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文献名1霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻
文献名2第4篇 南米探険よみ(新仮名遣い)なんべいたんけん
文献名3第20章 鉈理屈〔820〕よみ(新仮名遣い)なたりくつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-12-12 16:54:09
あらすじ
常彦と春彦は、高姫にやたらなことを言わずに船中はおとなしくしているように懇願する。しかし高姫は反省するどころか、神がタルチールを使って自分を帆柱の上に上げて陸の様子を見させたのだ、とますます強弁する。

常彦と春彦は、船長に目を付けられないように船中では師弟の縁を切ってもらうことにした。高姫は怒って二人の縁を切り、さんざん憎まれ口を叩いた。

常彦はやけくそになって海に向かって宣伝歌を歌った。高姫への苛立ちを籠めつつも、三人そろって失われた宝珠を見つけ出してつつがなく聖地に帰ることができるよう、神に祈願をこらす歌を歌った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月10日(旧06月18日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年8月10日 愛善世界社版249頁 八幡書店版第5輯 442頁 修補版 校定版258頁 普及版111頁 初版 ページ備考
OBC rm2820
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本文  常彦、春彦は驚いて、高姫の縛を解き、抱起し、
常彦『先生、どうも御座いませなんだが、大変な危ないこつて御座いました。モウどうぞこれから船の中は、云ひたい事があつても仰有らずに辛抱して居て下さいませ。両人が御願致します』
高姫『お前達はそれだから腰抜といふのだよ。三千世界を団子にせうと餅にせうと、三角にせうと、四角にせうと、自由自在に遊ばす国治立尊の片腕とお成り遊ばす日の出神様の生宮、たかの知れた高島丸の船頭位に尾を巻いてなるものか、ヘン余り見損ひをして下さるなや。お前等は丁度猫に小判を見せた様なものだ。小判よりもダイヤモンドよりも立派な光の強い、日の出神の此生宮を何と心得て御座る。チツと確りなさらぬか。神様が吾々を御守護をして御座る以上は、仮令船頭の百人や千人、束になつて来た所で、指一本さへさす様な高姫ぢやありませぬぞえ』
春彦『それでも貴女、タルチールさまに後手に縛られ、帆柱へ逆さまにして吊り上げられたぢやありませぬか』
高姫『何とマア、身魂の曇つた者は、御神徳の頂きようが拙劣だから困りますワイ。日の出神の生宮が一寸高砂島の様子を見やうと思ひ、タルチールを御用に立てて、帆柱の上まで手も使はず、足も労せず、エレベータ式に上げさしたのだよ。何でも人は神直日大直日に見直し聞直し、善意に解釈しなくてはなりませぬぞや。それが日の出神さまの水も洩らさぬ結構なお仕組、それだから何時も身魂を研き改心をなされと、耳が蛸になる程云うて居るのだよ。タルチールの奴たうとう、日の出神の御光に恐れて、どつかへ鼠の様に隠れて了つた』
常彦『私は余り感心して目も碌に見えず、ハツキリした事は分りませぬが、何でも立派なお方が二人現はれて、船頭さまに何か言ひつけられたと思へば、船頭は匆惶として綱をゆるめ、あなたを吊りおろして、どつかへ隠れましたよ』
高姫『サアさうだから、高姫は神の生宮と云ふのだ。船頭の奴、帆柱の上へ吊りあげて見た所、余り日の出神の御光がきつうて、目が眩みさうになり、お客までが目舞が来さうなので代表者が二人やつて来て、船頭に掛合ひ、其為に止むを得ずおろしよつたのだ。そこが所謂神の御神力、御都合ある所だ。こんな水も洩らさぬ仕組が、お前達に分つて堪るものかい』
