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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第2篇 暗黒の叫よみ(新仮名遣い)あんこくのさけび
文献名3第8章 混乱戦〔808〕よみ(新仮名遣い)こんらんせん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-11-21 17:46:35
あらすじ
エールは二三の供人らとともに聖地を脱出し、泰安城近くの山に身を忍ばせて、形成を伺っていた。

聖地の重臣たちは出陣と意向を固め、泰安城に攻め寄せることとなった。真道彦は必死で自分の意ではないことを説いて回ったが、重臣たちは真道彦の言を逆に取り、逆に真道彦も推されて出陣することになってしまった。

日楯・月鉾をそれぞれ天嶺、泰嶺の要所に守りとして残し、聖地にはヤーチン姫、マリヤス姫を残して、三万の兵を率いて泰安城に向かった。

先に泰安城付近に潜んでいたエールは、数十人の部下を集めていた。そして、真道彦の神軍を待ち伏せていた。エールたちを見た、真道彦軍先頭のテールスタンは、仲間割れはやめて共に闘おうと呼びかけた。

エールは感激し、カールス王救出のために一軍を割いてくれないかとテールスタンに頼み込んだ。テールスタンは自分が率いる軍を、カールス王の救出に向かわせることになった。

セールス姫一派のサアルボースは、カールス王を幽閉した淡渓の館を警護していた。トロレンスは王を自分の手中に収めようと、淡渓の館を取り囲んだ。

落城寸前の状況に、サアルボースはカールス王に自害を迫り、王が承諾しないと自ら手を下そうとした。すると一塊の大火光が落下して、サアルボースは失神して倒れてしまった。

トロレンスは勝ちに乗じて館に乱入しようとしたが、そこへテールスタンとエールの神軍が現れ、不意を付かれたトロレンス軍は泰安城方面に敗走した。正気づいたサアルボースも、三五教軍が現れたことに驚いてその場を逃げ出した。

テールスタンとエールはカールス王を救い出し、淡渓をさかのぼった新高山の岩窟を仮の城塞となして立て籠もり、状況を窺うこととなった。

泰安城はセールス姫軍の本体が守り、シャーカルタンの革命軍を防いでいた。そこへテールスタンの一隊が攻め寄せたため、シャーカルタン軍は窮地に陥った。

また、真道彦軍の本隊も到着して攻め寄せたが、はからずもテールスタン軍と衝突してしまった。テールスタン軍は敗走して、新高山岩窟に逃げ帰った。テールスタンは、真道彦のことをカールス王に讒言したため、王は真道彦を疑うこととなった。

真道彦軍は泰安城をセールス姫一派らから奪い返すと、三五教の大神を祀り、戦勝の祝いの宴を開いた。

真道彦は、聖地からヤーチン姫、マリヤス姫を泰安城に招いた。そして、新高山の岩窟にカールス王が隠れていることを知ると、王を城に迎えようと重臣を使いに出した。しかし使いはいつまで待っても帰ってこなかった。そのため後から数人の重臣を使いに出したが、いずれも帰ってこなかった。

