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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第2篇 紅裙隊よみ(新仮名遣い)こうくんたい
文献名3第8章 人獣〔874〕よみ(新仮名遣い)にんじゅう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-03-14 20:41:46
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月18日(旧06月26日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版89頁 八幡書店版第6輯 74頁 修補版 校定版91頁 普及版41頁 初版 ページ備考
OBC rm3108
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本文  国依別の宣伝使は  紅裙隊を引率し
 ヒルの城下を立出でて  数多の人の病を
 鎮魂言霊の神術に  救ひ助けつ漸くに
 ヒルの城下を後にして  アラシカ峠に差かかり
 足並弱き紅井姫  エリナの二人を伴ひつ
 黄昏時に鬱蒼と  樟の大木の茂りたる
 神王の森に立寄りて  夜露を凌ぎ一夜さを
 明かさむものと三人が  樟の根元に腰をかけ
 息を休むる折柄に  暗の中よりフウフウと
 怪しの声は響き来る  暗の帳は深くして
 確にそれと分らなく  山犬どものざれ合ひか
 但は獅子のいがみ合ひ  何か知らねど近よりて
 調べて見むと星影に  すかして見れば此は如何に
 思ひも寄らぬ荒男  揉みつもまれつ搦み合ひ
 命カラガラ挑み合ふ  国依別は諾づいて
 吾れは御山の大天狗  神王の森の守護神ぞ
 不届き至極な聖場に  来りて喧嘩をなぜ致す
 何れの奴か知らね共  首筋つかむで樟の枝に
 股引裂いてかけてやろ  覚悟致せと呼ばはれば
 二人の男は驚いて  パツと二つに立別れ
 両手を土につき乍ら  ヒルの館に仕へたる
 秋山別と申す者  私はモリスと申します
 女房の選挙につきまして  競走次第に激烈と
 なつた揚句が此通り  誠に済まぬ事でした
 是れ是れモウシ天狗さま  紅井姫を私の
 女房に与へて下さンせ  モリスの女房にやエリナ姫
 これを与へて下さらば  天下は忽ち太平に
 家庭の円満目のあたり  何卒宜しう願ひます
 語ればモリスは首をふり  イエイエもうし天狗さま
 こンな男に紅井姫の  やうな美人は惚ませぬ
 どうぞ私に下さンせ  彼にはエリナで十分だ
 宜しく御さばき頼みますと  一心不乱に手を合せ
 頼み入るこそ可笑しけれ  吹き出す計りの可笑しさを
 ヂツと怺へて国依別は  又もや天狗の作り声
 アラシカ峠を登り来る  二人の女を競走して
 勝つた者には呉れてやらう  決勝点に先着の
 勇士に紅井姫をやる  敗けた奴にはエリナ姫
 与へてやるから辛抱せよ  国依別の神司は
 俺が守護して望みの通り  谷の底へと放つてやらう
 一二三つ早行けと  其掛声に両人は
 先を争ひバラバラと  こけつ転びつ降り行く
 後に国依別は高笑ひ  アハヽヽヽアハヽヽヽ
 エリナ紅井お姫さま  今宵は実に面白い
 余興を見せて貰つたと  笑へば姫は驚いて
 妾は胸がドキドキと  怖い思ひをしましたよ
 あなた如何して御座つたか  本当に怖い天狗さま
 先づ先づ無事で目出たいと  未通娘の愛らしさ
 国依別は両人を  伴ひ此処を立出でて
 アラシカ山の山頂に  漸く登り傍の
 森林さして忍び入り  ここに一夜を明かしつつ
 旭の光を浴び乍ら  アラシカ峠の急坂を
 西南指して降り行く  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ。
