一行四人がスッポンの湖に着いたときには、日はすでに暮れていた。あたりの恐ろしげな様子に、孫公はすっかり震えあがっていた。
暗夜にもかかわらず湖は泡立ち、波の柱があちこちに立ち始めた。湖中から赤白青黄などの火の玉が数限りなく現れて来た。火の玉にはいやらしい顔がついていて、四人のそばに来て頭上を前後左右に飛び回っていたが、身辺には寄り付いてこなかった。
虎公、三公、お愛はこの様子を泰然として眺めていた。三公がにわか宣伝使になったばかりの孫公に出陣を促すと、孫公は歯をがたがた言わせながら弱音を吐き、三公に先陣を頼み込んだ。
三公からどうしても孫公別宣伝使でなければこの戦いはだめだと急き立てられ、孫公はやせ我慢の震え声で宣伝歌を歌い始めた。最初は震え声だったのが、最後は拍子はずれな大声を張り上げて、自賛の宣伝歌で大蛇に降伏を迫った。
孫公の宣伝歌が終わると、恐ろしい唸り声が四方八方から聞こえだし、烈風が吹き大地は震動した。孫公は樫の木の根株にしがみついてしゃがんで震えてしまった。
三公は烈風の中、樫の木につかまって湖面に向かって宣伝歌を歌い始めた。両親の仇と、大蛇に出て来いと呼ばわり、勝負を挑む勇ましい歌であった。しかし三公の歌によって湖はますます荒れ狂った。