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文献名1霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
文献名2第2篇 ナイルの水源よみ(新仮名遣い)ないるのすいげん
文献名3第14章 空気焔〔978〕よみ(新仮名遣い)からきえん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-28 11:04:57
あらすじ
一行四人がスッポンの湖に着いたときには、日はすでに暮れていた。あたりの恐ろしげな様子に、孫公はすっかり震えあがっていた。

暗夜にもかかわらず湖は泡立ち、波の柱があちこちに立ち始めた。湖中から赤白青黄などの火の玉が数限りなく現れて来た。火の玉にはいやらしい顔がついていて、四人のそばに来て頭上を前後左右に飛び回っていたが、身辺には寄り付いてこなかった。

虎公、三公、お愛はこの様子を泰然として眺めていた。三公がにわか宣伝使になったばかりの孫公に出陣を促すと、孫公は歯をがたがた言わせながら弱音を吐き、三公に先陣を頼み込んだ。

三公からどうしても孫公別宣伝使でなければこの戦いはだめだと急き立てられ、孫公はやせ我慢の震え声で宣伝歌を歌い始めた。最初は震え声だったのが、最後は拍子はずれな大声を張り上げて、自賛の宣伝歌で大蛇に降伏を迫った。

孫公の宣伝歌が終わると、恐ろしい唸り声が四方八方から聞こえだし、烈風が吹き大地は震動した。孫公は樫の木の根株にしがみついてしゃがんで震えてしまった。

三公は烈風の中、樫の木につかまって湖面に向かって宣伝歌を歌い始めた。両親の仇と、大蛇に出て来いと呼ばわり、勝負を挑む勇ましい歌であった。しかし三公の歌によって湖はますます荒れ狂った。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月16日(旧07月25日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月25日 愛善世界社版158頁 八幡書店版第6輯 528頁 修補版 校定版167頁 普及版61頁 初版 ページ備考
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本文  一行四人は漸くにしてスツポンの湖水の南岸に辿り着いた。此時已に夜はズツプリと暮れ果て、鬼哭愁々として寂寥身に迫り来る。肝腎の自称宣伝使孫公別は、地震の孫よろしく歯の根をガチガチ云はせ乍ら、蒼白の顔してスクミ上つてゐる。岩石も吹き散らすばかりの疾風頻りに吹き来り、其物凄き事例ふるに物なく、孫公別は樹の根に確と抱きついて、其身の吹き散るのを辛うじて防いで居る。三人も黄楊の木の根元にペタリと平太つて風の過ぐるを待つのみ。
 湖水は俄に沸き返る様な音を立て、ブクブクブクと泡立ち始めた。暗夜なれども湖面の泡立つ色は明瞭に見えて居る。暫らくすると大入道の立つた様に波の柱が彼方此方にムクムクと突出し、砕けては湖面に落つる其物音、実に凄じく身の毛も竦つ許りなり。湖中の彼方此方より、青赤白黄等の火の玉数限りもなく現はれ来り、長い尾を中空に引摺りブーンブーンと呻りをたて、四方八方に向つて突進し来る。見ればお玉杓子の様な姿で、玉の処に色々といやらしき凄い顔がついて居る。此怪物は四人の側に集り来り、頭上を前後左右に飛び廻れども、如何したものか身辺には寄りついて来ない。僅か一二間迄やつて来るのが精々である。
お愛『今晩は妙な夜で御座いますな。大蛇の神さま、色々と玉を現はし、吾々一行の歓迎会を開いて御座らつしやるのでせう。ほんに気の利いた神さまですこと、オホヽヽヽ。火の玉さまのお蔭でレコード破りの風もスツカリ止まつて了ひました。あの物凄かりしブクブクも水柱の大入道も、何処かへ沈没して了つたと見えます。これも全く孫公別の宣伝使様の御神徳で御座いませう。ねー虎公さま、三公さま、宣伝使の御神徳と云ふものは随分えらいもので御座いますなア』
虎公『大蛇の奴、今三番叟を始めよつた処だ。之からが見物だよ。こんな事はホンの一部分だ。之からが孫公別宣伝使のお骨の折れる処だ。もし宣伝使様、如何で御座いますか。何時迄も木の株に抱きついて居つても木はものを言ひませぬぞ』
 孫公別は歯をガチガチ云はせ乍ら、
『いやモウモウモウ タヽヽ大変な事が始まりました。本当に愉快な……事で……御座いませぬわい。どうも早神力の持ち合せが……ないものだから、斯んな場合には一寸面喰ふ様な……男では…ありませぬ』
虎公『ハヽヽヽヽ孫公別様さへ此処に控へて御座れば大磐石だ。なあ三公さま、貴方も安心でせう。先づ宣伝使に宣伝歌を歌つて頂き、大蛇の奴を言向和して頂きませうか』
三公『三公(参考)の為めに一寸宣伝歌を試みて頂きませうか。もしもし孫公別様、何卒一つ願ひやす』
『これだからものの頭になると責任が加はつて困るのだ。平和の時は大変結構な様だが、こんな時に筒先に向けられるのは随分辛いな……オツト待てよ、大将は帷幄の中に画策を廻らすのがお役だ。玉除けになるのは雑兵のする事だ。兎も角後は宣伝使が引受けるから、三公さま、一つ初陣をやつて下さい。あの通り火の玉が刻々に殖えて来る。愚図々々して居れば、敵に先鞭をつけられる虞れがあるから、一つ若い意気に先発隊を勤めて下さい。孫公御大の命令だ』