真道彦はマリヤス姫に泰安城を任せると、ついに自らヤーチン姫とともに、王の元に向かうこととなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月08日(旧06月16日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版96頁 八幡書店版第5輯 387頁 修補版 校定版99頁 普及版45頁 初版 ページ備考
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本文  エールは乱暴を働き、大勢に取巻かれ、進退谷まつて、捷しこくも満座総立となつて立騒いで居る人々の股をくぐり、聖地を後に、二三の知己と共に、アーリス山を越え、泰安城の間近の山に身を忍ばせ、形勢如何にと窺ひつつあつた。
 一方八尋殿に於てはホールサース、マールエース、テールスタン、ホーレンス其他の幹部連は再び議論の花を咲かした。テールスタンは立上りて、決心の色を面に現はし、満座に向つて云ふ。
『満場の諸君よ、一時も早く出陣を致さうでは御座らぬか。グヅグヅ致して居れば、シヤーカルタンやトロレンスの一派の為に、泰安城を占領せられ、彼が手に依つてカールス王を救ひ出す事あらば、吾等が今迄の希望も苦心も全く水泡に帰すべし。六菖十菊の悔を後日に残すよりは、若かず、一刻も早く衆を率ゐ、破竹の勢を以て、旗鼓堂々と泰安城に押寄せ、セールス姫の一派を撃退し、且つカールス王を救ひ、シヤーカルタン、トロレンスの一派に先鞭をつけ、本島の統治権を掌握致すは、今を措いて又とある可らず。千戴一遇の此好機、躊躇逡巡して、後日に呑噬の悔を残す事勿れ。如何に真道彦命、表面無抵抗主義を唱へ給へばとて、決して其本心には非ざるべし。先んずれば人を制すとかや、吾等率先して衆を引率し、泰安城に立向ひなば、真道彦命も、ヤーチン姫も必ず承諾し玉ふべし。三五教の教主として、あらはに神軍を率ゐ、泰安城の主権を握らむなどとは口外し玉はざるは当然である。そこは吾々幹部たる者一を聞いて十を悟るの知識なかる可らず。学古今を絶し、識東西を貫き玉ふ教主にして、目前に落下し来る此天運を袖手傍観して受け入れ玉はざるの理あらむや。不肖乍らテールスタンの観察は謬りますまい。皆様、何卒御賛成を願ひませう』
 一同は何となく心勇み、歓声をあげ、賛意を表しける。
 茲にホールサースを大将と仰ぎ、マールエース、テールスタンを副将とし、日月潭の信徒を加へて、殆ど三万有余人、竹槍を携へ、愈時を移さず、泰安城に立向ふ事となつた。
 真道彦命は大に驚き、一同に向つて吾意にあらざる事を言葉を尽して、説き明せ共、逸り切つたる数多の人々、真道彦の言葉を却つて逆に取り、容易に一人として其命に従ふ者はなかつた。真道彦は止むを得ず、幹部其他に推されて出陣する事となつた。日楯、月鉾の兄弟を天嶺、泰嶺の両所に残し、玉藻山の聖地にはヤーチン姫、マリヤス姫をしてこれを守らしめ、馬上豊に衆を率ゐて、心ならずも泰安城に向ふ事となつた。あゝ真道彦命の運命は如何になるらむか。
 先に逃走したるエールは、セールス姫の間者として玉藻山に忍び入り込みたるマルチル、ウラール、キングス、トーマス、マーシヤル等の一味と共に、数十人の部下を集め、アーリス山の北麓に、真道彦の神軍の到るを待伏せて居た。先頭に立つたるテールスタンはこれを見て大音声、
『ヤア、エール、汝は聖地を脱出し、少数の一味の奴原を引率し、吾等が大軍を待討たむとするか。弱小の味方を以て、雲霞の如き大軍に抵抗せむとするは、実に険呑千万であらうぞ。それよりも悔い改めて、再び吾軍に加はり、共に共に抜群の功名を致さうではないか』
と教ゆる様に言つた。エールは笑顔を以てこれを迎へ、つかつかとテールスタンの前に近づき、堅く手を握り、両眼より熱涙を落し乍ら、
エール『あゝテールスタンよ、よくも云つて下さつた。一時の怒りより聖場を脱出し、泰安の都近く立帰つて見れば、シヤーカルタンやトロレンスの勢、頗る猖獗にして侮る可らず。吾等少数の味方を以て彼等に当るとも、何の効果もなきのみか、却て自ら滅亡の淵に飛び込む如きもので御座る。それに付いても、カールス王の御身の上、サアルボースの一派、淡渓の館を十重廿重に取巻き、シヤーカルタンの寄手に向つて王を奪はれまじと厳しく警固し居れば、王の命は早旦夕に迫れり。思ふにセールス姫一派は、シヤーカルタン等にカールス王を奪はれ、これを擁立して泰安城に新しき政事を布くならば、吾等一派の一大事と心得、王を寄手に渡さじと全力を籠めて守り居るものの如し。さり乍ら寄手の勢益々猛烈にして、到底守る可らざるを知らば、サアルボースの一派は後難を恐れて、王を弑し、遁走するやも計り難し、これを思へば一刻も猶予す可らず。何卒三五教の神軍の一部を吾に賜はらば、王の生命は安全に守り奉る事を得む。曲げて此儀御許しあれ』
