高姫一行は、すごすごと聖地に帰る途中、亀山の月照殿を守る梅照彦に説教し、自分たちの道案内をさせようと、梅照彦の館の門を叩いた。
門番は、主人は留守だとすげなく答える。高姫は、自分たちのような偉い神人が来訪したのに留守とは道理をわきまえない主人だ、と梅照彦を罵る。門番は、梅照彦はそんな人ではない、宝珠が聖地に納まるお祝いのために、言依別教主から呼ばれて聖地に行っているのだ、と答える。
また門番は梅照彦の言葉として、これにて神宝の行方にけりがつき、ありもしない玉を竹生島まで取りに行った高姫、黒姫、高山彦がアフンとする、お前様方は誰だか知らないが、道中もし高姫に会ったら、分かりもしない玉探しをあきらめて聖地に帰るように、と言付けて奥に行ってしまった。
高姫は門番の言付けを聞いて、心ににわかに荒波が立ち騒いだが、さあらぬ態にて微笑を浮かべ、黒姫に向かって、梅子姫らに麻邇の宝珠を授けた竜宮の玉依姫の御魂は自分だと、今こそうまく言うべきだ、と焚きつけた。
そして自分も頓知で今までの失敗を取り繕い、日の出神のお働きにすりかえて、他人の手柄を横取りして勝てば善なりを地で行く、筆先に日の出神の生き宮が何事も指図せいと出ているからには、そうならなければならない道理だ、と逆理屈を捏ねて勇み出した。
聖地に近い小雲川のほとりにやってきた三人は、松影に釣りをしている男を目に留めた。高姫は早速声を掛けて、三五教の信徒なら殺生はやめるようにと男の笠を取った。男は国依別であった。
高姫は、お前には言いたいことがたくさんある、と国依別を聖地に促す。国依別は微笑して、三人がそろそろ帰るころだと天眼通に悟って、ご馳走の用意をしようと釣りをしていたのだ、と答える。
そして、お前様から見ればこの国依別は悪の身魂と見えるだろうが、心の奥底に誠の血潮が流れている、それを買ってくれ、と答えた。国依別は、頑迷不霊の高姫の改心を神に祈るのだった。