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文献名1霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
文献名2第2篇 珍野瞰下よみ(新仮名遣い)うづのかんか
文献名3第6章 樹下の一宿〔848〕よみ(新仮名遣い)じゅかのいっしゅく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-06-10 17:28:06
あらすじ
一行はカールの滑稽歌を肴に休息の間に話に花を咲かせた。出立すると、カールはまたもや調子に乗って、おかしな歌を歌いながら坂を下っていく。

カールは、これから下っていった先に巽の池があり、そこにも八岐大蛇の片割れが棲んでいるから、国人のために大蛇を征服して欲しいと歌った。

一行は麓に着いて、楠の森で休息した。カールと石熊は軽口を叩き合っている。末子姫は、先ほどのカールの歌にあった大蛇に言及し、明日は大蛇退治に行こうと提案した。石熊は随行を願い出て許された。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月14日(旧06月22日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版72頁 八幡書店版第5輯 597頁 修補版 校定版78頁 普及版26頁 初版 ページ備考
OBC rm3006
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本文  四人は天然椅子の岩の上に端座し、稍少時息を休めた。捨子姫は、
『カールさま、随分偉いメートルを上げましたねえ。おかげで面白く急坂を知らぬ間にここまで下つて来ました。歌と云ふものは本当に旅には欠く可からざるものだと感じました。面白く節をつけて歌つて下さつたおかげで、重たい足も体も躍動致しまして大変に愉快でしたワ』
『ハイ私のカールい口で出鱈目を喋りました。其御神徳で貴女の御足がカール動きましただらう、アハヽヽヽ。併し石熊がゴロゴロして居るので、邪魔になつて、随分目を使はれたでせう』
石熊『何だか知らぬが、此急坂に団子石かカール石のやうな物がゴロゴロしてをつて、カールはづみには足も運べず、あまり可笑しい歌で、膝坊主まで笑つて居ましたよ、石原に薬鑵を引摺る様な声で、ズイ分有難迷惑を感じました。アハヽヽヽ』
カール『有難迷惑とはチツと口が悪いぢやありませぬか。お前さまはヤツパリ意地苦根が……オツトドツコイ 石熊が善くないと見えますなア』
石熊『サア皆さま、又ボツボツとテクリませうか』
末子『ハイそろそろと参りませう。……カールさま、どうぞ又頼みますよ』
カール『オイ石熊さま、如何だい、能く持てたものだろ。お前の歌はどうだつたい、見つともない、二人のナイスに一寸ホの字とレの字だつたなどと、亡国的の哀音を駄句つたぢやないか。チツとしつかりして貰ひませうかい』
石熊『やかましう云ふな、佯らざる情の執着だ』
カール『兎も角石熊さまの改心帰順で、此カール大宣伝使も心の底より祝着に存ずるワイ、アツハヽヽヽ。サア又言霊車を運転しますから、……一二三、全体進めツ』
石熊『アハヽヽヽ、仕方のない男だなア……サア姫様、御立ち遊ばせ、お伴を致しませう』
カール『アハヽヽヽ、変ればカール世の中だなア。今迄は石の様な無情漢で女を見れば苦虫をかみ潰したやうな面構へをして御座つた、バラモン教の教主様が鰐口を俄におチヨボ口にしたり、団栗目を細うしたり遊ばして……サア姫様お立ち遊ばせ、お伴を致しませう……ナンノカンノつて、抱腹絶倒の至りだ。余り姫様のスタイル許りに気を取られてゐると、それこそ坂路で転覆絶倒せなくてはならなくなるよ。困つた唐変木が道伴れになつたものだ。併し枯木も山の賑ひだ、ないよりましかい』
