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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第4篇 言霊将軍よみ(新仮名遣い)ことたましょうぐん
文献名3第23章 化老爺〔889〕よみ(新仮名遣い)ばけおやじ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-07-14 04:53:04
あらすじ
秋山別は烈風に吹き飛ばされ、モリスと別れてしまい、やむを得ずただ一人山頂に向けて歩き始めていた。満点の星光のもと、天を仰いで神徳を賛美しつつあった。

すると突如大音響がして、たちまち一天かき曇り大粒の雨がバラバラと降り出した。秋山別が老木の陰に雨を避けようとすると、突然白髪異様の怪物が現れて、秋山別に掴みかかろうとした。

秋山別はとっさに大神と諸神を念じた。怪物はアマゾン川に永住する八岐大蛇の化身であると名乗った。そしてここから引き返すようにと秋山別を脅しにかかった。秋山別が三五教の宣伝使として不退転の決意を示すと、怪物は言霊歌で三五教を威喝・罵倒した。

秋山別は臍下丹田に息を込めて天の数歌を歌った。すると怪物の顔が少しく和らいだ。怪物は誠の言霊に弱いとうっかり口をすべらせた。秋山別はそれを力に、怪物の言霊歌を受けて、返歌を歌った。

怪物は、これまでの秋山別の悪行を並べ立てたが、秋山別は動じずに怪物に応答し、さらに天の数歌を繰り返すと、怪物は次第に小さくなって、二三尺の童子の姿となってしまった。怪物は捨て台詞を吐くと、秋山別の前から消えてしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版262頁 八幡書店版第6輯 139頁 修補版 校定版270頁 普及版123頁 初版 ページ備考
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本文  秋山別は烈風に吹き散らされ、力と頼みしモリスには別れ、止むを得ず只一人、屏風山脈の帽子ケ岳を目当てに登りつつ、又もや日を暮らして、老木茂る木蔭に立寄り、身を横たへて茲に夜の明くるを待つ事とせり。
 満天の星光は燦然として金色の光を放ち、紺碧の空は、何となく爽快を覚え、天を仰いで神徳を讃美しつつありし折、俄に山岳も崩るる計りの大音響聞え来り、一天忽ち曇りて、大粒の雨バラバラと降り出でぬ。
 秋山別は止むを得ず、老木の蔭に立寄り雨を避けむとする折しも、忽然として現はれたる白髪異様の大怪物、鏡の如き巨眼を剥き出し、鼻高く、口大きく、銅の如き面相にて、秋山別を睨めつけにける。秋山別は轟く胸を押へ、臍下丹田に神を納め、怪物の顔を瞬きもせず睨めつけゐたり。怪物も又、ビクともせず、地上より生えたる樹木の如く突立つて、赤、青、白、黒、黄、紫と幾度も顔色を変じ、爪の長き毛だらけの巨腕をヌツと前につき出し、今や秋山別を、一掴みにひン握り、投げ捨てむとするの勢を示しけるにぞ、秋山別は心の中にて……国治立大神、豊国姫大神、国大立大神、日の出神、木の花姫神、金勝要大神、守り玉へ幸はひ玉へ……と祈願をこらし居たりしが、怪物は大口をあけて、雷の如き巨声にて笑ひ出しぬ。
『アツハヽヽヽ、秋山別の宣伝使、能つく聞け! 吾こそはアマゾン河の森林に永住致す八岐大蛇の化身であるぞ。
