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文献名1霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
文献名2第3篇 火の国都よみ(新仮名遣い)ひのくにみやこ
文献名3第18章 山下り〔982〕よみ(新仮名遣い)やまくだり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-09-30 11:36:32
あらすじ
黒姫はあたりの様子を詠み込みつつ、ここまでの旅の述懐の歌を歌った。徳公と久公は、お互いに張り合って滑稽な歌を交わしている。

徳公は一行の先頭に建てられ、これまでの自分の来し方を滑稽な自画自賛の宣伝歌に歌いながら急坂を下って行く。

また、徳公はさらに滑稽な歌をひねりだしながら下って行く。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年09月17日(旧07月26日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年12月25日 愛善世界社版207頁 八幡書店版第6輯 545頁 修補版 校定版219頁 普及版81頁 初版 ページ備考
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本文  黒姫は四方の風景を眺めながら、
『見渡せば四方は霞みて霧の海よ
  吾背の君は何処に坐すらむ。

 霧の海波静かなり火の国に
  コバルト色の山は浮びつ。

 村肝の心を荒井ケ岳に来て
  四方を見晴らす今日ぞ楽しき。

 眺むれば火の国山や向日山
  花見ケ岳の姿のさやけさ。

 麗しき霧の漂ふ火の国の
  国原清く塵も留めず。

 野も山も霧に霞て隠れゆく
  わが背の君をまぎて行くかも。

 山々は霧に沈みて見えざれど
  高山彦の頭見えつつ。

 徳公と久公二人を伴ひて
  実に面白き旅をなすかな。

 旅人を泥棒なりと見違へて
  徳久二人は胸をどらせり。

 旅人は徳と久との姿見て
  泥棒と誤り戦きにける。

 今暫し心の駒に鞭うちて
  進みて行かむ火の国都へ。

 惟神神の教に従ひて
  筑紫の島を廻るは楽しき。

 神国に生れ出でたる吾なれば
  夜昼神の道を進まむ。

 天津日の影も霞に包まれて
  風静かなる荒井ケ岳の尾』

 徳公は尻馬に乗つて詠ふ。
『黒姫に従ひ来れば山風も
  荒井ケ岳に泥棒出でたり。

 泥棒と取り違へたる久公が
  肝玉取られ腰抜かしたり。

 腰抜けの弱い男と道連に
  なつた迷惑徳公の損だ。

 急坂を泡吹きながらキウキウと
  久公の奴が登り行くかも。

 惟神神が表に現はれて
  火の神国を霧海にする。

 山々は霞の帯をひきしめて
  わが行く姿を待ちつつぞ居る。

 慢心の山の頂上に登りつめて
  困りきつたる久公あはれ』

 久公は負けぬ気になつて又詠ふ。
『トク頭病見たよな禿げた山の上に
  徳公の野郎が慄ひ居るなり。

 口ばかり十年先に生れたる
  男が屁理屈トクトクとして言ふ。

 トク心のゆくまで脂とつてやろか
  不道徳なる徳公のために。

 野も山も霞や霧に包まれて
  春と秋との中に逍遥ふ。

 春か非ず秋かと見れば秋ならず
  力も夏の朝ぼらけかな。

 朝霞棚曳きそめて山々は
  浮きしが如く見えにけるかも。

 あの様な大きな山を浮かす奴は
  霧か霞か白雲の空。

 浮いて居るやうに見えても花見山
  根は火の国の霧にかくれつ。

 この山は荒井ケ岳と唱ふれど
  静かな風が吹き渡るなり。

 虎公のわが親分は今いづこ
  頼りも白山峠越ゆらむ。

 親分がお愛の方と諸共に
  胸突き坂に肝虎れ居まさむ。

 三公の親分よりも虎公は
  勝りて足のまめな強者。

 今頃は三公親分が屁古垂れて
  徳よ徳よと弱音吹くらむ。

 おい徳よ早く此場を立ち去つて
  弱い親方たづね行くべし。

 かうなれば黒姫司の御供は
  久公一人で事足りぬべし。

 心から嫌な徳公と山登り
  一しほ汗が深く出るなり。

 屋方の村の三公が  乾児の端に加へられ
 朝から晩迄門を掃き  褌までも洗はされ
 下女のお鍋に肱鉄を  朝な夕なに喰はされ
 性こりもなくつけ狙ふ  腰抜男が現はれて
 三五教の宣伝使  黒姫司の御案内
 するとは実に案外ぢや  荒井峠へやつて来て
 俺は立派な地理学者  なんぢやかんぢやと法螺を吹く
 二百十日の風のよに  吹き散らすのはよけれども
 其処らあたりで金を借り  未だに尻をふかぬ奴
 深い罪科を重ねつつ  身の程知らずの徳公が
 高い山坂登るとは  是こそ天地転倒だ
 鼻ばつかりを高くして  あんまり法螺を吹く故に
 仲間の奴に嫌はれて  黒姫司の案内と
 体よき辞令に放り出され  此処迄出て来た馬鹿男
 ほんに思へば気の毒な  何とか助けてやりたいと
 心を千々に砕けども  腐りきつたる魂を
 助けるよしも夏の空  青葉の影に身を潜め
 姿かくしてなき渡る  山杜鵑は外でない
 今目の前に泣いて居る  こんな男と道連れに
 なつた俺こそ因果者  黒姫司も嘸やさぞ
 困つた奴の道連れと  愛想を尽かして腹中を
 揉んで厶るに違ひない  こんな男に狙はれちや
 黒姫司もやり切れぬ  どこぞそこらに掃溜が
 目につくならば逸早く  惜し気もなしにドシドシと
 捨てて行かうと思へども  山は霞に包まれて
 何処も同じ霧の海  捨て場さへなき困り者