『是非々々先生に願はなくちや、此戦闘は駄目です。戦はずして敵を呑むと云ふ気概のある、三五教の宣伝使が神力の試し時だ。さあさあ意茶つかさずにやつて下さい……虎公さま、お愛さま、さう願つたら如何でせうかな』
『無論の事です。先頭に立つて働くから宣伝使と云ふのだ。何卒孫公別様、お願ひ申します』
『宣伝使様、女神から宜しうお願ひ致します。一つ御神力を現はして下さいませ』
『先頭に出んから宣伝使と云ふのだけれどなア。えー詮方ない。そんなら一つ千変万化の言霊の妙用を尽して、あの火の玉を一つも残らず水底に蟄伏させて見せませう』
と、痩我慢を出し、震ひ声になり宣伝歌を歌ひ始むる。
『神が表に現はれて  千変万化の言霊で
 湖水の大蛇を言向ける  湖水に浮んだ火の玉よ
 お前はそれ程三五の  神の教が怖いのか
 一間先迄やつて来て  怖相に怖相に尾を下げて
 チツとも寄つて来ぬぢやないか  矢張りお前も智慧がある
 神徳高き宣伝使  孫公別の御前と
 恐れみ謹み萎縮して  怖々してるに違ひない
 善と悪とを立別ける  此世を造りし大神の
 任し給ひし神司  善の身魂を救ひあげ
 悪の身魂を言向けて  五六七の神の御世となし
 神も仏事も人間も  鳥獣も虫族も
 草木の末に至るまで  神の恵を均霑し
 天ケ下なる万物は  大小高下の隔てなく
 機会均等主義をとり  残らず桝掛け引き均し
 世を立直す神の道  須弥仙山に腰を掛け
 艮金神鬼門神  守り玉へる世の中ぢや
 湖水に棲める大蛇ども  今から心を立直し
 三五教にて名も高き  神徳満つる宣伝使
 孫公別の言霊を  耳をすまして聞きとれよ
 天ケ下には善悪の  区別も無ければ敵味方
 等の差別はない程に  迷ひの雲霧吹き払ひ
 火玉を鎮めておとなしく  尊き神の御教を
 慎み畏み聞くがよい  あゝ惟神々々
 吾は玉治別の神  「オツトドツコイ」こりや違ふ
 黒姫さまの一の弟子  何程強い悪魔でも
 仮令八岐の大蛇でも  ビクとも致さぬヒーローよ
 見事甲斐性があるならば  一つ力を出して見よ
 孫公別の吹き捨つる  伊吹の狭霧に悉く
 木端微塵に踏み砕き  亡ぼし絶やすは目のあたり
 之が合点いたならば  心の底から改めて
 孫公別の御前に  お詫をするが第一だ
 これ程事を細やかに  分けて諭してやる事を
 聞かねば聞かぬで構はない  俺にも覚悟がある程に
 早く返答を聞かせよや  孫公別の宣伝使
 国治立大神や  金勝要大御神
 神素盞嗚大神の  三柱神を代表し
 湖水の底に潜み居る  大蛇の魔神に宣り伝ふ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と始めは恐相に震ひ声に歌つて居たが、終ひにはド拍子の抜けた大声を張り上げ歌ひ出す。孫公の歌終るや否や、獅子狼の幾万匹、一度に呻る様な怪しき声四方八方より聞え来り、青赤黄等の火は彼方此方にペロペロと燃えては消え、燃えては消え、又もや烈風吹き出し大地は震動し、如何ともする術なければ、孫公は再び元の樫の樹の根株に確と喰ひつき身を震はし蹲み居る。
 三公は黄楊の木の幹を片手で握り、烈風の中に立ち身体の中心をとりながら湖面に向つて言霊を宣り始めたり。
『八岐の大蛇の片割れと  現はれ湖底に忍び居る
 大蛇の魔神よよつく聞け  抑も大蛇の三公とは
 吾事なるぞスツポンの  湖水を棲処と致す奴
 只一匹も残らずに  俺の側までやつて来い
 吾両親の敵討ち  生命を取つて呉れむぞと
 心も勇み来て見れば  子供嚇しの火の玉や
 泡立つ波や水柱  呂律も合はぬ呻り声
 レコード破りの強風に  地まで揺つて嚇さうと
 何程企んで見た処が  そのやり方は古いぞや
 そんな嚇しにビクついて  人気の荒い熊襲国の
 大親分となれようか  猪食た犬の腕試し
 もう斯うなつて来た上は  後へは引かぬ俺の意地
 さあ来い来れ早来れ  惜しき生命の取り合ひを
 此処にて一つやらうかい  後には尊い宣伝使
 力の余りに強くない  孫公別も慄ひつつ
 二人の喧嘩を見て御座る  武野の村の侠客
 虎公さまを初めとし  弁才天も恥らふて
 逃げ出す様なお愛さま  スツカリ道具が揃うて居る
 何を愚図々々して居るか  早く来つて勝負せよ
 生命を捨てた三公は  最早此世に恐るべき
 物は一つもない程に  親の敵ぢや早来れ
 いざ尋常に勝負しよう  それが嫌なら吾前に
 頭を下げて尾をふつて  四つに這うて謝れよ
 貴様の頭を三つ四つ  此岩石で打ちたたき
 吾両親の無念をば  晴らして助けてやる程に
 早く来れよ曲津神  三公親分が待つて居る
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひ終るや湖面は益々波高く荒れ狂ひ、火の玉は刻々に殖え来り、ブンブンと呻りを立て、四人の殆ど身体のとどく処迄、数限りもなくお玉杓子の火の玉攻めかけ来る其嫌らしさ、実に物凄き光景なりけり。
(大正一一・九・一六 旧七・二五 北村隆光録)
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