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文献名1霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻
文献名2第3篇 峠の達引よみ(新仮名遣い)とうげのたてひき
文献名3第18章 三人塚〔959〕よみ(新仮名遣い)さんにんづか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-18 10:12:41
あらすじ
そこへ通りかかった宣伝使は孫公であった。孫公は大蛇の三公の一味が三人を縛って打ちかかっている惨状を目にし、木陰から大音声に呼ばわった。孫公は、筑紫の島の神司・高山彦の名を借りて、一味を驚かそうとしたが、樹上に潜んでいた子分たちに見破られてしまう。

孫公も一味に打倒されて、同じく縛られてしまった。日が落ちて暗闇になったのを幸い、お梅はどこかへ逃げてしまっていた。

三公と子分の与三公は、さらにお愛に気を変えるように迫るが、お愛はまったく相手にせず、自分を早く殺して他の者たちは助けるようにと答え、三公を激しくののしった。三公は怒ってお愛をなぐり殺してしまった。

三公は子分たちに下知して深い穴を掘り、三人を埋めて地固めをし、上にたくさんの石を乗せてしまった。三公は高笑いをし、子分たちを引き連れてその場を去った。

闇に隠れて様子をうかがっていたお梅はこわごわ近寄ってきて、三人を埋めた塚を掘り起こそうと上に乗せられた石をどかそうとしたが、石は重くびくとも動かなかった。お梅はその場に泣き崩れてしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月14日(旧07月23日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月10日 愛善世界社版228頁 八幡書店版第6輯 444頁 修補版 校定版238頁 普及版99頁 初版 ページ備考
OBC rm3418
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本文 孫公『神が表に現はれて  善と悪とを立て別ける
 醜女探女や鬼大蛇  虎狼の吠え猛り
 勢猛く攻めくとも  などか恐れむ敷島の
 誠の道の神司  弱きを助け強きをば
 言向け和す神業に  仕ふる身こそ楽しけれ
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 唯何事も人の世は  直日に見直し聞直し
 宣り直し行く其時は  天が下なるもろもろは
 残らず吾の味方のみ  仇も曲津も忽ちに
 旭に露と消えて行く  三千世界の梅の花
 一度に開く神の道  此世を救ふ生神は
 国治立大神や  神素盞嗚大御神
 筑紫の島を守ります  国魂神の純世姫
 神の御稜威の現はれて  常世の泥もすみ渡る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 曲津は如何に猛るとも  誠の力は世を救ふ
 黒姫さまの一行は  今はいづこにさまよふか
 聞かま欲しやと来て見れば  片方の森に人の声
 唯事ならぬ気配なり  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  此世の中の人々は
 互に誠を尽しあひ  愛し愛され末長く
 神の作りし神の世に  常世の春を楽しみて
 栄えと光と喜びの  雨に浴させたまへかし
