珍の館の神司・松若彦は、数多の国人を引き連れて、二挺の輿を用意し、都のはずれのカリナの里に陣を張り、末子姫一行の到着を待っていた。
松若彦は馬を下りて姫の前に罷り出で、ご来臨への感謝を慇懃に述べ立てた。末子姫は、テル山の麓まではるばる使いの者を迎えに寄越してくれたことに感謝の意を表した。互いに挨拶を終えると、麗しい森陰に立ち入って、しばし休息した。
松若彦は、末子姫に輿に乗っての入城を懇願したが、末子姫は神様から賜った足にて歩きたいと拒んだ。松若彦は、国人が至誠を込めて姫の降臨を祝って作った御輿にぜひ乗って欲しいと頼み込んだ。
松若彦は、末子姫の来臨は、珍の国の最初の国司・正鹿山津見神が、松若彦の父・国彦に予言したことであり、それは神素盞嗚大神の御子がこの国を治めるということに他ならないという謂れを明かして説いた。
末子姫も、実は珍の国の国司を継ぐという自分の使命について、父神から聞かされていたと明かした。松若彦は、女王が御輿に乗るのは決して贅沢のためではなく、人民に代わって大地に足を踏まないようにして神祇に敬意を払うお役目なのだと諭した。
これを聞いて末子姫は、捨子姫ともども御輿に乗ることを了承した。末子姫の言葉はなんとなく威厳を帯びてきた。
末子姫は、御輿にかつがれてウヅの国の立派な城門をくぐり、本城指して進み入った。道の左右には数多の国人が、救世主の降臨と涙を流して歓喜に暮れている。カールは石熊とともに、白砂を敷き詰めた道を、息せき切って城内に進み入った。