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文献名1霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
文献名2第1篇 筑紫の不知火よみ(新仮名遣い)つくしのしらぬい
文献名3第3章 障文句〔944〕よみ(新仮名遣い)さわりもんく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-04 02:16:33
あらすじ
孫公は神懸りの態のまま宣伝歌を歌いながら、黒姫の動機をからかい戒め続けた。孫公は歌の最後に、高山彦は筑紫の島の日の国で、神素盞嗚大神の八人の娘の一人・愛子姫と夫婦となって暮らしていると告げた。

それを聞いて黒姫はさらに逆上して詰め寄るが、房公は孫公のお告げがつじつまが合っていないと言って黒姫をなだめる。黒姫は納得して、房公と芳公を連れて筑紫の岩窟を目指していく。

房公と芳公は、孫公を助け起こして連れて行こうとしたが、孫公は目を閉じたままびくともしない。黒姫にせかされた二人は、やむを得ず孫公をそこへ置いていった。

三人はその日の暮れに筑紫の岩窟に着いた。かつて小島別命が月照彦神の神霊に厳しい戒めを受けて改心したという旧跡である。

黒姫は、自分は神様にお伺いを立てるから、邪魔になる二人はそこで寝ていろと房公と芳公に厳しく当たる。房公と芳公は黒姫に対してからかいながら批判して意趣返しをする。

黒姫は二人に孫公の霊がついたのだと鎮魂を始めるが、暗がりの中に足音がして、岩窟の中に入って行くように聞こえた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月12日(旧07月21日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月10日 愛善世界社版30頁 八幡書店版第6輯 374頁 修補版 校定版32頁 普及版13頁 初版 ページ備考
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本文  孫公は、委細構はず神懸となつたまま謡ひ続ける。
『ウフヽヽフーフ ウフヽヽヽ  艮金神現はれて
 有象無象を立別ける  うつつを抜かした黒姫が
 浮世気分を放り出して  ウロウロ此処迄やつて来た
 うるさい男の後追うて  うんざりする様な惚気方
 浮世の常とは言ひ乍ら  憂身をやつす恋の闇
 ウラナイ教の看板を  打つて一時はメキメキと
 羽振を利かした黒姫も  高山彦のハズバンド
 うつかり貰うた其為に  憂世の味を覚え出し
 心の空も迂路々々と  行方定めぬ旅の空
 動きのとれぬ目に会うて  珍の聖地を立ち離れ
 渦巻わたる海原を  越えて此処迄ウヨウヨと
 迂路つき来る憐れさよ  狼狽者の宣伝使
 黒姫さまの甘口に  うまく乗せられ吾々は
 牛に曳かれて善光寺  詣る婆アの後につき
 移つて来たのは亜弗利加の  憂世離れた筑紫島
 瓜の様なる細長い  寿老頭の老爺をば
 憂身を窶して追うて来る  煩さい女が唯一人
 蛆虫見た様な魂で  迂路々々やつて来られては
 如何に女に熱心な  高山ぢやとて煩さかろ
 煩さの娑婆に存らへて  憂目を見るより逸早く
 改心した方が宜からうぞ  碾臼みた様な尻をして
 ウロウロしたとて仕方ない  あゝ惟神々々
 煩さい事ではないかいな  こんな処にマゴマゴと
 致して御座る暇あれば  一時も早く火の国へ
 足を早めて行きなさい  顔は違ふか知らねども
 高山彦が御座るぞや  その又高山彦さまは
 神素盞嗚大神の  八人乙女の其一人
 愛子の姫と云ふ方が  朝な夕なに侍づいて
 家事万端は言ふも更  痒い処に手の届く
 水も洩らさぬ勤め振り  高山彦の神さまは
 笑壺に入つて脂下り  えらい機嫌で御座るぞや
 あゝ惟神々々  黒姫さまにあんな処
 一目見せたら如何だらう  忽ち二つの目を釣つて
 鼻をムケムケ口歪め  恨みの炎は忽ちに
 天の雲迄焦すだらう  高山彦は偉い奴
 五十の尻を結んだる  悪垂れ婆と事変り
 雪を欺く白い顔  ボツテリ肥た膚の色
 何処に言分ない娘  女房にもつて朝夕に
 愛子々々と愛で給ふ  他所の見る目も羨りよな
 誠に立派な夫婦ぞや  エヘヽヽヘツヘ ヘヽヽヽヽ』
