猛る海原を  神の恵に渡りつつ
 黄金花咲く竜宮の  一つの島に着きにけり
 厳の都を後にして  山野を渡りネルソンの
 高山越えて谷の底  アンナヒエールの里を越え
 山々谷々数越えて  漸う此処に皇神の
 社の前に着きにけり  思へば深し諏訪の湖
 千尋の底に永久に  鎮まりゐます竜姫よ
 心平に安らかに  我が願ぎ事を聞し召せ
 天火水地と結びたる  言霊まつる五種の
 珍の御玉を賜へかし  三五の月の御教は
 いよいよ茲に完成し  三千世界の梅の花
 一度に開く常磐木の  松の神世と謳はれて
 海の内外の民草は  老も若きも隔てなく
 うつしき御代を楽しまむ  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  十歳にも足らぬ初稚が
 万里の波濤を乗り越えて  世人を救ふ赤心に
 曳かれて此処迄出で来る  思ひの露を汲めよかし
 神は我等の身辺を  夜と昼との別ちなく
 守らせ給ふと聞くからは  神政成就の御宝
 厳の御霊のいち早く  我等に授け給へかし
 謹み敬ひ願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠は神に通ふべし  誠一つの三五の
 神の教の宣伝使  宣る言霊を悉く
 完全に委曲に聞し召せ  仮令大地は沈むとも
 神に誓ひし我魂は  如何なる艱難来るとも
 ミロクの世迄も変らまじ  ミロクの世迄もうつらまじ』
と歌ひ終り拍手して傍の芝生の上に腰打ち下ろし息をやすめた。玉能姫は又もや立上り湖面に向つて歌ふ。
『皇大神の勅もて  言依別命より
 金剛不壊の如意宝珠  また紫の神宝を
 堅磐常磐の経綸地  隠し納むる神業を
 仕へまつりし玉能姫  初稚姫の両人が
 神の教を伝へむと  島の八十島八十の国
 大海原を打ち渡り  暑さ寒さの厭ひなく
 虎伏す野辺も狼の  狂へる深山も何のその
 すこしも厭はず三五の  神の教の御為に
 身も魂も奉げつつ  玉治別に従ひて
 漸う此処に詣でけり  此湖に遠津代の
 神代の古き昔より  鎮まりゐます竜姫よ
 御国を思ふ一筋の  妾が心を汲み取らせ
 三五教の神の道  岩より堅く搗き固め
 神界幽界現界の  救ひの為に海底に
 隠し給ひし五つみたま  天火水地と結びたる
 大空擬ふ青き玉  紅葉色なす赤玉や
 月の顔水の玉  黄金色なす黄色玉
 四魂を結びし紫の  五つの御玉を我々に
 授けたまへよ矗々に  我は疾く疾く立帰り
 国治立大神が  神政成就の神業の
 大御宝と奉り  汝が御霊の功績を
 千代に八千代に永久に  照しまつらむ惟神
 御霊の幸を賜はりて  我等の願ひをつばらかに
 聞し召さへと詔り奉る  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
と歌ひ終つて拍手し、傍の芝生の上に息を休めけり。久助は又もや湖面に向つて、
『自転倒島の瀬戸の海  誠明石の磯の辺に
 生れ出でたる久助は  三五教に入信し
 玉治別の宣伝使  其他二人の神司
 導き給ふ其儘に  御跡を慕ひ神徳を
 蒙りまつり世の為に  力の限り尽さむと
 大海原を遥々と  越えて漸う一つ島
 大蛇に体を捲かれつつ  九死一生の苦みを
 神の御稜威に助けられ  漸う此処に来りけり
 我は信徒三五の  神の司に非ざれど
 御国を思ひ大神に  仕ふる道に隔てなし
 諏訪の湖底に永久に  鎮まりゐます皇神よ
 我等夫婦が真心を  憐み給へ何なりと
 一つの御用を仰せられ  神の教の御子として
 恥かしからぬ働きを  尽させ給へ惟神
 神の御前に村肝の  赤き心を奉り
 慎み敬ひ願ぎまつる  畏み畏み願ぎ申す
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』
と歌ひ終つて同じく芝生の上に息をやすめたり。お民は又もや立上り諏訪の湖面に向つて拍手し、声淑やかに、
