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文献名1霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻
文献名2第4篇 天祥地瑞よみ(新仮名遣い)てんしょうちずい
文献名3第23章 老婆心切〔914〕よみ(新仮名遣い)ろうばしんせつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-06-10 17:19:28
あらすじ
国依別と末子姫の縁談の噂は、たちまち館の内外に喧伝された。言依別命は結婚の準備に独り心をはたらかせていた。そこへすっとふすまを開けて高姫が入ってきた。

高姫は、こともあろうに瑞の御霊の大神の御娘子を国依別とめあわせるなど飛んでもないことだと、この結婚話に反対するべく言依別命を説得に来たのであった。

言依別命は用事があるからと、逃げ向上を述べて高姫を避ける。高姫は捨て台詞でその場を離れると、国依別本人のところへやってきた。

国依別は、独身生活でのんびりできるのは今のうちだと、素っ裸で畳の上にあおむけになっていた。そこへ入ってきた高姫は目を丸くして国依別を怒鳴りつけた。

国依別は単衣をひっかぶって高姫と問答を始めたが、国依別は相変わらずの茶目ぶりで高姫の説教を煙に巻いた。高姫は馬鹿にされ、怒ってあわただしくこの場を去って行った。
主な人物 舞台ウヅの館 口述日1922(大正11)年08月24日(旧07月02日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年10月15日 愛善世界社版273頁 八幡書店版第6輯 241頁 修補版 校定版278頁 普及版101頁 初版 ページ備考
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本文  国依別、末子姫の結婚の噂は、忽ち館の内外に雷の如く駄賃取らずの飛脚の口から喧伝されて了つた。之を聞いた高姫はムツクと立上り、言依別命の居間を訪ねた。言依別命は結婚の準備に就いて、いろいろと独り心を働かせて居た所である。高姫は襖をソツと引開け、叮嚀に頭を下げ、
『言依別様、御邪魔を致しますが、一寸貴方に御相談申したきこと、否御尋ね申したき事が御座いまして伺ひました。お差支は御座いますまいかなア』
『ハイ、別に大した用も御座いませぬ。どうぞ御這入り下さいませ』
と気乗りのせぬ様な言葉附きである。高姫はツカツカと言依別の前に進み、行儀よく膝を折つてすわり、両手を膝の上に乗せ、極めて謹厳な態度で、
『言依別様、承はりますれば、末子姫様に対し国依別の宣伝使が養子婿になられるにきまつたとか云ふ専らの噂ですが、それは実際の御話で御座いますか?』
『ハイ、実際で御座います。私と松若彦両人の肝煎で漸く婚約が成立致しました』
『それは又怪しからぬ事ぢや御座いませぬか。三千世界の救ひ主、水晶玉の神素盞嗚大神様の御娘子、生粋の大和魂の末子姫様に娶はすに、人もあらうに、国依別の様な悪戯者を御周旋なさるとは、余りぢや御座いませぬか。能う考へて御覧なさい、女だましの御家倒し、家潰しの天則違反者、瓢軽者、揶揄上手の、至極粗末に出来上つた男……丸で鷺と烏の夫婦ぢやありませぬか。其様な汚れた身魂を水晶の生の末子姫様に御世話をするなんて、折角の結構な身魂を又紊して了ふぢやありませぬか。さうすれば、折角ウヅの国が五六七の世になりかけてゐるのに、再び泥海となり、上げも下しもならぬやうなことが出来致します。