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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第2篇 暗黒の叫よみ(新仮名遣い)あんこくのさけび
文献名3第12章 サワラの都〔812〕よみ(新仮名遣い)さわらのみやこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-11-26 18:51:08
あらすじ
三人はサワラの都にたどり着いた。広い平原の中央に築かれた新都会である。サワラの都は広大な堀で四方をめぐらしている。三十万年前の都としては、かなり大きな街であった。

三人は夕方に門から街区に入り、城門の前で門番に声をかけた。門番は誰もすでに居眠りをしており、起こそうとする日楯に文句を言って寝てしまう。

そこへ表門が開かれ、中から立派な行列が現れた。行列の大将は三人に声をかけ、台湾島の真道彦の子息一行ではないか、と問うた。日楯は丁寧に挨拶を返した。男は自分は照彦王の側近でセルと名乗った。数日前に照子姫に竜世姫が神懸かり、三人の来島を告げたという。一行は、セルに続いて城内に入って行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月08日(旧06月16日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版138頁 八幡書店版第5輯 404頁 修補版 校定版142頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm2812
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本文  玉藻の山の聖場に  遠き神代の昔より
 三五教を開きたる  真道の彦の末流と
 世に聞えたる真道彦  泰安城の急変を
 救はむ為に三五の  神の司や信徒を
 集めて神軍組織なし  泰安城に現はれて
 寄せ来る敵を打払ひ  遂には奇禍を蒙りて
 カールス王に疑はれ  暗き牢獄に投げ込まれ
 逃るる由も泣く許り  ヤーチン姫も諸共に
 聞くもいまはし寃罪に  かかりて暗に呻吟し
 苦しき月日を送ります  其惨状を救はむと
 父を思ふの真心に  日楯、月鉾両人は
 聖地を後にユリコ姫  夜に紛れて蓑笠の
 軽き姿に身を装ひ  アーリス山の頂きに
 息もせきせき辿り着き  月の光を浴び乍ら
 片方の岩に腰をかけ  息を休むる折柄に
 泰嶺山の聖地より  神の司の月鉾が
 後を尋ねて追ひ来る  テーリン姫の執拗な
 恋の縺れの糸をとき  言葉を尽して聖場に
 帰らしめむと思へども  恋に曇りしテーリンは
 とけば説く程もつれ来る  時しもあれや木かげより
 現はれ出でし人影に  一同驚き見廻せば
 思ひ掛けなきマリヤス姫の  珍の命の出現に
 漸く急場を逃れ出で  日楯、月鉾、ユリコ姫
 三人の司はやうやうに  ヤツと蘇生の心地して
 アーリス山の峰を越え  須安の山脈打渡り
 夜を日についで漸々に  テルナの里に辿りつき
 谷間にまたたく一つ火を  目あてに進む折柄に
 喉は渇き腹は飢ゑ  根気も尽きて三人は
 とある木蔭に休らひつ  幽かに漏れ来る人声を
 耳をすまして聞き居れば  俄に吹き来る谷の風
 三人の頭に何物か  触ると見れば木茄子の
 香りゆかしき果物に  飛びつく計り喜びて
 忽ち三人は木茄子を  一個も残らずむしり取り
 腹をふくらせ横はり  いつしか眠りにつきにける。
 折も折とてバラモンの  神の祭典の真最中
 四五の土人は木茄子を  神の御前に供へむと
 冠装束いかめしく  幣振り乍ら進み来る
 素より三人は白河の  夜船を操る真最中
 土人は忽ち木茄子の  一個も残らず何者にか
 盗まれたるに肝潰し  明りに照して眺むれば
 雷のやうなる鼾声  驚き直に此由を
 テルナの里の酋長に  報告すればゼームスは
 時を移さず駆来り  三人の男女に打向ひ
 団栗眼を怒らせて  『テルナの里の人々が
 生命に代へて守り居る  神に捧ぐる木茄子を
 取りて食ひし横道者  汝三人の生命を
 奪ひて神の贄に  奉らむ』と居丈高
 罵りちらせばユリコ姫  酋長の前に手をついて
 『長途の旅に疲れ果て  喉は渇き腹は飢ゑ
