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文献名1霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻
文献名2第1篇 聖地の秋よみ(新仮名遣い)せいちのあき
文献名3第2章 清潔法〔784〕よみ(新仮名遣い)せいけつほう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-10-21 18:19:02
あらすじ
高姫館の前をとおりかかった友彦は、奥の間から人の話し声が聞こえてくるのに立ち止まり、久しぶりに館に戻ってきた主の様子を窺おうと、門の戸を叩いた。

門番の安公は、意地の悪い友彦を中に入らすわけにはいかないと押し留める。友彦はむきになって入ろうと門を押し始める。安彦は、今中に入って高姫と波風立てられてはこちらが迷惑するのでやめてくれ、と懇願する。

友彦は、それなら今日は帰ってやるが、明日は秘密の話があると高姫に伝えるようにと安公に申し渡した。

安彦は、友彦が来たと高姫に知られたら、四足御魂が来たから邸内をすっかり掃除して清めろ、と言われるのが落ちだと独り言を言っていた。それを通りかかった高姫が聞きつけ、友彦が来たなら掃除をしておけ、と安彦に言いつけた。

安彦は月明かりに庭に水を撒きながら、明日も友彦がやってきたらまた掃除を言いつけられて、こちらの体がもたない、と泣き言を言っている。そして、高姫のような人使いの荒い者には仕えていられない、と国依別を頼って館を逃げ出してしまった。

勝公は高姫たちのお膳を据えていたが、高姫から、安公のように逃げ出さないようにしてくれ、と言われて、しまった、安公に先を越されたと漏らす。

高姫は、逃げるつもりだったのかと勝公に問いただした。勝公は、逃げたいのはやまやまだが、高姫の留守居役をしていたので、誰も使ってくれないので仕方なくここに居るだけだ、と高姫に本心を明かす。

高姫はそれを聞いて怒るが、勝公がいなくなると飯の支度をする者がいなくなると困るから、仕方なく置いてやろうという。一方勝公も、早く逃げ出したいとこぼしながら納戸の方に姿を隠した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年07月22日(旧閏05月28日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年6月20日 愛善世界社版44頁 八幡書店版第5輯 258頁 修補版 校定版45頁 普及版19頁 初版 ページ備考
OBC rm2702
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本文  西に円山東に小雲  山と川とに挟まれし
 並木の松の片傍り  桧、松、杉、柏木の
 丈余にあまる大木は  天を封じて立ち並ぶ
 それの木蔭に瀟洒たる  丸木柱に笹の屋根
 青、白、赤の庭石も  どことは無しに配置よく
 敷き並べたる庭の奥  幽かに聞ゆる話声
 聞くともなしに友彦は  思はず門をかい潜り
 何かの綱に曳かれしごと  何時の間にやら門の口
 此処は高姫御館  奥には幽かな人の声
 何処の客かは知らねども  何は兎もあれ戸を叩き
 主人の様子を窺はん  さうぢやさうぢやと独言
 忽ち表戸打ち叩き  『教の道の友彦が
 久方振にお館へ  帰り来ませる高姫に
 敬意を表して御挨拶  申さんものと取る物も