イヽヽー如何に汝、勇猛なりとて吾等が一族に向つて言霊線を発射し、吾等が永年の棲処を荒さむと致す憎き奴原、
ウヽヽーうつかり森林に向うものならば、某が神変不思議の術を以て、汝が身体を寸断し呉れむ。万一汝改心をなし、是より引返すに於ては、汝が罪を許し、生命を助け遣はすべし。返答は如何に』
と呶鳴り立てけるを、秋山別は不退転の信念を固め、
『エヽヽー面倒な、某は国治立大神の教の御子、三五教の神司、汝が如き曲神の言を用ゐて、のめのめ引返す様な腰抜武士ではないぞ。
オヽヽー恐ろしき其面構へを致し、活神の宣伝使を脅しつけようと致しても到底駄目だ。早く姿を隠せ』
『ヤイ秋山別、良つく聴け。
カヽヽー神々と申すが、国治立尊が神ならば、八岐大蛇も亦神であるぞよ。神と云ふ点に於て何処に違つた所があるか。此方はウラル教を守護致す元の神にして、世界の先祖と聞えたるアダム、エバの霊より現はれ出でたる者なるぞ。言はば汝ら人民の祖神である。子が親に対してたてつくと云ふ道理は何処にあるか、
キヽヽ鬼門の金神とはそりや何の囈言、八岐大蛇が悪神なれば、鬼門の鬼の字は又鬼ではないか、
クヽヽ下らぬ事を申すより、早く往生致せば、苦労なしに神徳が頂けるではないか、
ケヽヽ見当の取れぬ神界の模様、人間の分際として如何して分らうぞ、
コヽヽ是位神が言葉を分けて申したら、如何な頑迷な其方でも、合点が往つたであらう。
サヽヽさつぱりと今迄の心を取直し、大蛇の神に帰順致すか、
シヽヽしぶとう致して居ると最早量見はならぬぞ、
スヽヽ好だ嫌ひだと、神に区別を立て、世界をうろたへまはる腰抜共、
セヽヽせせこましい事を思はずに、天地一体の真理を弁へ、早く此方に帰順せよ、
ソヽヽそれが其方に取つて最も安全な道であるぞ、
タヽヽ高天原の聖地錦の宮の神司だとか、イソの館に鎮まる素盞嗚尊の部下だとか、
チヽヽ小さき隔てを立てて、自ら小さき穴に迷ひ込み、
ツヽヽ月の大神許りを持て囃し、
テヽヽ天に輝く日の大神を次に致し、
トヽヽ十曜の神紋を閃かし、世界を宣伝使面さげて、うろたへ廻るとは何のたわ事、早く此方の傘下に集まり来つて、吾神業に奉仕するか、さもなくば汝が身体は風前の燈火だ。ハヽヽヽヽ』
と四辺に響く高笑ひ。秋山別は暗夜、此深山に於て、斯かる怪物に出会ひ、胸轟き、身の毛もよだつ計りに恐ろしくなり来たりぬ。されど飽く迄も、一旦心にきめた信仰を翻さじと、臍下丹田に息をこめ『一二三四五六七八九十百千万』と辛うじて、天の数歌を奏上すれば、怪物の顔は漸くに和ぎ少しく笑を湛へ居るにぞ、秋山別は吾言霊の非常に効力ありしことを心中に打喜び、怪物に向つて、
『オイお爺イさま、随分偉い勢で、吾々を威喝したぢやないか。そンな事を怖がる様な者は只の一人もないぞよ。俺の怖いと云ふのはそンな化州でも何でもないワ』
『ワツハヽヽヽ、それなら其方は何が一番怖いと思ふか。此爺は恐ろしくないか』
『ヘン、何が恐ろしいのだ。夜になればそンな偉相な面をして出て来るが、お日様がお出ましになると、すぐに消えて了ふ代物が恐ろしくて、此世の中が生きて行けるかい。コリヤ此方は三途の川を渡り、焦熱地獄へ往き、地獄の底まで探険して、実地修養を経た秋山別の宣伝使だぞ。お前達が怖くて堪らうかい』
『そンなら、一つ怖い者があると云つたのは何の事だい。俺の怖いと云ふのは誠と云ふ一字許りだ』
とウツカリ怪物は口を辷らしたるを、秋山別は之を聞いて、
『ハヽー此奴、誠が怖いと云ひよつたなア。大方言霊に恐れてゐるのだらう。ヨシ、之からグヅグヅ吐しよつたら、言霊を連発してやるのだナア』
