ウヅの国の荒野ケ原で神の戒めにあって改心し、アマゾン河の大森林の魔神を言向け和すべく、鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの一行四人は河口にやってきた。
アマゾン河で猛獣の王として君臨しているのは、水陸両棲のモールバンドという怪物である。図体は象の体を十四五集めたような太く長く、四本の足の先には水かきのついた指と剣のように光る七八尺の爪がついている。頭部は鰐のごとく、四五十間も伸ばすことができる尻尾には、鋭利な諸刃の剣のような凶器を持っていた。
大蛇も森林や水底に潜んで、獣や人々を狙っている。しかし猛獣も大蛇も、モールバンドには恐れをなして姿を隠している。
モールバンドに次ぐ恐ろしい生き物として、エルバンドという動物もいた。四本の足を持ち、鱗は鉄のように固い。丸い玉のような頭には、小さな目がついている。この丸い頭部を細長く伸ばし、獲物の血を吸って生きる怪物である。
鷹依姫一行は怪物たちが住む河を遡るのを避け、船を捨てて上陸し、河の南岸を時雨の森を指して進んで行った。そして森林に住む動植物の声を聞いて状況を理解し、モールバンドやエルバンドの征服に従事することになった。
ところで、宇宙の森羅万象はすべて陰陽の水火(いき)によって形成されている。すべてのものは言霊の水火を有し、言語を発しているのである。また禽獣も人語を解するとともに、人にも禽獣草木の言葉を解する能力が備わっている。
世が下って人々の心が曲がってしまい、言語を理解できない人間に堕落してしまっているのである。言霊学を体得するときは、禽獣虫魚山川草木の言葉も容易に解することができるのである。
国魂の優れた日本人は、本来、円満晴朗なる七十五声を完全に使用することができるのだが、今はまったく心の耳・心の眼が閉じてしまっていることは、実に嘆かわしいことである。
今日の世界の言語は、言霊学上の原則を乱しているために、お互いに諒解しがたい点が多々あることになってしまっているのである。言霊の原則を誤らなければ、世界共通的に通用することができる。これが言霊の妙用であり宇宙の真理なのである。