 取らずに尋ね来ましたぞ  お構ひなくば表戸を
 早く開けさせ給へかし』  呼べば中より安公が
 『折角乍ら友彦よ  お前は意地久根悪い故
 高姫さまの気に合はぬ  今も今とて国さまや
 秋彦さまがやつて来て  何ぢや彼んぢやと駄句りつつ
 形勢不穏と見済まして  尻を紮げて去にました
 お前も立派な男なら  些とは考へなされませ
 奥の一間に高姫や  高山彦や黒姫が
 夏彦、常彦前に置き  秘密の話をして御座る
 秘密は何処迄秘密ぢやと  高姫さまの常套語
 今日は風向悪い故  去んだがお前の得だらう
 男を下げて帰るより  貞操深きテールスの
 姫の命と親密に  尊き神の御言葉を
 調悟つた其上で  喧嘩の材料を蓄へて
 此場を出直し堂々と  捲土重来するがよい
 七尺男が高姫や  黒姫さまに凹まされ
 泡を吹くのも見ともない  お前は私の好きな人
 お鼻の赤い愛嬌者  木花姫の再来と
 勝公さまが云うて居た  一度に開く蓮花
 此処は聖地の蓮華台  それの麓の神館
 嘘か誠か知らねども  系統の身魂に憑られし
 日の出神が御座るぞや  竜宮海の乙姫も
 黒姫さまを機関とし  天狗の身魂も引き添うて
 高山彦の夫婦連れ  三人世の元結構と
 済ました顔で御座るのに  赤鼻天狗がやつて来て
 鼻と鼻とが衝突し  又もや悶着起りなば
 安公さまも勝公も  何うして傍に居られよか
 地震雷火の雨も  さまで恐れぬ豪傑の
 安公さまも高姫の  その鼻息にや耐らない
 男一匹助けると  思うて帰つて下さんせ
 肝腎要の性念場  秘密話の最中に
 お前が来たと聞いたなら  忽ち起る暴風雨
 柱は倒れ屋根剥れ  険難至極の修羅場裏
 あゝ惟神々々  御霊幸はへましまして
 白い玉をば預かつた  ジヤンナの郷の救世主
 此処では詮らぬ宣伝使  神の上には上がある
 口が悪いと腹立てて  怒つて呉れなよ高姫が
 今日も今日とて云うて居た  俺が云うので無い程に
 日の出神の生宮の  御霊が憑つて説き明す
 斯う云ふ中にも高姫の  お耳に入れば大変だ
 地異天変は目のあたり  早く帰れ』と促せば
 友彦フフンと鼻で息  『魂ぬけ婆さまの高姫が
 四股の雄健び踏み健び  何程勢強くとも
 バラモン教の友彦と  世に謳はれた俺だもの
 高姫位が何怖い  女の一人や十人が
 怖くて此世に居られよか  腰抜け野郎』と云ひながら
 力の限り表戸を  押し分け入らんとする所
 『千騎一騎の此場合  友彦如きに這入られて
 何うして門番勤まろか  後でゴテゴテ高姫の
 お小言聞くのが耐らない  友彦お前は夫程に
 物の道理が分らぬか  荒浪凪いだ明朝
 又出直して来てお呉れ  其時こそは喜んで
 𧘕𧘔つけて門口へ  私が出迎へ致します
 頼む頼む』と泣き声を  放てば友彦立ち止まり
 平地に浪を起すよな  悪戯しても済まないと
 心を柔げ声を変へ  『お前の云ふのも尤もだ
 そんなら今日は帰ります  高姫さまや黒姫に
 友彦さまがやつて来て  秘密の話があるさうぢや
 お邪魔をしてはならないと  賢いお方の事なれば
 先見つけて我館  いそいそ帰つて往きました
 万一明日来たなれば  高姫さまも黒姫も
 高山彦も安公も  𧘕𧘔姿でお出迎ひ
 必ず粗相あるまいぞ  呉れ呉れ申て置く程に
 沢山さうに友彦と  お前は思うて居るだらう
 黄金花咲く竜宮の  一つ島にて名も高き
 ネルソン山の峰続き  ジヤンナの郷の救世主
 小野の小町か衣通か  ネルソンパテイか楊貴妃か