末子『あのマア、カールさまのお口の悪いこと』
石熊『いゝえ、此カールは口が善過ぎて、よく囀るのですよ。百舌といふ鳥の様な男ですから、何れ地獄へ往つたら、釘抜の御厄介になる代物ですよ。アハヽヽヽ』
捨子『オホヽヽヽ、サアいよいよ発足致しませう。今度は妾が猿田彦となつて、お先へ参ります』
と先に立ち、急坂を下り行く。調子に乗つてカールは又もや一歩々々拍子を取り、ヤツコス神が六方を踏むやうなスタイルで唄ひ出した。
カール『ウントコドツコイ、ドツコイシヨ  石熊だらけの山路を
 末子の姫や捨子姫  二人のお方の御伴して
 崎嶇たる坂路下り行く  日輪様はカンカンと
 頭の上にテルの国  テル山峠の急坂を
 オツトドツコイ危いぞ  又石熊に乗りました
 ゴウゴウ云ふのは谷川か  ジヤンジヤン吐すな油蝉
 ドツコイシヨウ ドツコイシヨウ  汗も脂も一絞り
 うちのお嬶がドツコイシヨ  夜の目もねずに親切に
 縫うてくれたる単衣  ドツコイドツコイびしよ濡れに
 なつて了うたドツコイシヨ  二人のナイスが此通り
 お先に立つてドシドシと  お下り遊ばすスタイルは
 天の八重雲かき分けて  棚機姫の天降り
 遊ばす様ないさぎよさ  鼻息荒くフウフウと
 弱り切つたる石熊の  其足並は何のザマ
 一丈二尺の褌を  かいた手前もあらうぞよ
 昔の神代にウヅの国  桃上彦の御娘
 松竹梅のドツコイシヨ  オツト危い躓いた
 花を欺く宣伝使  淤縢山津見や駒山彦の
 ドツコイドツコイすさび男の  お先に立つて蚊々虎の
 神の化身と諸共に  此急坂をドシドシと
 登つてハラの港まで  お出でなさつた事思や
 きついと云つても下り坂  何の苦い事あろか
 ウントコドツコイ、ドツコイシヨ  意地くね悪い石熊が
 そこらにゴロゴロ転げてる  皆さま気をつけなされませ
 若し過つて仰向けに  玉の御舟を坂道に
 ドツコイ ドツコイ ドツコイシヨ  オツト失礼コリヤ失敗うた
 調子に乗つて舟のこと  車の梶を取り外し
 知らず知らずにドツコイシヨ  脱線振を発揮した
 それに付けてもネロの奴  何処に如何して居るだろか
 シーナ、チールやイサクをば  甘くドツコイ、チヨロまかし
 二人のナイスを助けむと  従いて行たのは気の毒ぢや
 石熊さまが三五の  神のお道に帰順して
 当の仇敵と狙ひたる  二人のナイスの従者となり
 ウヅの都へドツコイシヨ  お伴をしたと聞いたなら
 イサク、シーナ、チールの奴  どれ丈ビツクリするであらう
 あゝ面白い面白い  昨日に変る今日の空
 晴天忽ち雨となり  蒼海変じて土となる
 天候忽ち激変し  敵の陣地に降参し
 鉾を戢めて旗を巻き  ドツコイ ドツコイ痩犬が
 甘い顔した旅人に  尻尾をふつてドツコイシヨ
 従いて来るよなスタイルで  バラモン教の神司
 お伴をしたと聞いたなら  さぞやビツクリ仰天し
 肝玉天に飛びあがり  ドツコイ ドツコイ睾丸は
 忽ち洋行するであろ  ドツコイ、辷つたアイタヽヽ
 円転滑脱遅滞なく  甘く転んだ口車
 序にモ一つ石車  油断のならぬ下り坂
 皆さま確り頼みます  ウントコドツコイ、危ないぞ
 これから少し下つたら  八岐の大蛇の乾児等が
 潜んで居ると聞えたる  巽の池が青々と
 鏡の様に光つてる  噂にきけばドツコイシヨ
 乾の池の大蛇奴が  片割れなりと云ふ事だ
 モウシ末子のお姫様  一層序に立寄りて
 大蛇の霊を言霊の  威力に征服遊ばして
 ドツコイ ドツコイ行掛の  功名手柄を遊ばせよ
 私が案内致します  臆病風に襲はれた
 石熊さまは何うか知ら  私はどしても行て見たい
 あなたの清き言霊は  邪神悪鬼も忽ちに
 ドツコイ ドツコイ危ないぞ  危ないきつい道だなア
 キツと帰順をするであろ  又と得られぬ此機会
 平に御願申します  アルゼンチンの国人が
 日夜に悩む悪神の  災除かせ玉ひなば
 貴女はウヅの神柱  国民一同悦服し
