高姫は常彦、春彦に舟を操らせてテルの国の山々が見えるところまで漕ぎつけたが、舟は暗礁に乗り上げて粉砕してしまった。この時代は海の塩分が非常に濃かったので、一里二里くらいであれば、なんとか海上を渡ることができた。
しかし三人が海を渡っていると風が吹き始め、波が荒れ出した。炎天下も手伝って、そろそろ高姫は不安の念にかられだし、声を限りに天津祝詞を唱え、日ごろ宿敵と楯突く言依別命にまで祈願をこらしだした。
そこへ高島丸という船が通りかかり、三人を救い出した。高島丸は、筑紫の島、竜宮の一つ島から常世の国へ渡る人々を乗せていた。船長は骨格勝れたタルチールという大男であった。
船長は、救い上げた三人を、船の規則に照らして誰何し、行き先を質した。しかし高姫は、自分は神の生き宮で神界の都合で動いているのだと傲然と述べるばかりである。船長は一方的に改心せよと迫られて怒り出した。
常彦と春彦は、高姫が変わっているのだといって船長をなだめるが、高姫はますます逆上する。船長は、高姫がのぼせ上がっているので縛って吊るし上げる必要があると宣言し、捕縛して帆柱に吊るし上げた。
そこへ、この船に乗り合わせていた言依別命と国依別がこの場に走り来たり、船長に目配せした。船長は慌てて高姫を降ろしたが、高姫、常彦、春彦は言依別命らが助けてくれたことには気がつかなかった。
船長のタルチールは言依別命と国依別の説示を聞いて三五教に改心しており、すでに宣伝使となっていた。それゆえ、常世の国に着いたら宣伝使として各地を廻る決心をしていたのであった。
言依別命と国依別は、素早く船長の部屋に姿を隠した。船長を含めて三人は鼎座して高姫話に時を遷した。