 テールス姫かと云ふやうな  古今無双のナイスをば
 女房に持つた果報者  必ず必ずこの言葉
 忘れちやならぬぞ高姫に  頭を低ふ尻高く
 犬蹲踞に身構へし  申伝へて呉れよかし
 高姫さまも友彦の  光来ありしと聞くならば
 忽ち顔色青くして  待ち兼ね山の友彦が
 訪ねて来たのを素気なくも  主人の我に無断にて
 帰すと云ふ事あるものか  気の利いた割に間の脱けた
 安公の野郎と頭から  雷さまが落ちるだろ
 夫を思へば安公が  お気の毒にて耐らない
 減らず口ぢやと思ふなよ  武士の言葉に二言ない
 研き悟りし天眼通  鏡に映したその如く
 一切万事知れて居る  あゝ惟神々々
 御霊幸倍坐ませよ  青垣山は裂けるとも
 和知の流は涸れるとも  友彦さまの云つた事
 一分一厘違はない  大地を狙つて打ち下ろす
 此棍棒は外れても  我一言は外れない
 頤が外れて泡吹いて  吠面かわいて梟鳥
 夜食に外れた時のよな  妙な面つきせぬやうに
 親切心で友彦が  一寸お前に気をつける
 教の道の友達の  好誼ぢや程に安公よ
 決して仇に聞くでない  天が下には敵も無く
 一人も悪は無い程に  心の隔ての柴垣を
 早く取り除け世の中の  人を残らず仁愛の
 ミロクの眼で見るならば  尊き神の御子ばかり
 高姫さまに此事を  重ねて云うて置くがよい
 別れに望んで友彦が  一寸憎まれ口叩く
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひ乍ら夕焼の空を打ち仰ぎつつ、いそいそと我家をさして帰り往く。
 友彦の帰り往く後姿の見えぬ迄見送つた安公は、
安公『アヽとんでも無い奴がやつて来やがつて、いらぬ気を揉ましやがつた。褒めて去なさうと思へば調子に乗つて這入らうとする。仕方が無いから悪く云つて帰さうと思へば、無理やりに戸を押し開けて這入らうとする。困つた奴だ。あんな男を此の結構な日の出神のお館へ入れやうものなら、又高姫さまが四足身魂が来たから、此辺が汚れたから、塩をふれ、水を撒け、其辺を掃けと矢釜しく仰有るに違ひない。此広い庭前を俺達二人が何程鯱んなつても、お気に入るやうな事は出来はしない。マアマア高姫さまに分らいで掃除だけは助かつた。友彦の奴減らず口を叩きやがつて、𧘕𧘔姿でお出迎ひせよと馬鹿にしやがる。併し俺が一寸其場逃れにお仕着せ言葉を使つたのが誤りだ。……何、変説改論の世の中、日進月歩だ。今日の哲学者の以つて真理となす所、必ずしも明日は真理でない。又夫以上の大真理が発見せられたら、今日の真理は三文の価値も無く社会から葬られて仕舞ふのだ。エヽそんな事考へて取越苦労をするのは馬鹿らしい。刹那心を楽しむのだ。あゝ今と云ふ此刹那の心配と云うたら有つたものでない。併しマア無事に帰つて呉れたので、俺も今晩は足を長うして寝られるワイ』
と口の中で呟いて居たが、いつしか声高になり、高姫が小便に往つた帰りがけ、フト耳に入り、
高姫『これこれ安公さま、お前今大きな声で何を云つて居たの』
安公『ハイ、眼下に瞳を放てば淙々たる小雲の清流老松の枝を浸し、清鮮溌溂たる魚は梢に躍る。実に天下の絶景だ。それにつけても此お庭先、勝公と安公さま両人の丹精により、実に清浄なものだ。実に一点の塵もなく汚れも無い。まるで御主人の身魂に好く似た綺麗な庭先だと、感歎して居た所で御座いますワイ』
高姫『友彦が何とか、……云うて居たぢやないか』
安公『ヘー、……ヘヽヽヽー、左様で御座います。舳解き放ち艫解き放ち、あの水面を漕ぎ渡る船の美しさ。兎も角も何ともかんとも云はれぬ、結構な眺めだと云つて居ましたのですよ』
