一行はようやく滝に着いた。すでに四五人の信者が禊をしている。高姫たちも身を清め、鏡の池の前に出たときにはちょうど夜が明けていた。
池の傍らには狭依彦命のお宮が新造されていた。以前に竜国別らが住んでいた庵には、奉仕者が詰めている。諸方から献上された玉は、積み上げられていた。上方には新造の懸橋御殿が建っている。
高姫は鏡の池に拍手しながらも、すでに積み上げられた玉に気を取られ、隼のような眼で眺めいっている。すると長年の沈黙を破ってブクブクと唸り出した。池の声は、いろは歌で高姫のこれまでの所業を数え挙げ、金毛九尾の邪神に使われていると非難を始めた。
高姫もいろは歌で池の神に言い返す。池の神は月照彦神と名乗り、高姫に改心を迫った。高姫は自分は審神の第一人者だと言って言い返し、常彦がたしなめても聞かない。池の神はまたしてもいろは歌で高姫の罪を責めた。高姫は池の神をすっぽんだと罵る。
高姫は、玉は懸橋御殿に隠してあると言い出した。まだ責め立てる池の神に対して、悪口を返す高姫を常彦と春彦はなだめるが、高姫は二人に食ってかかった。
そこへ懸橋御殿の神司である国玉依別がやってきた。国玉依別は、鏡の池に詣でる前に、懸橋御殿にお参りするようにと案内した。
高姫は池の神はすっぽんだと罵って、玉のひとつを池に投げ込んだ。すると池の中から恐ろしい唸り声が大地を揺らし、高姫はその場にへたり込んでしまった。しかし高姫以外の人たちにはこの音響は音楽のように聞こえていた。