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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第2篇 暗黒の叫よみ(新仮名遣い)あんこくのさけび
文献名3第9章 当推量〔809〕よみ(新仮名遣い)あてすいりょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-11-23 21:42:51
あらすじ
テールスタンは、泰安城で真道彦軍本隊に敗退させられたことを根に持って、真道彦を口を極めて讒言した。そのため、真道彦の使者は疑心暗鬼のカールス王に尋問され、真道彦を擁護した者は投獄され、共に真道彦を讒言した者は取り立てられた。

そうとも知らずやってきた真道彦とヤーチン姫は、たちまち捕らえられて投獄されてしまった。

そうしてカールス王は軍勢を率いて泰安城へ乗り込んだ。この勢いと教主の投獄に、マリヤス姫ら聖地軍は敗走し、カールス王は泰安城を取り戻した。三五教は火の消えたようになってしまった。

カールス王は泰安城を取り戻して政務を取ったが、国内の情勢は穏やかならず、セールス姫一派が再来するとか、シャーカルタンやトロレンスが再起を図っているとかの噂で持ちきりだった。

しかしカールス王は重臣の甘言に耳を塞がれており、天下は無事太平であると信じてしまっていた。テールスタンら真道彦を讒言して王に取り入った重臣たちは、三五教を捨てて元のバラモン教を祀り、国勢の補助とした。そのため国内には怨嗟の声が満ちることとなった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月08日(旧06月16日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版105頁 八幡書店版第5輯 391頁 修補版 校定版109頁 普及版50頁 初版 ページ備考
OBC rm2809
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本文  テールスタンは泰安城に於て、真道彦命の神軍より手厳しく撃退されたる無念を晴らさむが為に、エールと共にカールス王に向つて口を極めて、真道彦命一派を讒訴した。
 真道彦命は斯かる王の怒りに触れ居ることは夢にも知らず、マールエースをして、王を泰安城に迎へむと、誠意をこめて遣はしたるにも関はらず、エール等の讒訴を固く信じたるカールス王は容易に怒り解けず、真道彦の使者を悉く牢獄に投じ、日夜エールをして厳しく訊問せしめつつあつた。真道彦命は幾度使を遣はすも、一人として帰り来らざるに不審を抱き、ヤーチン姫と共に、王の陣屋に伺候し、誠意をこめて王を泰安城に迎へむと、遥々訪問したりける。
 手具脛ひいて待つて居たエール一味の者は、有無を言はせず、ヤーチン姫、真道彦命を牢獄に投じ、日夜訊問を続けたり。第一に王の前に堅く両手を縛められて引出されたるは、マールエース、ホーレンスの二人であつた。正面にカールス王は閻羅王の如く厳然として眼を光らせ、エール、テールスタンは左右に赤面を曝し、目を怒らして、訊問の矢を放ちゐる。王はマールエースに向ひ、
カールス王『汝は玉藻山の聖地に永らく入り込みて、真道彦命と何事かを企画しつつありしと聞く。委細を詳さに陳弁せよ』
と厳しく問ひかくれば、マールエースは、
『ハイ私は王が御病気の為、淡渓の館に御退去の後はセールス姫、セウルスチン其他の悪人輩の行動、見るに忍びず、時を待つてカールス王様の御親政に復帰し奉らむと心を決し、玉藻山に身を逃れて、時機の到るを待ちつつありましたので御座います。然るに此度泰安城の大変事を聞き、王の御身辺を危み、救援の為に神軍を率ゐ参りました。外にそれ以上の目的は何も御座いませぬ。何卒公平なる御判断を願ひ奉ります』
カールス王『汝の申す事、よもや間違はあるまい。それに就いて、汝に尋ねたき事がある。ヤーチン姫と真道彦命二人の間の関係は存じて居るや』
マールエース『ハイ御両人共忠実に御神務に奉仕されて居られました。別に噂にのぼつて居る如き醜関係は、私としては認められませぬ』
カールス王『テールスタンやエールも永らく汝の如く聖地に入り込んで、幹部に列して居た者、彼れら両人の言ふ所に依れば、真道彦はヤーチン姫と怪しき関係を結び、時を得て泰安城を占領し、台湾島の主権を握り、自ら王と称する計画を立てて居つたではないか。斯の如く歴然たる二人の証人ある上は、隠すも無駄であらう。有態に白状せよ』