私は此縁談ばかりは仮令大神様が何と仰せられようとも、神界の為御道の為御家の為に、どこ迄も反対せなくては置きませぬぞえ。まだ幸ひ結婚の式も挙げてゐらつしやらないのだから、今の間ならば如何でもなります。縁談と云ふものは、飯たく間にも冷ると云ふ事だ。此話を取消した所で、今ならば何のイサクサも起りますまい。国依別が若しもゴテゴテ云ふならば、及ばずながら高姫が物の道理を説き諭し、納得させて見せませう。又末子姫様が如何してもお聞きにならなければ、高姫の老婆心と言はれるか知りませぬが、此道にかけたら千軍万馬の功を経た高姫、三寸の舌鋒を以て、どちらも得心の行く様になだめすかし、此結婚問題を蛇尾にして見せませう。……言依別さま、此事はどうぞ私に一任して下さいませ。キツと成功させて見せますから……』
『一旦男子と男子が契約した以上は、今となつて動かすことは出来ませぬ。私も男です。一旦言ひ出した事は後へは引きませぬ。第一大神様の御所望ですから』
『仮令大神様の御所望であらうとも、なぜお前さまは御忠言申上げないのだ。お髭の塵を払つて自分の地位を安全に守らうと云ふ御考へだらう。良薬は口に苦し、諫言は耳に逆らふとやら、至誠を以て諫め奉り、もし聞かなければ、潔く死を以て決すると云ふ、お前さまに誠意がありさへすれば、こんな不都合な話は持上がらない筈だ。あんな者を末子姫様の夫にしようものなら、それこそ三五教の権威は忽ち地に落ち、末子姫様の御信用はサツパリ、ゼロとなつて了ひますよ』
『あんな者が斯んな者になつたと云ふ仕組でせうかい、アハヽヽヽ』
『コレ笑ひごつちやありませぬぜ。千騎一騎の国家興亡に関する此場合、気楽さうに面をあげてアハヽヽヽとはソリヤ何と云ふ心得違ひな事ですか。それだから年の若い者は困ると云ふのだ。何程憎まれても、此高姫が構はねば三五教はサツパリ駄目だ。アーア、気のもめる事だ。肩も腕もメキメキ云うて来たわいのう』
『折角の御親切な御注意、実に有難う御座います。併し乍ら此問題に就いては、一分たりとて動かす事は出来ませぬ。……高姫様、どうぞ貴女もゆつくり御考へ下さいませ。私は少し取急ぐ用事が御座いますから、失礼を致します』
『チト煙たうなつて来ましたかなア。ドレドレ若い方のお側へ、歯抜婆アが出て来て熱を吹き、煙たがられて居るよりも、是から国依別の居間へ行つて、一つドンナ意見だか叩いて来ませう。将を射むと欲する者は先づ其馬を射よだ。何と云つても言依別さまは、年が若いから、こんな事の談判は厭だらう。それも無理もない、憎まれ序に高姫が、お道の為に、国依別の改心する所まで、居すわり談判をやつて来ませう』
と呟きながら、イソイソと此場を立つて出でて行く。
 国依別は高姫の意見に来るとは夢にも知らず、
『あゝ是から俺も窮屈な生活に入らねばならぬか。今の間に気楽のしたんのうをしておかうかい』
と窓の戸をガラリとあけ、赤裸になつて、仰向けになり、手足をピンピンさせて、座敷運動に余念なかつた。そこへ高姫はあわただしくガラリと戸を開け入り来り、此態を見て目を丸くし、口を尖らせ、
『マアマアマア国さまかいな。其態は一体何の事だい! 誰も知らぬかと思つて其態は何ぢやいな。ヤツパリ人の居る所では鹿爪らしうしてゐても、鍍金が剥げて三つ児の癖は百迄とやら、お前は若い時から、そんな不規律な生活をして来たのだらう。エヽ困つたものだ。時々刻々に愛想がつきて来た。……コレ国依別どの、高姫ですよ、起きて貰ひませう』
『高姫さま、一寸ここを写真にうつして、大神様や末子姫様の御前に御覧に入れて下さいな。国依別も実にトチ面棒をふつてゐますワイ』