高姫『これ安公さま、お前は掃除するのが嫌ひだらう』
安公『ハイ、決して決して、身魂の洗濯、心の掃除するために此聖地へ修業に参り、貴女のお館の掃除番をさして頂き、日々身魂を結構に研かして貰うて居ます』
高姫『何うも糞彦の匂ひがする。厠の穴から抜け出た男の友彦が来たのぢやないかな』
安公『何とまア貴女の鼻は能う利きますね。恰でワンワンさまのやうですわ』
高姫『私の云ふ事なれば聞いて下さるかな』
安公『ハイハイ如何なる事でも聞きまする。仮令貴女が死ねと仰有つても背かずに聞きまする』
高姫『耳だけ聞くのぢやないよ。聞くと云ふのは行ひをする事ぢや。サア是から屋敷中隅から隅まで箒で掃き浄め、塩をふり、水を一面に打つて下さい。さうして此雨戸にも何うやら四足の手で押したやうな臭がする、此戸の薄くなる程砂で磨いて擦つて置きなさい』
安公『それや……些と……ぢや御座いませぬか』
高姫『些とで不足なら座敷から厠の中迄掃除をさして上げやう。人間は苦労せなくては神様の事は分りませぬぞエ』
安公『チー……、チツト……、ムヽヽヽですな』
高姫『そんならとつとと今日限り帰つて下さい』
安公『勝公さまと二人で掃除をさして頂くのでせうなア』
高姫『勝公さまは炊事万端、座敷の用もあるし、一息の間も手が抜けませぬ。エヽ何だか汚い臭がする。是から夜が明けても構はぬ、掃除をするのだよ』
安公『アヽ掃除ですか』
と力無げに頸垂れる。
高姫『安公さま、間違無からうなア』
安公『ヘエー……』
と長返辞し乍ら水桶を持つて井戸端に、のそりのそりと進み行く。高姫は細い廊下を伝つて奥の間に姿を隠した。
 安公はブツブツ云ひ乍ら、十三夜の月の光を幸に、さしもに広き庭の面に、深い井戸から撥釣瓶に汲み上げては手桶に移し、撒布しながら、小言を云つて居る。
安公『アヽ大変な事が起つて来た。天変地異よりも何よりも俺に取つては大問題だ。大国治立尊様が三千世界をお立替へ遊ばし、綺麗薩張水晶の世になさる以上の大神業だ。併し乍ら折角ちやんと掃除を済まし、高姫衛生委員長の試験にやつと合格して、やれやれと息を入れる時分に、又もや友彦が明日になるとやつて来よる。さうすりや又同じ事を繰返さねばなるまい。高姫も高姫じや、友彦も友彦ぢや、鷹とも鳶とも、鬼とも、蛇とも、馬鹿とも、何とも訳の分らぬ代者の寄合だ。さうぢやと云つて此儘掃除をせずに置く訳にも往かず、是非とも皆やらねばならぬ。旭は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも、友彦の命のある限り、やつて来ぬとも分らない。困つたものだ。同じ神さまの道に居ながら、何故犬と猿のやうに仲が悪いのだらう。共に手を引き合うて往かねばならぬ神のお道、とも角も困つたものだなア、エヽ焼糞だツ。
『今日は九月の十三夜  俺の副守よ能つく聞け
 必ず忘れちやならないぞ  こんな苦しい目に遭ふも
 鼻赤男の友彦が  来やがつたばかりに肉体も
 お前も共に苦労する  苦労するのがイヤなれば
 俺の体を一寸放れ  鼻赤天狗に憑依して
 又しても友彦が来ぬやうに  頭を痛め足痛め
 鉄条網を張つて呉れ  毎日日日来られては
 俺の肉体がつづかない  あゝ惟神々々
 叶はん叶はん耐らない  叶はん時の神頼み
 同じ主人を持つならば  言依別神さまや
 杢助さまのやうな人  神さま持たして下しやんせ
 鼻高姫の頑固者  偏狭な心を出しよつて
 気に喰はぬ奴が来たと云ひ  汚れて臭いとは何の事