黒姫『コレコレ孫公、お前それは本当かい。あの高山さまが愛子姫と云ふ、天の岩戸を閉めた素盞嗚尊の娘ツちよを女房に持つて、火の国に御座らつしやるとは合点の行かぬ話だ。高山さまに限つてそんな筈はないのだが、何卒本当の事を云つてくれ。如何に気楽な黒姫でもこんな事を聞くと、如何しても聞き逃しが出来ませぬ。さあ何卒早く虚実を明かに答へて下さい』
房公『黒姫さま、孫公があんな事言つて揶揄つて居るのですよ。本当にしちやいけませぬぜ。……ナア芳公、どうも怪しいぢやないか』
芳公『いや、俺は決して怪しいとは思はぬ、よう考へて見よ。最前からの様子、如何しても人間の悪戯とは思へぬぢやないか。屹度神様のお告に間違ひは無からうぞ』
房公『それでも言ふことが矛盾して居るぢやないか。高山彦は綾の聖地に伊勢屋の娘と暮らして居ると云ふかと思へば、火の国に今は愛子姫と脂下つて居ると云ふなり、何が何だかチツとも訳が分らぬぢやないか』
芳公『それもさうだなア。大方枉津が憑つたのだらう。……おい孫公、シツカリせぬかい。貴様は目を廻しやがつて矢張り気が遠くなつたと見え、そんな矛盾の事を吐くのだらう。チツとしつかりしてくれないか。俺達もこんな処で発狂されては心細いからなア』
黒姫『いかにも房公の言ふ通り、孫公の言ふ事は前後がチツとも揃はない、枉津と云ふものは、賢い様でも馬鹿な者だなア。高山さまが自転倒島に居ると云ふかと思へば、火の国に居ると云ふなり、何が何だか訳の分つたものぢやありませぬわい…人を力にするな、師匠を杖につくな……と云ふ教がある。こんな男の神懸に誑かされて居つては、三五教の宣伝使もさつぱり駄目だ。さあさあ房公、芳公、こんな男は此処に放棄つておいて筑紫の巌窟迄行きませう。そこ迄行けば屹度巌窟の神様が正確な事を聞かして下さるに相違ありませぬ。さあ行きませう』
房公『巌窟の神様に昔の小島別の様に五大韻の言霊攻に会はされては堪りませぬぜ。随分疵持つ足の吾々だからそんな危険区域の地方へは寄りつかない方が悧巧ですよ』
黒姫『又お前は気の弱い退嬰主義を採るのか。三五教は進展主義ですよ。決して退却はなりませぬ。小島別の神さまだつて、終には建日別命と云ふ立派な神になつたぢやないか。屹度悪い後は善いにきまつてるから、さあ早く行きませう』
芳公『黒姫さま、孫公はお連れになりませぬか』
黒姫『来るものは拒まず、去る者は追はず、孫公の自由意志に任せませうかい』
芳公『これ孫公、俺達と一緒に黒姫さまの後について行かうぢやないか。何時迄もこんな処でア、オ、ウと言霊もどきをやつて居つても、てんから脱線だらけだから、流石の黒姫さまも愛想づかしをなさつた位だから、誰も聴手があるまい。さア俺と一緒に行かう』
と言ひ乍ら孫公の左右の手をグツと握り引き立たさうとする。孫公は地から生えた岩の様に何程ゆすつても引いてもビクとも動かず、只一言、
『俺の自由意思に任すのだよ』
と言つたきり目を閉ぢ無言の儘坐つて居る。黒姫は委細構はず言霊の濁つた宣伝歌を謡ひ乍ら、風当りのよき谷道をスタスタと登り行く。房、芳の二人は孫公に心を惹かれ乍ら、後振り返り振り返り嫌さうに黒姫の後に跟いて行く。
 黒姫は漸くにして其日の黄昏、筑紫の巌窟建日別の旧蹟地に辿り着いた。
黒姫『さあ、此処は有名な小島別命が、月照彦の神様の神霊から脂をとられ出世した目出度い処だ。皆々、一同に天津祝詞を奏上しませう』
房公『先づ第一に高山彦様の御安泰を祈り、第二に黒姫様の御改心を祈り、第三に孫公さまの御出世を祈る事にしませうか』
黒姫『えゝ又しても又しても、高山さま高山さまと云つて下さるな。高山さまは妾の夫ですよ。お前等に名を呼ばれると、あまり心持がよくありませぬからな』
芳公『第二の亭主だから名を言はれても減る様な気がなさいますナ』
黒姫『今日限り高山彦さまの事は言つちやなりませぬぞや。それよりも第一に神様の事を云ひなさい。心得が悪いと又此処で孫公の様な目にあうて、脛腰が立たず口ばかり達者な化物になつて了ひますよ。黒姫に敵たうた者は誰も彼も皆あの通りだ。さあさあ皆々、祝詞を済まして今晩はおとなしく此処で寝みなさい。私はこれから神様にお伺ひをせなくてはならない。お前さま達が起きて居ると悪の霊が混線してはつきりした神勅が受けられませぬからな』
房公『黒姫さま、貴女は宣伝使にも似合はず、実に冷酷なお方ですな。太平洋を渡る時は、吾々三人の者が居らなくてはならない者だから、何と言はれてもおとなしく俺達の機嫌をとつて御座つたが、此島に着くや否や、高山彦さまが御座ると思つて俄に権幕がひどくなり、吾々を邪魔者扱ひにされる様子が見えて来たぢやありませぬか』