常彦『オイ春彦、何とマア剛情な先生だないか。今日と云ふ今日は俺も本当に呆れて了つたよ。こんな人の弟子だと思はれたら、それこそ無事に高砂島へ着く事は出来やしないぞ。大陸へ上つてからなら、はしやぎなりと、法螺吹くなりと、如何なつと、高姫さまの勝手になさつてもよいが、こんな所で分りきつた負惜みを出し、へらず口を叩き、船長に憎まれたら大変だぞ。コりや茲で一つ高姫様にお願申して、師弟の縁を切つて貰ひ、アカの他人となつて了はうぢやないか。心の底から切つて頂かうと云ふのぢやない。此船の上だけ、表面的に切つて貰ひたいのぢや』
春彦『それは至極妙案だ。直様高姫様にお願致さうぢやないか』
常彦『春彦と私との御願で御座います。暫くあなたと師弟の関係を絶つて下さいませぬか。それも表面丈で、高砂島へ無事に着いたならば、又元の通りに使つて下さい。さうせないと険呑で堪りませぬから……』
高姫『帳を切つてくれと云ふのかい。お前の方から言はいでも、高姫の方からお前の様なガラクタの弱虫は、足手纏ひになつて困つて居つたのだ。一時も早くうるさいから、縁を切らうと思うたけれど、此高姫に見放されたが最後、乞食一つよう致さぬ、奴甲斐性なしだから、可哀相と思つて今まで助けて来たのだ。お前の方から暇くれと云ふのなら、こつちは得手に帆だ。万劫末代帳を切るから、二度と再び高姫の目に障る所に居つて下さるな。ガラクタ野郎奴、あゝ盲万人目明き一人とはよくも言うたものだ。高姫の真の力を知つて呉れる者は此広い世界に日の出神様ばつかりだ。人民を相手にする位うるさいものはないワイ。サア常、春の両人、早くどつかへ行きなさらぬか。名残惜さうに、男らしうもない、何マゴマゴして居るのだ、エヽ』
と頬をプツと膨らし、体を角に振つて甲板の上を二つ三つ強く踏みならし、二三遍くるりと廻つて見せた。
常彦『モシモシ高姫様、さう怒つて貰つては堪りませぬ。ホンの二三日の間、表むき丈お暇を下されとお願して居るので御座います……なア春彦、お前もさうだろう』
春彦『さうだとも、高姫さまに見すてられて、俺達は如何なるものか。どうぞ高姫様さう短気を出さずに、吾々の申す事を善意に解釈して下さいませ』
高姫『仮令一日でも縁を切つたが最後、アカの他人ぢや。三日や五日の間縁切るのは邪魔臭い。万劫末代序に五六七の世の末迄縁を切りますぞや。お前の様な蛆虫がたかつて居ると、そこら中がムザムザして気分が悪い。あゝこれで病晴れがしたやうだ。縁切つた以上は、師匠でも弟子でもない。どうぞ早う、どつこへなりと姿を隠して下さい。見ても厭らしい、胸が悪うなる』
常彦『高姫様、一時も早う、姿を隠せとか、厭らしいとか、胸が悪いとか、丸で座敷へ青大将が這うて来た様な事を仰有いますなア』
高姫『きまつた事だよ、お前は本当の阿呆大将だ。グヅグヅしてをると、線香を立ててくすべますぞ。あゝ面倒臭い、一昨日来い一昨日来い』
と云ひ乍ら、歯のぬけた口から、ブツブツと、唾を矢たらに、両人に向つて吹きかける。
春彦『蛛蜘か何ぞの様に一昨日来いとは、そりや余りぢやありませぬか』
高姫『お前は蜘蛛だよ。一寸先の見えぬ暗雲の雲助だ。今迄高姫のおかげで、結構な神様の御用をして威張つて来たが、今日限り高姫から縁を切られたが最後、雲助にでもならねば仕方がないぢやないか。何程平た蜘蛛になつて謝つても、苦悶しても駄目ですよ。オツホヽヽヽ』
 常彦は稍顔色を赤らめ、
常彦『高姫さま、吾々は決して貴女の弟子ではありませぬよ。言依別命の教主から立派な宣伝使を命ぜられて居る者、言はばあなたと同格だ。併し乍ら長幼の序を守り、先輩の貴女を師匠と、義務上から尊敬して居る丈の者、弟子扱をしておき乍ら、帳を切るも切らぬも有るものか。グヅグヅ仰有ると、私の方から絶交致しますよ……なア春彦、お前もさうぢやないか』
春彦『さう聞けばさうだ。モシ高姫さま、誠にお気の毒乍ら、只今限り貴女と万劫末代、五六七の世の末迄縁をきりますから、否絶交しますから、厭らしい……阿呆臭いから早く何処かへ姿を隠して下さい。渋たうして御座ると線香を立てますぞ。アハヽヽヽ』
