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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第3篇 千里万行よみ(新仮名遣い)せんりばんこう
文献名3第21章 白毫の光〔887〕よみ(新仮名遣い)びゃくごうのひかり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-15 18:41:44
あらすじ
赤鬼と青鬼は二人を睨み付け、火の車に乗るようにと怒鳴りたてた。秋山別はやけくそになり、逆に鬼を怒鳴りつけて車に乗らないと言い出した。モリスはおどおどして秋山別をなだめ、鬼たちに詫びる。

秋山別は鬼を買収して地獄から抜け出そうと、鬼たちに金を渡した。二人は車に乗り込んだが、鬼たちは二人を焦熱地獄に連れてきてしまう。秋山別は約束が違うと非難するが、鬼たちは、自分たちは規則通りのことをするだけだと取り合わない。

焦熱地獄に投げ込まれそうになった二人は、惟神霊幸倍坐世を一生懸命に唱えた。すると一団の火光が大音響とともに落下し、鬼も火の車も消えてしまった。そして眉間の白毫からダイヤモンドのような光を発する神人が現れた。

神人は二人に水を与えて背を撫でさすり、まだ二人には現界で働かなければならない寿命が残っていると言って、背中を打った。

秋山別とモリスが気が付くと、二人はシーズン河の川辺で国依別、安彦、宗彦に介抱されていた。二人は国依別たちに礼を述べ、河原に端座して祝詞を奏上し、神恩を感謝した。

これより二人は国依別に帰依して心から改心し、一行はアマゾン河の大森林の魔神を征服するべく進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版242頁 八幡書店版第6輯 132頁 修補版 校定版249頁 普及版114頁 初版 ページ備考
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本文  二台の火の車は婆アの小屋の前で停車し、中より青赤の運転手、技手、鶏冠の様な、キザのある腮をしやくり乍ら、金銀色の角をニヨツと表はし、車より下りて、ツカツカと二人の前に立塞がり、
『其方は秋山別、モリスの両人であらう。サア冥府よりの迎へだ。グヅグヅして居ると時間が切れる。早く此火の車に乗れ』
と巨眼をひらき睨めつけ呶鳴り立てる。秋山別は焼糞になり、
『オウ、俺も男だ。火の車が何恐ろしいか。俺達は娑婆に於て、日々会計不如意の為に家には火が降り、尻には火がつき、火の車を日々運転して来た火宅の勇者だ。乗るのは少しも厭はぬが、併しマアよく聞け。貴様の面は何だい。海辺の銅葺の屋根の様な洒つ面をしよつて、斯様な赤い車に乗り、何をオドオドとして青ざめてゐるのだ。チツとしつかり致さぬか。コリヤ一匹の奴、貴様の面は何ぢや。仏像の前に罷り出でて、婆、嬶の目糞、鼻汁をぬりつけられ、鼻つ柱も何もすりむかれてゐやがる賓頭盧の様な真赤な面をして何の事だい。昼日中酒を喰つて酔つ払つて居るのだらう。そンな事でお役目が勤まるか。俺の顔を見て、ビリビリ震ひ、真青な顔する奴や、弁慶の様に酒に喰ひ酔うて真赤になつて居る様な運転手や車掌の乗つて居る火の車には、危険で乗れたものぢやない。マア出直して来い。明日ゆつくりと乗つてやるワ』
 モリスはおどおどし乍ら、
『オイ、秋公、そンな非道い事を言うない。モウ斯うなつては仕方がない。神妙にしてゐるのが得だよ。……モシモシ青さま、赤さま、秋山別の只今の御無礼は何卒許してやつて下さいませ』
『そりや許さぬ事はないが、ここは地獄の八丁目だ。お前達が娑婆に居る時から言つて来ただらう。それ、地獄の沙汰も○○○と云ふ事を……』
『ハヽヽヽヽ、矢張金次第と吐すのかな。それもさうだらう。この秋様も娑婆に居つた時汽車に乗るのに、普通の人間より二倍がけ出すと、それは都合の好い二等室に乗せてくれよつた。三倍がけ出すと、一層具合のよい一等室へ白切符を持つて乗せよつた。切符でさへも、青、赤、白と三段に区別がついて居る。お前の顔は青切符だな。ヨシヨシお前は赤切符か、さうすると、赤切符の方からきめてかからぬと、青さまに呉れてやる標準がつかないワ。此火の車は一哩幾程だイ』
『火の車の運賃は請求せない。是は冥府から差廻された特別上等の火の車だよ。さうして俺達は相当の手当を頂いて居るのだが、そこはそれ、最前云ふた通りだ』
『ヨシ、分つた。そンな事の粋の利かぬ秋様ぢやないワイ。ここでは何と言ふか知らぬが、娑婆では袖下と云ふ物だらう。お前の様な洋服では袖もなし、どこへ入れたら宜いのだ。見当がつかぬぢやないか』
『袖がなくても、ポケツトが洋服の随所に拵へてあるワイ。其ポケツトの重い、軽いに依つて、焦熱地獄のドン底へ連れて行くか、但はモツトモツト楽な神界の入口へ送つてやるか、ソリヤ分らぬ。○次第だからな』