 国依別は漸くにして日の暮るる頃、二人の足弱き女を労はり乍ら、日暮シ河の丸木橋の畔迄辿り着いた。大地震の為に橋はスツカリ墜落して了ひ、日暮シ河は滔々として濁水が流れて居る。止むを得ず、橋の袂の萱草の中に三人は一夜を明かす事となり、安々夢路を辿り居る。
 夜中頃と覚しき頃、二人の女はふと目をさまし、ガサガサとそよぐ萱の葉音に戦き、目を据ゑて窺ひ見れば、二人の荒男あたりをウロウロ迂路つき乍ら、
『オイ、モリス、あの天狗、とうとう俺等を馬鹿にしよつたぢやないか。あの時に天狗に魅まれさへしなかつたら、今頃には甘く追ひついて、此方の者にして居る所だつたのに、なア本当に馬鹿を見たぢやないか』
『それでもあの時に天狗が現はれなかつたならば、俺かお前か、どちらか命がなくなつてゐるのだぞ。マアおかげで二人共命丈は助かり、安全に此処迄捜索に来られたのだが、こう暗くなつては最早進む事も出来ないワ。大方国依別外二人の女は、余り遠くは行つて居ろまい。日暮シ山の岩窟へは、何程コンパスに撚をかけても、足弱の二人の女が従いてをるのだから、到底到着して居る気遣はないワ。やがて一時計りしたら月が出るから、一足でも先へ進まうぢやないか。キツと此川堤を行きよつたに違ひないぞ』
『さうだらうかなア。併し足を痛めて、此辺にすつこみて居やせまいかな。何だか人臭いやうな気がするぢやないかい、モリ公』
『そりやお前の神経作用だよ。決してこンな所に居るものかい』
『アノ国依別と云ふ奴、どこ迄も癪に障る代物だから、何とかこらしめてやりたいと思うのだが、直に鎮魂とか、言霊とか云よつて、非常な力を出しよるから、一通りでは駄目だぞ。今度は甘く尾をふつて降参の体を装ひ、誠にすまぬ事を致しました。今後はスツパリ改心致しまして姫様始め皆さまにお詫に出ましたと、下から低う出て油断をさせ、小股を掬うて、ドサンと引くりかへし、其上から土足でギユツ ギユツとふみチヤクリ、腸を破つて了うのだ。其後は此方の者だ。何と秋山別は妙案を出すだらう』
『妙案々々キツとウラル教から、軍師として招聘しに来るだらうよ。併し乍ら此処で一つ選挙のしなをしをやらないと、又しても紛擾の種を蒔く様な事では互の不利益だからなア』
『モウ、モリス、選挙は止めにせうかい。成功せない中から定めておいた所が仕方がないぢやないか。それより願望成就の上、ヂヤンケン坊なつと、籤引なつと、或は御神籤なつと、どんな方法でもあるから、其上の事にせうかい。今きまつて了ふと、当選者の方は活動する楽みがあるが、負た方は張合が無うて命がけの活動は出来ぬからのウ』
 紅井姫は二人の話を聞いて慄ひ上り、エリナの体に喰ひついて息をこらし居る。
 エリナは俄に作り声をし乍ら、萱の繁みに身を隠し、
『ホツホヽヽヽ』
と力のない厭らしい声で笑ひ出したものが在る。紅井姫はビツクリして、
『モシモシ姉えさま、勘忍して下さいな』
と泣き声になる。
『姫さま、御心配なさいますなや。エリナが一寸化者の真似して、彼奴等二人を追ひちらしてやるのですから』
『それでも、あなた、そンな声をお出しになると、妾怖うて堪りませぬワ。貴女が化者の様に思はれてなりませぬもの』
『心配しなさるな。怖いこたありませぬよ。向方を怖がらしてやりさへすれば良いのです。これからエリナは、チツと厭らしい事を云ひますから其積りで居て下さい。キツと怖い事はありませぬからなア』
『それでもこンな怖い野原に寝てゐますのに、まだそンな声を聞かされては、髪の毛が縮むやうな気がして、怖くて堪りませぬワ』
『それ程怖ければ、エリナも止めておきませうかなア』
『どうぞ御頼みですから、厭らしい声は出さぬやうにして下さい』
と慄うてゐる。秋山別は小声になつて、
『オイ、モリス、何だか妙な声がしたぢやないか。気分の悪い晩だなア。こンな所に鶯の鳴く筈もなし、ホヽヽヽほンまに俺は気分がカブラカブラして、足が大根々々したよ。どうやら肝つ玉が洋行しさうだ、本当に気味の悪い夜さだなア』