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
 かく宣伝歌を謡ひながら、怪しき人声を聞きつけて、唯事ならじと駆けて来たのは孫公であつた。孫公は、大蛇の三公の手下共数十人集まつて二人の男女を縛り上げ、打つ、蹴る、擲るの大惨状を見るより早く、夕暮を幸ひ木蔭に佇んで大音声、
孫公『ヤアヤア、此方は火の国都の高山彦命であるぞ。此森林に若き女を連れ来り、乱暴を致す曲者、今高山彦が神力によつて打ち亡ぼし呉れむ。どうだ、改心致してそれなる男女を助け、此場を立ち去らばよし、聞かぬに於ては、神変不思議の神力によつて、其方共一人も残さず冥途の旅立ちをなさしめむ。どうだ返答を聞かせ!』
 此時樟の樹上より、五六人の声、
『ヤイ何処の奴かは知らね共、高山彦とは真赤な偽りだらう。面を上げい!』
と呶鳴りつけた。此声と共に孫公はフト樹上を見上げる一刹那、孫公の両眼めがけて木の上より砂を掴んで投げつけた。孫公は両眼に砂をかけられ『アツ』と一声其場に踞み目を擦つて居る。其隙をねらつて、与三公は矢庭に首に縄を引きかけ、二三間ばかり引ずり出した。孫公は余りの不意打ちに肝をつぶし手足を藻掻いてゐる。そこへ数多の手下はバラバラと寄り集り、孫公を高手小手に縛めて仕舞つた。
 日は漸く地平線下に没し四辺は烏羽玉の闇に包まれて仕舞つた。お梅は闇に紛れて辛うじて此場を逃げ出し、いづくともなく姿を隠して仕舞つた。
三公『アハヽヽヽ、いらざる邪魔立を致して此醜態は何の事だ。火の国都の高山彦とはそれや何を吐す。此方を何と心得て居るか。大蛇の三公と云つたら火の国に鳴り渡る侠客の大親分だ。いらぬ構ひ立を致し、飛んで火に入る夏の虫、実に憐れな者だなア……オイ与三公、此奴をたたんで仕舞へ!』
与三『ハイ、斯うやつて縛めて置けば逃げる気遣ひはありませぬから、マア悠くりと嬲殺しにしてやりませうかい。それよりも第一お愛の奴、もう一談判して、親分の言ひ条につくやうにしてはどうですか』
三公『こんな事は俺から直接に云ふのも些と気が利かねえから、能弁のお前に任す。旨くやつて呉れ。其代り褒美は幾何でも遣はすから……』
与三『ヘイ承知致しました。何と云うてもウンと云はせて見ます。併しかう暗くてなつては顔も碌に見えませぬから……オイ勘州、灯火をつけい……親分安心して下さいませ』
と云ひ乍ら、お愛の傍へ探り探り近寄つた。勘州は森の枯木を集め、火を切り出してパツとつけた。四辺は忽ち昼の如くなつて来た。沢山の乾児が枯枝や木の葉を掻き集めて山のやうに積んだ。火は益々燃え上り、四辺は昼の如くなつて仕舞つた。
与三『これこれお愛さま、どうだな。もう思案が付きましたかなア。よもやこれだけ威勢の強い三公さまを夫にもつのを嫌とは云ひますまいねえ』
お愛『エヽ汚らはしい又しても又してもそんな事を云うてお呉れるな。誰が此様な悪人に靡くものがありますかい。些と三公の面と御相談なさいませ。仮令乾児は尠うても、武野村の侠客虎公さまと云つたら、界隈に名の響いた、善を勧め悪を誡め、弱きを助け強きを挫く侠客だ。此お愛は痩てもこけても虎公さまの女房だ……否やと云ふのにお前は諄い、一度いやなら何時もいや……と云ふ都々逸の文句ぢやないが腸まで染み込んだこの嫌いが、どうして洗ひさらはるものか。そんな事いつ迄も掛け合つて居るよりも早く殺しなさい。牛糞に火のついたやうに、クスクスと埒の明かぬ野郎だなア』
与三『オイお愛の姐貴、ほんとに太い度胸だなア。俺もすつかり感服して仕舞つた。こんな姐貴を親分にもつた乾児共は幸福な事だらう。俺も同じ事ならこんな親分が持ちてえワ』