 宏大無辺の神徳を  仰ぎまつつて三五の
 神の御徳になづくだろ  あゝ惟神々々
 神の心を発揮して  必ず断行願ひます
 これぞカールが一生の  生命かけての御願ひ
 謹み畏み御二方  珍の御前に願ぎまつる
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひ了り、三人の後から蚤取眼で、一歩々々、気を附け乍ら、馬の背を立てた様な、細き険しき石原路を、右に左に体をかはし、千鳥が坂を下る様なスタイルで跟いて行く。元来此男は少しく両足に、生れ乍ら長短があるので、下り坂には非常に困難を感じ、一歩々々拍子を取らねば容易に歩めないのであつた。
 漸くにして下り八里の急坂を黄昏るる頃、麓に下り、樟の森に、夜露を凌ぎ、一行四人息を休めて、又もや話に耽る。
末子『おかげ様で楽に難関を越えて参りました。言霊の徳と云ふものは、本当に結構なものですなア』
カール『御尤も千万です。特に私の言霊はハーモニーがよく取れますから、天地神明も感動遊ばし、焼きつく様な日輪様もとうとう、吾々を可愛がつて、地平線下にお隠れになつたでせう』
石熊『アハヽヽヽ何を吐すのだ。暮れる時が来れば、貴様の言霊がなく共、日輪様は勝手にお入り遊ばすのだ。余り調子に乗つて自惚をすな』
カール『コリヤ一寸景物だ。余つ程融通の利かぬ馬鹿正直な男だなア。長短宜しきを得て社会に処するのが人生の最も貴ぶべき手段だ。これではバラモン教の教主も駄目だなア』
石熊『お前の如うに、片つ方の足が短く出来て居る人間は、それや又採長補短がないのだから、到底お前の真似は出来ないよ』
カール『馬鹿言うな。片足が短いのだない、片足がお前達よりは長いのだ、アハヽヽヽ』
石熊『負ん気の強い、跛理窟を云ふ男だなア。コーカス山だないが、ビツコス神がヤツコスの六方を踏むと云ふスタイルで、急坂を下るのだから、ズイ分見てゐると滑稽だつた』
捨子『ホヽヽヽヽ、あなた方と旅行して居ると、随分愉快ですなア』
カール『そら其筈ですよ。ゆかいも現界も神界も一目に見すかしたチーチヤーだから、当然の帰結ですワ。アハヽヽヽ』
石熊『帰結も転けつもあつたものかい。コレつぱかしの急坂に、こけつ輾びつと云ふ豪傑だからなア』
カール『ケツはケツだが、ジヤンヂヤヒエールの英傑だ。人民の分際として、ケツケツ云ふない』
末子『オホヽヽヽ、顕恩郷を出発以来、今日位愉快な思ひをした事はありませぬ。……併しカールさま、あなた最前巽の池とかに、乾の池の大蛇の片割れが潜んでゐて、国民に害を与へるとか仰有いましたねえ』
カール『ハイ、是から三里許り南へ参りますと、大変な深い広い池が御座います。そこに大蛇の魔神が何時の程にか棲処を致し、通りかかりの若い男を見ると、直に妙齢の美人と変化し、甘く偽つて池の中へ連れ込み呑んで了ふのです。大蛇の為に生命を取られた者は幾百人あるか分りませぬ。それで貴女に一つ御願したいと思ふので御座います』
末子『それは面白う御座いませう。今晩はここで雨宿りを致しまして、明朝早々巽の池へ立寄り、言霊戦を始めて見ませう。……捨子姫さま、あなた如何思ひますか?』
捨子『至極賛成です。明日の日を楽しんで、今宵は此処で待つことに致しませう』
カール『早速の御承知、有難う御座います。……オイ石熊さま、お前は又強直状態になつて了うと、気の毒だから、免除する事にしてやらう』
石熊『モシ、お二方様……どうぞ私も見学の為、随行さして下さいませぬか』
末子『どうぞ跟いて来て下さい』
石熊『有難う御座います。私も明日は千騎一騎の活動を致しまして、カールさまに一つビツクリさしてやらねばなりませぬからなア』
捨子『さうなさいませ』
 茲に四人は楠の空を封じたる密林に雨露を凌ぎ夜を明かすこととなりける。
(大正一一・八・一四 旧六・二二 松村真澄録)
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