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文献名1霊界物語 第33巻 海洋万里 申の巻
文献名2第4篇 理智と愛情よみ(新仮名遣い)りちとあいじょう
文献名3第24章 春秋〔939〕よみ(新仮名遣い)しゅんじゅう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-08 14:14:24
あらすじ
東助は英子姫と紫姫に呼ばれて教主館に向かった。英子姫は、玉照彦と玉照姫を通じて神素盞嗚大神の御用の命が下り、すぐに秋彦を連れてフサの斎苑の館に急行するようにと用向きを伝えた。

一同は玉照彦と玉照姫に面会した。二神は手づから東助に旅の無事を祈って声をかけた。一同は互いに歌を取り交わした。東助は早速旅装を整えて共を連れ、出立した。

これは英子姫のはからいによってフサの都に東助を遣わしたのであった。神素盞嗚大神は喜んで東助を片腕となし給うた。また斎苑の館に詣でてくる建国別に面会せしむるためでもあった。

東助が聖地を去った後は、竜国別が総務となって聖地を守ることになった。一方高姫は、生田の森の館を国玉別(若彦)・玉能姫夫婦に代わって治めるよう、佐田彦とともに出立することを命じられた。同時に東助が聖地を去って斎苑の館に旅だったことも聞かされた。

高姫は東助がフサの国へ去ったと聞いて、未練の念からせめて一目会い言葉をかわしたいと、あわてて旅装を整えて生田の森へ出立した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月19日(旧07月28日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年11月10日 愛善世界社版266頁 八幡書店版第6輯 347頁 修補版 校定版279頁 普及版105頁 初版 ページ備考
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本文  錦の宮の偏辺り総務館の奥の間に、東助は佐田彦に茶を汲ませ乍ら脇息に凭たれ、深き思案に沈むものの如くであつた。此時表戸をガラリと引き開け出て来たのは秋彦である。
秋彦『モシモシ総務様、英子姫様が一寸お目にかかり度いと仰せになりますから何卒お越し下さいませ。紫姫様とお二人が待つて居られます』
東助『ヤアお前は秋彦、それは御苦労だつたナア。それなら直に参りませう……佐田彦後を頼むぞ』
と云ひ捨て秋彦と共に教主館に礼服を整へ進み入る。英子姫、紫姫は東助の来るを今や遅しと待ちつつあつた。
東助『英子姫様、お使を下さいまして有難う御座います。東助只今参りまして御座います』
 紫姫は欣々として出で迎へ、
紫姫『御苦労様で御座いました。何卒奥へお通り下さいませ』
と慇懃に挨拶し乍ら奥へ連れて行く。
英子姫『総務さま、よく来て下さいました。只今玉照彦様、玉照姫様の御命令が下りましたので、貴方にお伝へ致さねばならぬ事が出来ました。早速お越し下さいまして満足に思ひます』
 東助はスボツコな口調で、
『教主様、何か急用でも起りましたか』
英子姫『はい、別に大した急用でも御座いませぬが二柱の神司のお言葉には、貴方はこれより秋彦を従へ、フサの国の斎苑の館へ急行して頂かねばなりませぬ。御用の趣は今日の処では分りませぬが、何でも素盞嗚尊様が貴方に対し強つての御用があるさうで御座いますから、何卒一日も早く御出立を願ひます。就いては東助様、貴方の御子様の所在が分つたさうで御座いますナ、そして高……』
と云ひかけて俄に口を噤み、
『高砂島とやら筑紫島にお在でで御座いますとの事を承はりましたが、実にお目出度う御座います。然るに貴方は総務の役目を重んじ遊ばし三十五年前の吾子にも会はないとか仰せられたとかで、玉照彦、玉照姫様は大変に感心をして居られました。人は云ふも更なり、禽獣の端に至るまで吾子を恋しく思はないものは御座いますまい。お見上げ申したお心と云つて、二柱様が非常に褒めて居られましたぞえ』
東助『いやもうお恥かしい事で御座います。合はす顔も御座いませぬ。今迄雪隠で饅頭を喰た様な顔して居りましたが、斯んな事がパツとしました以上、最早総務の席に留まつて居る訳には参りませぬ。何とかして総務を御辞退申し度いと今日も今日とて思案に暮れて居りました処へ、秋彦さまのお使、取るものも取敢ずお伺ひ致しました次第で御座います。就ては仰せに従ひ一時も早く聖地をさり、大神様のお指図に従ひ、フサの国の斎苑館に急ぎませう』
英子姫『早速の御承知有難う御座います。二柱の神司様も嘸御満足に思召すで御座いませう。然らば道中お仕合せよく……遠方ですから何卒お気をつけてお出で下さいませ……これ秋彦、お前も御気の毒ですが総務さまのお伴をしてフサの国へ行て来て下さいや』
秋彦『願うてもなき御命令、こんな嬉しい事は御座いませぬ。又もや大神様に親しく御面会が叶ふかと思へば、何とも云へぬ心持で御座います。能うマア沢山の幹部が御座いますのに、私如きを選んで下さいました。これと云ふも貴女様のお引立、厚く御礼を申上げます』
英子姫『左様なれば機嫌よう行て来て下さいませ』
東助『然らば玉照彦様、玉照姫様にお暇を申上げて参りませう』
英子姫『今錦の宮の八尋殿へお越し下されば、お二柱は先に神前にてお待受けで御座いますから私と直に八尋殿に参りませう』
東助『左様なればお供をさして頂きませう』
と云ひ乍ら、紫姫、秋彦諸共英子姫の後に従ひ八尋殿に上り行く。
 八尋殿正面の高座には玉照彦、玉照姫の二柱莞爾として四人の来るを待たせ給ひつつあつた。これより玉照彦、玉照姫の神司を初め英子姫、紫姫、東助、秋彦は神前近く進み入り、大神に祈願を凝らし長途の無事を祈りたる上、二柱の神司は手づから東助、秋彦に神酒を賜ひ乍ら、
玉照彦『東助殿、何卒御無事で……』
玉照姫『御神業に御奉仕なさるやう……』
英子姫『神かけて祈ります』
紫姫『何卒早く御用を済ませ、御無事にお帰り遊ばす日をお待ち申して居ります』
 東助は神前にて歌ふ。