と言葉を尽して頼み入る。テールスタンは直ちに自己の率ゆる神軍を以てエールの請ふが儘に、淡渓の王が館に応援の為、出で向ふ事となつた。
 淡渓の館にはサアルボースの部下の者十重二十重に取巻き王の警固に当つて居る。トロレンスの一隊は淡渓の館に攻め寄せ、王を奪はむとして、サアルボースの部下と衝突し、互に一勝一敗、死力を尽して戦ひしが、寄せ手の勢刻々に加はり、サアルボースは最早身を以て免るるの余儀なきに立到つた。カールス王を敵手に渡しては、後日の為に面白からずと、今は覚悟を極め、王に向つて自殺を逼り、万一肯んぜざれば、サアルボース自ら手を下して、王を弑せむとする折しもあれ、何処よりともなく、一塊の大火光飛来して、サアルボースの前に爆発し、大音響を立てた。サアルボースは忽ち失心して其場に倒れた。
 トロレンスの寄手は勝に乗じて早くも館内に乱入せむとする。時しもあれ、テールスタン、エールの率ゆる竹槍隊は雲霞の如く鬨を作つて此場に現はれ来り、忽ち寄手に向つて遮二無二突込めば、トロレンスを始め全軍狼狽の結果、泰安城を指して敗走して了つた。
 サアルボースは漸くにして正気づき、あたりを見れば、トロレンスの寄手は影もなく、それに代つてテールスタン、エールの三五軍の襲来せるに再び肝を潰し、僅に身を以て此場を逃るる事を得た。テールスタン、エールはカールス王の前に出で、恭しく手を仕へて王の危急を知り、遥々救援に向ひし事を奏上した。王は立つて両人が手を固く握り、涙と共に感謝の辞を与へた。
 これより二人は王を奉じ、淡渓を溯り新高山の岩窟を仮りの城塞となし、テールスタンは一軍の半を割いて泰安城の攻撃に向ひ、残りの神軍はエールこれを統率し、王の身辺を堅く守り、時機を窺ひつつあつた。これよりテールスタン、エールの二人はカールス王の殊寵を蒙り、得意の時代に見舞はるる事となりぬ。
    ○
 一方泰安城にてはセールス姫、セウルスチン、ホーロケースの大将株、城内の兵を指揮し、華々しく立働き、容易に落城せず。寄せ手のシヤーカルタンの攻軍も素より烏合の衆なれば、稍厭気を生じ、内訌を起し、内部より瓦解せむとする危急の場合であつた。
 此時淡渓より逃げ去つたるサアルボースは、散乱せる味方を集め、応援の為に此場に集まり来る。民軍の勢は稍回復し、此機を逸せず一挙に攻め寄せむと城塞を攀ぢ、乱入せむとする時しも、テールスタンの率ゆる一隊、後方より鬨を作つて攻めよせ来り、民軍は内外より敵を受け、再び窮地に陥り最早敗走の余儀なき立場となつた。此時後方より真道彦命の率ゆる大軍は、ホールサース、マールエースと共に軍を三隊に分ち、三方より泰安城に攻寄せ来る。此勢に辟易し、セールス姫、セウルスチン、ホーロケース、サアルボースも又寄せ手の民軍も、敵味方の区別なく、雪崩の如く敗走したり。
 茲にテールスタンの率ゆる三五軍と、真道彦命の率ゆる三五軍とは、ゆくりもなくも大衝突を来し、テールスタンは形勢非なりと見るより、部下と共にカールス王の臨時の城塞に引返し、虚実交々真道彦命の暴状を進言したり。カールス王は怒り心頭に達し、如何にもして真道彦一派を滅ぼさむと、腕を扼し、歯を喰ひしばり、怒りの涙ハラハラと流し、無念さを堪へて居たり。
 一方真道彦命の神軍は悠々として泰安城に進み入り、真道彦命を始め、ホールサース、マールエースの副将以下、ホーレンス、ユートピヤール、ツーレンス、シーリンス、ハーレヤール、オーイツク、ヒユーズ、アンデーヤ、ニユヂエール其他の勇将と共に、チユーリツクを脱ぎ捨て戦勝の酒宴を催し、数多の軍卒を犒うた。城内の奥殿には三五教の大神を斎り、戦勝の礼代として各神殿に音楽を奏し、舞曲を演じ、神慮を慰め、城内は忽ち天国楽園の如くになつて来た。
 真道彦命はホールサースに命じ、玉藻山の聖地に在るヤーチン姫、マリヤス姫を奉迎して泰安城に帰らるべしと、信書を持たせ、急遽、聖地に遣はした。又一方カールス王の御在処を探り得たれば、マールエースをして少しの従者と共に、王を泰安城に奉迎せしめむと、急ぎ派遣したり。
 ホールサースはヤーチン姫、マリヤス姫を首尾克く迎へ帰りたれ共、何故かマールエースは旬日を経れ共帰り来らず、何の音沙汰もなきに不審を抱き、此度はホーレンスをして再び、王を迎ふべく、王の陣所に差し向けた。これ又幾日を経るも何の音沙汰無ければ、ユートピヤール、ツーレンス、シーリンス、ハーレヤールをして王を迎ふべく差し遣はしたれ共これ又何の音沙汰も無かりけり。
 茲に真道彦命は稍不安の念に駆られ乍ら、此度はヤーチン姫を促し、自ら王の隠れ家に到りて、泰安城に奉迎せむとし、マリヤス姫其他に城を守らしめ、淡渓の上流なる王の陣屋に自ら出張したりける。
(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
(昭和一〇・六・七 王仁校正)
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