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文献名1霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
文献名2第5篇 山河動乱よみ(新仮名遣い)さんかどうらん
文献名3第24章 陥穽〔866〕よみ(新仮名遣い)おとしあな
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-02-22 18:36:40
あらすじ
アナンとユーズは酔ってへべれけになった人数を引き連れて岩窟の入口にやってきたが、キジとマチに向かって、中に入って仲良く一杯やろうと声をかけるのみであった。キジとマチは、ただエスを渡せと言い、ウラル教徒たちを押し分けて岩窟内に入った。

ユズとキジは教主室に入ると、震えているブールのそっ首を捕まえて、エスを引き渡すようにと迫った。ブールは震えながら、岩窟内をキジとマチの先に立って案内する。

向こう側から酔ったアナンとユーズがやってきたが、油断していたキジとマチに千鳥足を装ってぶつかった。するとキジとマチは落とし穴に突き落とされてしまった。

陥穽に落ち込んで、しまったと思うキジとマチの上から、ブール、アナン、ユーズは嘲笑している。キジ、マチ、そしてエスの運命は如何になるだろうか。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月16日(旧06月24日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版274頁 八幡書店版第5輯 669頁 修補版 校定版291頁 普及版112頁 初版 ページ備考
OBC rm3024
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本文  アナン、ユーズの領袖連はヘベレケに酔ひ、足も碌に立たず、舌もまはらぬ連中を数多引率し、石門のふちに現はれ、
アナン『其方は昨夜、丸木橋の畔に於て吾々に抵抗至した三五教の奴だらう。サア、良い所へ来やがつた。今貴様と戦争したおかげで凱旋祝の酒宴を催うし、俺達は酔が廻つて気分が好い最中だ。何用があつて来たのか知らぬが、そんなむづかしい顔をしないで、酒でもくらつてゆつくりと談判をせうぢやないか? 固苦しいこと許り言つてると命が縮まるワ。たまには命の洗濯や睾玉の皺伸ばしをやらないと、人間の様な気持がせぬワイ。そんな野暮な顔しないで、トツトと中へ這入つて機嫌よく一杯やらぬかい』
キジ『昨夜は脆くも泡を食つて逃げ失せ、到底正面の戦ひにては、われわれを如何ともすることが出来ないと思ひ、毒酒を呑まして俺達をよわらせる猾き考へだらう。そんな策に乗る此方ぢやないぞ。ゴテゴテ吐かさずに、其方等が押込めて居る宣伝使のエスを牢獄から出して、俺たちに渡せ! グヅグヅ吐かすと、岩屋退治を始めようか』
マチ『サア、アナン、ユーズ其他の奴原、早くエスを此処へ連れて来い!』
アナン『ヤイヤイ喧かましう言ふない。そんなことどこかい。今日は貴様に負たおかげで、結構な酒を鱈腹のんで、精神恍惚とし、何にもかも忘れて了つて、極愉快になつてる所だ。天が下に酒さへあれば、別に敵だの味方だのと、せせこましいことは要らない。酒程親密なものはない。マア一杯這入つてやらぬかい。どんなエライ喧嘩でも和睦には酒だい。人と交際するのに小むつかしい牆壁を設けるものぢやない。世界同胞主義を盛に称へられる今日だ。マア、エスはエスでエスとしておいて、奥へトツトと通つて呉れ』
キジ『貴様はどこまでもヅーヅーしい奴だなア。余程俺達二人が恐ろしいと見えるな』
アナン『そりやヅイ分恐ろしいよ。閻魔が亡者の帳面を繰るよな面付をして、やつて来るのだからなア。オイ、キジ公とやら、何と云ふ七六つかしいシヤツ面をして居るのだ。今の内に美顔術でも施しておかぬと、年が老つて皮が固くなり、皺が深くなつてからは駄目だぞ』
キジ『エヽ、要らぬことを云ふな。これから俺が岩窟内へふみ込んで直接にエスの所在を調べてやらう。邪魔いたすと為にならぬぞ。サア来い、マチ公!』
と云ひ乍ら、アナン、ユーズを始め、其他の者共を押分け、突倒し、窟内深く進み入り、遂には教主ブールの居間に侵入し、ブルブル慄ひて居るブールの素首をグツと握り、
キジ『サア、モウ斯うなつては駄目だ。何をブールブール慄うてゐるのだ。早く宣伝使のエスをここへ出さぬか』
マチ『ウラル教の親方、グヅグヅして居ると生首を引抜かれて了うぞ。お前は何時も此娑婆を穢土だと云ひ、霊の国を天国浄土と云つて、憧憬してゐるのだから、今首を引抜かれて霊になり、天国へ行くのは満足だらうが、何程天国でも、首がなくては駄目だ。サア早くエスの所在を白状せぬか』
 ブールは慄ひ乍ら、
『ハイ今出させますから、一寸待つて下さい』
マチ『早く出せ、出し次第天国へ褒美として、昇れる様にしてやらう。どうだ首を持つたなり、天国へ死んで行くのは嬉しかろ、アハヽヽヽ。何と妙な教だなア。人には死んでからの世界が結構だと云ひ乍ら、サア自分が死ぬと云ふ段取りになると、ヤツパリ厭だと見えて、ビリビリ慄うて厶るワイ。さうすりやヤツパリ、口と心と裏表のことを言つてゐるんだなア。俺達も今迄はウラル教の熱心な信者であり、二度もここへ参り、お前をこんな腰抜とは知らずに、活神さまだと思つて跪き拝んで居つたかと思へば、馬鹿らしうなつて来た。サア俺達の案内をしてエスの所在を知らせ。隠し立てをすると最早了見はならぬぞ。俺達二人に夜前の様に数百人もやつて来て泡を吹き逃げ散る様な弱虫計り、幾万人連れて居つたつて、何なるか。どれもこれも酒にヘベレケに酔ひ、今のザマは何だ。肝腎のアナンやユーズ迄が碌に舌も廻らず、腰はフラフラになつて、ひよろついてるぢやないか。こんな事で、三五教の吾々に対し、挑戦するとは片腹痛い』
ブール『仕方がありませぬ。吾々の命さへ助けて下さらば、エスを渡しませう』
と先に立つて行く。二人はブールを見失はじと飛耳張目十二分の注意を払つて岩窟内を進んで行く。向うよりアナン、ユーズの両人はヒヨロヒヨロし乍ら巻舌になり、アナンはキジ公に、ユーズはマチ公にワザとにぶつかつた。其途端に、二足三足ヒヨロヒヨロとひよろつき、深き企みの陥穽に脆くも落込んで了つた。
 『サア失敗つた!』とキジ、マチの二人は陥穽の中で無念の歯がみをなし、一生懸命に神言を唱へて居る。ブールは陥穽を覗き込み、さも愉快げに、
ブール『アハヽヽヽ、気の毒乍ら、万劫末代、穴の底で木乃伊になる所まで辛抱したがよからう』
 アナン、ユーズの両人は二人の落ちた穴を互に覗き込み、
『ワハヽヽヽ、ても心地よいことだなア』
と罵詈嘲笑を逞しくして居る。エスを始めキジ、マチの三人の運命は果して如何なり行くならむか。
(大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)
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