高姫が高砂島に玉探しに行く前のこと、竜宮の一つ島から自転倒島に帰還した黒姫と高山彦は夫婦喧嘩の末、高山彦は姿を隠してしまった。黒姫は夫は筑紫の島に向かったものと思い込み、孫、房、芳の三人の従者を連れて筑紫の島に船出した。
一行は長い航海の末、建日の港に上陸した。ここはその昔、面那芸司や祝姫らが上陸した由緒ある港である。
黒姫は、黄金の玉を探しに行くというのは口実で、実際にはすでに玉への執着をほとんど脱却していた。ただ高山彦に衆人環視の中で縁切りされてその未練と執念から、老躯を駆ってまではるばると筑紫の島まで出てきたのであった。
孫公、房公、芳公は黒姫に甘言をもって連れ出されたが、黒姫の言動一致しないのを道中さんざん目撃し、黒姫への信頼はなく、ただただ早く高山彦を見つけ出して自転倒島に帰りたいという思いでいっぱいだった。
一行は港から山道に入って行った。三人は道中、黒姫を出しにして文句の掛け合いをしながら進んで行く。黒姫が、小島別が油を搾られた岩窟にさしかかるからと注意したが、黒姫の威厳は失墜しており、三人は何かと黒姫の粗を言い立てて反抗する。
黒姫は怒って叱りつけるが、孫公は軽口で返して笑いこける。孫公はその拍子に道端のとがった石に腰を打ち付け、真っ青な顔になって人事不省になってしまった。