(第34巻第16章の続き)一方、房公と芳公は建日の館を出て黒姫の後を追い、険しい山道を登って火の国峠の登り口までやってきた。二人は火の国峠の山頂にたどり着いたが、黒姫の姿は見えなかった。
日が暮れて、二人は峠山頂の木の下で一夜を明かすことにした。二人が横になると、西の方から登ってきた白髪の老人があった。老人は二人が休んでいるそばにやってきて、杖の先でかわるがわる額のあたりをぐいぐいと突いた。
二人は暗がりの中に跳ね起きて、悪態をついている。老人は笑ってとぼけている。二人は怒りを覚えたが、黒姫の行方を知らないかと老人に尋ねた。老人は答えをはぐらかした。
二人がまた、老人がこんな夜中にどこに行くのだと尋ねると、老人は二人の極道息子を迎えに行くのだと答えた。そして芳公と房公の特徴を挙げて極道息子だと言い、二人を雷のような声で怒鳴りたてた。
二人は老人の声におどろいて飛び上がり、闇の中で衝突して火花を散らした。老人は暗闇にぼっと姿を表して、二人の過去の所業を数え上げて責め立てる歌を歌った。歌い終わると老人の姿は煙となって消え失せてしまった。
房公と芳公はこの出来事に恐れおののきながらも、天津祝詞を奏上してここで一夜を明かすことになった。