 かかる尊き果物と  知らずに取つて食ひました
 何卒深き此罪を  広き心に見直して
 吾等を赦し給へかし』  願へば酋長はユリコ姫の
 顔打眺め笑ひ顔  『汝は吾れの要求を
 容れて女房となるならば  汝の罪を赦すべし
 二人の男は如何しても  命を取つて神前の
 尊き犠牲に供さねば  神の怒りを如何にせむ
 覚悟せよや』と睨めつける  ユリコの姫はいろいろと
 詞を尽し身を尽し  口説き立つれば酋長は
 漸く心和らぎて  苦しき荒行いろいろと
 二人の男に言ひ付けて  漸く此場は鳧がつき
 大祭壇の傍に  三人の男女を伴ひて
 ユリコの姫には美はしき  衣服を与へ二人には
 『猛火の中をくぐれよ』と  言葉厳しく下知すれば
 日楯、月鉾両人は  天津祝詞を奏上し
 天の数歌ひそびそと  小声になりて唱へつつ
 猛火の中を幾度も  いと易々と潜りぬけ
 大祭壇の其前に  火傷もせずに帰り来る
 並みゐる人々両人が  其神力に驚きて
 互に顔を見合せつ  舌巻き居たる折柄に
 何処ともなく大火光  此場に忽ち落下して
 酋長ゼームス果敢なくも  身は中空に飛びあがり
 行方も知らずなりにける。  並み居る数多の里人は
 此爆発に驚きて  雲を霞と逃げて行く
 逃げ遅れたる人々は  胆をば潰し腰抜かし
 呻吟き苦む折柄に  ユリコの姫は酋長に
 与へられたる衣を脱ぎ  直に火中に投ずれば
 日楯、月鉾両人は  ユリコの姫の右左
 立現はれて宣伝歌  声も涼しく宣りつれば
 醜の曲霊は何時しかに  消え失せたるか風清く
 何とはなしに心地よく  神の恵を三人が
 喜ぶ折しもゼームスは  衣紋を整へ供人を
 数多引連れ珍しき  木の実を器に盛り乍ら
 三人が前に手をついて  以前の無礼を心より
 詫入る姿の殊勝さよ  茲に三人は三五の
 神の教を細々と  ゼームス始め里人に
 伝へて直ちに三五の  教の柱をつき固め
 酋長始め数十の  里人達に送られて
 夜を日に継いで高砂の  北の端なるキールンの
 漸く浜辺に着きにけり  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ。
    ○
 常世の波も竜世姫  高砂島の胞衣として
 神の造りし台湾島  木の実も豊に水清く
 禽獣虫魚も生ひたちて  天与の楽土と聞えたる
 台湾島の中心地  玉藻の山の聖場を
 三人は後に立出でて  艱難辛苦を嘗め乍ら
 テルナの里の酋長に  長き道程を守られて
 キールの港に安着し  船を傭ひて三人は
 波のまにまに漕ぎ出しぬ  折柄吹き来る北風に
 山なす浪は容赦なく  三人の船に衝き当る
 ユリコの姫は船頭に  立ちて波をば静めつつ
 神のまにまに琉球の  八重山島を指して行く
 やうやう茲に三人は  エルの港に安着し
 岸辺に船をつなぎおき  声名轟く照彦の
 千代の住家と聞えたる  サワラの都を指して行く。
 サワラの都に、三人は漸く辿りついた。ここは際限もなき広原の中央に築かれたる新都会にして、白楊樹の森四辺を包み、芭蕉の林は所々に点綴してゐる。国人は大抵、芭蕉実、苺、林檎、木茄子、柿などを常食とし、或は山の芋、淡水魚などを副食物として生活を続けてゐる。
 サワラの都には、広大なる堀を以て四方を囲らしてゐる。其巾殆ど一丁計りの広さである。東西南北に堅固なる橋梁を渡し、稍北方にサワラの高峰、雲表に聳え、四神相応の聖地と称せられてゐる。城内には数百の人家立並び、今より三十万年前の都会としては、最も大なるものと称されて居た。サワラの城は殆ど其中心に宏大なる地域を構へ、石造の館高く老樹の上にぬき出て居る。城内には畑もあれば、川もあり、沼もあり、何一つ不自由なき様に作られてゐた。
 三人は東の門より橋を渡つて、門内に進み入つた。黄紅白紫紺いろいろの花は木の枝に、草の先に、爛漫と咲き乱れてゐる。又道の両側には百日紅や日和花の類密生し、白き砂は日光に輝き、台湾島の日月潭に比して、幾層倍とも知れぬ気分のよき土地である。
 三人は何となく恥しき様な、おめる様な心持にて、小声に宣伝歌を歌ひ乍ら、照彦が千代の住家と定めたる城門の前に漸くにして歩を運んだ。四五の門番は頬杖をつき乍ら、何れも睡魔に襲はれて、コクリコクリと居睡つてゐる其長閑さ、天国の門番も斯くやと思ふ計りの気楽さを現はし居る。日楯は門番の前に進み寄り、
日楯『頼みます 頼みます』
と声をかけた。門番の一、ねむた目をこすり乍ら、