マールエース『真道彦命に限りて、決して左様な政治的野心も、又醜行も、毛頭御座いませぬ。三五教の古来の主義として、教主たる者は政治的野心を持つ可からずと云ふ厳しき掟が御座いまする。信心堅固なる真道彦命に於て、如何して左様な御心を抱かれませう。全く人々の邪推より出でたる噂で御座いますれば、何卒神直日大直日に見直し聞直し、公平なる御判断を願ひ奉ります』
 王は烈火の如く憤り、
カールス王『汝、マールエース、其方は真道彦と心を協せ、泰安城を占領し、政治の全権を握り、且つ吾れを排斥せむとの悪虐無道の一類であらう。……ヤア、エール、一刻も早くマールエースが事実を白状致す迄、牢獄に投じ、水責め火責めの責苦に会はしても、事実を吐露せしめよ』
 エールは傍の従卒に命じ、目配せすれば、従卒はマールエースを荒々しく引立て、暗黒なる牢獄の中に投込んで了つた。
 カールス王は、続いてホーレンスに向ひ、
カールス王『汝はホーレンス、久しく玉藻山の聖地に参り居りし者、エール、テールスタンの申した事に間違はあるまいなア』
ホーレンス『ハイ決して間違は御座いますまい。ヤーチン姫様と真道彦命の醜関係は、私は実地目撃は致しませぬが、これは随分喧しき噂で御座います。御両人の間柄はつまり公然の秘密も同様、三歳の童児に至る迄知らぬ者は御座いませぬ』
カールス王『真道彦はヤーチン姫と関係を結び、将来は泰安城の国王となり、ヤーチン姫を妃とし、日頃の野心を遂行し、且つ此カールスを目の上の瘤と忌み嫌ひ、排斥せむとの計画を立て居りしと云ふ事、事実であらうなア』
ホーレンス『ハイ、夫も私の考へでは事実だと信じて居ります。此度神に仕ふる身であり乍ら数多の部下を引率し、泰安城へ救援の名の下に攻寄せ来りしは、全く王者たらむとの、野心より起つたる出陣と考へるより途は御座いませぬ』
王『あゝさうであらう。其方は正直な奴だ。サア只今より縛めの縄を解いてやらう』
 エールは従卒に命じ、ホーレンスの縛めを解いた。ホーレンスは大いに喜び、三拝九拝して、王の意を迎ふる事のみに熱中し、夫が為に真道彦命の寃罪は容易に拭ふ可らざるものとなりにける。
 続いてユートピヤール、ツーレンス、シーリンス、ハーレヤール其他数多の嫌疑を受けて投獄されたる三五教の幹部は、ホーレンスと略同様の陳述をなし、遂に縛めを解かれ、再び王の寵臣として深く用ゐらるる事となりけり。
 茲にカールス王はエールをして此岩城の総監督たらしめ、且つ真道彦命、ヤーチン姫を牢獄につなぎ、数多の従卒をして監視せしめつつ、テールスタンの部下を引率れ、数多の幹部と共に、泰安城に堂々として乗り込んだ。此勢に真道彦の率ゐ来れる神軍を始め、マリヤス姫は思ひ思ひに遁走し、再びアーリス山の東南方に避難する者、或は各自の郷里に帰りて、何喰はぬ顔にて樵夫、耕しなどに従事し、暫くは玉藻山の霊地にも、大部分足を向けなくなり、カールス王の威力と真道彦教主の投獄とに萎縮して、一時三五教は火の消えし如く淋しくなりにけり。
 カールス王は再び泰安城の城主となり、テールスタンを宰相とし其他の一同を重用して、万機の政事を執り行ひつつあつた。され共何となく国内の情勢は穏かならず、サアルボースはセールス姫を奉じて、日ならず泰安城へ攻来るべしとか、シヤーカルタン、トロレンスの一派、同志を集め捲土重来、再び戦闘は開始さるべしとか、種々雑多の噂にて持切つて居た。されどカールス王はテールスタン以下の重臣の甘言に誤られ、少しも国内の不穏なることを知らず、天下は無事太平にて、国民はカールス王の徳に悦服するものとのみ確く信じつつありしなり。
 テールスタン、ホーレンス、ユートピヤール、其他の重臣は王に諂ひ、下を虐げ、我利我欲にのみ耽り、バラモンの神を祀り、今迄信じ居たりし三五教を塵芥の如く振棄てて、新高山以北の地には、再びバラモンの教を布き、以て国政の輔助となしつつあつた。国民怨嗟の声は以前に倍加して、何時動乱の勃発するやも計り難き危機に迫りつつあつた。
(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
(昭和一〇・旧五・七 王仁校正)
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