 厄介至極の至りなり  「オツトドツコイ」言霊の
 善言美詞の御教を  忘れて居つたか待て暫し
 黒姫様よ徳公よ  今云うたのは俺ぢやない
 お前の肉体守護する  副守の奴が憑依して
 無礼の言霊囀つた  それにてつきり違ひない
 腹を立てなよ神直日  心も広き大直日
 あつさり見直せ聞き直せ  人は神の子神の宮
 神に敵する仇はない  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  火の国都は十重二十重
 霧に包まれ沈むとも  否でも応でも吾々は
 黒姫司のお供して  送つて行かねばならないぞ
 親分さまに頼まれた  義理を思へば今此処で
 へつ込む訳にはゆかないわ  も一つ腕に撚りをかけ
 足に油を濺ぎつつ  山野を渡る膝栗毛
 心の駒に鞭うつて  お前と俺とは睦まじう
 手を引き合うて行かうかい  あゝ面白い面白い
 東の空が晴れて来た  今吹く風は東風
 わが言霊は火の国の  都に清く響くだらう
 高山司も今頃は  神徳無双の久公が
 宣る言霊に耳澄ませ  生神さまが出て来ると
 酒や肴を用意して  待つて厶るに違ひない
 これも矢張黒姫の  神の司のお蔭ぞや
 サアサア行かうサア行かう  余りの長い休息で
 尻に白根が下りさうだ  いづれ行かねばならぬ道
 進めや進めいざ進め  徳公の野郎は先に行け
 黒姫司は殿だ  久公吾は中に立ち
 中取り臣の役となり  さしもに嶮しき坂道を
 苦もなく下り行かうかい  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
と歌ひながら立ち上る。黒姫は徳公を先に立て、壁を立てたやうな急坂を一足々々指に力を籠めて下り行く。
 徳公は一足々々力を入れながら、さしも名題の急坂荒井峠の西坂を歌ひ乍ら下りゆく。
『青葉を渡る夏の風  霧か霞か知らねども
 一間先は分らない  だんだんおち込む霧の海
 「ウントコドツコイ」黒姫さま  足許用心なさいませ
 外の峠と事変り  火の国一の急坂で
 一方は断崖絶壁だ  一方は深い谷の底
 もし踏み外した其時は  かけがへのなきこの命
 さつぱりジヤミにして仕舞ふ  久公の奴も気をつけて
 一歩々々爪先に  心を配つて下りて来い
 もしも途中で一人でも  大怪我したら「ドツコイシヨ」
 「ウントコドツコイ」親方に  何うして云ひ訳立つものか
 黒姫司のお供して  このよな深き坂道で
 命を捨てては引き合ぬ  おいおい此処が一の関
 両手で岩をつかまへて  目を塞ぎつつ足探り
 そつと伝うて下りて来い  あゝあゝきつい難所だな
 斯んな所を何として  先の女が易々と
 登つて来たのか「ドツコイシヨ」  不思議になつて堪らない
 黒姫司は老年だ  心を鎮めてそろそろと
 足に力を入れながら  左の手にて杖を持ち
 右手に岩ケ根掴みつつ  静にお下りなさいませ
 アヽアヽ危ないもう些し  下つて行けば緩やかな
 安全無事の道がある  其処へ行く迄「ドツコイシヨ」
 どうしても心はゆるされぬ  もしも不調法した時は
 火の国都にあれませる  高山彦の神さまに
 合せる顔がない程に  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  此急坂を恙なく
 無事に下らせたまへかし  神は吾等と倶にあり
 吾等は神の子神の宮  とは云ふものの「ドツコイシヨ」
 矢張人の身をもつて  神さま気取りにやなれないぞ
 心を配り気をつけて  此難関を辷り越え
 一日も早く火の国の  花の都へ「ウントコシヨ」
 行かねばならない「ドツコイシヨ」  黒姫さまは何として
 それ程黙つて御座るのか  些とは何とか「ドツコイシヨ」
 歌なと歌うて下さんせ  私ばかりが噪やいで
 声を涸らして居た所が  オツト危ない石がある
 根つから「ドツコイ」はづまない  其処には鏡の岩がある
 皆さま気をつけなさらぬと  鏡の岩は滑らかだ
 是から向ふへ一二町  鏡のやうに「ドツコイシヨ」
 光つて辷る坂の道  此処が第二の難関だ
 あゝ惟神々々  叶はぬか知らぬが久公が
 屁古垂れよつて「ドツコイシヨ」  さつぱり唖になりよつた
 何程無言の業ぢやとて  それだけ湿つちや「ドツコイシヨ」
 女に劣つた腰抜けと  云はれた処で「ウントコシヨ」
 云ひ訳する道あらうまい  ほんに困つた弱虫の
 困つた腰抜男だな  「オツトコドツコイ」待て暫し
 善言美詞の「ヤツトコシヨ」  言霊車が脱線し
 済まない事を云ひました  あゝ惟神々々
 神の心に見直して  久公怒つて下さるな
 お前が売出す言霊を  俺が買うたるばつかりだ
 売つた喧嘩をどうしても  買はねばならぬ男達
 「ウントコドツコイ ドツコイシヨ」  妙な所へ力瘤
 入れる男と思はずに  何卒見直し聞直し
 「ガラガラガラガラ アイタタツタ」  とうとう腰の骨打つた
 「アイタタタツタ」神様の  罰が当つたぢやあるまいか
 口は「ドツコイ」禍の  門ぢやと聞いて居つたれど
 まさかにこんな「ウントコシヨ」  事になるとは夢にだに
 思はなかつた「ドツコイシヨ」  も些し下れば「ドツコイシヨ」
 緩勾配の道がある  其処でゆつくり憩まうか
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
(大正一一・九・一七 旧七・二六 加藤明子録)
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