『ナアニ心配すな、アリヤ鳩の爺イだよ。野鳩がこの辺に寝てゐるのだが、年がよつて歯が抜けたと見え、あンな声を出しよるのだよ』
 国依別は最前から目をさまし、双方の様子を聞きゐたり。
『ハテ面白い、此奴一つおどかして、帰なしてやらねば、未通育ちの姫さまが、又怖がつて仕方がない』
と小声に囁き乍ら、芒の株を力一杯、ガサガサガサと揺つて見せた。秋山別は肝をつぶしドスンと腰を下し、
『ギヤハヽヽ、抜けた抜けたア、一寸来て呉れやい』
『何が抜けたのだ』
『腰だ腰だ、どうしても歩けないワ。何だか怪体な者が居よるぢやないか。昨夕の天狗なら一寸も怖い事ないが、あンな厭らしい声を出しよると厭らしくて仕方がないワ、モリ公、お前も怖からふ』
 モリスは何となく心淋しくなり来たり、併し無理に空元気をつけて、震ひ声を出し、
『オイ、アヽヽ秋山別、ナヽヽ何がそれ程怖いのだ。天下無双のヒーロー豪傑、ヂヤンヂヤヘールのモリスさまが、ゴヽ御座るぞよ。バヽ化者位、仮令千匹や万匹出て来た所で、チツとも怖くない事はないワイ、チヽヽチツとしつかりせぬかい』
『ギヤツハヽヽヽ、ギユフヽヽヽ、ギヨツホヽヽヽ』
と国依別の怪声。
『モリス、それ又出よつたぞ。益々怪体な声を出すぢやないか』
『さうだ、ギヤフアハヽヽなンて人をギヤフンとさす化者の計略だらう……ヤイ化者、ギヨホヽヽヽて何ぢやい、其位な事で此方はギヨツとはせぬぞよ。ギユフヽヽヽなンてそら何ぢや。ギユーと云はさうと思つたつて、そンな事がこたへる様な俺と思ふか。バヽ馬鹿らしい。今日は日が悪いから、又明日に出直せよ』
 紅井姫小声で、
『なア姉えさま、どうしましよう。あンな事姉さまが仰有るものだから、本まの……本まものが出たぢやありませぬか、妾怖いわ』
 エリナ小声で、
『姫さま、心配なさいますな。ありや国依別さまがあんな事を言つてるのですよ。化者でも何でもありませぬから』
『姉さま、どうぞ御頼みですから、国依別さまに、あンな事言はないやうに止めて下さいなア』
『マア良いぢやありませぬか。妾が斯うしつかりと抱へて上げますから、さう震はずに、気をしつかりなさいませ』
 国依別萱をガサガサと揺り乍ら、怪しい作り声をして、
『ホーホーホホホー、アホ アホ アホ アホ アホ、アヽヽホヽヽキヽヽホヽヽヤホヽヽマホヽヽワホヽヽケホヽヽホホホイケキヨ、モーホ、リーホ、スーホ、ホホホーホーケキヨ、ケツキヨ ケツキヨ ケツキヨ、ニヤーン、モウ モウ、ワン ワン ウー、ヒン ヒン ヒン』
『オイ、モリス、いよいよ怪しからぬ事になつて来たぞ。鳥だと思へば猫の声を出しよる、猫かと思へば牛犬狼虎に馬、オイどうぞ頼みだ、俺を負うて逃げてくれぬかい。腰が立たぬワイ……』
『オヽヽ俺だつて、腰が怪しくなつて来たワイ。足だつて細かう動き出すなり、お前所か、俺の身が持てぬのだイ』
『なんぼ利己主義が発達した世の中だとて、チツとは秋山別にも同情して呉れたら如何だ』
『俺だつてシンパシーの涙に暮れては居るが、斯うなつては如何ともする事が出来ないぢやないか。心臓寺の和尚奴が無茶苦茶に早鐘をつきよつて、何所ぢやないワイ。俺やモウ人の事所ぢやない、四這になつて逃げ出すワイ』
とワナワナする足を、犬の様に四這となり、ガサガサと元来し道へ這ひ出した。秋山別も余りの怖さに、腰の痛いのを打ち忘れ、無理無体にモリスの後に従いて、無暗矢鱈に這ひ出し逃げ出す。
『アハヽヽヽ、オイ秋山別、モリスの両人さま、アラシカ峠の大天狗又の御名は国依別命、紅井姫様のお伴をしてエリナさまと三人、此処に休息して居るから、チツと来たら如何だ。よい取持をしてやらうかなア』
 両人は益々驚き、
『ヤアバヽ化者奴、国依別の声色を使ひよつた。コラ大変だ』
と無性矢鱈にガサ ガサ ガサ ガサと四這になつて、力限りに逃げ出して行く。
(大正一一・八・一八 旧六・二六 松村真澄録)
(昭和九・一二・一七 王仁校正)
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