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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第1篇 高砂の島よみ(新仮名遣い)たかさごのしま
文献名3第6章 麻の紊れ〔806〕よみ(新仮名遣い)あさのみだれ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-11-19 17:36:21
あらすじ
カールス王は、嫌っていたセールス姫を王妃に押し付けられ、病を発して蟄居させられてしまった。セールス姫は従兄のセウルスチンと関係を結び、セウルスチンと共に暴政を敷いた。

国内は混乱し、至るところに騒乱が起こり、心ある人々は密かに国を出て玉藻山の聖地に逃れた。

一方、日楯は湖水のほとりで、アーリス山の木こりと称する男を助けた。男は、自分の娘がセウルスチンに目を付けられたのを拒否したため、斬り付けられて命からがら逃げてきたのだ、という。

介抱の結果、男の怪我は全快し、日楯の僕として忠実に働くようになった。しかしこの男・ハールは、実はセールス姫がつかわした間者であった。これ以外にも、二三の者が間者として玉藻山の聖地に入り込んだ。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月06日(旧06月14日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版71頁 八幡書店版第5輯 378頁 修補版 校定版72頁 普及版32頁 初版 ページ備考
OBC rm2806
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本文の文字数3713
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本文
 泰安の都に於けるカールス王は、最愛のヤーチン姫を失ひ、怏々として楽まず、且つ蛇蝎の如く忌み嫌ひし、サアルボースの娘セールス姫を無理矢理に王妃に強要され、懊悩の結果遂に病を発し、淡渓の畔にささやかなる館を作り、これに静養の名の下に、蟄居せしめらるる事となつた。而して四五の役員、館の内外を警固し、他人の出入を厳禁しつつあつた。
 セールス姫は吾父のサアルボースを宰相となし、吾叔父に当るホーロケースを副宰相として、新高山以北の政権を握り、且バラモン教の教主を兼ねて居た。セールス姫の従兄にセウルスチンと云ふ美男子があつた。これはホーロケースの独息子である。
 茲にセールス姫の発起にて、泰安の館を改築し、城塞を築き、国民を使役し、殆ど三年を費やして漸くにして宏大なる城廓は築造された。何時の間にやら、セウルスチンとセールス姫の間には怪しき糸が結ばるる事となつた。セウルスチンは殆ど城中に坐臥し、セールス姫の背後に在りて、凡ゆる暴政を行はしめた。
 茲に城内の重臣共はセウルスチンの傍若無人なるに愛想をつかし、怨嗟の声城の内外に溢るるに至つた。国内は各所に騒擾勃発し、掠奪闘争日々に行はれ、乱麻の如き状態となつて了つた。茲に心有る正しき人々は、泰安城を窃に脱出して、遠く玉藻山の聖地に逃れ、真道彦命、ヤーチン姫の教に従ひ、花鳥風月を友として、時の到るを待つ者踵を接するに至つた。
 泰安城にはセウルスチンの意を迎へて、吾身の名利栄達を望む悪人のみ跋扈し、政教は日に月にすたれて、殆ど収拾す可らざるに至り、国内の各地には革命の煙花上つて、騒擾を起し、民家を焼き、婦女を辱め、財物を掠奪し、乱暴狼藉到らざるなく、恰も餓鬼畜生修羅道を現出せし如く、混乱に混乱を重ね、呪咀の声は五月蠅の如く湧き充ちた。猛獣毒蛇は白昼に濶歩し、鰐、水牛などは池、沼などを根拠とし、民家近く襲ひ来つて、人を傷つけ、国内恰も阿鼻叫喚の惨状を呈するに至つた。され共民心を失ひたる泰安城のセールス姫を始め、サアルボース、ホーロケースの威力を以てしても、最早如何ともする事能はざるに立到つた。