と腹の中で決定て了つた。
『オイ爺、モウしめたものだ。貴様は誠が一番怖いと云ひよつた。誠生粋の大和魂の言霊をこれから発射してやるから、其積りで居れ。
ナヽヽ何と申しても、此言霊は俺の口から出るのだから、貴様の力でとめる訳にも行こまい、早く改心を致さぬと、
ニヽヽ二進も三進も行かさぬ様に、秋山別がここで封じて了つてやるぞ』
『ヌヽヽ吐すな吐すな。強盗猛々しいとは其方の事だぞ。主人の娘を盗み出さうと致した痴者奴、
ネヽヽ佞け曲つた其方の言霊が、此方に対して応用が出来て堪るものかい、
ノヽヽ野天狗、野狸、野狐の様な厄雑神の容物となり、言霊を発射するのなンのと、
ハヽヽ腹が撚れるワイ、余り可笑しうてのウ。
ヒヽヽ姫の後を野良犬の様に嗅ぎまはる、
フヽヽ不束者奴が、
ヘヽヽ屁でも喰つたがよからうぞ、
ホヽヽ呆け野郎奴、
マヽヽ誠が怖いと申せば直に附け上り、言霊を発射してやらうなどと、心の中で北叟笑みを致して居るぞよ。この方は余りの可笑しさに、
ミヽヽ見つともない、其面付で女に対し、恋の鮒のと、ソリヤ何のたわ事。
ムヽヽ昔から無理往生の恋が遂げられた例しはないぞ。
メヽヽ盲滅法界に、
モヽヽ盲目的に、
ヤヽヽやり切らうと思うても、
イヽイ行きは致さぬぞよ。
ユヽヽ幽冥界へ落されて、焦熱地獄に迷ひ込み、火の車に乗せられ、
エヽヽえぐい、熱い苦みに会ひ、
ヨヽヽヨウもヨウも幽界の探険をして来たなどと、口幅の広い事を云はれたものだ、
ラヽヽらつちもない、
リヽヽ悋気喧嘩を致したり、
ルヽヽ坩堝の様な黒い洒つ面をして、
レヽヽ恋愛の恋慕のと、ソリヤ何を吐くのだい、
ロヽヽ碌でなし奴。
ワヽヽ吾れの身分を考へて見よ。
ヰヽヽいたづら小僧の分際として、
ウヽヽ囈言のような恋を語り、
ヱヽヽ縁があるの、ないのと、
ヲヽヽ可笑しいワイ。貴様の怖いのは大方女だらう。女の為に、シーズン河へ投込まれ、有るに有られぬ苦労を致し、地獄の八丁目迄落されて来よつたのだから、女にはコリコリ致したと見えて、元気のない其面付は何だい』
『ヨシ待て、糞爺、今に秋山別が神力無双、円満清朗なる生言霊の弾丸を其方の面体に向つて乱射してやるから覚悟を致せ。コリヤ取つときの言霊だぞ。最前のは鉛の玉だつたが、今度は銀の玉と金の玉だ。化物に向つて金の玉を発射すれば、化者は滅亡するのは昔から定まつてゐる。サア良いか』
『アハヽヽヽ、睾玉を発射するのも面白からう。其方は最早女に絶縁し来た以上は、睾玉は不必要だ。サア何ぼなと発射せい。受取つてやらう。併乍ら只の二つより有ろまい。其代り、其二つを発射したが最後、其方の勇気はなくなり、言霊戦はモウ駄目だぞ』
『馬鹿だなア。そんな睾の玉とは違うのだ。一言天地を震憾し、一声よく風雨雷霆を叱咤する黄金の言霊だ』
と云ひ乍ら、
『一二三四五六七八九十百千万』
と四五回も繰返せば、流石の怪物も追々其容積を減じ、遂には二三尺の童子の姿となり、小さき声にて、
『コリヤ秋山別、其方は俺の一番怖がる誠の言霊を発射して攻めよつたな。ヨシ此方にも考へがある。今日はこれで別れてやるが、明晩キツと仇を打つてやるから其積りで居れ。ウーーツ』
と唸りを立ててパツと其儘消え失せにけり。
(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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