『それならモリ公のと俺のと一緒にやるから、二人共同じ所へ助けるのだぞ。就いてはお前達、二台の火の車に四人だから、百両づつやつても四百両。此婆アさまに篏口料を渡しておかねばなるまい。さうすると五百両、一寸懐中が揉めるのだが、エヽ仕方がない。思ひ切つてエヽ二人で五百両、よく撿めて受取つたがよからう』
『コリヤコリヤ其方は怪しからぬ事を致す奴だ。賄賂を以て此方を買収せうと致す不届きな奴。之を受取るのは易いけれ共、俺も又収賄の罪に問はれ、貴様は又贈賄罪として益々罪が重くなるから、以後は心得たがよからう。但今日に限り忘れておく程に……』
『以後は謹めと仰有らなくても、最早之丈出して了へば、無一物で御座る。そンならすつかり忘れて了ふが、互に結構尻の穴だ』
『ヨシヨシ忘れて遣はす。サア早く乗れ。少しは熱いぞ。其代り窓を明け放しておいてやらう』
 秋、モリの二人は脱皮婆アに向ひ、
『お婆アさま、大きに御世話になりました。お蔭で天国へ旅行致します。左様なら……』
と五人に百両づつを投渡し、二台の火の車に分乗し、ブウブウブウと音を立て、臭い屁を放り乍ら、砂煙を濠々と立たせ、一目散に北へ北へと駆けり行く。
 火の車は何時の間にか驀地に逸走し、鉄の壁を以て高く囲まれたる赤き焦熱地獄の門の前に横付けとなつた。
『サア、此処が焦熱地獄だ。オイ赤、白、黒共、早く此奴等二人を引摺り落し、門内へ投込め。俺の命令だ』
『モシモシ青さま、ソリヤ約束が違うぢやありませぬか。地獄の沙汰も金次第と云ふ事をお忘れになりましたか』
『定まつた事だよ。其方がどうぞ只今限り忘れてくれと云つたぢやないか。何もかも忘れた此方、規則通り打込めば宜いのだよ』
『ソリヤ違ひませう。そンな事を仰有ると、閻魔さまに会つた時、一伍一什を申上げますぞや。さうすればお前さまも忽ち、首が飛ンで、吾々と同様に焦熱地獄へ落されますよ』
『ハヽヽヽヽヽ、馬鹿正直な奴だなア。鬼には鬼の閥があるから、外から指一本触へる事が出来るものかい。野暮な事を申すな。山猟師は熊、鹿を獲り、海漁師は魚を取り、猫は鼠を捕り、猿は蚤を取り、吾々は亡者を取るのが商売だ。仮令善からうが悪からうが、そンな事に頓着はない。何でもかでも、一人でも余計引張込みて来れば、俺達の収入が良くなるのだから、愚痴つぽい事を言はずに、いい加減に諦めたが宜からうぞ。閻魔さまに言ふなら言うてみよ、吾々と同じ穴の狐だ。キツト貴様達がお目玉を貰ふにきまつてゐるワ』
『何とマア善を褒め悪を懲す、神聖な所だとモリスも思つて居たのに、丸でこんな事なら、世の中は暗がりだ。天地晦冥暗澹として咫尺を弁ぜず、天の岩戸隠れの世の中だないか』
『きまつた事だよ。それだから此処を冥府と云ふのだ。せうもない三五教なぞと、そこらを明かくし、誠とか云つて、古い道徳を振まはし、俺達役人……厄鬼共の領分を侵害致すから、何でも一寸かかりがあつたら、引張込まうと、手具脛引いて待つてゐた所だ。よくもマア引掛つて来よつた。馬鹿者だなア。サア早くキリキリと立てい』
と青赤白の鬼共は二人を引捉へ、無理に鉄門の中へ押込まうとしてゐる。押込まれては一大事と、一生懸命になつて『惟神霊幸倍坐世』を奏上する折しも、忽ち前方より一団の火光あたりを照らし、矢を射る如く、此場に現はれて大音響と共に爆発した。火の車も四つの鬼共もどこへ消え失せたか、影も形もなくなつて了つた。忽然として現はれた眉間の白毫よりダイヤモンドの如き光輝を発する神人一人、二人の脇立を連れ、二人が前に近寄り、頭を撫で、背を撫で、水を与へ、
『ヤアお前は秋山別か、お前はモリスか、まだここへ来るのは早い。現界に於て働かねばならぬ寿命が残つてゐるぞ。しつかり致せ』
と拳を固めて、背中を二つ三つウンと云ふ程打据ゑられ、二人はハツと驚き、正気に復し、そこらキヨロキヨロ見まはせば、豈計らむや、シーズン河の河辺りに、三人の男に救ひ上げられ介抱されてゐた。此三人は国依別命、安彦、宗彦の一行である。
 秋山別は驚いて、
『ヤアこれはこれは国依別の宣伝使様、私のような悪人を能くマアお見捨もなく御救ひ下さいました。実に有難う御座います。モウ少しの事で焦熱地獄へ落される所で御座いました』
『誠に以て御無礼計り致しました。モリスの様な悪人を能くマア助けて下さいました』
『決して御礼を仰有るには及びませぬ。大神様が私に此御用を仰せつけられたので御座います。どうぞ大神様へ厚く御礼を申上げて下さいませ』
 二人は『ハイ有難う』と河原に行儀よく端坐し、拍手を打ち、天津祝詞を奏上し、神恩を感謝する。
 是より秋山別、モリスの二人は心の底より悔ゐ改め、且つ国依別を神の如くに敬ひ、更めて弟子となり、ハルの国の大原野を渉り或は高山を踏み越え、アマゾン河の両岸にある大森林の魔神を征服すべく、宣伝歌を唄ひ乍ら、意気揚々として進み行く。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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