 泰安城は最早風前の灯火と、誰云ふとなく称ふるに至つた。数多の国人は遠く難を避けて、アーリス山を越え、天嶺、泰嶺を始め、玉藻山の聖地に避難する者日夜踵を接した。中にも、
ホールサース。マールエース。テールスタン。ホーレンス。ユウトピヤール。ツーレンス。シーリンス。エール。ハーレヤール。オーイツク。ヒユーズ。アンデーヤ。ニユージエール。
などの錚々たる人物はヤーチン姫を中心として三五教の幹部を組織し、表面的教理を宣布し乍ら、時の到るを待つて、泰安城の佞人輩を却け、カールス王を城内に迎へ入れ、ヤーチン姫を元の如く妃となして、新に善政を布かむ事を心私かに期待しつつ、盛に教理を宣布し、新高山以北の地まで隈なく勢力を扶植しつつあつた。
 セールス姫は国内の日々に乱れ行くを、吾身の不心得より来りしものとは夢にも知らず、セウルスチンを始め其他の邪神共の誣言を信じ、斯の如く吾領内の日々に乱れ行くは全く玉藻山の霊地に、三五教の教を樹つる真道彦命頭領となり、ヤーチン姫、マリヤス姫の王族を擁立し、城内の重臣を言葉巧に引付け、時を待つて泰安城を攻め亡ぼし、真道彦命自ら、台湾全島を統一し、政教の両権を握るものとなし、怨恨止み難く、種々の画策をめぐらせ共、阿里山を区域として、東南の地は容易に近付く可らず、千思万慮の結果、土民の中より二三の者を抜擢し、敵地に深く入り込ませ、其内情を探らしめつつありき。
 アーリス山を区域として東南の地方は、花森彦命の子孫及び遠祖真道彦命の裔、国内に充ち、清廉潔白の民最も多きに引替へ、新高山以北の地は玉手姫の魔神の子孫蕃殖して、邪悪行はれ、天災地妖切りに到り、住民は常に塗炭の苦みに陥り、一日として安き日とてはなかつたのである。
 花森彦命の直系なるアークス王の奇禍に係つて上天せし後は、カールス王病に罹り殆ど幽閉同様の身となりたれば、玉手姫の血を引けるサアルボースの娘セールス姫の政権を握りてより、其混乱は急速度を以て増し来り、今や国民怨嗟の声は天に冲する如く、さしもに難攻不落として築造させし泰安城も、何時根底より顛覆するやも計り難き情勢に差迫つて居た。
    ○
 話変つて、日楯は天嶺の聖地を後に、玉藻の湖辺にユリコ姫の手を携へ、二三の従者と共に湖面を眺めて逍遥しつつあつた。此時捩鉢巻をした男、額に血をタラタラと流し乍ら、勢ひ込んで駆来り、従者の一人に衝突し、ヨロヨロとして其場にパタリと倒れて人事不省となつた。日楯は従臣に命じ、湖水の水を彼が面部に注がしめた。彼は漸くにして正気に返り、額の血汐を拭ひ乍ら、
男『何れの方様かは存じませぬが、御無礼を致しました上に、生命迄も御助け下さいまして……此御恩は決して忘れは致しませぬ。私はアーリス山の渓谷に住居致す樵夫の一人で厶います。泰安城のセールス姫が部下の悪者に虐げられ、生命カラガラ何処を当途ともなく、ここ迄逃げて参りました。斯く云ふ間にも如何なる追手が来るやも計り知れませぬ。どうぞ一時も早く私を御匿まひ下さいますまいか』
と落つかぬ態に頼み入る。
日楯『汝はアーリス山の渓谷に住む樵夫と聞きしが、何故セールス姫の部下に追はるる理由あるか。詳細に物語れよ』
となじれば、其男は涙を払ひ、