門番ノ一『アヽ此真夜中に誰か知らぬが、人を起しやがつて、ねむたいワイ。此門は暮六つから明け六つ迄は開ける事は出来ぬ。夜が明けたら、誰か知らぬが行つて来い。キツと開けて通してやる、ムニヤ ムニヤ ムニヤ……』
と云ひ乍ら又ゴロンと横になる。
月鉾『モシモシ門番様、まだ日中で御座います。暮六つ迄には余程間も御座いますから、どうぞ目を醒まして、此門をお開け下さいませ』
門番ノ二『お前は夜が明けとるか知らぬが、俺の目ではそこら中が真暗がりだ。暗い時は夜分にきまつて居る。アタねむたい、喧しう言はずにトツトと出直して来い』
月鉾『アハヽヽヽ、あなた目をおあけなさい。さう目蓋を固く密着させてゐては、昼でもヤツパリ暗く見えますぞ』
門番ノ二『喧しう言ふない。暗くも何もあつたものかい。苦楽一如だ。世の中に寝る程楽はなきものを、起てガヤガヤ騒ぐ馬鹿のたわけ。おれはまだ夜中の夢を見て居るのだ。おれの目の引明けに出て来い。そしたら、あけてやらぬ事もないワイ』
とダル相な声でブツブツ云ひ乍ら、又横にゴロンとなる。三人はもどかしがり、稍思案に暮れて佇んで居る時しも、表門はサラリと左右に開かれ、中より立派なる男女幾十人となく行列を作り、三人の前に恭しく手をつき乍ら大将らしき一人は、
『エヽあなたは台湾島の玉藻山の霊場にまします、真道彦命様の御子息様では御座いませぬか』
 日楯丁寧に礼を返し、
『ハイ御察しの通り、吾等は真道彦命の伜、日楯、月鉾と申す者、これなる女は私の妻ユリコ姫と申します。竜世姫様の御神勅に依り、当国の城主照彦様、照子姫様に御願の筋ありて、大海原を渡り、漸くこれへ参つた者で御座います』
一人の男『私はセルと申して、照彦王の御側近く仕ふる者で御座います。二三日以前より、照子姫様に高砂島の竜世姫命様御神懸り遊ばし、あなた方御三人様がここへ御越しになるから、出迎ひに出よとのお告で御座いました。それ故今日はお越しの日と早朝よりいろいろと、あなた方の歓迎の用意を致し、照彦様、照子姫様、奥にお待で御座います。サア御案内致しますから、早くお這入り下さいませ』
 三人は一度に頭を下げ、
『有難う』
と言ひ乍らセルの後に従ひ、奥深く進み入る。門番は漸く目を醒し、
甲『オイ、ベース、チヤール、起きぬか起きぬか、大変な事が出来て来たぞ。お側役のセル様が沢山の御近侍の方々と共に三人のお客さまをお迎へ遊ばして、奥へお這入りになつた。貴様達はなまくらを構へて、寝真似をし、糟に酔うた様な事をぬかしてをつたが、たつた今ドテライお目玉だぞ。サア早く何とか、言訳を拵へて、セル様へお断りに行かねば、足袋屋の看板だ。サツパリ足あがりになつて了ふぞよ』
エル『バカを言ふな、俺達が寝真似をして居つたのを知つてゐた以上は、貴様もチヨボチヨボだ。俺が足があがる位なら、貴様は頭だから、キツト首が飛ぶぞよ。貴様は俺達の組頭だからお詫に往つて来るがよからう。俺や、こんな門番なんか、何時足があがつても構やしないのだ。常世城の門番を見い、失敗して王様のお側附になつたぢやないか。何時迄も門番を厳重に勤めて居つたら、彼奴は門番に適当な奴だと、セルの大将に見込まれたが最後、金槌の川流れ、一生頭の上る事はないぞよ。それより日中にグウグウと寝てる方が、何時栄達の途が開けるか知れないぞ。大体こんな智者学者を門番にさしておくのが見当違ひだ。マア見て居れ、明日になつたら、貴様達は門番に不適当だから、奥勤めに使つてやらうとの御命令が下るに違ない。余り取越苦労をするものでない。マア刹那心を楽むのだなア。待てば海路の風が吹くとやら、何事も運は天にありだ。そんな事に心配するよりも、酒でも呑み、一生懸命に騒ぎ、ステテコでも踊つて、今度のお客様のお慰みに供したら、照彦王様も面白い奴だと云つて、……苦しうない、門番近く参れ……とか何とか仰有つて、お手づから盃を下され、結構な御褒美に預るやらも知れたものだない。サアサア、酒だ酒だ、酒なくて何のおのれが門番かなだ。アハヽヽヽヽ』
と他愛もなき無駄事を囀り乍ら、バナナで作つた強烈い酒を、五人の門番が胡坐座になつてガブリガブリと呑み始め、ヘベレケになつて、妙な手つきをし乍ら、踊りつ舞ひつ、奥殿指して転げ込んだ。
(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
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