高姫『それもよからう。併し乍ら、高姫との交際は絶つても、日の出神様に離れる事は出来ますまい』
常彦『尤も、日の出神様には絶対服従ですから、誰が何と云つても離れは致しませぬ。春彦、お前もさうだらうなア』
春彦『勿論の事だ』
高姫『それ御覧、ヤツパリさうすると、日の出神の生宮の高姫には絶対服従をせなくてはなりますまい』
常彦『誠の日の出神様には服従しますが、俄作りの自称日の出神には絶対服従致しませぬ。言依別の教主に玉を隠されて、隠され場所が分らいで、世界中うろつき廻る日の出神さまなら、余り立派な身魂でもあるまい。日の出所か、真暗がりのまつくろ黒助の身魂が憑つてゐる肉の宮の鼻の高姫さま、誰が馬鹿らしい。服従する者がありますか。自惚も良い加減にしておいたが宜しからうぜ。アツハヽヽヽ』
高姫『常彦の結構な宣伝使様、春彦の結構な結構なデモ宣伝使さま、勝手にホラを吹き、勝手に自惚ておきなさい。左様なら』
と体をしやくり乍ら、足音荒く、次の船室に姿を隠して了つた。
 常彦は甲板の上に立ち、春彦と手をつなぎ高姫の去つた後で、いろいろと高姫話に耽り乍ら、焼糞になつて、海風に向ひ歌ひ出した。
常彦『日の出神の生宮か  系統の身魂か知らね共
 自負心強い鼻高の  男女郎の高姫に
 甘い事づくめにたらされて  結構な結構な自転倒島の
 秀妻の国の中心地  錦の宮を後にして
 遠き山坂打渡り  命を的に海原の
 荒波わけて琉球の  島に漸く上陸し
 言依別や国依別の  神の命の後を追ひ
 執念深くも麻邇の玉  高姫さまの手に入れて
 人も羨む神業に  奉仕せむとて両人が
 欲の皮をば引ぱり乍ら  可愛い女房をふりすてて
 ここまで来たのが馬鹿らしい  琉球の島へ来て見れば
 言依別の神さまは  琉と球との宝玉を
 すでに受取り国依別と  小舟に乗つて高砂の
 島に行かれた後だつた  高姫さまは気をいらち
 夜叉の如くに相恰を  変へて又もや船に乗り
 フーリン島や台湾島  後に眺めて漸う漸うに
 テルの連峰霞みつつ  目に入る迄に近寄りし
 時しもあれや生命の  綱とも頼む吾船は
 波間に潜む暗礁に  衝突なして粉砕し
 何と詮方波の上  辛くも進む折柄に
 俄に吹き来る荒風に  波立さわぎ三人の
 生命最早これ迄と  慌てふためく時もあれ
 神の恵の幸はひて  高島丸は走せ来り
 吾等三人を救ひあげ  船長室に招かれて
 国や所や姓名を  一々詳しく尋ねられ
 日の出神の生宮と  高姫さまの法螺貝に
 船長殿も舌を巻き  押し問答の末遂に
 高姫さまを発狂と  見なして手足を縛りあげ
 身を逆しまに帆柱に  クルリクルリと巻あげる
 吾々二人は肝潰し  驚き倒れて居る内に
 何処の人かは知らね共  尊き二人の影見えて
 タルチールの船長に  何かヒソビソ囁けば
 タルチールは匆惶と  畏まりつつ高姫を
 即座にここに巻おろし  一間の内に隠れ行く
 吾等二人は高姫の  厳しき縛めとき放ち
 いと親切に労はれば  高姫さまのへらず口
 分りきつたる負惜み  流石の吾等も呆れ果て
 暇を呉れよと掛合へば  高姫さまは驚いて
 万劫末代帳きると  おどし文句を並べ立て
 ヤツサモツサと嘅み合ひ  揚句の果は四股をふみ
 肩をゆすつてどこへやら  婆の姿を隠された
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 折角茲まで来た三人  どうぞ互に睦まじう
 高砂島に上陸し  麻邇の宝珠の所在をば
 索めて聖地に恙なく  帰らせ玉へ惟神
 尊き神の御前に  常彦、春彦謹みて
 畏み畏み願ぎまつる  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と一生懸命に歌ひ乍ら舞ひ狂うて居る。左右一丈計りの羽を拡げた信天翁は二人の頭上を掠めて前後左右に潔く翺翔して居る。
(大正一一・八・一〇 旧六・一八 松村真澄録)
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