樵夫『私には親一人、子一人の大切なヨブと云ふ娘が御座いました。私の名はハールと申します。セールス姫がセウルスチンと云ふ立派な大将とアーリス山に数多の家来を召連れ、狩にお越し遊ばした時、吾草庵に立寄り玉ひ、吾娘ヨブを見て……此女を吾侍女に奉れよ……と仰せられました。天にも地にも、親一人子一人の間柄、最愛の娘を泰安城内深く連れ行かれては、最早吾々は一生涯親子の対面は叶ふまじと思ひました故、いろいろと言葉を尽して、御断りを申上げますれば、セウルスチンと云ふ御大将の御言葉に……然らば此娘は吾女房に遣はすべし……と数多の家来に命じ、無理矢理に泣き叫ぶ娘を引抱え、連れて行かれました。私は一生懸命後を追はむとすれば、セウルスチンは一刀を引抜き、吾眉間に斬りつけ、猶も数多の家来に命じ……彼が生命を取れよ……と下知致しました。数多の家来衆は私の後を追つかけ来る。され共山途の勝手を知悉したる私は、巧く間道を通り抜け、漸くにして此処迄逃げのびました様な次第で御座います。何卒々々早く御匿まひ下さいませ』
と両手を合せ涙と共に頼み入る。日楯を始めユリコ姫は之を憐み、二三の従者に彼が身辺を守らせ、天嶺の聖地に連れ帰り親切に介抱させ、漸くにして額の疵は全快し、茲に日楯の従僕となつて忠実に仕ふる事となつた。併し此男はセールス姫が意を含めて遣はしたる間者なりけり。
 ヤーチン姫やマリヤス姫の  珍の命やカールス王の
 泰安館を出でしより  鳥なき里の蝙蝠と
 羽振りを利かしセールス姫が  傍若無人の悪政に
 居たたまらず重臣は  次第々々に逃走し
 玉藻の山の霊場に  身を忍びつつ三五の
 教司と身を変じ  花咲く春を待ち居たる
 サアルボースやホーロケースの両人は  カールス王を淡渓の
 森の彼方に放逐し  形ばかりの館を建てて
 四五の部下をば派遣しつ  人の出入を警戒し
 苦しめ居たるぞ忌々しけれ。  セールス姫は只一人
 閨淋しさに従兄なる  セウルスチンを寝間近く
 招きて秘密の謀計  酒池肉林の贅沢を
 極めて民の苦しみは  空吹く風と聞き流し
 あらむ限りの暴政を  行ひければ国人は
 益々塗炭の苦みに  堪りかねてか遠近の
 山の尾の上や川の瀬に  三人五人と集まりて
 大革命の謀計  目引き袖引き語り合ふ
 暗夜とこそはなりにけれ。  ヤーチン姫やマリヤス姫の
 珍の命は国内の  此惨状を耳にして
 心は矢竹と逸れども  詮術もなき今の身の
 神に祈りて木の花の  開くる春を待つばかり
 松の名に負ふ高砂の  胞衣と聞えし此島も
 今は果敢なき曲津身の  荒ぶる世とはなりにけり
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませと
 朝な夕なに真心を  こめてぞ祈る神の前
 真道彦を始めとし  日楯、月鉾諸共に
 日月潭の湖に  朝な夕なに禊して
 高砂島の安泰を  只管祈る真心は
 いつしか願ひ竜世姫  国魂神の功績に
 常夜の暗も晴れ渡り  天津御空に日の神の
 影も豊に昇りまし  神の御稜威も高砂の
 尾の上の松の末永く  栄えよ栄え何時迄も
 世は平けく安らけく  治まりませと一同が
 朝な夕なの神言を  神も諾なひ玉ふらむ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 三五教の御教を  此神島に隈もなく
 完全に委曲に宣り伝へ  昔の神代の其儘の
 清き心に上下の  司も民も睦び合ひ
 栄え久しき松の世を  来させ玉へと真心を
 こめて祈るぞ尊けれ。
 セールス姫の間者として入り込みしハールを始め、其外数名の間者、日月潭を始め、玉藻の山の聖地に入り込みたる件は、一々述ぶるも、くどくどしければ、今は之れを略し事の序に述ぶる事となすべし。
(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
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