『エヽ又しても、四ツ足の正体をあらはし、其態は何の事だい。大神様や末子姫様に写真にとつて見せてくれなんて、ヘン、自惚にも程がある。誰だつてそんなとこを見ようものなら、三年の恋が一度に醒めますぞや。或処に若い娘が綺麗な若い男を恋慕ひ、よい仲になつて居つたが、其男が女の前で尻をまくり、庇を一つプンと放つたが最後、其女はそれきり、恋しい男が見るも厭になつて了うた例しがありますぞえ。それにそんな態を末子姫様に御覧に入れてくれとは余りぢやないか。色男気取で結構な結婚を申し込まれ、余り嬉しいので逆上して了ひ、赤裸になつて、一角よい姿と思ひ……此姿を恋女に見せ……とはよい加減に呆けておきなさい。エヽ見つともない、早く着物を着なさらぬか!』
『何分お門が広いものだから、こんな風でもして撃退策でも構じなけりや、やり切れませぬワイ。ア、あちらからも此方からも、目ひき袖ひき連中が沢山で、国依別も実に迷惑致して居るぞよ。男は裸百貫と申して、飾りのないのが値打であるぞよ。元の生れ赤児になりて神の御用を致して下されよ。生れ赤児と申せば、みんな丸裸ばかりであるぞよ。アツハヽヽヽ』
『コレ国どの、お前は一国の大将にでもならうと云ふ千騎一騎の大峠に差掛つて居り乍ら、チツと謹んだら如何だいなア。油断を致すと、坂に車を押すが如く後へ戻りますぞえ』
『あとへ戻るやうに逆になつて、油断でなうて冗談をして逆様車を押してゐるのだ、アツハヽヽヽ。アーア、早う此処を誰か、一寸覗いて愛想をつかして呉れないかな。高姫さまに愛想つかされても、根つから目的が達しませぬワイ』
『コレ国どの』
と声を高め、国依別の太腿を三つ四つ平手でピシヤピシヤと擲りつける。国依別は此機みに、ガバとはねおき、慌しく窓際にかけておいた単衣をひつ被り、三尺帯を無雑作にキリキリとまきつけ、ドスンと高姫の前にすわり込んだ。
『高姫様、何の御用で御座いますかな。どうぞ実際の事を仰有つて下さい』
『お楽みでせうな! 此頃は半日の日も百日も経つやうな気がするでせう。イヤもう御心配御察し申しますワイ。併し乍ら、月にも盈つる虧くるがあり、村雲のかくすこともあり、綺麗な花には虫がつき、嵐が夜の間に吹いて来て、無残にも散らすことがありますぞや。モウ大丈夫此方の者だと、笑壺に入つて居ると、夜の間に天候忽ち激変し、女の方から秋の空、凩の冷たい風が吹いて来ぬとも限りませぬぞや。さうなつてから、梟鳥が夜食に外れたやうな、約らぬ顔を致しても、何程アフンと致しても、後の祭りで、取返しは出来ませぬぞや。それよりも男らしく今の間に、花の散らされぬ間に、お前さまの方から、キレイサツパリと縁談を御断りなさい。国依別どののやうな、……言ふとすまぬが……ガンガラと水晶の生粋のお姫様と夫婦になつても、末子姫が遂げられますまい。悪い事は云ひませぬぞえ。今の間に男らしう破談をなさい。さうしたら天晴れ国依別の男前が上りますぞや。此広いウヅの国の第一美人で、而も評判のよい御姫様を、国依別が一つポンと肱鉄をかましたと云ふことが世間に拡がつて見なさい。それこそどれ丈お前さまの威徳が上るか知れたものぢやない。さうして牛は牛づれ馬は馬連れと云つて、似合うた女房を貰ひ、誰憚らず天下を横行濶歩する方が、窮屈な籠の鳥の様な目に遇ひ、一人の姫様に忠勤振りを発揮するよりも何程徳か分りませぬぞえ。お前さまが姫様の夫になり、天下の権利を握るやうな事があつたら、それこそ天地がひつくりかへりますぞや、いかな高姫も神様の御用はやめねばなりませぬワイ。かうズケズケと私が云ふので、お前さまは御気に入らぬだらうが、チツとは私の言ふ事も、聞きなさつたがよからう。随分お前さまもいたづらぢやないか。野天狗か何か知らぬが、如意宝珠の玉や其他二つの玉は、近江の国の竹生島に隠してあるなどと、大それた嘘を言つて、はるばると年を老つた吾々をチヨロまかすと云ふ腕前だから、私の言葉がチツト位きつくても辛抱しなさい』
