真道彦はホーロケースに破れんとした刹那、木花姫命の化身に救われて、新高山の峰続きのアーリス山の渓谷に草庵を結び、三人の従者とともに逃れていた。
ある日、絶壁の谷の傍らに阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。見れば、谷底の激流に浮きつ沈みつ籐の籠が流れてくる。真道彦は言霊を唱えると、籠は渦に巻かれて足下の淵に寄ってきた。
真道彦は従者に命じて籠を拾わせ、見れば品格の高い美女が縛められて気絶していた。一同は水を吐かせてようやく蘇生させた。これはサアルボースによって谷川に投げ入れられたヤーチン姫であった。
ヤーチン姫の侍臣のキーリスタンとユリコ姫もその場にやってきた。二人は真道彦にお礼を言った。
真道彦は、崖の上にサアルボースとホーロケースらが籠の行方を見届けようとしていることに気付くと、警戒し、一同を連れて玉藻の湖水のほとりに戻った。
日楯・月鉾は教勢を取り戻し、大勢の信徒とともに、禊を修し祈願を凝らしていた。真道彦は、息子たちが玉藻山を取り戻したことを知らなかったので警戒していたが、日楯の宣伝歌を聞いて事情を悟り、踊るばかりに喜んだが、人目をはばかりじっとこらえて様子を見ていた。