芳公『恋に焦がれた五月水、秋田になればふられ水……だ。秋風が吹いてからは冷い水は必要がないとみえるわい。年老の冷水とか云つて、そろそろ此婆アさまも冷水になりかけたのだよ。それだから人間をあてにしても駄目だと云ふのだよ。こんな婆アさまの後について来るよりも、矢張り孫公の側で看病して居つた方が宜かつたなア。さあ今頃は孫公は……房、芳の両人は友達甲斐もない奴だ、俺の危難を見捨てて万里の異郷に……と云つて嘸怨んで居るであらう。あゝ本当に友人の信義を忘れて居つた。これと云ふのも黒姫と云ふ黒い雲が包んで居つたからだ。さアこれから孫公を迎へに行かうぢやないか』
房公『迎へに行かうと云つた所で、此通り四辺が真暗になつては危なうて歩く事が出来ぬぢやないか。まアゆつくりと気をおちつけて、明日の朝迄此処で夜を明かし、改めて足許が分つてから慰問使となつて行かうぢやないか』
芳公『此処でドツサリと慰問袋の用意をして置かうぢやないか、アハヽヽヽ』
黒姫『コレコレ両人、闇がりに何をグヅグヅと、云つて居るのだい。早く寝みなさらぬか』
房公『何分、黄金の玉と麻邇の宝珠が私の天眼通にチラつき、高山彦さまが愛子姫さまと抱擁接吻して御座る状態が、パノラマ式に眼底に映るものだから気が揉めて寝られませぬワイ。これを思ふと修羅が燃えて折角染めた頭髪までが褪げる様な気分になりますがな……オツトドツコイ何時の間にか黒姫さまの霊が半分ばかり憑つたとみえる、オホヽヽヽ』
芳公『コレ高山彦さま、お前さまも余りぢや御座んせぬかい。竜宮の一つ島までも手に手を把つて玉探しに行き、クロンバー、クロンバーと云つて可愛がつて下さつたが、男心と秋の空、変れば変る世の中ぢや。六十の尻を作つて、未だ三十にも足らぬ愛子姫とやらを女房に持つとは、量見がチト違ひはしませぬかい。お半長右衛門よりも年が違つてる女房を持つて、それが何名誉で御座んすか。エー口惜い、残念な、(サハリ)折角長の海山を越え、お前に会ひ度い会ひ度いと、苦労艱難しながらも、此処迄探ねて来た妾、鶫の尾を切つた様に、思ひきるとは、それや聞えませぬ高山彦さまオツチンオツチン……』
 房公は作り声をして、
『アイヤ黒姫、そなたの心は察すれども、雀百まで雌鳥を忘れぬとやら、棺桶に片足突込んだ白髪頭の皺苦茶婆よりも、今を盛りと咲き匂ふ、水も滴る様な愛子姫の香りに、サツパリ此高山彦も精神顛倒し、麝香の香に比して糞嗅の臭に似た糞婆と、如何して一緒になる事が出来やうかい。思はぬ望みを起すより、思ひきつて国許に帰つたが宜からうぞや。武士の言葉に二言はない。その手を放しや……と衝つ立ち上り一間にこそは入りにけり。チヤチヤ チヤンチヤンチヤンぢや』
芳公『そりや聞えませぬ高山彦サン、お言葉無理とは思へども、初めて会うた其日から、寿老の様な長頭、南瓜の様によく光る、若い時から皺だらけ、睾玉に目鼻をつけた様な其お顔立ち、こんな男と添うたなら、何時迄もお顔の色は変るまいと、そればつかりを楽しみに、ウラナイ教の教理に背き、お前を夫に持つたのは、よもや忘れては居やしやんすまい。思へば思へば残念ぢや口惜いわいな……と取りすがつて、涙さき立つ口説き言、オホヽヽヽ』
黒姫『コレコレ両人、又しても又しても妾を揶揄ふのかい。あまり馬鹿にしなさるな。女一人と侮つて無礼な事ばかり仰有るが、今に高山彦さまに出会つたら、お前等の無礼を残らず申上げるから、其時には何程謝つても量見はしませぬぞや。チツと嗜みなされ』
房公『何だか知らぬが、高山彦や黒姫さまの霊が両人の身体に憑依して、あんな事言ふのだもの、仕方がありませぬわ』
黒姫『大方、孫公の霊が憑いたのだらう。どれ是から妾が闇がりだけど鎮魂してあげませう』
と云ひ乍ら双手を組み天の数歌を一生懸命に謡ひあげ、
黒姫『国治立大神様、豊国姫大神様、日の出神様、竜宮乙姫様、木花咲耶姫大神様、何卒一時も早く高山彦に会はして下さい。次には此両人に憑いて居る悪霊を速に退却させて下さいませ。憐れな者で御座いますから……』
 此時闇がりにガサリガサリと何者かの足音が聞え、傍の岩窟の中へ這入る様な気配がした。
(大正一一・九・一二 旧七・二一 北村隆光録)
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