『アツハヽヽヽ面白い面白い、私も実は今度の結婚は厭でたまらないのだけれど、余り大神様や言依別様、其外の方々の御熱心な御取りなしで断る訳にも行かず、義理にせめられ承諾したのだから、さうけなりさうに法界悋気をして下さるな。国依別も実に迷惑致しますワイ』
『オツホヽヽヽ、厭で叶はぬなどと、よう言へたものだ。此縁談を蛇尾にされるのが、イヤでイヤで叶はぬのだらう。そんなテレ隠しを云つたつて、日の出神の生宮……オツトドツコイ、是は云ふのぢやなかつた……高姫の黒い目でチヤンと睨ンだら間違ひつこはありませぬぞや』
『アーア、困つた事が出来て来たワイ。どうしたらよからうな、この国どのも』
『何程困つても仕方がない。此縁談ばかりは言依別が何と言はうと、仮令天地がかへらうと、金輪際水をさして、グチヤグチヤにして了はなくちや、折角大神様が艱難苦労なされてお造り遊ばしたウヅの国が総崩れになつて了ひますワイ。お前一人さへ改心が出来たら、国中の者が喜ぶのだから、女の一人位は男らしう思ひ切つて数多の人民を助けた方が、何程立派か知れませぬぜ。又何程愉快か分りますまいがなア』
『アーア、最早幽界も神界もいやになつて了つた。現界の悪い……高姫さま、私の腹の底が如何しても、神界(真解)出来ませぬのかい』
『それは何をユーカイ……皆目お前さまの腹の底を諒解することが出来ぬぢやないかい』
『アーア、仕方がない……私は一寸急用がありますので、そこ迄往つて来ます。どうぞ又四五日したら、ゆつくりと遊びにお出で下さりませ』
『最早明日に迫つた此結婚、四五日してから来て下さい……なンて、ヘン、甘いことを仰有りますワイ。どうでも斯うでも、今夜の間にお前の所存をきめさせて、其上末子姫さまに御意見をして来ねばならぬのだから、さう逃腰にならずに、ジツクリと聞きなさい』
『聞きなさいつても、危機一髪でも聞きませぬワイ……御免候へ、高姫さま、私は結婚の用意が急ぎますから、髪を梳いたり、髯をそつたり、チツクを一寸つけたり、頬紅もさしたり、口紅もチツとあしらはねばならず、鏡も一寸見て来ねばなりませぬ。そんな色の黒い顔のお婆アさまに相手になつてをると、ますます末子姫さまが恋しうなつて来る。左様なら……』
とあわてて飛び出さうとする。高姫は後よりグツと抱きとめ、
『コレコレ国どの、何処へ行くのだい。マア待ちなされ、ジツクリとすわつて、天地の道理を聞いて下さい。決して悪いことは申しませぬぞや』
『どうぞ離して下さい。そんな固い手で握られると痛くて仕方がない。一時も早う末子姫さまのお側へ行かねばならぬワイなア。岩に抱かれるか、真綿に抱かれるかと云ふ程懸隔があるのだから堪らない……高姫さま、どうぞ後生だから放して頂戴な』
『エヽ是が放してなるものかい』
『高姫さま、今これが放してなるものか、と云ひましたな。そんならヤツパリ二人の仲を離さぬといふ御意見ですか?』
『そりや話が違ふ。離れさすと云ふ話だ。今がお前の運のきめ所、サアさつぱりここでツンと思ひ切りましたと立派に言挙げしなさい』
『そんなら……スツカリ思ひ切りました』
『ヤレヤレ嬉しや、お前は本当に見上げたものだよ』
『スツカリ思ひ切つたのは、皺苦茶婆アの高姫さまとの交際だ、アハヽヽヽ』
『エヽ国どの、覚えて居なさいや。明日の晩にはアフンとさして上げますぞや、女の一心岩でもつきぬく、これが通らいでなるものかい!』
と目をつり上げながら、あわただしく此場を立去る。
(大正一一・八・二四 旧七・二 松村真澄録)
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