 我儘気儘も程がある  人を使はうと思つたら
 一度は使はれ見るがよい  高姫さまのやうな人
 弥嫌になつて来た  是から此家を夜抜けして
 国依別か秋彦の  館を指して逃げ込まうか
 宇都山郷の破屋の  松鷹彦の真似をした
 俺は矢張国さまの  親の御霊か知れないぞ
 エヽエヽ思へば高姫が  小癪に触つて耐らない
 小癪に触つて耐らない  小杓を握つた此手さへ
 びりびり震ひ出して来た  エヽ邪魔くさい邪魔くさい』
 云ふより早く水桶を  頭上に高く差し上げて
 庭に並んだ捨て石を  睨んでどつと打ちつける
 桶は忽ちめきめきと  木つ端微塵に潰滅し
 水は一度に飛び散つて  高姫黒姫其外の
 居間の障子に打つ突かる  高姫驚き外面をば
 眺める途端に安公は  『お前は高姫黒姫か
 長らくお世話になりました  お前のやうなえぐい人
 誰がヘイヘイハイハイと  粗末な粗末な椀給で
 御用聞く奴がありませうか  一先づ御免候へ』と
 後を振り向き振り向いて  月の光を浴びながら
 黍畠深く隠れける。
高姫『エヽ仕方のないものだ。とうとう彼奴は国依別の悪霊に憑かれて仕舞つたな。是から国依別の館に行くと、独言を云うて居た。四つ足身魂が出て来ると、碌な事は一つも出来はしない。……なア黒姫さま、確りしないと貴方も何時悪神に憑依せられるか分りませぬぜ』
黒姫『オホヽヽヽ』
 斯かる所へ勝公は、
勝公『もしもし御一同さま、大変に御飯が遅れて済みませぬ。どうぞ此窓を開けて、お月さまを見乍ら、悠くりとお食り下さいませ』
高姫『あゝ夫は御苦労だつた。お前も早う御飯をお食り、安公のやうに飛び出さぬやうにして下されや』
勝公『ヘエ、もう彼奴は飛び出しましたかな。ヤヽ仕舞つた。先立たれたか、残念だ』
高姫『これこれ勝公さま、お前は何を云ふのだ。高姫館が嫌になつたので、抜け出す積りで居たのだらう』
勝公『何だか聖地の方々に対しても肩身が狭いやうな気が致しましてなア。立寄れば大木の蔭とやら、何程此お館に大木が沢山あつても、箸と親分は丈夫なのがよいとか申しましてな。実は一寸思案をして居りますので御座いますワイ』
高姫『宜敷い、旗色のよい方につくのが当世だ。体主霊従の杢助さまにでも引き上げて貰ひなさい』
勝公『今日から此処を出されては実は困ります。何と云つても、○○の留守をして居つた奴だからと云つて、誰も彼も排斥して使つて呉れませぬから、止むを得ず貴方のお宅にお世話になつて居ました。よい口があれば誰がこんな所へ半時でも居りませうか。私の口が出来る迄一寸腰かけに置いて下さい』
高姫『エヽ汚らはしい。そんな心の人はトツトと去んで下さい、反吐が出る』
勝公『神様は反吐の出るやうな汚い者を集めて洗濯をなさるのぢやありませぬか。清らかな者計りなら、別に教を立てる必要はありますまい。高姫さまもよい洗濯の材料が出来たと思つて、も少し私の身魂を洗濯して下さいな』
高姫『もう洗濯屋は廃業しました。洗濯がして欲しければ一本木迄いつて来なさい。サアサアトツトと帰つた帰つた……とは云ふものの、明日から誰が飯を炊いて呉れるだらう。チヨツ、いまいましいが、そんなら暫く置いて上げよう』
勝公『何だか安公が出やがつてから俺も出たくなつた。何ぼう置いてやると云うても居る気もせず、あゝ仕方がないなア』
と小さい声に呟きながら、納戸の方に姿を隠した。
(大正一一・七・二二 旧閏五・二八 加藤明子録)
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