『二柱神の司の御言もて
  斎苑の館に行くぞ嬉しき

 素盞嗚神尊の神館
  指して行く身ぞ楽しかりけり

 いざさらば錦の宮を立ち出でて
  大海原を越えて進まむ

 諸々の教司や信徒に
  別れて吾は遠く行くなり』

英子姫『鳥が鳴く東野別の神司
  幸あれかしと吾は祈らむ』

東助『古の吾名を如何に知らすらむ
  実に恥かしき罪の身の上』

英子姫『此頃のしるべ無しとも大神に
  由緒ある人雄々しかりけり』

紫姫『東別神命の草枕
  旅を思ひて吾は嬉しき

 秋彦の神の司よ何処までも
  心注ぎて御供に仕へよ』

秋彦『いざさらば吾は聖地を立ち出でて
  東野別の供に仕へむ』

玉照彦『千早振る神の恵の深ければ
  大海原もつつむ事なし』

玉照姫『霊幸はふ神の恵にやすやすと
  大海原を渡り行け君』

東助『有難し神の御言を蒙りて
  進み行かなむ神の御許へ』

と互に歌を取り交し乍ら、喜び勇んで旅装を整へ、此度は路を南にとり、明石の港より淡路島の吾館に立ちより、お百合の方に暫し暇を告げ、秋彦外吾家の家の子二三を伴ひ波の上を辷つて月日を重ね、フサの国のタルの港に上陸し、ウブスナ山の斎苑館を指して進み行く事となつた。
 これは英子姫の慈悲心によつて東助の立場を慮り、フサの都に急用ありとて差し遣はしなば、神素盞嗚大神は喜び給ひて片腕となし給ひ、且つ斎苑の館へ参詣で来る建日館の建国別、建能姫に期せずして面会せしめむとの計らひであつた。さうして東助の聖地をさりし後は竜国別総務となりて聖地を守る事となりにける。
    ○
 東助の聖地を去りし事を夢にも知らぬ高姫は、夏彦の使によつて教主英子姫の館に出頭した。
高姫『お早う御座います。今朝は夏彦さまを以てお招き下さいまして有難う御座います。何か変つた御用でも出来たので御座いますかな』
英子姫『それは能くこそ御入出下さいました。玉照彦、玉照姫様の御命令で御座いますが、貴女様は御苦労乍ら、これから暫く生田の森へ行つて御守護を願はねばなりませぬ。さうして東助様は今はフサの国へお使ひにお出でになりましたから、淡路島の方面も守つて頂かねばなりませぬ』
高姫『ハイ、畏まりまして御座います。御命令とあれば何処へなりとも参ります。さうして総務様はフサの国へ何時お出になりましたか』
英子姫『ハイ、昨日の夕方此処を立たれました』
 高姫はサツと顔の色を変へた。されど素知らぬ顔をよそほひ、
『アヽ左様で御座いましたか。遠方へ御苦労で御座いますな』
英子姫『此世の中は何事も神様にお任せするより仕方はありませぬ。何程人間があせつても成る様にほか成りませぬからな』
高姫『生田の森には玉能姫、国玉別、駒彦が居られるぢやございませぬか』
英子姫『ハイ、彼処には琉と球との宝玉が納まり、国玉別夫婦が守つて居りますが、神界の都合に依つて球の玉を紀の国の離れ島へ納めに行かねばなりませぬ。就ては生田の森に琉の宝玉を祭り、御守護を致さねばならないので御座います。此御守護は高姫様にお願ひ致さねばならないのですから、御苦労乍ら佐田彦と共に御出張を願ひます。貴女がお出になれば国玉別、玉能姫は待ち受けて居る事になつて居ますから……』
高姫『願うてもなき有難き御命令、謹んでお受けを致します』
と俄に欣々とし袖を羽ばたきし乍ら立上り、
高姫『サア、佐田彦、お前も結構だよ、早く準備なさいませ。愚図々々して居ると東助さまが……否々国玉別さまがお待ち兼ねですから……』
と慌てて立ち出でむとする。
英子姫『一寸お待ち下さいませ。御神前にて道中の御無事を祈りし上御神酒を頂いて御出下さいませ。東助様も御神酒を頂き秋彦を連れて生田の森をさして行かれました』
高姫『ハイ、有難う。何を云うても内地の事で御座いますから、神界の御用一刻の猶予も出来ませぬ。何卒貴女代つて御祈願して下さい……コレ佐田彦、早く立ち上りなさらぬか』
と英子姫の言葉も碌々耳にも入れず慌てふためき内心は……生田の森に東助が泊つて居るだらうから愚図々々してはフサの国へ行かれた後の祭り、今一言云つても見たい、会うても見度い……と云ふ心がムラムラと起りし為、気が気でなく慌て出して、時を移さず旅装を整へ、須知山峠を踏み越え、足を早めて生田の森へと急ぎ行く。
(大正一一・九・一九 旧七・二八 北村隆光録)
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