暑い夏の季節に、四週間にわたって天城山麓の景勝地である湯ケ島温泉で松村真澄・出口宇知麿の二人と霊界物語を口述したのは、実に爽快であった。
宿の主人や四五人の信徒とともに吊り橋を渡り、山田峠の畷に登っていった。下田街道に出て、日光の届かぬ山路をさらに登っていく。
新道から旧道に外れる松が二三本生えたところを登っていくと、一面の原野に細い道が通っており、それを登ると清滝近道の石碑が立っている。草原を四五町右に取って行くと、ダラダラくだりとなり、次第に谷川へ降りていく。そこは狩野川上流の滝である。
休息の後、元来た道を旧道へ戻り、山へ登っていく。次第に山の頂上から雨雲が出てきて、ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。右滑沢道という木標の方へ行くと、水車小屋のある谷川を俯瞰できた。
二三町行くと、大川端というところに着く。ここからは天城山中のもっとも険しいところである。檜の暗く茂った谷間に踏み入れると、樹木は苔厚くむしている。左右を絶壁に挟まれた谷底に出た。
丸木橋を渡って絶壁を登り切ると、天城山随道の北に近い。北口の茶屋で一服してから湯ケ島に戻ろうとしていたとき、右も左も一面の霧で、四五間先の木立でさえもぼんやりとして茫漠たる霧の海を夢路のように迷うのであった。
一行は一日の光陰を有意義に費やして、夕方に湯本館の大本臨時教主殿に戻ってきた。