『尊き国の礎や  百姓の名に負ひし
 君と神とに真心を  麻柱ひ奉る民子姫
 神の御前に平伏して  国治立大神の
 ミロク神政の神業に  仕へまつらむ事のよし
 完全に委曲に聞し召し  誠の足らぬ我なれど
 神の大道は片時も  忘れたる事更になし
 守らざる事片時も  無きを切めての取得とし
 この湖底に昔より  鎮まりゐます竜宮の
 皇大神よ惟神  大御心も平けく
 いと安らけく思召し  足らはぬ我等が願言を
 見棄て玉はず諾ひて  其程々の功績を
 立てさせ玉へ諏訪の湖  鎮まりゐます御神の
 御前に畏み願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
 紺碧の湖面は忽ち十字形に波割れて、湖底は判然と現はれたり。殆ど黄金の板を敷き詰めたる如く、一塊の砂礫もなければ、塵芥もなく、藻草もない。恰も黄金の鍋に水を盛りたる如き、清潔にして燦爛たる光輝を放ち、目も眩む許りの荘厳麗媚さなりき。波の割れ間より幽かに見ゆる金殿玉楼の棟実に床しく、胸躍り魂飛び魄散るが如く、赤珊瑚樹は林の如くにして立並み居る。珊瑚樹の大木の下を潜つて、静々と現はれ来る玉の顔容月の眉、梅の花か海棠か、但は牡丹の咲き初めし婀娜な姿に擬ふべらなる数多の女神、黄金色の衣を身に纒ひ、黄金造りの竜の冠を戴き乍ら、長柄の唐団扇を笏杖の代りに左手に突きつつ、右手に玉盃を抱え、天火水地結の五色の玉を各五人の殊更崇高なる女神に抱かせ乍ら、玉依姫命は徐々と湖を上り五人が前に現はれ玉ひて、言葉静かに宣り玉ふ。
『汝は初稚姫、玉能姫、玉治別、信徒の久助、お民の五柱、よくも艱難を凌ぎ辛苦に堪へ、神国成就の為に遥々此処に来りしこと感賞するに余りあり。併し乍ら汝初稚姫は大神よりの特別の思召しを以て、金剛不壊の如意宝珠の神業に参加せしめられ、又玉能姫は紫の宝玉の御用を仰せ付けられ、今や三五教挙つて羨望の的となり居れり。玉治別外二人は未だ斯の如き重大なる神業には奉仕せざれども、汝等が至誠至実の行ひに賞で、竜宮の神宝たる五種の宝を汝等五人に授くれば、汝等尚も此上に心身を清らかにし、錦の宮に捧持し帰り、教主言依別命にお渡し申すべし。今汝に授くるは易けれど、未だ一つ島の宣伝を終へざれば、暫く我等が手に預りおかむ。華々しき功名手柄を現はし、重大なる神業を神より命ぜらるるは尤もなりと、一般人より承認さるる迄誠を尽せ。此一つ島はネルソン山を区域として東西に別れ、東部は三五教の宣伝使黄竜姫守護し居れども、未だ西部に宣伝する身魂なし。汝等五人は此処に七日七夜の御禊を修し、此島を宣伝して普く世人を救ひ、大蛇の霊を善道に蘇へらせ、且黄竜姫、梅子姫、蜈蚣姫其他一同の者を心の底より汝の誠に帰順せしめたる上にて改めて汝の手に渡さむ。初稚姫には紫の玉、玉治別には青色の玉、玉能姫には紅色の玉、久助には水色、お民には黄色の玉を相渡すべし。されど此神業を仕損じなば、今の妾の誓ひは取消すべければ、忍耐に忍耐を重ねて、人群万類愛善を命の綱と頼み、苟且にも妬み、そねみ、怒りの心を発するな。妾はこれにて暫く竜の宮居に帰り時を待たむ。いざさらば……』
と言ひ残し、数多の侍女神を随へ、忽ち巨大なる竜体となりて、一度にドツと飛び込み玉へば、十字形に割れたる湖面は元の如くに治まり、山岳の如き浪は立ち狂ひ、巨大の水柱は天に沖するかと許り思はれた。五人は感謝の涙に暮れつつも、恭しく拍手をなし、天津祝詞や神言を奏上し、天の数歌を十度唱へ、宣伝歌を声張り上げて歌ひ終り、再び拍手し、それより七日七夜湖水に御禊を修し、諏訪の湖面に向つて合掌し、皇神に暇を請ひ、宣伝歌を歌ひ乍ら、荊棘茂れる森林の、大蛇猛獣の群居る中を物ともせず、神を力に誠を杖に進み行くこそ雄々しけれ。あゝ惟神霊幸倍坐世。
 玉依姫は空色の衣服にて、玉を持てる五人の女神の後に付添ひ玉ひしと聞く。
(大正一一・七・五 旧閏五・一一 加藤明子録)
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