三公『これやこれや与三、それや何を云ふのだ』
与三『ヘイ、うつかりと心を空しうして居たものだから、兼公の生霊奴、与三公の肉体へ入りやがつて、こんな事を吐しやがるのです。イヤもう困つた野郎でげすわい』
三公『是から些と気をつけないと、悪魔に憑依されて忽ち兼公のやうに心機一転し、こんな目に遇はなければならないぞ』
与三『ハイ承知致しました。今後はキツと注意を致します。時に親分、此処へ来よつた高山彦と云ふ餓鬼ア一体どこの奴でせう』
三公『どこの奴でも構やしねえ。叩き伸ばして埋めて仕舞へばいいのだ。兼公も序に埋めてやれ』
与三『モシ親分、兼公丈や許してやつて下さいな。彼奴も中々親分の為には蔭になり日向になり、力を尽した奴ですからなア。親分がこれだけ顔が売れたのも、兼公の斡旋預つて大に力ありと云つても宜しい』
 兼公は此問答を聞き、手足を縛られた儘声をかけ、
『モシ親分、此縄を解いて下さい。最前は大変にお腹を立てさせましたが、あれや俺が云つたのぢやない、虎公の生霊奴がフイと憑りやがつて、俺の口を借り、あんな事云つたのですよ。俺は真実に迷惑でげす』
与三『兼公、気がついたか。アヽ結構々々。確りせないと又、虎公の霊に憑かれるぞ。なア親分さま、兼公の縄を解いてやりませうか』
三公『マア待て待て、さう慌るにや及ばない。それよりも、早くお愛に結局の話を極めさせて呉れ、それが第一の目的だから……』
兼公『オイ与三公、貴様一人ぢや覚束ないぞ。俺も加勢をしてやるから、早く此縄を解けい』
三公『オイ与三、俺の命令が下る迄決して解いちやならぬぞ。此奴はどうしても二心だから、些つとも油断は出来やしねえ』
与三『オイ兼公、貴様の聞く通りだ、親分の云ふ通りだ、俺も此通りだ。仕方がねえや、まア暫く其処に辛抱するがよい』
三公『オイ与三公、お梅の阿魔ツちよが居らぬぢやねえか。彼奴に逃げられちや大変だぞ』
与三『ヤア如何にもお梅の奴、いつの間に風を喰つて逃げよつたのかな。何と機敏いやつだなア。彼奴が此事を虎公にでも報告しようものなら夫こそ大変だ。オイ乾児の奴等、早くお梅の後を追つかけて探して来い』
勘公『鼻を摘まれても分らねえやうな、真の闇に探しに往つたつて分りませうか。此処には灯があるから足許が見えるが、一町先は真闇がりだ。明朝の事にしたらどうでげせうな』
与三『それもさうだ。仕方がねえなア。もし親分さま、明朝悠くり探す事にしませうか。虎公の野郎も、六があれだけの手下を連れて行つたのだから、もう今頃は寂滅為楽になつて居るのは鏡にかけて見るやうなものでげせう。虎公なんぞに気遣はいりますまい』
三公『いやいや、彼奴も中々の強者だ。さう闇々と斃ばりもしよまい。余り楽観は出来まいぞ。併し乍ら此暗夜では仕方が無い。まアまア明朝の事にしたがよからう』
お愛『コラ三公、与三公、何を愚図々々して居るのだ。早く此お愛を片付けないか。辛気臭いワイ。其代りに今其処へ見えた高山彦さまとやらを助けてやつて呉れ。些つとも関係ない人だから気の毒で堪らねえから……』
与三『エイ、お愛さま、他人の事ども云ふ所ぢやあるまいぞ。お汝さま生死の境に立つて居て、そんな気楽の事を云つて居れるものかい』
お愛『ホヽヽヽヽこれ与三何を呆けた事を云ふのだい。生死一如だ此肉体は仮令虎狼の餌食にならうとも、肝腎要のお愛さまの御魂は、万劫末代生通しだ。早く殺しなさい。その代り幽冥界へ行つたら数多の亡者を手下に使ひ餓鬼も人数の中、沢山の乾児を引き連れてお前さまの生首を貰ひに来るから、それを楽しみに早くお愛をやつつけて仕舞ひなさい』
与三『もし親分、どうにもかうにも取りつく島がありませぬわ。命を捨ててかかつとる女に何程脅喝文句を並べても豆腐に鎹糠に釘だ。どうしませうかなア』
三公『可愛さうなものだが仕方がない。思ひ切つて殺つけて仕舞へ』
お愛『これ三公、置いて下さい。可愛さうなものだなんて、何とした弱音を吹くのだい。此お愛はお前のやうな悪垂男に、可愛さうだなんてそんな汚らはしい事を云はれると、小癪に触つてならないのだよ。虎公さまがいつもいつも可愛い女だと、連発的に云つて下さるのだから、ヘン、そんな馬鹿口はやめて下さい。それよりも侠客で立つてゆかうと思へば、もつと気を強く持たねえと駄目だよ。悪なら悪で徹底的に悪をやつたが好い。改心をして善に立ち帰るのなら善一筋を行ひなさい。それが男たるものの本分だ。気骨もなければ度胸もない空威張りの贋侠客が、こんな大それた謀反を起すとはちつと柄に合ふめえよ』
三公『云はして置けばどこ迄も図に乗る悪垂女奴!』
と云ひながら、拳骨を固めて滅多矢鱈に打ち据ゑる。お愛は打たれたまま痛いとも痒いとも云はず黙言つて縡切れて仕舞つた。
与三『もし親分、とうとう斃つて仕舞ひましたよ。惜しい事をしたものですな』
三公『何惜しくても仕方がない。他人の花と眺めるよりも、三公嵐が吹いて無残に散らした方が、未練が残らなくていいわ。オイ愚図々々して居ると何が飛び出すか知れやしないぞ。序に今来た奴も兼公も、息の根を止めて穴でも掘つて埋けて仕舞へ』
 与三公はお愛の体を撫でて見て、
与三『ヤアまだ温がある。何と好い肌だな。まるで搗きたての餅のやうだ。虎公が惚れやがつたのも無理はない。親分一寸来て見なさい。此世の名残にお愛の肌を一つ撫でて見たらどうですか。余り悪い気持もしませぬぞ』
三公『馬鹿云ふな早く兼と旅の奴とを埋けて仕舞へ。オイ皆の乾児共此処に穴を掘れ』
と下知する。勘州を始め数多の乾児共は、携へて来た色々の得物をもつて土を掘り三人の縛つた体を穴の中へ放り込み、上から土をきせ、寄つて集つて足でどんどんと地固めをし、其上に沢山の石を拾つて来て積み重ねて仕舞つた。
三公『アハヽヽヽとうとう三人とも果敢ない事になつて仕舞つた。オイ皆の奴、水でも手向けてやれ。水が無ければ貴様の燗徳利から小便でも出して手向けるのだな。アハヽヽヽ』
と豪傑笑ひをして見せる。数多の乾児は各自に裾を引きまくり、寄つて集つて小便を垂れかける。
三公『これでまアお愛も成仏するだらう。オイお愛、貴様も残念だらうが、かうなるも前世からの因縁だと諦てくれい。冥途へ往つて虎公に遇つたら……大蛇の三公は御壮健で燥いで御座る……と伝言をしてくれえ。一人旅は気の毒だと思つて、俺の乾児の兼公と風来の旅人をお前の途連れにつけてやる。これがせめてもの俺がお前に対する好意だ。きつと冥途に往つて三公を恨んではならないぞ。南無お愛頓生菩提、モウかうなつては誰だつて何の法蓮華経だ。オイ与三公、帰えらうぢやないか』
と先に立ち、闇に紛れて乾児を引き連れ、心地よげに此場を立ち去つて仕舞つた。
 最前から闇に隠れて慄ひ慄ひ此様子を見て居たお梅は、四辺に人なきを見済まし、怖々此場に近よつて来た。まだ薪は燃えて居る。その為め三人を埋めた塚はハツキリと分る。お梅は一生懸命に石を掻き分けて救ひ出さうとすれども、荒男が四五人もよつて担いで来た重い石、押せどもつけどもビクとも動かばこそ、遂には力尽き脆くも其場に泣き倒れて仕舞つた。
(大正一一・九・一四 旧七・二三 加藤明子録)
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